九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
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第33回九州理学療法士・作業療法士合同学会
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  • 加藤 孝則, 河野 礼治, 加藤 強, 藤田 誠士, 榧野 志保, 武内 未穂, 川本 達也, 木村 龍範
    セッションID: 051
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/03/28
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
     心臓血管外科術後のリハビリテーションにおいては早期からの離床が必要であり、当院においても集中治療室(ICU)からの介入を行っているが基本的に廃用予防のための理学療法を実施しており、弁置換術後では退院まで術後3週を目標に進めている。今後包括的な心臓リハビリテーションを提供していくために現在の介入状況を調査し、術後から退院までの日数に影響を与える要因について検討を行った。
    【対象】
     平成22年4月から平成23年3月までに当院において弁置換術を施行された(同時に冠動脈バイパス術1例・腹部大動脈瘤切除術1例含む)13例(男性9名・女性4名平均年齢73.3±9.1歳)、その内訳は僧帽弁置換術5例、大動脈弁置換術7例、多弁置換術1例であった。対象者には研究の趣旨を口頭にて説明し、同意を得た。
    【方法】
     調査項目は術後からリハビリ開始日数、座位開始日数、ICU退室日数、歩行開始日数、退院日数、手術時間、麻酔時間、体外循環時間、挿管時間、大動脈遮断時間、NYHA心機能分類、ADL改善度(B.I介入時及び退院時点数)、術後合併症の有無についてカルテより後方視的に調査した。統計的手法は退院日数と各項目間の関係についてはSpearman順位相関係数検定を用い、さらに術後からの退院日数の関連要因を明らかにするため、重回帰分析を行い有意水準は5%とした。
    【結果】
     退院までの日数と各項目間の関係については挿管時間(rs=0.75)、座位開始日数(rs=0.62)に有意な差が認められた。また重回帰分析の標準偏回帰係数(β)の値より術後から退院までの日数に影響を与えている要因は座位開始日数(β=0.514,P=0.046)であった。(R2=0.493)
    【考察】
     今回の調査により、座位開始時期が術後から退院までの日数に大きく関連しており、早期からの離床が重要であると考えられる。術後早期離床を始めることは呼吸器合併症予防のためにも必要であるが、しかしながら現状として循環動態が安定してからリハビリテーションの処方が出されている約6日目での介入となっている。熊丸らによれば「離床基準項目やリハビリテーション進行判断基準は各施設でほぼ同様のものであったが、基準設定範囲は様々であり、心臓血管外科医の考え方や集中治療室看護師の管理体制、理学療法士の関わり方が異なる」と述べており、今後包括的な心臓リハビリテーションを進めるにあたり医師・看護師との連携を密に図ることにより早期に介入していく必要がある。
  • ~人工呼吸器からの離脱と在宅復帰に向けての挑戦~
    野崎 潤一郎, 加藤 達治, 大住 美智代, 田原 毅, 原田 直樹, 高崎 裕介, 菊谷 大樹
    セッションID: 052
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/03/28
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
