日本小児血液・がん学会雑誌
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59 巻, 1 号
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第62回日本小児血液・がん学会学術集会記録
シンポジウム8: ゲノム医療: 小児・AYAがんにおける実装の現状と今後の課題
  • 須藤 智久
    2022 年 59 巻 1 号 p. 1-6
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/05/12
    ジャーナル フリー

    2017年6月に公開された「がんゲノム医療推進コンソーシアム懇談会報告書」に基づき,がんゲノム医療中核拠点病院等が指定され,また,がん遺伝子パネル検査を実施した症例の臨床情報とゲノム情報を集約・管理・利活用を図る機関として,国立がん研究センター内にがんゲノム情報管理センターが設立された.2019年6月に,がん遺伝子パネル検査2品目が保険収載され,本邦における国民皆保険制度下でのがんゲノム医療が開始された.2021年10月末までに2万例以上の症例登録があり,順調にがんゲノム医療が進んでいる.また,2021年8月には,血液検体でのがん遺伝子パネル検査も保険収載され,今後さらなる検査数の増加が見込まれる.C-CATに集積された情報利活用も進んでおり,2020年9月には医療連携として利用される診療検索ポータル,2021年10月からは研究開発を目的とした利活用検索ポータルの利用が開始され,各患者や医療機関の協力によって収集された情報の有効的な二次利活用が期待される.

シンポジウム10: 小児・AYAがん患者の長期フォローアップ体制
  • 前田 美穗, 石田 也寸志
    2022 年 59 巻 1 号 p. 7-11
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/05/12
    ジャーナル フリー

    小児・AYA世代がんの長期フォローアップの目的は小児あるいはAYA世代にがんを発症し,治療後に様々な問題を乗り越えて社会生活を営む経験者の支援を行うというもので,多職種の連携をもとに小児から成人期への移行の問題などを考慮しながら進める必要がある.日本小児血液・がん学会では2017年度から厚生労働省の委託事業として「小児・AYA世代がんの長期フォローアップに関する研修会(Lifetime Care and Support for Child, Adolescent and Young Adult Cancer Survivors (LCAS))を行い,医師,看護師をはじめとする小児・AYA世代がんに携わる人材の教育活動を行ってきた.3年間で10回の研修会を開催し,その内容は座学での講義(3年目からはe-learningを交えて),事例に対してのグループワーク,成人科の医師の専門分野の講義,あるいは移行後の診療についての講義,生殖に関連した講義,がん経験者の話などを含んだもので,3年間で総計約500名の参加者があった.50名を超える医師,看護師,その他の医療者がスタッフとして加わり,何度も議論を重ね,研修会をブラッシュアップしてきた.これまで長期フォローアップの重要性や晩期合併症の意味を十分に理解していなかった参加者も,この研修会に参加し,実際の長期フォローアップや移行期医療について多職種の医療者と一緒に模擬体験を経ることによって,実際の小児・AYA世代がんの長期フォローアップが現実味を帯びた重要課題として理解できた方が多いと思われる.

    なお,この研修会は2020年,2021年も日本小児血液・がん学会および小児がん拠点病院の中央機関である国立成育医療研究センターが中心となり行われている.今後,これまでの参加者からその周囲の医療者に対して研修内容が伝わっていくことが期待される.さらに小児がん拠点病院を中心にこの活動を継続していく計画となっており,長期フォローアップについて多くの医療者が学ぶ機会を得られるよう活動を推進していく予定である.

