日本小児血液・がん学会雑誌
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60 巻, 3 号
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第64回日本小児血液・がん学会学術集会記録
理事長講演~日本小児血液・がん学会10周年を迎えて~
  • ~歴代理事長からのメッセージ~
    大賀 正一
    2023 年 60 巻 3 号 p. 169
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/09/28
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  • 石井 榮一
    2023 年 60 巻 3 号 p. 170-172
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/09/28
    ジャーナル 認証あり

    2012年に発足した日本小児血液・がん学会の初代理事長を2年間務めた.その間理事会メンバーと共に,財政再建と事務局移転,専門医制度の導入による全国で均質な医療提供体制の構築,JCCGとの連携による小児がんの治療研究の推進,国際化によるアジア諸国との共同研究,胎児・AYA医療の充実,小児がん経験者の長期フォローアップ体制の確立,などを行った.やり残した課題も多くあったが,この2年間で一定の成果を出すことができたと考えている.

  • 堀部 敬三
    2023 年 60 巻 3 号 p. 173-178
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/09/28
    ジャーナル 認証あり

    学会統合にあたり,ビジョンに関する主要な検討テーマは,会員の構成,専門医制度,スタディグループとの関係性,小児腫瘍学の教育,国際化の取り組みであった.組織の理念として,国際小児がん学会のようなトータルケアを重視する団体を目指すことの重要性が認識されていた.理事長時代に,それらのビジョンの達成に必要な改革に取り組んだ.特定非営利活動法人から一般社団法人への法人変更による組織改編,専門医のためのテキスト「小児血液・腫瘍学」の上梓,全国7ブロックでの講演と症例呈示による「小児血液・がん診療に携わる医師に対する教育セミナー(小児血液・がんセミナー)」の開催,小児・思春期・若年成人がん関連学会連絡協議会の創設,Pediatric Blood & Cancerを学会誌とする契約締結,韓国小児血液・がん学会との学術・研究者交流事業協定の締結,JSPHOニュースのメール配信,そして,日本小児血液・がん学会雑誌のオンラインジャーナル化が含まれる.今後,長期フォローアップや移行医療の体制整備,および一層の国際連携の強化が望まれる.

    また,新たな医療資源の導入やICTの進化による遠隔医療の実用化が加速度的に進むことを踏まえて,患者・家族のQOLに配慮した医療システムの見直しを含め,新しい時代の小児血液・がん医療を見据えた学会活動が期待される.

  • 檜山 英三
    2023 年 60 巻 3 号 p. 179-185
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/09/28
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    一般社団法人日本小児血液・がん学会の第3代の理事長を務めさせていただきました.今回,設立10周年とのことで,私が,その理事長の際に学会活動にご協力いただいた諸先生方への御礼と後進への道しるべになればと思い,この時代になしえたことを記録として残し,今後に申し上げたいことも含めて,以下の3点について分けて記載した.

    一つ目は,学会自体の成長であり,日本小児がん学会と日本小児血液学会の合併,NPO法人化から一般社団法人への変更,厚生労働省の委託事業特に小児・AYA世代のがんの長期フォローアップに関する研修事業(LCAS)の運用さらに日本医学会分科会への承認の経緯を示した.この点では,学会の経済基盤の安定化,多領域の医師を取り込める体制づくり:小児科,小児外科以外の領域,医師以外のメディカルスタッフを取り込める学会,ガイドライン・ガイダンス作成を推し進めていただきたい.

    二つ目は,国内での積極的な連携であり,がん対策推進計画での小児がん対策(小児がん専門委員会),小児がん拠点病院の設立と関連学会との連携によるガイドラインや事業運用を行いました.この点では,今後,教育・人材育成の体制:CLIC,LCASに加えた小児がん領域の人材育成,JCCGとの連携,患者・家族会との連携,多領域学会との連携特に小児科,小児外科以外の領域との連携の推進が必要です.

    最後の三つ目は,海外との連携の強化です.韓国小児血液がん学会(KSPHO)の交流であり,相互の学会で合同シンポジウムを開催と,日本小児血液・がん学会のOfficial JournalとしてPediatric Blood and Cancer(PBC)の採用を行ったが,まだまだ不十分であった.今後は,アジアの中心としての学会活動と欧米との連携を推進し,国外に存在感のある学会としてますます成長していただきたい.

