日本小児血液・がん学会雑誌
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56 巻, 1 号
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第59回日本小児血液・がん学会学術集会記録
教育セッション3: 骨髄異形成症候群/再生不良性貧血
  • 長谷川 大輔
    2019 年 56 巻 1 号 p. 1-7
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/04/12
    ジャーナル フリー

    骨髄異形成症候群(MDS)は造血幹細胞に何らかの遺伝子異常が生じることによって血液細胞の正常な分化が障害され,細胞の形態学的異常(異形成)と血球減少を呈する疾患群の総称である.診断時年齢中央値は70歳以上と高齢者に多く小児ではまれな疾患である.発症機序として成人では加齢に伴って生じる造血細胞内の遺伝子異常の関与が示唆されているが,小児においては先天性素因について注目が集まっている.Fanconi貧血などの遺伝性骨髄不全症候群に加えて,最近ではGATA2遺伝子などの生殖細胞系列変異が骨髄性腫瘍の発症に関与していることが明らかになってきており,2017年に改訂されたWHO分類では“myeloid neoplasms with germ line predisposition”という項目が追加された.MDSを診断する際には他の血球減少症の除外が必須である.異形成はMDSを特徴づける所見ではあるが,MDS以外の造血器疾患のみならず感染症や先天性免疫不全などでも認められるため「異形成=MDS」と短絡的に考えるべきではない.小児MDSの治療方針は芽球の多寡によって決定する.芽球増加を伴わないMDSでは再生不良性貧血との鑑別が,芽球増加を伴うMDSは急性骨髄性白血病との鑑別がそれぞれ重要であり,診断には骨髄生検が必須である.今後は分子生物学的所見なども勘案した再分類が必要であろう.

シンポジウム4: 小児の血栓症
  • 齋藤 敦郎
    2019 年 56 巻 1 号 p. 8-13
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/04/12
    ジャーナル フリー

    血栓性微小血管症(TMA)は,細小血管障害性溶血性貧血,破壊性血小板減少,血小板血栓による臓器障害を主徴とする多彩な病態をする症候群である.血管の恒常性は,血管内皮や血小板–凝固線溶経路,補体経路など多彩なメカニズムのバランスにより維持されており,TMAはそれらの破綻が契機となって臓器障害を来す.造血幹細胞移植後は,抗がん剤や放射線照射による移植前処置毒性や免疫抑制剤,感染症,急性移植片対宿主病(GVHD)などの様々な要因で血管内皮細胞が障害を受けTMAを発症しうる.臓器障害を伴うTMAの予後は不良であり移植後の重大な合併症の一つである.TMAの一型である非典型溶血性尿素症症候群(aHUS)については補体制御機構の破綻がTMAの原因であることは明らかとなり,本邦においてC5モノクローナル抗体製剤(エクリズマブ)が保険認可されている.近年,造血細胞移植後TMAの一部にaHUSと同様に補体制御異常の関連が言われ始めている.造血細胞移植後TMAについて,定義,病態,症状,診断に加え治療について概説する.

シンポジウム6: 妊孕性温存のがん・生殖医療
  • 岩端 由里子, 岩端 秀之, 鈴木 直
    2019 年 56 巻 1 号 p. 14-18
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/04/12
    ジャーナル フリー

    集学的治療の発展に伴い小児がんの生存率は飛躍的に改善し,小児がんサバイバーの長期QOLの向上が注目されるようになった.卵巣組織凍結保存は,月経発来前の小児がん患者にとって,唯一の妊孕性温存療法であり,この方法を用いて世界中で多くの妊娠・出産例が報告されてきているが,依然として研究段階の技術であるとされている.本稿では,小児卵巣組織凍結保存の現状,MRDのリスクに関する見解,組織凍結の方法(緩慢凍結と急速冷凍法)に関する課題,小児がん患者に対するインフォームドアセントの問題点に関して概説する.