教育セッション3: 急性リンパ性白血病
  • 佐藤 篤
    2022 年 59 巻 1 号 p. 12-18
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/05/12
    ジャーナル フリー

    T細胞性急性リンパ性白血病(T-ALL)は小児ALLの約10–15%に認められ,思春期・若年成人期(AYA)世代以降頻度が増加し,成人ではALLの25%程度を占める疾患である.小児T-ALLは,B前駆細胞型ALL(BCP-ALL)とは異なった臨床的特徴や遺伝子異常を有し,近年,デキサメタゾン,L-アスパラギナーゼやネララビンなどの治療強化によって,頭蓋照射の撤廃も取り組まれる中,治療成績の向上が認められてきている.さらにはAYA世代以降のT-ALLにおいても小児型治療を用いた治療戦略で良好な成績が報告されてきている.小児T-ALLの予後因子については,初発時白血球数や年齢などの臨床的意義はBCP-ALLに比べて乏しく,遺伝子異常との関連も不十分なものも多い.Early T-cell precursor ALLについても近年の報告から予後不良因子としての位置づけは明らかではなく,現在では白血病細胞の微小残存病変が最も重要な予後因子として,多くの臨床試験にて層別化に用いられている.さらに最近ではSPI1融合遺伝子が予後不良因子として注目されてきている.近年抗CD38抗体ダラツムマブ,JAK2阻害剤ルキソリチニブやダサチニブなどが有効である可能性が示され,新しい知見に基づいた標的治療の開発が今後期待される.

原著
  • 佐藤 篤, 鈴木 資, 早坂 広恵, 名古屋 祐子, 渡辺 裕美, 岩崎 光子, 小川 真紀, 戸羽 香織, 鈴木 信, 南條 由佳, 小沼 ...
    2022 年 59 巻 1 号 p. 19-23
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/05/12
    ジャーナル フリー

    バイスペシフィック抗体薬エミシズマブは,第VIII因子製剤とは異なる臨床的特徴から患児・家族の生活の質(QOL)の向上への貢献が期待されるが,いまだ十分に検討されていない.当科でエミシズマブによる定期補充療法を開始した12例11家族を対象に,エミシズマブ選択の理由と開始後の患児・家族の症状や生活の変化について診療録より後方視的に検討を行った.その結果,エミシズマブ選択については出血のコントロール(3/11家族)より,むしろ血管確保の回避や補充回数の軽減(各々10家族)が主な理由であった.また興味深いことに,5家族においては通院頻度の減少や勤務時間調整の容易化という血友病患児の家族が有する生活上の問題の解決に向けた選択理由も認められていた.エミシズマブ開始後の変化では,出血予防・止血効果の向上(7/11家族),補充ストレスの軽減と出血への不安軽減(各々3家族),そして時間的余裕の増加(5家族)の4つのカテゴリーが抽出され,いずれもQOLの向上に本剤が貢献していることを示す内容であった.質的アプローチによる本研究においてエミシズマブは,患児ばかりでなく家族の精神的,時間的な負担軽減の視点からも期待され,そして有用であることが示唆された.血友病診療は家族を含めた包括的支援が重要であり,本研究からエミシズマブはこの点にも貢献していると考えられたが,症例を集積してさらなる検討が必要である.

  • ―適応行動や健康関連Quality of Lifeへの影響に関する検討―
    西田 野百合, 草野 佑介, 山脇 理恵, 梅田 雄嗣, 荒川 芳輝, 田畑 阿美, 小川 裕也, 宮城 崇史, 池口 良輔, 松田 秀一, ...
    2022 年 59 巻 1 号 p. 24-29
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/05/12
    ジャーナル フリー

    協調運動障害は小児髄芽腫治療後の主要な晩期合併症の一つであるが,学校生活への適応や社会参加の制約につながる可能性があるにも関わらず,標準化された検査法で評価し,適応行動やHealth-Related Quality of Life(健康関連QOL:HRQOL)への影響を詳細に検討した報告はない.本研究では手術,放射線治療,化学療法による治療終了後2年以上経過した髄芽腫男児患者2例を対象に,協調運動障害はThe Bruininks-Oseretsky Test of Motor Proficiency, Second Edition (BOT-2),適応行動やHRQOLについては半構造化面接や質問紙を用いて評価し,その影響について検討した.2症例ともに,四肢の協調性やバランス能力,巧緻運動速度が低下していた.適応行動は外出,友人との交流,粗大運動に関わる項目が低下し,HRQOLは運動やバランスに関する項目が低下していた.好発部位が小脳である髄芽腫生存者においては,協調運動障害が出現する可能性は高いと考えられる.髄芽腫患者の適応行動やHRQOLの改善および社会参加の拡大のためには,協調運動障害に対する標準化された検査法による評価と継続的なリハビリテーション介入,ライフステージに合わせた合理的配慮が重要である可能性が示唆された.