  • 細井 創
    2023 年 60 巻 3 号 p. 186-191
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/09/28
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    財団法人がんの子供を守る会(当時表記)の「医療者情報交換セミナー」から1985年に結成された小児がん研究会が母体となり設立された日本小児がん学会と1960年に設立された日本小児血液学会とが,思いを一つにし,設立された本学会の10周年をお祝いするとともに,今後益々の発展を祈念いたします.

    第4期の理事長として,任期中,とくに思い出深いのは,1)理事会と常設委員会のしくみを変更させていただいた取り組み,2)厚生労働省委託事業「小児・AYA世代のがんの長期フォローアップ体制整備事業(LCAS)」を継続させるための働きかけ,そして,3)2018年京都で自身が学術集会会長を務めさせていただいた第60回学術集会の開催です.そのときの開催テーマの理念「Children First! 難病の子どもたちが教えてくれる未来の医療,未来の社会」は,後任の大賀理事長のご厚意で,現在も学会ホームページの一部に残していただいています.

    本稿を学会機関誌に収録いただくご企画をいただきました大賀正一理事長,越永従道第64回学術集会会長,平山雅浩学会誌編集委員長をはじめ,関係各位,また会員の皆様に感謝申し上げます.

特別講演2
  • 洞口 俊, 笹田 哲朗
    2023 年 60 巻 3 号 p. 192-198
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/11/03
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    がん免疫療法は第4のがん治療法として確立され,がん治療の中心的役割を担いつつある.患者自身の体内に存在する免疫細胞の活性化や遺伝子導入した改変免疫細胞の投与によりがん細胞を攻撃する手法であり,がん細胞特異的な免疫反応を選択的に誘導できれば,副作用の少ない治療法となりうる.現在まで,免疫チェックポイント阻害剤,遺伝子改変T細胞療法,がんワクチン療法など様々な方法が開発され,臨床応用されている.ただし,有効性を示す患者が限られるため,抗腫瘍免疫応答をさらに向上させるための様々な改良が試みられている.現在,小児がん,特に小児固形腫瘍に対してもがん免疫療法の有効性が検証され始めている.成人での治療成績に比較すれば発展途上な状況ではあるが,さらに科学的・医学的なエビデンスが蓄積されれば難治性/再発性の小児がんに対する新たな治療法の確立が期待できる.本稿では,がん免疫療法の現状,特に小児がんでの現状と今後の展望に関して述べる.

シンポジウム1:TCF3::HLF陽性白血病の難治性病態とその克服
  • 稲葉 俊哉
    2023 年 60 巻 3 号 p. 199-206
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/11/03
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    17;19転座型急性リンパ性白血病(t(17;19)-ALL)は,予後の極端な悪さ故に,特に留意すべきcommon ALLの一病型である.10歳以上が目立つ(約70%)ことを除けば,約70%が初発時白血球数2万/μL以下であるなど,特段の予後不良因子を持たないことが多い.ところが,17;19転座より産生されるTCF3::HLF (E2A-HLF)キメラ転写因子が,強力なアポトーシス抑制機能を持つため,白血病細胞は頑強な治療抵抗性を獲得する.染色体検査上17;19転座の同定が難しく,しばしば正常核型と誤認される点も留意すべきである.TCF3::HLFは,アポトーシス関連因子に加え,LMO2CD33PTH-rPANNEXIN IIなど,さまざまな遺伝子を直接・間接に異常発現させる.この結果,t(17;19)-ALLの半数程度の患者が,CD33陽性,高Ca血症,凝固異常など,common ALLとしては稀な症状を示すので,年長児で,これらの症状を示す正常核型のB前駆細胞ALLは,t(17;19)-ALLを疑い,RT-PCR法によるキメラ検出を試みるべきである.B細胞系ALLの0.5~1%程度と頻度は高くないが,通常治療での治癒は望めないので,当初よりTCF3::HLFキメラ検出を行い,診断確定によりblinatumomab投与やCAR-T細胞療法など,最新の治療法を駆使した強力な治療を行う必要がある.

