日本小児血液・がん学会雑誌
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58 巻, 1 号
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第61回日本小児血液・がん学会学術集会記録
シンポジウム9: 3年計画: 「ゲノム医療の最近の動向: 小児・AYAがんに向けて」
  • 安藤 弥生
    2021 年 58 巻 1 号 p. 1-5
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/06/08
    ジャーナル フリー

    厚生労働省においては,2018年に閣議決定された第3期がん対策推進基本計画に従って,がんゲノム医療を推進している.がんゲノム医療を必要とする患者が,全国どこにいても,がんゲノム医療を受けられる体制を構築するため,がんゲノム医療中核拠点病院等を指定する等,体制の整備に取り組んできた.2019年6月には,がん遺伝子パネル検査2品目が保険適用され,小児・AYAがんに対しても,がん遺伝子パネル検査が保険診療下で行えることになった.がん遺伝子パネル検査においては,ゲノム情報と臨床情報を,患者さんの同意の下,国立がん研究センター内に設置されたがんゲノム情報管理センターに収集し,ゲノム解析結果の解釈・臨床的意義づけを行うと共に,登録された情報はアカデミアや製薬企業に二次利活用される予定になっている.さらに,小児がんに対する施策として,小児がん拠点病院を指定し,小児がん診療の一定程度の集約化と小児がん拠点病院を中心としたネットワークによる診療体制の構築を進めてきた.これらの医療機関にはがんゲノム医療中核拠点病院等に指定され,がん遺伝子パネル検査を自施設で完結できる医療機関が含まれており,小児がん患者さんにおいても,これらの医療機関を中心に,ゲノム医療を受けることができる.さらに,全ゲノム解析等を推進するため,2019年内に全ゲノム解析等に関する実行計画を策定する予定であり,現在検討を進めている.

原著
  • 高地 貴行, 荘司 貴代, 宮越 千智, 宇津木 博明, 平田 健志, 小野田 薫, 神園 万寿世, 卜部 馨介, 牧野 理沙, 小松 和幸 ...
    2021 年 58 巻 1 号 p. 6-11
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/06/08
    ジャーナル フリー

    Antimicrobial stewardship program(ASP)による抗菌薬使用の見直しは,薬剤耐性菌の減少,医療コストの削減,医療現場への教育的側面が期待される.小児血液腫瘍診療に対し2014年9月にASPを導入した効果を検証した.発熱性好中球減少症(FN)に対しては原則Cefepime(CFPM)投与とし,Tazobactam/piperacilline(TAZ/PIPC)とMeropenem(MEPM)を制限した.2010年10月から2018年8月まで,ASP導入前,移行期,成熟期の3期に分け,Day Of Therapy/1000 patient-days(DOT),アンチバイオグラム,感染症死亡例について検討した.成熟期DOTを導入前と比較すると,CFPMは3.95倍の増加に対し,TAZ/PIPC,MEPMは0.34倍,0.13倍と減少した(p<0.01).グラム陰性菌に対するCFPMの抗菌活性は70%程度でβラクタマーゼ産生耐性菌の影響と考えられた.緑膿菌に対するTAZ/PIPCとMEPMの薬剤感受性は,移行期は90%未満となったが成熟期に90%を超えた.FNに対しMEPMとTAZ/PIPC使用が激減しても移行期以降重症感染症は増加せず,感染症関連死亡に影響なかった.感染症専門医の協力のもとASPは血液腫瘍診療において有用である.

  • 宮下 佳代子, 小林 京子, 山口(中上) 悦子, 足立 壯一, 長谷川 大一郎, 岩本 彰太郎, 小林 良二, 照井 君典, 今村 俊彦, ...
    2021 年 58 巻 1 号 p. 12-18
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/06/08
    ジャーナル フリー

    目的:AML経験者における就学・就労促進に関与する要因を明らかにするため以下の研究を行った.方法:小児期にANLL91およびAML99プロトコルで治療し,現在JACLS参加施設で経過観察中の15歳以上のAML経験者10名に半構造化面接を実施し,面接内容を質的記述的に分析した.結果:6のカテゴリーと23のサブカテゴリーが抽出された.AML経験者は,【慎重な歩み】や【自分のなかで調整・納得】をするなかで【使命感の芽生え】を得ていた.また医療者や友人,教諭などの【伴走者の存在】と【道標の存在】となるきょうだいに自身の進路を照らし合わせながら確認をしていた.就学や就労の基盤には【復学・進学意欲の維持】があった.考察:医師・看護師等医療関係者は,小児がん経験者と共に身体機能をアセスメントし,ソーシャルワーカーやがん支援相談員などの支援担当者へ橋渡しをする必要があり,就学・就労の基盤となる復学・進学を支えるため,教育機関へ継続的な情報やサポートを提供することが重要であることが示唆された.

