日本植物生理学会年会およびシンポジウム 講演要旨集
第45回日本植物生理学会年会講演要旨集
選択された号の論文の918件中901~918を表示しています
  • 櫻井 英博
    p. S084
    発行日: 2004/03/27
    公開日: 2005/03/15
    会議録・要旨集 フリー
    光合成生物を利用した水素生産の研究は、第一次オイルショックを契機に盛んに行われたが、原油価格の安定化もあって低迷状態が続いていた。最近大気中のCO2を始めとする温室効果ガス濃度の急上昇を受けて、気候変動に対する懸念からこの研究に対する関心が再び高まりつつある。温室効果ガス削減は人類的課題であり、将来的には現排出レベルから60-85%の大幅削減が必要だとされるが、その実現には再生可能エネルギー源の創成が不可欠である。太陽エネルギーは莫大で社会的エネルギー消費の6000倍を越えるが、難題はその経済的利用である。しかし、例えばサトウキビ等の農作物では経済的生産が相当程度に実現されているから、合理的研究戦略に基づいて努力を積み重ねれば経済的光生物的水素生産も可能性があると考えられる。今日では、幾つかの光合成生物のゲノム情報が入手可能になり、これまでに蓄積された光合成、分子生物学、生化学などの知識を背景に、遺伝工学的手法によって光生物的水素生産向上に向けた改良が可能になっている。しかし、改良にあたって、どのような生物のどのような特性に着目してその後の改良を行うかについては、手探りの状態が続いている。本シンポジウムは、光生物的水素生産の基礎、有力な候補となりうる幾つかの生物の特性、水素生産向上に向けた遺伝工学的改良の例を紹介し、ポストゲノム時代の研究の新たな展開について討論する。
  • 淺田 泰男
    p. S085
    発行日: 2004/03/27
    公開日: 2005/03/15
    会議録・要旨集 フリー
    シアノバクテリア、緑藻、光合成細菌の多くは、水素生産能を有している1)。水素の生成は、シアノバクテリアではヒドロゲナーゼ(H2ase)またはニトロゲナーゼ(N2ase)、緑藻ではH2ase、光合成細菌ではN2aseによって触媒される。ただし、H2aseはN2aseで生成した水素を再吸収することがある(uptake H2ase)。両酵素とも酸素不安定酵素であり、対酸素防御機構を有する窒素固定シアノバクテリアのみが水素と酸素を同時に生成できる。シアノバクテリアおよび緑藻のH2ase系によって水素生産を行わせる場合は、細胞内に蓄えられたグリコーゲンやデンプンを還元力源とする嫌気自家発酵(暗条件)によるか、光化学系IIの活性を弱めた緑藻に光照射を行うことが行われる。水素生産能を改良するための方法の一つとして、演者らは、シアノバクテリア、Synechococcus sp.PCC7942 にクロストリジウムのヒドロゲナーゼ遺伝子を導入し、活性のあるヒドロゲナーゼの発現に成功した2)。シアノバクテリアと緑藻類を中心に水素生成メカニズムや生産能の改良のための研究を概括する。
    1) Y.Asada & J.Miyake: J.Biosci.Bioeng. 88, 1-6 (1999).
    2) Y.Asada et al.: Biochim.Biophys.Acta, 1490, 269-278 (2000).