  • 犬飼 岳史
    2023 年 60 巻 3 号 p. 207-213
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/11/03
    ジャーナル 認証あり

    17;19転座は小児の急性リンパ性白血病(ALL)においてまれな転座型であるが,予後は極めて不良であった.特にvincristineとcytarabineに対してin vitroで有意に耐性を示し,寛解導入療法後も微小残存病変が高レベルで保持され,低容量cytarabineを含む早期強化相で再発する場合も多い.本転座ではTCF3::HLF融合遺伝子が形成されるが,小児ALLではTCF4::HLFTCF3::TEFも同定されている.TCF3::HLF自体による細胞死抑制が難治性の要因であるが,P-glycoproteinの発現やRAS経路遺伝子群の変異も背景要因になっている.また,4割前後の症例で診断時に高カルシウム血症を伴い,溶骨病変によって造血環境が荒廃して化学療法後の造血回復が遅延することも難治性に関連すると考えられる.同種造血幹細胞移植における移植片対白血病効果では,ドナー由来の細胞傷害性T細胞がTRAILを含む細胞傷害因子を介して白血病細胞に細胞死を誘導する.17;19転座陽性ALLでは,TCF3::HLFが細胞傷害因子のTRAILに対するdeath受容体の発現を誘導し,TRAILの抗白血病効果に対して高い感受性を示す.この特性を標的にしてblinatumomabもしくはCAR-T細胞療法によって病勢のコントロールを図り,引き続き同種造血幹細胞移植を行うことで完治が期待できるようになりつつある.

  • 奥主 朋子, 日野 もえ子, 山下 喜晴, 青木 孝浩, 力石 浩志, 三村 尚也, 堺田 惠美子, 濱田 洋通
    2023 年 60 巻 3 号 p. 214-219
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/11/03
    ジャーナル 認証あり

    症例はB前駆細胞性急性リンパ性白血病の5歳男児で,早期強化療法後に再発し,TCF3::HLF陽性が判明した.ブリナツモマブ(BLI)投与にて第2寛解となったが,頭蓋骨や鎖骨等の溶骨病変が出現した.骨髄検査では寛解を維持していたが,CTガイド下鎖骨生検スタンプ標本にてリンパ芽球増多を確認し,第2再発の診断となった.抗CD19キメラ抗原受容体T細胞(CD19-CAR-T)療法を行う方針とし,速やかにリンパ球アフェレーシスを施行した.ブリッジング治療としてイノツズマブオゾガマイシンは無効であったが,ビンクリスチン,プレドニゾロン,L-アスパラギナーゼをベースとした化学療法が著効し,CD19-CAR-Tを投与した.骨髄は寛解を維持しており,地固め療法としてCD19-CAR-T投与から2ヶ月後に血縁HLA半合致末梢血幹細胞移植を施行した.溶骨病変を含む髄外病変の評価は全身MRIを用いて行い,経時的な病変の評価や新規病変の検出に有用であった.また,BLIやCD19-CAR-T療法は病勢コントロールに有効であった.

シンポジウム2:胚細胞腫瘍Update
  • 狩野 元宏, 黒田 達夫
    2023 年 60 巻 3 号 p. 220-227
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/11/03
    ジャーナル 認証あり

    胚細胞腫瘍(Germ Cell Tumor; GCT)は性腺のほか,正中を中心に多様な臓器が原発部位となる腫瘍の一群である.発症年齢や原発部位によって好発する組織型や治療反応性が異なるため,小児腫瘍医が扱うGCTは非常に多様で,複数の病期分類から適切なものを選択して評価し,治療にあたらなければならない.腫瘍マーカーとしては乳酸脱水素酵素,αフェトプロテイン,ヒト絨毛ゴナドトロピンが代表的だが,近年血清miRNA(miR371-373, miR 302-367clusters)が新たなバイオマーカーとして期待されている.