     慢性閉塞性肺疾患(COPD)は全身疾患として捉われるようになり、四肢の筋力増強を中心とした全身運動療法が人工呼吸器からのウィーニング率やADLの改善、予後において有効であるという報告がある。今回、ウィーニングが困難な状態でありながらも呼吸筋及び四肢の筋力増強訓練を中心に行い、在宅復帰の可能性が見出された症例について報告する。
    【症例紹介】
     入院前日より呼吸状態不良となり、翌日かかりつけ医へ行く途中に意識消失。当院に救急搬送、気管内挿管されICU入院となる。翌日意識回復し、抜管され第4病日目より理学療法開始。第10病日目に再度呼吸状態悪化し意識消失、挿管されICUにて人工呼吸器管理となった。
    【アプローチ及び経過】
     急変時の所見は、血液ガスPaO2:61Torr、PaCO2:139Torr、pH:7.20(FiO2:70%)。安静時一回換気量100~150ml。安静時の呼吸困難度は、Hugh-Jonesの分類:5、修正Borg Scale:8と呼吸困難感の訴え強くリハビリに対する拒否も強かった。ADLは、ほぼ寝たきりの状態でFunctional Independence Measure(以下FIM)53点であった。急変翌日より、サポート圧を一時的に下げた状態での呼吸筋トレーニングを中心に実施し、ICU退室後はベッドサイドでの起居動作及び下肢筋力増強訓練を行った。第70病日目より、アンビューバッグでの換気補助と酸素吸入(O2:10l/分)下での歩行訓練開始となったが、SPO2が容易に80%台に低下し、連続歩行距離は5~10m程が限界であった。第83病日目から人工呼吸器のon-off訓練が開始され、歩行訓練も酸素吹流し(O2:7l/分→5l/分)の状態で可能となり、第100病日頃にはSPO2:90%以上を保ち約170m程度連続歩行可能となった。この時期の所見は、血液ガスPaO2:125Torr、PaCO2:63Torr、pH:7.43(O2:3l)、安静時一回換気量400~500ml、Hugh-Jonesの分類:4、修正Borg Scale:4と各種呼吸機能の改善と共に呼吸困難感の訴えも減少した。ADLではFIM89点と向上が見られた。
    【考察・まとめ】
     今回、本症例に対し早期から積極的に筋力増強訓練及び歩行訓練を施行した結果、日常生活動作全般の自立度向上及びウィーニングに繋がり、在宅生活復帰の可能性が見出されるまでに至った。しかし、現状ではご家族の負担が大きく受け入れが厳しい状況となっている為、第179病日目に呼吸器専門病院へ転院し、在宅復帰へ向けての挑戦を続けることとなった。今回の経験から、主治医ならび病棟看護師によるリハビリ中の状態管理及び訓練補助等、チームアプローチを実践できたことも大きな要因であったと考え、多職種で行うチーム医療の重要性を改めて感じた。
  • 井上 雅史, 松尾 実香, 吉村 ゆかり, 藤田 政臣, 唯岡 千佳, 福田 宏幸, 岡田 茂巳, 宮川 庸子
    セッションID: 053
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/03/28
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
     当院では2005年6月に脳死肺移植の実施施設認定を受けており、脳死肺移植術1例目を2006年10月に、生体肺移植術1例目を同年11月に施行している。2011年1月1日現在、当院では10例の肺移植術を施行しており、ほぼ全例に対してリハビリテーション(以下リハ)を行っている。今回は、10例のうち既に退院しリハが終了している6例について、カルテを基に後方視的に調査を行ったのでここに報告する。
    【対象】
     6例の内訳は男性5名、女性1名。年齢は4歳~60歳(平均34歳)。疾患は特発性肺線維症2例、閉塞性細気管支炎2例、びまん性汎細気管支炎1例、肺リンパ脈管筋腫症1例。術式は脳死片肺移植3例、脳死両肺移植1例、生体片肺移植2例であった。
    【術後経過】