  • 若山 樹, 三宅 淳
    p. S086
    発行日: 2004/03/27
    公開日: 2005/03/15
    会議録・要旨集 フリー
    光合成細菌による光水素発生を新エネルギー産業として実用化するには、光エネルギーから水素エネルギーへの光エネルギー変換効率を向上させる必要がある。基質に実廃水やバイオマス、エネルギー源に太陽光を用いた場合、変換効率は著しく低下する。これらは、主に光や光合成細菌の特性に由来することが明らかになっている。そこで我々は、2つの異なるアプローチによる技術課題の解決を試みている。1つめは、太陽光の特性に合致した高効率フォトバイオリアクター(PBR)の開発である。光の分散照射に適した内部照射型PBR や遮光体付きPBR を作製し、基本的な平板型PBRと比較を行った。新規PBRでは約2倍の変換効率が得られた。2つめは、光合成細菌の色素を減少させることにより自己遮蔽効果を低減し、変換効率の向上を試みた。UV変異により色素減少株2株を取得し、野生株と比較した。色素減少株では約1.5倍の変換効率が得られた。さらに、光合成細菌を利用した水素生産に関してフィージビリティースタディーを行い、ギガジュール(GJ)あたりの製造コスト、環境調和性の指標であるLCCO2を積算した。現行のエネルギーと比較を行い、本技術の産業技術としての成立要件、環境調和性について検討した。また、光合成微生物のヒドロゲナーゼと光合成器官・電子伝達鎖を電極基盤上に3次元的に組織化し、太陽エネルギーを集積し水素へ高効率で変換する水素発生用バイオ分子デバイスの開発を試みている。
  • 宮下 英明, 竹山 春子, 松永 是
    p. S087
    発行日: 2004/03/27
    公開日: 2005/03/15
    会議録・要旨集 フリー
     1974年にAnabaena cylindricaを用いた光水素生産が報告されて以降、シアノバクテリアを用いた水素生産研究には、AnabaenaCalothrixNostocScytonemaSynechococcus (Cyanothece)など様々な窒素固定株が用いられている。これら窒素固定株は細胞形態の上、単細胞、ヘテロシストをもたない糸状細胞体、ヘテロシストをもつ糸状細胞体に大別可能で、それぞれの細胞形態ごとに異なった水素生産方式をとっているものと考えられている。一方、近年シアノバクテリアのSSUrDNA配列情報が加速度的に蓄積され、各株の分子系統位置を解析することが容易になっている。そこで我々は、保存株の水素生産能を測定し、同時にSSUrDNAを用いた分子系統解析をおこなって、水素生産能の高低と分子系統上の位置との関係について検討した。その結果、シアノバクテリアの水素生産能の高低が、ある程度系統位置を反映しており遺伝的に決定されている可能性が示唆された。
     シアノバクテリアを用いた光水素生産システムの今後の開発には、高い水素生産能力をもつ株の更なる探索と、バイオテクノロジーを駆使して遺伝的に高いポテンシャルをもった株をさらに改良・育種してゆくことが重要であると考えられる。これら探索や遺伝子改変のモデル生物の選定にあたって、分子系統位置情報がどのように活用できるのか議論してみたい。
  • 大城 香
    p. S088
    発行日: 2004/03/27
    公開日: 2005/03/15
    会議録・要旨集 フリー
    Trichodesmium属ラン藻は熱帯・亜熱帯外洋に広く分布し、しばしば大発生する窒素固定ラン藻で、年間約100TgのNが本属により海洋へ導入されると試算されている。酸素発生型光合成を持つラン藻は酸素に高い感受性を持つ窒素固定酵素を酸素から守る機構が必要で、糸状性窒素固定ラン藻は窒素固定のために光化学系II(PSII)を欠いた細胞(ヘテロシスト)を分化する。 窒素固定を夜間にのみ行う種も知られている。しかしTrichodesmium属ラン藻はヘテロシストを分化しないにもかかわらず昼間にのみ窒素固定を行う。演者らは日本近海の黒潮海域から分離した株を用い、明暗周期下で培養した細胞の窒素固定酵素は暗条件では失活すること、細胞を明条件に移すと活性化されることを見出し、本属は光に依存した過程で酸素により不活性化された酵素を再活性化あるいは新規合成することで昼間に窒素固定を行うことを可能にしているのではないかと推測した。近年米国の研究グループは個々の細胞のPSII活性が時間的に変動すること、窒素固定酵素の存在が一部の細胞に限定されることを示している。本属が持つ窒素固定系を酸素から保護する機構についての考察を行う。本属の窒素固定の副産物としての水素発生やヒドロゲナーゼに関する知見はまだ無い。海洋への窒素導入者として近年注目されている単細胞性の窒素固定ラン藻やTrichodesmiumに類似した窒素固定を行うSymploca属ラン藻に関する知見も紹介する。
  • Shuzo Kumazawa
    p. S089
    発行日: 2004/03/27