  • 佐々木 美和, 新家 一輝, 畑中 めぐみ, 小島 勢二, 高橋 義行
    2021 年 58 巻 1 号 p. 19-25
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/06/08
    ジャーナル フリー

    目的:入院中にできた友人を亡くした思春期患者の経験や思いを明らかにし,死別後の精神的なケアのあり方について検討する.方法:友人の死を経験した思春期患者6名(入院時10–18歳)を対象に,退院後,半構造化面接を実施し質的帰納的に分析した.結果:時間経過から3つの局面があり,13カテゴリーが抽出された.病棟の雰囲気の変化から,友人の死を察知していた対象者もいたが,不安な気持ちを自ら誰かに相談した者はいなかった.友人の死を知らされた時は,気持ちの揺れを感じていたが,全員が友人の死を知らされたことを肯定的に受け止めていた.そして,亡くなった友人の存在を心に留め,一歩を踏み出そうとしていた.友人の死と自身の予後を重ねた者はいなかったが,友人の死に関わらず,入院中の体調不良時に,漠然と自分の死を意識していた者はいた.死後の面会,葬儀への参列,亡くなった友人へのプレゼント作り等別れの儀式は,気持ちや思い出を共有する機会になっていた.考察:思春期は友人関係が重要であり,死に関することも含めて友人の情報は思春期患者と共有する必要があると考えられた.思春期は,健康でも生や死について様々な気持ちを抱えていることをくみ取り,日常から生や死についてタブー視せず,子どもたちと語り合える関係を築いていくことが大切である.また,亡くなった友人との思い出や気持ちを共有することは,死別後の子どもを支えることになると考えられた.

症例報告
  • 西織 雅君, 日野 もえ子, 力石 浩志, 山下 喜晴, 菱木 はるか, 八角 高裕, 藤井 克則
    2021 年 58 巻 1 号 p. 26-30
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/06/08
    ジャーナル フリー

    日齢27に発熱より発症し,汎血球減少,肝機能障害,フェリチン高値を呈し血球貪食性リンパ組織球症(hemophagocytic lymphohistiocytosis, HLH)として当院に搬送,呼吸・循環不全のために集学的治療が必要であった.PRF1遺伝子解析においてc.1090_1091delCTとc.658G>Aの複合ヘテロ接合体と判明し家族性血球貪食性リンパ組織球症(familial HLH, FHL)type2と確定診断した.c.1090_1091delCTは既知の変異であった.c.658G>Aは現時点では病的意義は不明とされているが,ホモ接合体でperforin発現が欠損し,FHL2を発症した例も報告がある.c.1090_1091delCTとヘテロ接合体でFHL2を発症する遺伝子変異の組み合わせとして本症例は初報告であった.またc.658G>Aを伴うFHL2は本邦初の症例であった.本症例では非骨髄破壊的前処置による臍帯血移植を実施したが,合併症や移植時点での高い疾患活動性のため移植後間もなく死亡した.FHLは非常に稀な疾患であり,新規遺伝子変異に関する報告を蓄積し病的変異として広く認識されることが望まれる.

  • 安藤 久美子, 古舘 和季, 種山 雄一, 落合 秀匡, 沖本 由理, 角田 治美
    2021 年 58 巻 1 号 p. 31-34
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/06/08
    ジャーナル フリー

    症例は現在32歳女性.7歳時に中等症再生不良性貧血と診断され,まもなく重症へ進行.免疫抑制剤療法を行うも効果なく,HLA一致ドナーは得られず,輸血依存となった.輸血療法開始後約3年で,総赤血球輸血量は100単位に及び,10歳時より鉄キレート療法を開始した.当時使用できる鉄キレート剤はdeferoxamine(DFO)のみであった.輸血入院ごとのDFO投与だけでは,血清フェリチン値は5,000 ng/mL台まで上昇した.そこで13歳時よりDFOの在宅自己持続皮下注射を導入した.18歳時にdeferasirox(DFX)の治験に参加したが副作用のため投与困難でありDFOを継続した.注射コンプライアンスが改善してから,徐々に赤血球輸血回数は減少した.29歳時に赤血球輸血は不要となり,血清フェリチン値は低下し,DFO投与を中止した.DFOの持続皮下注射は鉄過剰を改善し,骨髄の造血回復に有用と思われた.

  • 三宅 亮輔, 大園 秀一, 大石 早織, 中川 慎一郎, 満尾 美穂, 山下 裕史朗
    2021 年 58 巻 1 号 p. 35-39
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/06/08
    ジャーナル フリー

    生後40日女児,主訴は哺乳力低下,腹部膨満.初診時WBC173万/μL(芽球99%),Leukocrit 43%と著明な白血球増多を認め,KMT2遺伝子再構成の急性リンパ性白血病と診断.白血球増多に伴うLeukostasisで危急的状況にあったと判断し,搬入直後より呼吸障害への人工呼吸器管理を開始.交換輸血(Exchange Transfusion: ET)を入院21時間後に施行し,2病日よりプレドニゾロンを先行投与した.処置中は高リン血症(7 mg/dL)と低カルシウム血症(補正値6.9 mg/dL)を認めた.入院9日目にWBC3,100/μLまで低下し,同日多剤併用化学療法を開始.生後6か月で臍帯血移植を施行し,以後1年間寛解を維持している.移植前に右硬膜下血腫が判明し,1歳6か月時に発達指数69と発達遅延を認めたが徐々に追いつきつつある.ETは白血球増多に伴うleukostasisの治療法であり,本症例では速やかな化学療法開始に有効だったと考えた.一方発症時期は特定できなかったものの,硬膜下血腫や発達の遅れも認めたため,本症の予防や長期フォローに対する重要性が示唆された.