    2015年にMalignant Germ Cell International Consortium(MaGIC)は年齢11歳以上,性腺外,Stage IVをリスク因子とする新たな小児頭蓋外胚細胞腫瘍のリスク分類を提唱した.この新リスク分類をもとに,低リスク群に対する積極的経過観察と,標準リスク群に対するカルボプラチンの有用性を評価する臨床研究AGCT1531が本邦でも進行中である.また上記血清miRNAに加え腫瘍の遺伝情報などの解析も徐々に知見の積み重ねがあり,今後これらを元にした層別化が期待される.GCTは20世紀で最も治療成績が向上した悪性腫瘍といわれるが,未熟奇形腫や高リスク症例に対する標準治療は未確立で,今後本邦でも早急に体制を整備して予後向上にむけた新たな治療開発をしなければならない.GCTは希少がんであり,本邦でもMaGICのように領域横断的に複数診療科が連携して本症の治療開発に取り組む必要があると考えられる.

シンポジウム3:小児血栓止血学の診療update
  • 石黒 精, 森 麻希子, 東川 正宗
    2023 年 60 巻 3 号 p. 228-233
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/11/03
    ジャーナル 認証あり

    日本小児血液・がん学会の血小板委員会は,包括的かつ実践的な小児免疫性血小板減少症診療ガイドラインをMinds推奨に準じて作成し,2022年に出版した.主な改訂点は,病名を免疫性血小板減少症(ITP)に変更し,血小板減少を10万/μL未満と定義した.病期を急性,慢性から,新規診断,持続性,慢性に変更した.出血症状の評価に修正Buchanan出血重症度分類を導入し,血小板数によらず出血の重症度に基づいて治療または無治療で経過観察する基準を示した.患者の生活様式,生活の質や医療機関への通いやすさを考慮して治療を選ぶことを勧めた.ファーストライン治療薬としては副腎皮質ステロイドと免疫グロブリン静脈注射を同程度に推奨した.トロンボポエチン受容体作動薬とリツキシマブをセカンドライン治療として位置づけた.脾臓摘出はできる限り温存する方針を示した.その他,ワクチン関連ITP,Helicobacter pylori除菌の評価,脾臓摘出後の感染管理,副腎皮質ステロイドとリツキシマブ投与時のワクチンの適応,ITP合併妊婦から出生した新生児の管理,重症出血時の緊急治療,患者の生活管理についても推奨を示した.本ガイドラインでは小児と成人におけるITPの病態と治療の相違点を明確に記載した.本ガイドラインが小児ITP患者診療の向上に寄与することが望まれる.

  • 落合 正行
    2023 年 60 巻 3 号 p. 234-236
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/11/03
    ジャーナル 認証あり

    小児期に発症する特発性血栓症は医療技術の進歩と疾患認識の拡がりから増加傾向にある.遺伝性血栓症は新生児期に発症するprotein C(PC)欠乏症と思春期に発症するPC,protein Sおよびantithrombin欠乏症が占める.一方で,これら異常症に対する血栓溶解,特異的補充や抗凝固療法のエビデンスは存在しない.また遺伝性以外の特発性血栓症においても直接経口抗凝固剤や特異的補充療法などのエビデンス集積が進んでいない.小児期発症の遺伝性性血栓症は予後不良である.電撃性紫斑に対して抗凝固療法が生涯必要となるがその具体的方法は確立していない.未発症保因者の妊娠出産は母子の血栓発症の誘因となる.日本医療研究開発機構(AMED)難治性疾患等政策研究事業「新生児から成人までに発症する特発性血栓症の診療アルゴリズムの確立」研究班(2020–22年度)では,新生児から成人までに発症する血栓症のうち遺伝性素因の関与が強いものを早発型遺伝性血栓症(early-onset thrombosis/thrombophilia, EOT)ととらえ診療指針を発信する.国内外の文献や診療ガイドラインなどを参考にし,患児とその家族を血栓症から守る治療管理に必要な情報を医療従事者に提供するための質問項目を設定し,各項目に回答する形式で「新生児から成人までに発症する特発性血栓症の診療ガイド(仮)」を作成中である.今回EOTレジストリならびに診療ガイドの進捗を報告する.