症例報告
  • 森永 信吾, 横山 智美, 山下 貴大, 今屋 雅之, 興梠 健作, 阿南 正, 河北 敏郎, 原田 奈穂子, 日高 道弘, 高木 一孝
    2022 年 59 巻 1 号 p. 30-34
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/05/12
    ジャーナル フリー

    我々は21番染色体が4本に増加したALLで,そのうち3本でRUNX1が2コピーに増加し,合計7個のRUNX1シグナルを有した再発症例を経験した.本症例は一般的に同一染色体内で3個以上のRUNX1の増幅がある(1細胞内に5個以上)iAMP21の国際基準には該当しなかったが,7個のRUNX1を有するALLであり,iAMP21と似た病態を持つ可能性があると考えられた.

  • 笠井 智子, 高見澤 滋, 好沢 克, 清水 徹, 大澤 絵都子, 内田 恵理子, 坂下 一夫, 倉田 敬, 小森 一寿, 古井 優
    2022 年 59 巻 1 号 p. 35-38
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/05/12
    ジャーナル フリー

    13歳女児.長引く咳嗽に対して精査を行った際に左胸腔内に腫瘤性病変を認め当院紹介となった.診断目的に腫大した右鎖骨上窩のリンパ節生検を行い,その他の検査結果と合わせて多発骨髄転移,リンパ節転移を伴う左胸腔内原発横紋筋肉腫(Stage IV)と診断した.自験例では多発骨髄転移に伴う骨髄抑制下で腫瘍生検を行い急激に凝固異常が進行したため,術後に特発性の卵巣破裂を生じて卵巣摘出が必要となった.さらに開腹創の皮下出血が止血困難となり,開腹止血術が必要となった.骨髄抑制下での手術はより慎重な止血処置と十分な血液製剤の補充が必要であると思われた.

  • 桂 聡哉, 宮村 能子, 甲良 竜子, 田中 裕介, 五百井 彩, 横井 健人, 皆川 光, 藤原 隆弘, 吉田 寿雄, 塚田 遼, 野村 ...
    2022 年 59 巻 1 号 p. 39-43
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/05/12
    ジャーナル フリー

    Simpson-Golabi-Behmel症候群(以下SGBS)は,特徴的顔貌などの先天奇形を伴うX連鎖性疾患で,肝芽腫などの胎児性腫瘍を合併する割合が高い.症例は超低出生体重児で出生した1歳1ヶ月男児.身体的特徴と遺伝的背景からSGBSと考えられた.腹部膨満を契機に腹部腫瘤が判明し,AFP高値より肝芽腫が疑われた.術前病期分類PRETEXT IIと判断し,基礎疾患を考慮し,シスプラチン単剤の治療を初回は減量して開始したが,明らかな有害事象を認めず,以降は減量せず治療継続した.4コース後,腫瘍は縮小したが外科的切除が困難であり,ドキソルビシンを追加し化学療法をさらに3コース継続した.腫瘍はさらに縮小し,肝部分切除術を施行した.術後はイリノテカン投与を2コース行い,退院とした.治療終了後1年4ヶ月まで合併症や再発なく経過している.今後は他の腫瘍の発症にも留意しフォローを続ける方針である.