     術後、リハ開始までの日数は4日~8日(平均6.17日)、人工呼吸器離脱までの日数は4日~11日(平均7日)、ICU退室までの日数は11日~28日(平均18.3日)となっている。術後立位を開始するのに要した日数は9日~20日(平均11.8日)、歩行は12日~29日(平均19.2日)となっており、入院期間は48日~147日(平均68.8日)である。退院時の体重は、全例が入院時よりも低下しており、程度は異なるが6例中4例が低栄養状態という結果になっている。術前と退院時の呼吸機能を%FVC、%FEV1.0で比較したところ、%FVCでは4例で改善を認め、%FEV1.0では5例で改善を認めている。退院時の6分間歩行距離(6MWD)は210m~495m(平均351.4m)であり、計測可能であった全例で術前よりも改善が見られている。退院時、千住らの評価法は60点~92点(平均72.6点)、Barthel Index(B.I)は3例が100点、2例が95点(減点項目は共に階段昇降)、修正MRCスケールはGrade2が2例、Grade3が3例となっている(%FVC、%FEV1.0、6MWD、千住らの評価法、BI、修正MRCスケールの結果は4歳の症例データを含まない)。
    【まとめ】
     術後の経過に関してはかなりばらつきがあったが、6例とも自宅退院となっている。術前は全例が酸素投与下での生活を強いられていたが、退院時には全例が酸素投与無しとなっており、手術の成果を実感する結果となっている。しかし、退院時の評価結果を見てみると、程度は異なるが呼吸困難感や倦怠感が持続している様子がわかる。また、今後に対する不安などから、精神的に不安定になる症例も少なくない。そのため、退院後も積極的なフォローが必要となるが、肺移植の場合遠方から来院している場合が多く、リハに関しては自主トレーニングに頼らざるを得ない状況である。十分なトレーニングが行えているとは言えないため、遠隔地でも充実したリハを行えるようにすることが今後の課題である。2010年7月の臓器移植法改正後、当院でも手術件数が増加傾向にある。今後更に経験を重ね、肺移植のリハプログラムを確立していきたい。
  • ~低負荷設定への試み~
    小名川 知徳, 力丸 麻子, 矢野 嵩, 増田 英俊, 藤原 弥古夫, 塩村 侑也, 坂井 健一郎
    セッションID: 054
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/03/28
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
     漸増運動負荷試験(以下CPX)の際ランプ負荷量の決定には、Wassermanらの提唱する予測最大酸素摂取量から算出する方法(以下従来法)が多く利用されている。第1報では健常者を対象に負荷強度の比較を行い、低負荷での負荷量設定の必要性が示唆された。今回は心疾患患者を対象に従来法より低負荷でのCPXを実施し、生理反応とその妥当性について比較・検討した。
    【対象と方法】
     対象は当院入院中であった心疾患患者10名(急性冠症候群:9名、大動脈弁狭窄:1名、平均年齢63.3±8.6歳)とした。対象者を従来法での負荷群(標準負荷群:5名)と10watt負荷群(低負荷群:5名)に分類しCPXを実施した。測定項目はATまでの到達時間、仕事率(WR:watt)、体重1kgあたりの酸素摂取量(VO2/W)、分時換気量(VE)とし、測定結果から酸素摂取量-運動強度関係(ΔVO2/ΔWR)を求めた。各測定項目における2群間の比較にはマンホイットニーU検定を行い、負荷強度と基礎情報(年齢、身長、体重、BMI)との相関をピアソンの相関係数から求めた。すべての検定はP<0.05を有意とした。
    【結果】
     低負荷群の負荷量は、従来法との差4.0±1.65watt、推定誤差率-27.6±8.81%となった。測定項目においては、WR、VO2、VEには2群間に有意な違いは認められなかったが、ATまでの運動経過時間が標準負荷群145.2±36.3(秒)に対し低負荷群228.6±36.6(秒)と有意に延長した(p<0.05)。また年齢とランプ負荷量との間にr=-0.66と有意な相関が認められた(p<0.05)。