シンポジウム4:小児がん支持療法と関連する外科治療
  • 出水 祐介, 福本 巧, 佐々木 良平, 副島 俊典
    2023 年 60 巻 3 号 p. 237-240
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/11/03
    ジャーナル 認証あり

    小児の腹部・骨盤部に発生する腫瘍は横紋筋肉腫,ユーイング肉腫,神経芽腫など放射線治療が有効な組織型が多く,集学的治療の一環として放射線治療が用いられる.近年,従来のX線治療と比べて線量集中性のよい陽子線治療が注目されており,放射線障害の軽減が期待されているが,消化管や腎などのリスク臓器が腫瘍と接している場合は,陽子線治療をもってしても腫瘍全体へ十分な線量を照射するのは難しい.そういった場合に,開腹下に腫瘍とリスク臓器の間にスペーサーを留置して,距離を作れば,腫瘍線量をかなり上げることができる.また,小児の臓器は成長段階にあり,放射線感受性が高いため,耐容線量が成人と比べて低く,さらに,耐容線量以下の被曝であっても成長障害につながる可能性があり,ALARA(as low as reasonably achievable)を目指す必要がある.

    従来の非吸収性スペーサーの問題点を解決した吸収性スペーサーが開発され,治験を経て,2019年6月に上市(ネスキープ®),同年12月にスペーサー留置術と共に保険収載された.小児はがん治癒後の人生が成人より長いため,特に吸収性スペーサーが有用である.非吸収性の場合,一生体内に残り続け,臓器の機能や成長の障害につながったり,感染源になったりする可能性がある.抜去が行われることもあるが,再手術による患児の負担増という問題がある.

教育セッション5:腎腫瘍
  • 澤田 明久
    2023 年 60 巻 3 号 p. 241-247
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/11/03
    ジャーナル 認証あり

    小児腎腫瘍の多くは,ウィルムス腫瘍Wilms tumor(腎芽腫nephroblastoma)である.よってここではウィルムス腫瘍を中心に,これまでの歴史,現時点で到達した治療成績,そして未来を展望した現在の治療戦略を簡単に述べていく.加えて教育講演記録である性質から,各章ごとに実臨床に役立つポイント集を配している.この臨床研究小史と実用的ポイント集が,小児腎腫瘍を理解する一助になればと期待する.もちろん開始されたばかりであるUmbrellaプロトコールの詳細は,試験に参加し,読み込んでいただく必要がある.そして登録が進めば,biology研究もさらに進むことにもつながる.まずは明日からの臨床に役立てば幸いである.

小児がんのための薬剤開発シンポジウム:小児がん領域での薬剤開発促進のために何をすべきか?
  • 文 靖子
    2023 年 60 巻 3 号 p. 248-252
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/11/03
    ジャーナル 認証あり

    小児の医薬品開発は,一般的に治験実施上の問題や開発コスト等の問題があり,国内外問わず進みにくい現状がある.この問題に対する取り組みの一つとして,「医療上の必要性の高い未承認薬・適応外薬検討会議」において医療上の必要性を評価し承認申請のために実施が必要な試験の妥当性や公知申請への該当性を評価すること等により,製薬企業による未承認薬・適応外薬の開発を促している.

    本スキームを活用し小児用の医薬品開発が進められ,一部の医薬品に関しては小児の効能・効果及び用法・用量等が定められた.しかし,企業の自主的な医薬品開発には結びついていない現状や小児剤形が不足しているといった課題が残されていたことから,医薬品医療機器等法(以下,薬機法)の令和元年改正により,特定用途医薬品等指定制度が新たに新設された.この制度は,既存の希少疾病用医薬品等指定制度には該当しないものの医療ニーズがあると考えられる小児薬用量の追加や小児用剤形の開発等を特定用途と定め,優先的な取り扱いに加え,薬価上のインセンティブを与えるというものである.

    薬事規制だけでなく,小児用医薬品開発の効率化は,医薬品規制調和国際会議(ICH)においても進められており,ICH E11Aでは「小児医薬品開発における外挿」が検討され現在ステップ3まで到達したところである.このように法的な側面だけでなく小児用医薬品開発の在り方等を通し,今後も企業や臨床現場の意見を聞きながら小児用医薬品の開発促進に取り組んでまいりたい.