原著
  • 田崎 牧子, 土屋 雅子, 富田 眞紀子, 荒木 夕宇子, 古屋 佑子, 平岡 晃, 堀部 敬三, 高橋 都
    2019 年 56 巻 1 号 p. 19-31
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/04/12
    ジャーナル フリー

    目的:小児期,AYA期発症がん経験者が直面する就労の問題,問題の関連要因,問題への対応方策とその効果について,現在までの知見を整理し,今後必要な支援について検討する.方法:MEDLINE,PsycINFO,CINAHLのデータベースを用いてキーワード検索した.結果:31件の文献(量的研究27件,質的研究4件)が抽出された.量的研究で示された就労の問題は,就労割合の低下,就労未経験割合の上昇,欠勤日数の増加,低収入,仕事量や仕事の種類の制限,専門職への就労割合の低下,就労開始年齢の上昇,職務遂行不可割合の上昇であった.就労の問題の関連要因は,属性,治療による身体的・心理的影響,特定のがん種と治療,社会的要因であった.質的研究で示された就労の問題は,希望職に就けない,健康保険を受給できる求人がない,転職・復職困難,就労継続意思決定困難,病気開示困難,職務遂行困難等であった.就労の問題の関連要因は,体力不足,収入や保険の必要性,周囲のサポート等であった.就労の問題への対応方策と効果を検討した量的・質的研究は抽出されなかった.考察:小児期,AYA期発症がん経験者の就労の問題と関連要因は多岐にわたる.今後,就労の問題への対応方策と効果の検討,発症年代別の対象者設定,質的研究結果の検証研究,バイアスを最小限にする研究手法の検討が必要と考えられる.

  • 南條 由佳, 鈴木 資, 鈴木 信, 小沼 正栄, 佐藤 篤, 今泉 益栄
    2019 年 56 巻 1 号 p. 32-39
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/04/12
    ジャーナル フリー

    造血細胞移植後には,感染予防のために予防接種が推奨されるが,生ワクチンの効果に影響する因子についての報告は少ない.本研究では造血細胞移植後,生ワクチンの接種後に抗体価が測定可能であった12例において,生ワクチン接種時の免疫能,接種後の抗体の有無等について後方視的に検討した.麻疹風疹,水痘,ムンプス各ワクチン1回接種後の抗体価陽性率は麻疹75%,風疹50%,水痘40%,ムンプス18.2%であった.各ワクチン1回接種後に,麻疹,風疹,水痘,ムンプスの4種のうち,4種とも抗体価が陽性になった例はなかった.3種陽性が4例,2種陽性が3例,1種陽性が3例,すべて陰性が2例であった.2種以上が陽性だった群をワクチン高有効率群,1種以下が陽性であった群をワクチン低有効率群とし,ワクチンの効果と関連すると思われる因子について比較したところ,phytohemagglutinin(PHA)リンパ球幼若化試験Stimulation Index(S.I)値がワクチン低有効率群(平均値 415.9±161.7)と比較し,高有効率群(平均値 1314.4±210.3)で有意に高値であった(p=0.028).ワクチン後の抗体獲得にはリンパ球,特にCD4陽性細胞の機能回復が重要であり,PHAリンパ球幼若化試験S.I値が予防接種施行時期を判断する指標の1つとなる可能性が考えられた.

症例報告
  • 上田 悟史, 坂田 尚己, 澤井 利夫, 上田 素子, 前田 重成, 岡田 満, 八木 誠, 竹村 司
    2019 年 56 巻 1 号 p. 40-45
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/04/12
    ジャーナル フリー

    終末期に家族と共に自宅で暮らすという願いを叶えることは,小児がん患者においても重要な取り組みである.症例は3歳の男児.左胸腔内の巨大腫瘤で発症した胸膜肺芽腫で,外科療法や自家末梢血幹細胞移植を含む化学療法で治療を終了した後早期に再発した.再発後は治療抵抗性で胸腔内腫瘍の急速な増大により呼吸不全状態となった.Irinotecanとcisplatinの胸腔内投与が奏功し,腫瘍摘出術と放射線照射後に退院が実現できた.しかし,照射野外の横隔膜下面より腹腔腫瘍で再々発した.家族の希望により急遽在宅緩和ケアに移行したため,移行時の連携準備不足で在宅ケアの継続が一時危ぶまれた.その後,病院主治医と在宅医相互の情報共有により役割分担を明確にすることで,最終的に自宅での看取りに至った.終末期を自宅で過ごす患者と家族の願いを叶える上で,在宅医療関係者との密な連携を速やかに構築することが重要であると考えられた.