    公開日: 2005/03/15
    会議録・要旨集 フリー
    Some 30 years ago, hydrogen production by photosynthetic microorganisms was envisaged as a system to convert solar energy. At that time, Mitsui carried out programs to survey microorganisms with high hydrogen production capability. One of the unique strains isolated is a unicellular cyanobacteria assigned to the genus Synechococcus (probably belongs to the genus Cyanothece, according to the current classification). This strain is an aerobic nitrogen fixer and exhibits hydrogen production in a nitrogenase-dependent process. Under argon atmosphere in the light, hydrogen and oxygen accumulated in the vessel at 2 to 1 ratio. When synchronized cells were used, the phases of hydrogen and oxygen production appeared in an alternative manner. During 24 h incubation, as high as 7.4 and 3.7 ml of hydrogen and oxygen accumulated in vessels with 22 ml gas phase. Energy conversion efficiency based on PAR (25 W/m2) was about 2.6%.
  • 増川 一, 吉野 史記, 若井 宗人, 櫻井 英博
    p. S090
    発行日: 2004/03/27
    公開日: 2005/03/15
    会議録・要旨集 フリー
    ゲノム情報が入手可能になり、光合成、関連酵素・代謝系、分子生物学などの情報を背景に候補となる遺伝子を選び、遺伝工学的に改変し、水素生産に及ぼす効果を検討しつつ次第に改良を進めていくことが可能になった。われわれは、ゲノム情報を利用できるAnabaena PCC 7120をモデル生物として、上記のような研究戦略の基に光生物的水素生産性を向上させる研究を行っている。水素生産に利用するのはニトロゲナーゼで、反応の必然的副産物として水素を発生する。発生した水素を再吸収する可能性のある2種のヒドロゲナーゼ遺伝子の一方および両方を破壊したところ、取込み型破壊株(ΔhupL)では水素生産の最大活性が野性株に比べ4-7倍に増大し、吸収可視光の水素への最大エネルギー変換効率は最大値で約1.0-1.6%であった。問題点として、(1)変換効率がまだ不十分、(2)最大活性が持続しない、(3)高光強度下での効率低下が明らかになったので、(1)、(2)の改善を目指した。ニトロゲナーゼのMoFe7S9活性中心クラスターにはホモクエン酸が配位し、他生物では、ホモクエン酸合成酵素NifVの遺伝子を破壊すると窒素固定の効率が下がり、水素生産へ向かう電子配分比率が増加すると報告されている。ΔhupLを基に2コピーあるnifV破壊株を3株作製したところ、その一部は更に高く持続する水素生産活性を示した。
  • 山口 信次郎
    p. S091
    発行日: 2004/03/27
    公開日: 2005/03/15
    会議録・要旨集 フリー
    発芽は、種子が外界の適正な環境に応答して活発な生命活動を開始する生理現象であり、その調節にはいくつかの植物ホルモンが重要な役割を果たす。ジベレリン(GA)は種子発芽に促進的に働き、その生合成量が減少したシロイヌナズナの突然変異体は発芽能が低下する。我々の研究グループは,GAを介した種子発芽誘導メカニズムの解明を目指した研究を行ない、シロイヌナズナにおいて種子発芽を決定する重要な環境因子である光と温度によって,GA生合成経路が厳密に調節されることを明らかにした. 例えば,GAの活性化段階を触媒するGA3位酸化酵素をコードするAtGA3ox1遺伝子は,フィトクロムを介して光可逆的に制御されると同時に、発芽に促進的に働く低温処理によって顕著な誘導を受ける。また、AtGA3oxの転写産物は種子中の特異的な細胞種に集中的に発現するが、その空間的な分布は種子のおかれた光・温度条件により変化する可能性が示された。一方、マイクロアレイ法を用いてGA応答性遺伝子群の同定・発現解析を行なったところ、GAに対する種子の応答は環境依存的に質的に変化することが示唆された。以上の結果は、種子が周囲の状況を把握し発芽を決定する過程で、GAを介した発芽誘導プログラムの制御が重要であることを示している。