    【考察・まとめ】
     今回の低負荷群の負荷量設定は、年齢などの基礎情報や病態から考慮し一律10watt負荷と設定した。結果的に低負荷群は従来法に比べ負荷量が4watt程度少なく、30%程度の誤差率となり年齢との間に相関が認められた。測定項目については、ATまでの経過時間に有意差が認められた。
     従来法での負荷量設定では、予測最大酸素摂取量を利用しているために、実際の最大酸素摂取量と間に推定誤差が生じることが述べられている。Daviesは、最大酸素摂取量を±15%以内の正確さで評価したいなら、それを実測する以外に手はないとしている。このため今回低負荷群は従来法に比べ30%程度負荷量が低下していたものの、測定値は従来法との間で差がなく、低負荷による影響が少なかったものと考えられる。また低負荷群はATまでの経過時間が従来法より延長した。これらの結果は実際の検査場面において各パラメータの変化が緩やかになることに繋がり、正確なデータ管理や検査の際のリスク管理で優位となることが考えられる。また最大酸素摂取量の予測には、性と年齢などが重要な因子と挙げられている。今回の研究からも、ランプ負荷量を設定する際には、年齢などの基礎情報や病態から判断し、予測値に対し低負荷となる負荷量設定の有効性が示された。
  • ~人工呼吸器装着下での歩行訓練を経験して~
    米川 知宏, 楠 正和
    セッションID: 055
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/03/28
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
     人工呼吸器管理の離脱において歩行訓練が有効であるとの報告がみられる。神津らは、呼吸筋訓練を施行するよりも四肢筋の運動を中心とした全身運動療法が人工呼吸器からのweaning率やADL、予後において有効であると報告している。今回、長期人工呼吸器管理症例に人工呼吸器離脱を目的とした歩行訓練を中心に行い、呼吸器離脱、在宅復帰可能となった症例を経験したので報告する。
    【症例紹介】
     70歳代男性、体重111.5kg、BMI:41。既往歴に2型糖尿病、COPDがあり、HOTは使用せず病前のADLは自立していた。呼吸困難、両下肢浮腫認め、当院受診し心不全にて入院となる。
    【経過と理学療法】
     第1病日夜間にて意識レベル低下、高炭酸ガス血症にて挿管・人工呼吸器管理となる。第2病日肺炎球菌感染を疑う所見あり、抗生剤開始する。第4病日以降NPPV装着を何度か試すが、本人のストレスが強く、第23病日気管切開し、TPPV管理となる。第14病日より理学療法開始。気管切開後、医師の離床許可にて人工呼吸器装着下での離床・下肢筋力訓練を開始した。
     離床開始時の評価では、JCS:1桁、頷きや筆談にてコミュニケーション可能。設定はPSV:8cmH2O、O2:5l/min、PEEP:5cmH2O、呼吸数28回/分、VT:310ml。四肢MMT:3程度、基本動作は起き上がり、端座位、起立、移乗とも中介助、FIM:43点であった。理学療法は、端座位訓練や起立・着座訓練を中心に行った。第37病日よりon-off法開始、第39病日より人工呼吸器装着下での歩行訓練を開始した。リスク管理の面から理学療法士と看護師2名体制で行い、1日2回休憩を入れながら、数回の5M歩行を開始した。第62病日目には日中のoffの時間が延長し、第77病日に人工呼吸器離脱となった。歩行距離は40M×4回程度まで可能となり、訓練中SpO2:95%(O2:2l/min)、P:90代、呼吸数25回/分と呼吸状態も安定。四肢MMTは4程度まで改善し、基本動作は起き上がり、端座位自立、起立、移乗監視レベルとなり、ADLはFIMで68点まで改善した。また、体重も89kgへと減少した。第168病日目、経口摂取可能となり、基本動作・ADLは入浴以外自立、FIMは114点まで改善。体重は86kgまで減少した。連続100M程度のT杖歩行にて自立し、HOT (O2:1l/min) にて在宅復帰となる。
