目的:上顎洞底挙上術を施行するうえで,上顎洞炎を含む術後感染は最も重篤な合併症である.インプラント治療に伴う上顎洞炎は,手術操作に伴う局所炎症や上顎洞の粘液繊毛機能の低下や細菌などによる感染,それに伴う自然口やいわゆる中鼻道自然口ルートの閉塞により発症する.そこで,上顎洞底挙上術前後の洞粘膜厚の変化と術後洞粘膜厚の増加に影響する因子について検討を行った.
方法:上顎臼歯部欠損部に対してラテラルアプローチによる上顎洞底挙上術を施行した患者を対象とし,術前後の洞粘膜厚の変化と術後洞粘膜厚に影響する因子(11項目)に関して統計学的検討を行った.
結果:患者は28名(男性9名,女性19名),31洞,平均年齢は59.5歳であった.また,術前洞粘膜厚の平均は1.04±1.17 mm,術後7日以内の平均洞粘膜厚は6.40±3.90 mm,術後8~14日以内の平均洞粘膜厚は6.96±3.59 mmであった.術後洞粘膜厚に影響を与える因子として,術前洞粘膜厚,年齢,鼻中隔弯曲および抜歯後の期間が関与している結果となった.
結論:1.術後洞粘膜厚は,術前と比較して術後14日まで有意に増加する傾向を示した.
2.術後洞粘膜厚は術前洞粘膜厚,年齢,抜歯後の期間,鼻中隔弯曲の影響を強く受ける.
上顎洞底挙上術を施行する際には,術前洞粘膜厚のみならず,年齢や抜歯後の期間や鼻中隔弯曲も考慮した治療計画を立案する必要がある.
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