  • 真籠 洋, 小田 賢司
    p. S092
    発行日: 2004/03/27
    公開日: 2005/03/15
    会議録・要旨集 フリー
    ジベレリン(GA)は植物の生育に関わる植物ホルモンである。私たちはシロイヌナズナのアクチベーションタグラインから、内生のGA量が減少し、わい化や開花遅延を示す優性のddf1変異体を単離した。その原因を調べたところ、AP2型転写因子の過剰発現によることが明らかとなった。ddf1変異体ではGAの生合成経路におけるGA 20-oxidaseの中間生成物以降が減少しているが、DDF1遺伝子の過剰発現体の遺伝子発現プロファイルを調べたところ、GA 20-oxidase遺伝子群の転写物は減少しておらず、GA中間体を分解するGA 2-oxidaseの遺伝子が誘導されていた。この分解酵素の遺伝子を破壊するとddf1変異によるわい化が大幅に回復したことから、ddf1変異によるGA量の減少にはこの分解酵素が関与していると考えられた。興味深いことに、DDF1は環境ストレス応答に重要なDREB1Aと相同性が認められる。そこでDDF1遺伝子のストレス応答性を調べたところ、高塩処理や乾燥処理により誘導された。また、GA 2-oxidase遺伝子も同様の処理で誘導されていた。さらにDDF1遺伝子の高発現形質転換植物は高塩ストレスや乾燥ストレスに対する耐性が上昇していた。これらのことから、ストレスに対する適応反応の一つとして、シロイヌナズナは環境ストレスによりGA分解酵素を誘導するのではないかと考えられた。
  • 篠崎 和子, 篠崎 一雄
    p. S093
    発行日: 2004/03/27
    公開日: 2005/03/15
    会議録・要旨集 フリー
    アブシジン酸(ABA)は植物体の環境適応や種子の成熟や休眠において重要な機能をはたしている。シロイヌナズナの乾燥誘導性遺伝子であるrd29Bの発現は主にABAによって制御されている。この発現には二つのABRE配列がシス因子として働き、bZIP型のAREBが転写活性化因子として機能している。また、ABA変異体やアミノ酸配列を置換したAREBを用いた転写活性化実験やゲル内リン酸化実験から、ABAによって活性化されるセリン/スレオニンキナーゼによってAREBの転写活性化が制御されていることが示された。一方、アミノ酸置換や欠失変異によってABA非依存的に活性化したAREBを過剰発現した形質転換体中で発現が変化した遺伝子をマイクロアレイによって網羅的に解析すると、種々のABA誘導性遺伝子が過剰発現していることが示された。
    シロイヌナズナのレセプター様キナーゼであるRPK1のアンチセンス植物や欠失変異体は発芽や成長速度、気孔の閉鎖等において、ABAの感受性が低下していた。これらの形質転換体や変異体を用いて発現が変化した遺伝子を解析するとAREB1を含む多くのABA誘導性遺伝子の発現が押さえられていることが示され、RPK1がABAによる応答機構において重要な役割をはたしていることが明らかになった。RPK1やAREBを含むABAによるシグナルの受容から遺伝子発現に至る制御機構について考察する。
  • 小柴 共一
    p. S094
    発行日: 2004/03/27
    公開日: 2005/03/15
    会議録・要旨集 フリー
     アブシジン酸(ABA)は,植物の発芽や環境応答に重要な役割を果たしている.ABAが関係する現象の多くは,内生ABAのレベルが対応しているためABA生合成の調節機構の解明はABAの作用機構を明らかにするための一つの重要な研究課題である.この数年間に,ABA合成系路上の主要な遺伝子・酵素が次々に単離され,シロイヌナズナにおいてはほぼABA生合成の全貌が明らかになってきた.演者らは,経路の最終段階に位置するアブシジンアルデヒドを酸化しABAを生成すると考えられるアルデヒド酸化酵素(AAO3),および1つ前の反応を触媒するABA2/SDR1の特定に成功し,それらの酵素学的諸性質を明らかにするとともに主に乾燥応答時のABA合成部位とABAもしくはその前駆体の植物体における移動について検討を加えてきた.その結果,少なくともシロイヌナズナにおいては,乾燥に応答して増加するABAは葉で合成されその一部がすみやかに根に移動すること,また,この時の感受部位も葉にあることが明らかになってきた.ABA合成の出口にあたるAAO3の分布をAAO3プロモーター:GFPおよび特異抗体を用いた免疫組織化学により詳細に調べたところ,維管束(伴細胞)や孔辺細胞内にも観察された.これらの結果をふまえて,乾燥応答時のABA生合成と移動の調節機構に関する新たな発想の必要性も含めて話題を提供する.