    【考察】
     今回、呼吸器離脱が可能となったのは、人工呼吸器装着下での歩行訓練を中心とした全身性訓練が有用であったと考えられる。本症例は、COPDと高度肥満による換気不全と長期人工呼吸器管理による呼吸筋力低下を中心とした、廃用症候群を有していた。歩行訓練は、骨格筋力回復や全身持久力の改善だけでなく、体を動かすことで組織の酸素需要が増加し、換気量が増大する。その結果、分泌物の移動が促進され、気道クリアランスにも有効であり、それらの効果が呼吸筋疲労を軽減させ、バイタルサインの安定や呼吸器離脱に繋がったと考えられる。また、歩行訓練を行うことで、身体機能の回復を実感でき、訓練への意欲向上がみられたことも、在宅復帰可能な身体機能レベルまで改善したと思われる。
  • ~急性増悪頻度に着目して~
    宮本 直樹, 朝井 政治, 矢野 雄大, 田中 貴子, 千住 秀明
    セッションID: 056
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/03/28
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
     介護保険サービスである通所リハビリテーション(以下、通所リハ)には心身機能の維持・回復を図り日常生活の自立を支援する目的がある。しかし、呼吸器疾患を有する場合、呼吸器感染症を誘因とした急性増悪により通所リハの継続困難や身体機能低下に至ることも少なくない。急性増悪とは、「発症は急性であり呼吸困難、咳、喀痰といった症状の日常の生理的変動を超えた変化」と定義されており、先行研究では安定した慢性呼吸不全患者の急性増悪頻度が年間平均2.7回と報告している。この研究は外来患者を対象にしており、現在までに通所リハにおける呼吸器疾患を有する利用者での急性増悪頻度に関する報告は少ない。そこで今回、当院通所リハにおける呼吸器疾患を有する利用者での年間の急性増悪頻度と入院回数、身体特性を後方視的にて調査を行ったので報告する。
    【対象と方法】
     平成21年1月から平成22年4月の間に当院通所リハの利用を開始し、1年間継続が可能であった44例を呼吸器疾患あり(A群)、呼吸器疾患なし(B群)に群分けした。選択基準は開始から3ヶ月間で急性増悪がない安定した者とし、その後の1年間の急性増悪頻度、入院回数を調査した。急性増悪は「発熱、息切れの増悪、喀痰量の増加等に伴う定期診察以外の外来受診と通所リハの欠席」と定義した。身体特性に関する評価項目は性別、年齢、BMI、介護区分、握力、Barthel Indexである。今回、使用したデータは本人あるいは家族より書面上で同意を得て対象者が特定できないよう配慮し使用した。
    【結果】
     調査対象はA群10例、B群34例で、両群の身体特性では年齢、身体能力評価、介護区分において2群間で有意差を認めなかった。A群で男性(80%)、B群で女性(62%)の割合が高く、またBMIでA群21.4kg/m3;B群24.1kg/m3;と2群間で有意差があったが、いずれも標準体重であった(p<0.05)。急性増悪頻度(平均)ではA群10例中9例で1.9回/年、B群34例中9例で0.65回/年(p<0.01)、入院回数(平均)ではA群10例中4例で0.6回/年、B群34例中3例で0.09回/年(p<0.05)と有意差を認めた。
    【考察】
     今回の調査からは年齢、身体能力、介護区分に関して有意差を認められなかった。しかし、呼吸器疾患あり群では呼吸器疾患なし群と比較すると急性増悪頻度と入院回数が多く、10例中2例は肺炎を発症し重症化にて入院に至った。呼吸器疾患を有する者では他の疾患と比較すると感染症のリスクが高く、感染予防に繋がる介入が不可欠であることが示唆された。また、急性増悪や入院回数については先行研究と比較すると少ない頻度を維持できていた。この要因として、通所リハの特徴である運動療法による体力維持・向上や栄養管理などの包括的介入が効果的に作用したのではなかと考えられた。