  • 岩橋 円香, 徳田 桐子, 手束 真理, 石田 也寸志
    2019 年 56 巻 1 号 p. 46-49
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/04/12
    ジャーナル フリー

    再寛解導入療法中に肺動脈血栓症(PTE)を発症したB-前駆細胞性急性リンパ性白血病の3歳男児を経験した.寛解導入療法直前に末梢挿入式中心静脈カテーテル(PICC)を挿入し,以後約6か月間使用していた.PTE発症前にD-ダイマー上昇とカテーテル閉塞徴候が認められていた.未分画ヘパリン持続点滴後にPICCを抜去し,ワーファリンによる抗凝固療法を行ったところ,2週後に臨床症状は改善した.ワーファリンを継続しながら2回目の再寛解導入療法前にPICCを再挿入したが,血栓症の再燃は認めず,予定の化学療法を継続しえた.本症例のPTEはカテーテル関連血栓症と考えられた.

    PICCは従来の中心静脈カテーテルと比較して血栓症の頻度が高いとされるため,カテーテルの選択や留置位置,留置が長期化する場合の管理に細心の注意を払うことが重要である.

  • 加藤 正也, 佐藤 雄也, 中山 幸量, 奥谷 真由子, 福島 啓太郎, 黒澤 秀光, 吉原 重美
    2019 年 56 巻 1 号 p. 50-52
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/04/12
    ジャーナル フリー

    高リスク群の神経芽腫の治療において輸血は重要な補助療法である.小児領域で輸血を行うためには親権者から承諾を得る必要があるが,宗教的な理由で拒否した場合は親権停止の申立を考慮する必要がある.しかし,この行為は親権者と医療従事者との関係を悪くさせる可能性があり,神経芽腫の児の治療にとって望ましくない環境である.

    高リスク群の神経芽腫である18か月男児が入院した.両親は宗教的な理由で児への輸血を拒否した.医療ソーシャルワーカー(SW),児童相談所と連携し患児を一時保護で入院させた.輸血同意書を含めた全ての承諾書は児童相談所長がサインすることで両親から加療をする承諾を得た.親権停止の手続きは行わず,医療者と両親間のトラブルもなく予定通りの加療を行った.

  • 堀田 将志, 安井 昌博, 辻本 弘, 中西 達郎, 樋口 紘平, 清水 真理子, 佐藤 真穂, 澤田 明久, 中井 理恵, 最上 友紀子, ...
    2019 年 56 巻 1 号 p. 53-56
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/04/12
    ジャーナル フリー

    抗てんかん薬を使用中に発症した再生不良性貧血は,報告は認められるものの詳細は明らかにされていない.今回,複数の抗てんかん薬を定期使用中に最重症再生不良性貧血をきたした症例を報告する.症例は染色体異常のある15歳女児で血液疾患の既往はなく,難治性てんかんに対してカルバマゼピン,エトスクシミド,バルプロ酸ナトリウム,フェノバルビタールを内服中であった.定期受診時に顔色不良を認め,血液検査で汎血球減少を認めた.抗てんかん薬を中止して経過観察していたが,造血回復を認めず,各種検査所見や経過から最重症再生不良性貧血と診断した.ステロイドパルス療法とステロイド維持療法を行ったところ,造血回復を認めた.抗てんかん薬投与中に発症する再生不良性貧血に対して,ステロイドパルス療法とステロイド維持療法の有効性が示唆された.

  • 高橋 信久, 佐野 秀樹, 望月 一弘, 小林 正悟, 大原 喜裕, 古田 実, 菊田 敦
    2019 年 56 巻 1 号 p. 57-60
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/04/12
    ジャーナル フリー

    前房蓄膿は主に感染症やベーチェット病などの自己免疫性疾患に見られる病態であるが,稀に急性白血病に合併することも知られている.症例は5歳女児で,左眼充血にて近医を受診した際に前房蓄膿,虹彩炎を指摘され,基礎疾患の精査目的に当科を紹介された.当科での精査でB前駆細胞性急性リンパ性白血病(BCP-ALL)と診断され,髄液細胞診で中枢神経浸潤を認めた.同時に左眼の眼圧上昇のため化学療法開始前に緊急で虹彩切除術を施行され,ALL細胞の虹彩への浸潤が証明された.化学療法に対する反応は良好で,現在まで約7年間完全寛解を維持している.急性白血病における前房蓄膿は再発時に見られることが多く,初発時に合併することは非常に稀である.また眼球への抗がん剤の移行は十分ではないため,再発に対し注意深い観察が必要である.

委員会報告
日本小児血液・がん学会 血小板委員会報告
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