  • 南原 英司
    p. S095
    発行日: 2004/03/27
    公開日: 2005/03/15
    会議録・要旨集 フリー
    種子や側芽などの器官では、生長の調節とそれに伴う代謝的および防御メカニズムを駆使するために様々な内在性シグナルによる調節が見られる。我々は、休眠の分子メカニズムを理解するために、DNAマイクロアレー法を用いてシロイヌナズナの種子と側芽における遺伝子発現プロファイルを比較した。これら休眠器官の遺伝子発現プロファイルを規定する主要なシス配列を検索し、種子と芽で共通な生長調節のシス配列(Up1- and Up2-boxes)と、器官に特徴的な休眠活性化に関わるシス配列(ABA応答配列、糖抑制配列)を同定した。次に、休眠の調節遺伝子を同定することを目的に、ABA不活性化酵素遺伝子のクローン化を試みた。主要なABA不活性化酵素であるABA 8'-水酸化酵素はチトクロムP450モノオキシゲナーゼであることが知られている。シロイヌナズナゲノムに存在する272個のP450様遺伝子から、系統解析、遺伝子発現プロファイルと代謝プロファイルの比較から絞り込んだ候補遺伝子の中から4つのCYP707A遺伝子がABA 8'-水酸化酵素をコードしていることを明らかにした。さらに、CYP707A2遺伝子の突然変異株は種子に多量のABAを蓄積しており、その種子は極めて高い休眠性を示した。このことから、ABAの不活性化経路の機能欠損は種子休眠の調節に極めて有効である事が示された。
  • 杉田 護, 小林 勇気, 杉浦 千佳, 宮田 有希, 服部 満
    p. S096
    発行日: 2004/03/27
    公開日: 2005/03/15
    会議録・要旨集 フリー
    葉緑体ゲノムは、葉緑体コードのRNAポリメラーゼ(PEP)と核コードのRNAポリメラーゼ(NEP)によって転写される。PEPはシアノバクテリアを起源とする原核生物型の酵素で、4種のコアサブユニットで構成され、主に光合成関連遺伝子の転写を行っている。一方、NEPは主に非光合成遺伝子の転写を行っており、ファージタイプのRNAポリメラーゼがNEPのひとつと考えられている。色素体の分化と発達の進行過程で、NEPとPEPをベースとした転写装置の変換が起こり、葉緑体遺伝子の発現が調節されている。以上のシナリオは維管束植物の研究から得られたものであるが、より下等な植物でも同じことが当てはまるのであろうか。我々は、コケ植物セン類の一種であるヒメツリガネゴケの葉緑体ゲノムにPEPのαサブユニットをコードするrpoA遺伝子が欠失していること、および核ゲノムにrpoA遺伝子が存在することを明らかにした。さらに、RpoA核遺伝子ノックアウト株を用いた解析により、コケ植物においてもNEPの存在を疑う余地がないことを見い出した。葉緑体遺伝子の転写を操る核ゲノムの実体について、コケ植物と高等植物で比較しながら議論したい。
  • 中村 崇裕, Karin Meierhoff, Peter Westhoff, Gadi Schuster
    p. S097
    発行日: 2004/03/27
    公開日: 2005/03/15
    会議録・要旨集 フリー
    PPRタンパク質は高等植物のみでスーパーファミリー(シロイヌナズナで約450種、他の真核生物では10種以下、原核生物や古細菌ではゼロ)を形成しており、ほとんどは葉緑体やミトコンドリア中でRNAまたはDNA代謝に関わると予測されている。
    核コードのHCF152遺伝子は、12個のペンタトリコペプチド(PPR)モチーフを持つ。シロイヌナズナのHCF152変異株は、葉緑体のpsbB-psbT-psbH-petB-petDポリシストロニックmRNAのプロセシングが損なわれている結果、光合成能を欠失している。