総説
  • 富澤 大輔, 小川 千登世
    2023 年 60 巻 3 号 p. 253-259
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/11/03
    ジャーナル 認証あり

    小児がんの長期生存率は約80%に達するが,いまだがんは小児期の病死原因第1位である.特に小児固有のがん種が多くを占める固形腫瘍では,海外標準治療薬のドラッグラグが長く,予後に影響している.2003年に成人対象に開発された医薬品の小児開発を義務づける法制度を整備した米国では,2017年にResearch to Accelerate Cures and Equity (RACE) for Children Actを法制化し,成人のがん分子標的薬でも共通する標的分子をもつ小児のがんに対する開発を義務化した.その結果,小児がんの分子標的薬の開発が飛躍的に加速し,造血器腫瘍領域の一部で改善しつつあった日米のドラッグラグは再び拡大している.わが国の小児がんに対する医薬品開発が進まない原因には,①市場規模が小さく,企業の開発コストや法的義務(安定的供給や安全性監視活動など)の負担が大きいこと,②第I相試験や小児治験に精通した医療機関・人材が不足していること,③医師主導治験に対する公的予算が少なく,研究費の確保が困難であること,④対象患者が少なく,被験者確保が難しいこと,などがあげられる.既存の政策が小児がんにおける薬剤開発促進につながる有効な打ち手となっておらず,小児がんドラッグラグの解消には抜本的な制度改革が必要である.さらに,保険適用までの間の小児がん患者の医薬品アクセス方法についても検討が必要である.

症例報告
  • 渡壁 麻依, 荒川 ゆうき, 入倉 朋也, 井上 恭兵, 富田 理, 本田 護, 三谷 友一, 森 麻希子, 福岡 講平, 大嶋 宏一, 渡 ...
    2023 年 60 巻 3 号 p. 260-265
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/11/03
    ジャーナル 認証あり

    CD19陽性再発・難治B細胞性急性リンパ性白血病に対する治療選択肢にブリナツモマブ(BLIN)がある.BLINの有用性と安全性について小児・若年成人10例の後方視的検討を行った.対象は再発9例,難治1例で,Ig/TCR Polymerase Chain Reaction Minimal Residual Disease(PCR-MRD)プライマー設計が可能であった7例のうち,BLIN開始前に陽性であった6例中5例が,BLIN 2サイクル後に陰性化した.この7例と設計不可能であった1例の計8例が寛解下で造血細胞移植に進んだ.BLIN投与中のCommon Terminology Criteria for Adverse Events (CTCAE) grade 3以上の非血液学的有害事象は発熱のみであった.BLINは再発・難治例への有用性が高く安全に投与できることが示唆された.

  • 中村 こずえ, 樋渡 光輝, 新戸 瑞穂, 佐藤 恭弘, 小山 隆之, 三牧 正和, 内山 徹, 石黒 精
    2023 年 60 巻 3 号 p. 266-269
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/11/03
    ジャーナル 認証あり

    先天性血小板減少症は多くの遺伝子異常が報告されているが,慢性免疫性血小板減少性症(慢性ITP)と診断されている例も多い.症例は2歳男児で,発熱と出血斑で入院した.父方に血小板減少者があり,20年前に父は先天性血小板減少症(IT)の遺伝子検査を受けたが異常が認められなかった.入院時,血小板数1.6万/μLであったが,粘膜出血なく無治療で経過観察したところ,入院6日で39.6万となり退院した.抗カルジオリピン抗体(ACA)12 U/mLと軽度上昇を認め,退院時にはACA陽性を合併したITPと診断した.退院後に再び血小板数は減少して5~6万/μLとなり,ACA陰性化後も減少が続いた.血小板は正常大で形態異常は見られなかった.ITである可能性が考えられ,倫理委員会の承認を得て,3歳11か月時に患児と両親の遺伝子解析を行った.患児と父にANKRD26 c.-134 G>Aを認め,Thrombocytopenia 2(THC2)と診断した.先天性血小板減少症はITPとの鑑別に難渋することがあり,遺伝子検査が重要である.

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