  • 北野 晃祐, 今村 怜子, 山本 匡, 菊池 仁志, 小林 庸子
    セッションID: 057
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/03/28
    会議録・要旨集 フリー
    【背景】
     排痰補助装置(カフアシスト:以下MAC)は、排痰補助の他に胸郭の拡張効果などが期待できる。MACの気道への陽圧や急速な陰圧が強い違和感となり、実際の排痰困難時に、導入困難な例をしばしば経験する。
    【目的】
     筋萎縮性側索硬化症(ALS)患者におけるMAC導入困難症例への対応のため、発症早期より胸郭拡張の目的でMACを使用し、その導入の円滑化を図る。
    【対象・方法】
     対象は、平成22年4月以降に当院にてMACを導入した喀痰排出能力を保つALS患者9名。MACの初回導入は、排痰ではなく胸郭拡張の目的で使用する旨を説明した。導入時は、フルフェイスマスクを使用してINHALE (IN)のみを10~15cmH2Oより開始し、徐々に40cmH2Oを上限に圧を上げ、1日に1回(5サイクルを3セット)実施した。INを違和感なく実施可能となった患者に対しては、15~30cmH2OよりEXHALEを開始し、40cmH2Oを上限として継続的に実施した。継続的な使用が可能となった患者には、担当理学療法士(PT)により「導入時の感想」「現在の感想」に関するアンケート調査を施行。また、導入時と現在のMACへの違和感をPT1名によりVASで定量化した。本研究は当院倫理員会の承認を受けて実施した。
    【結果】
     ALS患者群のPeak Cough Flowは、264.4±65.0L/min。9名全員が継続的に使用可能となり、MACに慣れるまでに要した回数は多くが1~2回で、1名が5回の機会を必要とした。導入時の感想は、「何ともない」「スッとした」「面白い。自分で買おうかな」「喉のあたりが押し込まれる感じ」「少しきつい」が聴取された。現在の感想は、「INがビックリする」「気持ちが良い」「続けていきたい」「タイミングが取れれば大丈夫」「何ともない」「胸の方まで押し込まれる感じ」が聴取された。VASは導入時5.4±1.8/10から現在4.1±2.6/10と変化した。対象患者1名が導入3ヵ月後に肺炎で死亡、さらに1名が導入1カ月後に突然死となり、調査中止となった。
    【考察】
     MACを早期より導入した9名全員が継続的に使用可能となった。理由として、発症早期は、呼吸機能が保たれており、MACと呼吸の同調が容易であることが考えられる。しかし、違和感はVASにおいて現在も消失していない。MACは気道への陽圧と急速な陰圧という非生理的刺激を利用することから、違和感を完全に消失させることは困難と思われる。そこで、早期導入には、初回から入念なオリエンテーションと10cmH2O程度の圧より開始し、徐々に慣れていくことが重要と考える。今回2名の死亡中止例が見られている。死亡へのMACの因果関係は否定的であるものの、気胸や不整脈のリスクを伴う機器であり、今後在宅や施設での普及の為にも、導入基準決定のための評価シートが必要である。病状の進行により排痰補助を必要とした際に、MACを問題なく使用できることが重要であり、継続した検討が必要である。
  • 小若女 純
    セッションID: 058
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/03/28
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
     腰椎椎弓切除術後対麻痺を呈し,その後の感染の為入院長期化した重度肥満の症例に対し減量プログラムを実施しADL改善が認められたので報告する.