  • 横山 亮平, 山田 愛, 木下 真理子, 澤 大介, 齋藤 祐介, 上村 幸代, 盛武 浩
    2021 年 58 巻 1 号 p. 40-44
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/06/08
    ジャーナル フリー

    Ewing肉腫(ES)は骨または軟部組織から発生する悪性腫瘍で,小児や若年成人に好発する.限局例では70%の無病生存が期待できるが,転移例や標準的化学療法抵抗例の予後は極めて不良である.症例は19歳男性.右腸骨腫瘍の生検組織よりEWSR1-FLI1融合遺伝子を検出し,ESと診断した.胸部CTで多発肺転移を認め,ビンクリスチン,ドキソルビシン,シクロフォスファミド,イフォスファミド,エトポシドを用いたVDC/IE療法,原発部への放射線照射,ブスルファンとメルファランによる自家末梢血幹細胞移植併用大量化学療法,さらに複数の化学療法を施行するも非寛解であった.その後,パゾパニブ内服を開始し縮小効果を認め,7か月間の延命が可能であった.パゾパニブは経口薬のため在宅管理が可能で,さらに近年では長期生存例の報告も散見され,難治性ESの治療において考慮すべき薬剤と思われる.

  • 花木 祥二朗, 中原 康雄, 仲田 惣一, 高橋 雄介, 大倉 隆宏, 石橋 脩一, 人見 浩介, 浮田 明見
    2021 年 58 巻 1 号 p. 45-49
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/06/08
    ジャーナル フリー

    手術,放射線療法に加え,標準的な化学療法施行中に再発をきたした腎悪性腫瘍の1例を経験したので報告する.症例は4歳,女児.腹部腫瘤を指摘され紹介された.CTで右腎原発の腫瘍を認め,摘出術を施行した.病理検査では後腎芽細胞優位型の限局型退形成腎芽腫で,傍大動脈リンパ節転移を認めStage 3と診断した.術後治療はJWiTS-2のプロトコールに準拠して,Regimen DD-4Aおよび放射線療法を施行した.術後12週目のCT検査で腫瘍摘出部に径3 cm大の腫瘤性病変と,肝S7領域に低吸収域を認め,再発と判断した.化学療法をICE療法に変更し,2クール施行し,画像上の腫瘍消失を確認できた.その後Regimen Iを施行し,治療終了後18カ月現在再発なく経過している.本症例は化学療法中の再発であり,後腎芽細胞優位型と限局型退形成である点が予後不良因子として関与した可能性がある.再発例に対してはプロトコールが確立されておらず,症例に応じた化学療法の選択を考慮していく必要がある.

  • 大久保 龍二, 福澤 太一, 新妻 秀剛, 和田 基, 仁尾 正記
    2021 年 58 巻 1 号 p. 50-54
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/06/08
    ジャーナル フリー

    症例は11歳女児.貧血と高脂血症の指摘を受け近医を受診した際に腹部腫瘤を触知し,画像検査で肝腫瘍が認められ当院紹介となった.造影CT検査で腫瘍は右葉からS4に位置し,画像診断はPRETEXT IIIであった.腫瘍は早期相で肝実質より濃染し,平衡相でwash outされた.AFP値は1394 ng/mLだった.年齢,画像所見,AFP値から肝芽腫より肝細胞癌を強く疑い,生検に伴う腫瘍播種を懸念し一期的に拡大右葉切除を行った.病理診断は肝芽腫(well differentiated subtype)であった.肝細胞癌での生検は播種などが懸念されるが肝芽腫における術前化学療法は有用であることが知られている.そのため,原発性肝腫瘍における生検前の鑑別は極めて困難ではあるが生検の可否は個々の症例に応じて慎重に判断すべきと考えられた.

  • 爲房 宏輔, 中田 裕生, 佐々木 潔, 所谷 知穂, 西内 律雄
    2021 年 58 巻 1 号 p. 55-59
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/06/08
    ジャーナル フリー

    18トリソミーは90%以上に先天性心疾患(congenital heart disease,以下CHD)を合併する染色体異常症であり,生命予後は不良である.また,肝芽腫とWilms腫瘍の発症頻度が高いことも知られている.近年,CHDに対して根治術もしくは姑息術を行うことにより,生命予後が改善し,在宅医療へ移行する症例が増えてきている.今回,胎児期に18トリソミーと診断され,経過中に肝芽腫を発症した2例を経験した.両症例ともCHDに対しては外科的治療を選択せずに在宅医療に移行したが,経過中に判明した肝芽腫に対しても無治療経過観察を選択した.18トリソミー児に発症した肝芽腫の自然歴は不明であるが,2例とも自然経過で2年以上の生存を得た.自然経過の報告は少なく,今後の治療方針選択のための参考となる情報を提供し得るものと考える.

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