マウス骨格筋由来の筋芽細胞株C2C12細胞が筋管細胞へ分化する過程におけるLIPUSの作用に着目し,LIPUS照射による分化誘導後のいくつかのmRNAの発現をリアルタイムPCR法により定量し,LIPUS照射が遺伝子発現パターンにどのような影響を与えるか検討した.まず,分化誘導させたC2C12細胞にはカルシウム沈着がなく,骨への分化を誘導しないことをvon Kossa染色法により確認した.次に,細胞融合に関するシグナル伝達分子のERK5,転写活性因子のKlf2,これらの下流で働くと考えられる細胞接着因子のCdh15,筋特異的な遺伝子の転写活性因子であるMyoDとMyogenin,分化最終段階で発現されるMuscle Creatine Kinase (MCK)を選択し,遺伝子発現量を測定した.
その結果,LIPUS照射によりERK5,Klf2,Cdh15遺伝子の発現量は分化誘導23時間後に増大し,細胞融合が促進されていることが示唆され,分化誘導7日後にはCdh15遺伝子の発現量が再び増大し,照射により多くの細胞が融合して長くなっていた.また,筋特異的な遺伝子の調節因子であるMyoD,Myogeninの発現も促進され,筋管細胞への分化の最終マーカーのMCKは分化段階の早期から発現が増大しており,筋管細胞がより早く完成していた.
ラミニン332(LN332)は,上皮細胞と接着,移動を促進する細胞外マトリックスである.本タンパク質のチタン表面への結合は上皮-インプラント界面の生物学的封鎖の亢進に寄与するものと考えられることから,LN332のチタンインプラントへの反応解析や応用は注目を集めつつある.一方,超親水性処理はタンパク質のチタンへの吸着を促進することが報告されている.したがって,本研究はチタンへの超親水性処理がラミニン332の吸着に及ぼす影響を明らかにすることを目的とした.同時に,超親水性処理がラミニン332の吸着を促進する機序を表面分析によって考察した.
水晶発振子マイクロバランス(QCM-D)用のチタンセンサーに,超親水性処理として大気圧プラズマ処理(Ti-Plasma),紫外線照射処理(Ti-UV)を施した.コントロールとして,未処理のAuセンサー(Au-Air)およびTiセンサー(Ti-Air)を用いた.QCM-D法によりラミニン332の吸着特性を評価するとともに,光電子分光分析および走査電顕観察によりラミニン332の吸着状態を検討した.
その結果,ラミニン332の吸着量はAu-AirよりTi-Air上で増加した.また,すべての超親水性処理群(Ti-Plasma,TiUV)は無処理チタン(Ti-Air)よりラミニン332の特異的吸着量が増加した.ラミニン332が吸着した表面を分析した結果,Ti-Plasma,Ti-UV表面では炭素(C)および窒素(N)量が増加し,また,カルボニル基,カルボキシ基およびペプチド結合に関与する官能基の増加が認められ,超親水性処理されたチタンへのラミニン332の特異的吸着にはペプチド結合が関与していることが推察された.
以上の結果より,チタンへの超親水性処理はラミニン332の吸着を増進させることが示唆された.
目的:本研究の目的は,粘膜貫通部がストレートのインプラント(NPS)と,プラットホームスイッチングを模倣したインプラント(PS)の周囲粘膜における細胞外基質および細胞接着因子の発現について比較検討することである.
方法:NPSとして直径0.93mm,長さ3.5mmのチタン製インプラントを用いた.PSとして同サイズのインプラント粘膜貫通部に0.3mmのくびれをもつチタン製インプラントを用いた.10週齢SDラット雄の口蓋にインプラントを埋入した.実験動物はインプラント埋入後2週間,4週間後に屠殺した.NPS群,PS群,偽手術群に分け,NPS群とPS群それぞれの粘膜貫通部口蓋歯肉および偽手術群の口蓋歯肉を採取し,リアルタイムPCRにてI型コラーゲン,Ⅻ型コラーゲン,インテグリンα1β1,コネキシン43の発現を定量した.また,採取した組織から凍結切片を製作し,免疫組織化学的染色を行った.
結果:PS群において,Ⅻ型コラーゲン,インテグリンα1β1,コネキシン43はNPS群,偽手術群と比べて有意に高い発現を認めたが,Ⅰ型コラーゲンは有意な変化はみられなかった.また,PS群において0.3mmのくびれ部分に環状線維を認めた.
結論:PSにおいて,プラットホームのくびれた部分に線維芽細胞が集積し,細胞─細胞間接着,細胞─線維間接着が活性化し,強固に安定した環状線維を形成する可能性が示唆された.
目的:パノラマエックス線写真上の下顎管の明瞭度と,CT画像で評価した下顎臼歯歯槽部の骨密度との関係について検討し,パノラマエックス線写真でのインプラント埋入部の骨密度のスクリーニングの意義について考察することを目的とした.
方法:パノラマエックス線写真とCT撮影を行った50歳以上の患者99名の無歯顎もしくは下顎大臼歯部の遊離端欠損例70側と下顎大臼歯部に欠損を認めない77側,計147側を対象とした.パノラマエックス線写真で下顎管の明瞭度を3群(TypeⅠ:下顎管の上下端が明瞭,TypeⅡ:下顎管の上端が不明瞭,TypeⅢ:下顎管の上下端ともに不明瞭)に分類した.また,各症例のCT画像を用いて下顎臼歯歯槽部の骨密度の評価を行い,これらの所見の関係について検討した.
結果:パノラマエックス線写真で下顎管の明瞭度が低下する症例では,CTにおける頬側および下縁側の皮質骨と海綿骨幅が減少していた.また,下顎管の明瞭度分類による下顎管内のCT値には差が認められなかったが,下顎管外周部のCT値に有意な差が認められた.
結論:パノラマエックス線写真上で下顎管が不明瞭な症例では,インプラント埋入部の皮質骨の幅と割合,CT値が低下する傾向を認めた.よってパノラマエックス線写真上の下顎管の明瞭度により,インプラント埋入部の骨密度のスクリーニングが可能となることが示唆された.
公益社団法人日本口腔インプラント学会において,専門医制度が施行されている.しかしながら,同じ専門医でも,実際の口腔インプラントの臨床においてさまざまな考え方,手技を散見する.「安全・安心の口腔インプラント」を目指すためにも専門医が実際に行っている臨床の傾向を明らかにし,教育に繋げる必要がある.
今回,一般社団法人日本インプラント臨床研究会に在籍する,102名の専門医に口腔インプラントに関する25項目の質問をアンケート形式にて調査することによって,インフォームドコンセント,診査,埋入術式,補綴,メインテナンスの現状が分かった.しかし,プロトコールがある程度明確なものから,そうでないものまで,回答は散在した.
今後,プロトコールをより明確化させ,教育と研修の充実と専門医自身が知識,技術の向上を図り,「安全・安心の口腔インプラント」を追求する必要があると考えられた.