    【症例紹介】
     女性59歳,身長148cm,体重80kg(減量プログラム開始前),BMI36.5現病歴:左下肢不全麻痺呈しL3椎弓切除・L2/3-L4/5除圧術受けるも術後右下肢も不全麻痺を呈した.また術後感染を繰り返し臥床状態が長期化していた.MMT:股関節屈曲2/2・膝伸展3+/2・膝屈曲3/1・足関節底屈0/0,触覚:L4軽度鈍麻・L5以下重度鈍麻,下肢深部覚:膝関節中等度鈍麻・足関節足趾ともに脱失,(起居)中等度介助,(座位)監視,(起立)平行棒内少介助,(移乗)多介助.基礎代謝量1417kcal(Harris-Benedict式)に対し必要エネルギー(活動係数1.1,ストレス係数1.2)は1871kcal,一日摂取カロリー1600kcal(糖尿食)
    【経過と方法】
     本症例の減量プログラムを実施するに当たり,減量に必要なエネルギー消費量(1.05×(METZ×運動時間)×体重)を求め訓練量(起立着席練習・車椅子自走)を設定した.起立(ゆっくりと立つ1.2METZを30分)は51.6kcal.車椅子(以下W/C)自走は平田らのW/C走行速度と酸素摂取量の関係図を用い本症例に無理のない速度での設定とし,47.8kcal(速度40m/min=1.14METZを30分)とした.すると一日総消費カロリーは1970.6kcalとなり摂取カロリーから差し引くと370.6kcalとなる.1kgの減量に約7000kcalの消費が必要とされていることからおよそ21日(リハ実施5日/w)で1kgの減量ができる計算となった.開始当初は運動耐容能低下があったものの徐々に負荷を増やしプログラム進行させた.なおW/C自走訓練の際は脂肪燃焼効果を得るためKarvonen法により目標心拍数を128.6~136.7拍/分と設定した.W/C用トレッドミル走行では速度・傾斜による負荷調整,平地走行では重錐により負荷調整を行った.起立着席訓練は平行棒内で座面高45cmにて実施.また同時にADL訓練として起居・移乗訓練を実施した.
    【結果】
     開始時より2カ月で2.5kg減量.MMTは股関節屈曲3/3膝伸展4/3 膝屈曲3/3.またこれに伴い平行棒内起立・起居動作は手摺把持ながらも自立レベル・移乗動作は監視で可能となっている.
    【考察】
     今回,対麻痺の重度肥満患者に対しADL向上を目的とした減量・下肢筋力強化を中心にプログラムを実施した.その結果,体重・筋力は優位に改善し,同時にADLにも改善がみられた.減量に関してはカロリー計算による運動量の設定,また目標心拍数を設定した有酸素運動の実施により脂肪燃焼効果が得られたと考える.また起立訓練での筋力改善に加え減量による相対的な筋力向上の影響により起居・移乗等のADL動作が容易になったのではないかと考える.
  • 十時 浩二, 古門 功大
    セッションID: 059
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/03/28
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
     ルイジアナ州立大学ペニントン・バイオ医学研究センターでは、糖尿病の運動療法を効果的に行うためには有酸素運動とレジスタンストレーニングの組み合せが重要で、どちらかが欠けると効果を期待できないと発表している。当院では10日間の糖尿病教育入院を実施しており、教育入院中の患者に対して有酸素運動とレジスタンストレーニングを指導している。今回、運動習慣についてのアンケートと有酸素運動とレジスタンストレーニングに関するセルフエフィカシー(自己効力感)について調査した。
    【対象】
     平成21年5月から平成23年1月までの間、当院の糖尿病教育入院に参加された患者56名のうち、運動療法が可能であった2型糖尿病患者25名(男性9名、女性16名)で、平均年齢は62歳であった。HbA1cの平均は9.6%、平均BMIは25.1、罹患期間の平均年数は12年9ヶ月であった。
    【方法】
     糖尿病教育入院時に運動習慣についてのアンケート、有酸素運動とレジスタンストレーニングに関するセルフエフィカシーについて0(自信がまったくない)から4(自信が非常にある)の5段階で調査した。入院翌日より午前中は有酸素運動(エルゴメータ)とレジスタンストレーニングを行い、午後からは自主訓練としてウォーキングを行ってもらった。また、入院4日目に糖尿病の運動療法について講義した。最終日に、運動療法のフィードバックと再度同様のアンケートを行い、セルフエフィカシーに変化がないかを調べた。