    HCF152 タンパク質がどのように葉緑体遺伝子の発現を調節するかを明らかにするために、葉緑体中のHCF152 タンパク質、組換え体タンパク質を解析した。その結果、HCF152 タンパク質はホモダイマーを形成していた。一アミノ酸変異により、この結合が損なわれ、遺伝子欠失変異株と同様の表現型を示した。変異体で観察されるpetB mRNA イントロンのスプライシングの欠失と一致して、HCF152タンパク質はpetB mRNAのエクソン・イントロン境界のポリA領域に特異的に結合した。HCF152中のPPRモチーフ数を段階的に削除した結果、最低2個のPPRモチーフがRNA結合に必要であり、モチーフが増えるとともに、RNA結合親和性および結合配列特異性が上昇したことから、複数個のPPRモチーフが共役してRNA結合に働くことが示唆された。以上の結果から、オルガネラRNA代謝におけるPPR蛋白質スーパーファミリーの働きを考察する。
  • 鹿内 利治
    p. S098
    発行日: 2004/03/27
    公開日: 2005/03/15
    会議録・要旨集 フリー
    葉緑体NDH複合体は、光化学系I循環的電子伝達に機能し、11のサブユニットが葉緑体ゲノムにコードされる。我々はクロロフィル蛍光イメージングの技術を用い、NDH活性を欠くシロイヌナズナ変異株をCCDカメラ下で選抜する系を確立した。得られた変異株は、葉緑体ndh遺伝子の発現調節に異常を持つと予想されるものと、ラン藻にホモログが存在する機能未知の遺伝子に変異を持ち、複合体の核コードサブユニットに異常を持つ可能性が考えられるものに分けられる。crr2crr4はNDH複合体の蓄積に特異的に異常を示す劣勢の変異株である。原因遺伝子はいずれもPCMP/PPRファミリーのメンバーであった。PPRファミリーのいくつかのメンバーは、オルガネラRNAの成熟化に機能するが、CRR2は、rps7ndhBの間のRNA切断に関わることが明らかになった。一方、CRR4はndhDの開始コドンを作るRNA editingに関わることが明らかになった。両者は構造的な類似性を示すものの、異なるRNA成熟化のステップに機能し、PCMP/PPRファミリーのメンバーがRNA成熟化のターゲット認識に機能する可能性が示唆された。
  • 田中 歩, 田中 亮一
    p. S099
    発行日: 2004/03/27
    公開日: 2005/03/15
    会議録・要旨集 フリー
    クロロフィルの代謝経路には二つの役割がある. 第一の役割は,クロロフィルの供給と除去である.クロロフィルは植物が成長する時に盛んに合成され,新たな光化学系が構築される。また,老化時には不要なクロロフィルが分解され,チラコイドタンパク質の効率的な回収を可能にしている.第二の役割は,クロロフィル代謝中間体を供給する役割である.クロロフィル代謝中間体は,活性酸素を発生させる光増感剤でもあるので,必要最小限の量しか蓄積しないように,制御されていると考えられている.しかし,クロロフィル合成系のある反応は酸化ストレスの標的であるため,これらのストレスによってクロロフィル中間体の蓄積が誘導される.また,老化時にも,クロロフィルの分解産物の蓄積が見られる.これらの中間代謝物は光の下で活性酸素を発生させ,酸化ストレス応答や,時には細胞死を引き起こす.実際,クロロフィルの分解にかかわる遺伝子のいくつかは,細胞死関連の遺伝子として単離された.このように,クロロフィルの中間代謝物の蓄積が植物の発育や老化、細胞死など,様々な現象と深くかかわっていることが予想される.今回は,クロロフィル合成酵素であるクロロフィリドaオキシゲナーゼと,クロロフィルの分解にかかわるフェオフォルビドaオキシゲナーゼを例に,クロロフィル代謝と植物の発育との関係を考察する.