  • 小野 直子, 稲田 浩子, 西村 真二, 古賀 友紀, 山元 英崇, 横山 良平
    2022 年 59 巻 1 号 p. 44-49
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/05/12
    ジャーナル フリー

    Infantile fibrosarcoma(IF)は乳児に発生するまれな軟部組織肉腫であり,中間群腫瘍とされ生命予後は良好である.広範囲切除や化学療法による晩期障害を回避するために,治療法の選択が検討されるようになってきた.我々は生後3か月で左下腿IFと診断された女児を経験した.vincristineとactinomycin-DによるVA療法を先行し,順調に腫瘍縮小が得られたが,3コース中に重篤な肝機能障害と播種性血管内凝固症候群を認め,それ以降の化学療法は中止した.無治療経過観察を続けたところ腫瘍はさらに縮小を認め,後遺症なく5年以上経過できている.IFに対する治療選択については,今後さらに症例蓄積をしてより確立されることが望まれる.

委員会報告
  • 石黒 精, 森 麻希子, 宮川 義隆, 今泉 益栄, 小林 尚明, 笹原 洋二, 内山 徹, 野村 理, 堀内 清華, 高橋 幸博, 東川 ...
    2022 年 59 巻 1 号 p. 50-57
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/05/12
    ジャーナル フリー

    日本小児血液・がん学会血小板委員会は,2004年策定の小児特発性血小板減少性紫斑病の診断・治療・管理ガイドラインを現在までのエビデンスに基づきMindsの推奨に準じて改訂した.主な改訂点は,病名を免疫性血小板減少症(ITP)に変更し,血小板減少の定義を10万/μL未満とした.病期を急性,慢性から,国際的な分類である新規診断,持続性,慢性に変更した.出血症状の評価に修正Buchanan出血重症度分類を導入し,血小板数によらず出血の重症度に基づいて治療・無治療の基準を示した.治療を選択する際には,患者の生活様式,生活の質や医療機関への通いやすさを考慮することを提示した.ファーストライン治療薬としては副腎皮質ステロイドと免疫グロブリン静脈注射を同程度に推奨した.トロンボポエチン受容体作動薬とリツキシマブをセカンドライン治療として位置づけた.脾臓摘出は確立された治療法であるができるだけ温存する方針を示した.その他,ワクチン接種後のITP,Helicobacter pylori除菌の評価,脾臓摘出後の感染管理,副腎皮質ステロイドとリツキシマブ投与時のワクチンの適応,ITP合併妊婦から出生した新生児の管理,重症出血時の緊急治療,患者の生活管理についても推奨を示した.詳細は単行本として出版予定である.本ガイドラインにより,小児ITP患者診療の向上を期待する.

  • 大園 秀一, 石田 也寸志, 前田 美穂, 大植 孝治, 上別府 圭子, 清谷 知賀子, 竹之内 直子, 長 祐子, 湯坐 有希, 家原 知 ...
    2022 年 59 巻 1 号 p. 58-65
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/05/12
    ジャーナル フリー

    小児の血液・腫瘍性疾患は治療の進歩から予後が改善し,現在10万人を超える患者が成人期を迎えたと推測される.一方,治療を終えた患者の半数以上は原疾患や治療に伴う合併症を抱えていることが多くの研究から明らかにされている.治療継続あるいは終了後でも合併症のある患者が適切に成人医療に移行するには多くの障壁が存在する.小児期発症の慢性疾患患児の成人期移行は血液・腫瘍性疾患に限らず他専門領域でも課題である.血液・腫瘍性疾患の患児はがん化学療法のほか,造血細胞あるいは固形臓器移植もうけることがある.そのため,合併症が多様で個々の対応も複雑となり,学会の公式な提言はこれまでには十分なされてこなかった.本稿では患児の成人期移行に欠かせない「自立支援」と「教育」をよりスムーズに実現するため,移行支援プログラムの必要性,行政レベルでの支援体制整備,移行に役立つ教育関連ツールなどを紹介する.患者教育を推進しつつ,受け手となる成人診療科との対話を通じて小児血液・腫瘍性疾患患者の成人期移行の重要性を考える.今後成人診療科の各学会と小児科学会,そしてこれらの分科会と連携して患者・家族支援を行いながら,成人期以降も患者が安心して健康管理を継続することができるよう学会活動に取り組みたい.

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