  • 望月 伸悦, 長谷 あきら
    p. S100
    発行日: 2004/03/27
    公開日: 2005/03/15
    会議録・要旨集 フリー
    核ゲノムにコードされるLhcbなどの光合成関連遺伝子は、光・生物時計・組織特異性シグナルに加え、葉緑体(プラスチド)の分化に応じて転写調節を受ける。葉緑体の分化状態がどのようにして核に伝えられるか長らく不明だったが、このシグナル(プラスチドシグナル)伝達経路に関わるアラビドプシスの突然変異体(gun)の解析により、その一部が明らかになってきた。
    gun変異体は、クロロフィル蓄積量が低下し、その原因遺伝子が直接・間接的にクロロフィル合成に関与する「テトラピロール系」変異体と、クロロフィルレベルに異常を示さない「非テトラピロール系」変異体に分類される。テトラピロール系変異体の解析から、Mg-protoporphyrinIXまたはMg-protoporphyrinIX methylester (MgProto、MgProtoMe)がプラスチドシグナルの有力な候補と考えられている。新たなテトラピロール系変異体の解析と植物体内のMgProto/MgProtoMeレベルに関するデータを併せ、テトラピロール系経路について議論したい。非テトラピロール系変異体であるgun1の原因遺伝子であるとされるPARPノックアウト株の表現型についても報告する。Lhcb1-LUCレポーターを用いた新たなgun突然変異体スクリーニングについても報告したい。
  • 本橋 令子, 篠崎 一雄
    p. S101
    発行日: 2004/03/27
    公開日: 2005/03/15
    会議録・要旨集 フリー
    葉緑体のゲノム上には約100程度の遺伝子がコードされているが、葉緑体自体を構成するタンパク質の大部分は核ゲノムにコードされており、核コードの約3500の葉緑体タンパク質には機能がわかっていないものがたくさんある。我々のグループが作製した16000タグラインを用いて、葉緑体形成や光合成に関与する遺伝子の解析を2つの側面から試みている。
    1つは、葉緑体形成に必要不可欠なものを網羅的に調べるために、タグラインよりアルビノのようなシビアな表現型を示す変異体をスクリーニングし、その原因遺伝子の同定、及び機能解析を行う。現在、38ラインのアルビノ又はpale green変異体を単離し、原因遺伝子の多くが葉緑体タンパク質をコードすると予測された。機能予想される原因遺伝子の中には、光合成に関与するもの以外に、翻訳や蛋白質のトランスロケーターなど、多くの葉緑体蛋白質に関与する遺伝子が多いことを明らかにした。
    2つ目は、野生型と変わらない表現型を示すが微妙に光合成系に異常が見られる変異体のスクリーニングを行い、その原因遺伝子の同定を行っている。クロロフィル蛍光2次元画像解析システムを用いて、葉緑体タンパク質の遺伝子破壊株(約100ライン)をスクリーニングし、クロロフィル蛍光の時間変化が野生型と異なる変異体を得、その原因遺伝子がLycopene epsilon cyclaseであることを明らかにした。
feedback
Top