    【結果】
     運動習慣は25名中、ある12名・していた5名・なし8名で、運動の内容としてはウォーキング15名・登山2名・レジスタンストレーニング1名・その他3名であった。また、整形外科疾患を有していたものは16名であった。セルフエフィカシーは、有酸素運動では3.44→3.44と変化無く、レジスタンストレーニングは2.00→2.92へと上昇した。
    【考察】
     糖尿病の運動療法は、有酸素運動(ウォーキング)と捉えている人がほとんどであった。運動療法の阻害因子として考えられる何らかの整形外科疾患を64%の人が有していた。有酸素運動のセルフエフィカシーに変化が見られなかったのは、ウォーキングが習慣化しているからと推測された。レジスタンストレーニングに関しては、フィードバック時に「やり方がわからなかった」、「難しく考えていた」などの意見が聞かれたことから、実際に行うことによってセルフエフィカシーが向上したと考えられる。
    【まとめ】
     教育入院がきっかけでレジスタンストレーニングのセルフエフィカシーが向上した。糖尿病患者の半数以上が整形外科疾患を有しており、運動の阻害因子となっていることが分かった。これらより、有酸素運動を行うためにもレジスタンストレーニングが重要であることが、今回のアンケート調査を通して示唆された。
  • 伊藤 慈人, 楠 正和, 米川 知宏
    セッションID: 060
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/03/28
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
     現在包括支払制度により入院期間短縮が求められている。しかし、胃切除・腸切除などの腹部開腹術後の患者様では疼痛の為、基本動作・日常生活動作の獲得が遅延する症例がみられることがある。先行研究において「術直後から術後理学療法をスムーズに行うには、術前から患者様へオリエンテーションを十分に行っておくことが肝要である」とされている。そこで、当院においても開腹術症例に対し術前リハの取り組みを開始し、統一した治療内容・資料、疾患の知識向上を図る為、一冊のマニュアルを作成し取り組みを開始したので内容・結果を含め検討したのでここに報告する。
    【対象・方法】
     対象症例は開腹術(胃切除・腸切除術)を施行し、病前身体能力は在宅生活した患者様で、呼吸器合併症、緊急手術、認知症の患者様を除外した。
     方法は、術前に介入した群を介入有群、術後から介入した群を介入無群とし、介入有群7症例(平均年齢76.3、男性2名、女性5名)と介入無群10症例(平均年齢71、男性4名、女性6名)において端座位・起立動作・室内歩行・病棟歩行のそれぞれの訓練開始日及び在院日数の比較検討をした。統計学的処理には対応の無いt検定を用いた。
    【結果】
     介入有群は入院期間19.3±6.9日、座位1.0±0日、起立1.1±0.3日、室内歩行1.3±0.7日、病棟歩行1.4±0.7日であった。介入無群は入院期間22.5±5.1日、座位2.3±1.3日、起立2.7±1.1日、室内歩行3.1±1.0日、病棟歩行3.6±1.0日であった。座位・起立・室内歩行・病棟歩行において有意差が認められた(P<0.05)。入院期間において有意差は認められなかったが平均値では3日短縮となっていた。
    【考察】
     今回の結果からは介入有群が早期の動作獲得につながっていた。介入有群において座位・起立はほぼ1日目、歩行は1日~2日目において動作可能となり有意のある結果となった。また、在院日数も介入有群は介入無群と比較し、3日間の在院日数短縮可能となっていた。
     これは先行研究にも術前からのオリエンテーションが肝要であると示してある様に、術前疼痛がなく・麻酔の影響も無い時期に患者様へオリエンテーションを行うことにより、術後離床の予定・リハビリ内容・起居動作方法・理学療法の必要性及び重要性を理解して頂く事ができ、術後スムーズに理学療法介入可能となり、早期の動作獲得につながった結果ではないかと考える。また、理学療法介入中に手術前から説明があり、起居動作方法の指導があって良かったなどの感想も聞くことができており、術前より理解して頂く事で術後のリハビリに対して患者様の心構え・モチベーションなどの面にも術前介入は効果的な影響があると思われる。
     今後開腹術全例に介入できる体制を整え、症例数を増やし追跡調査・効果の検討が必要である。
  • 川野 幸生, 馬込 裕二
    セッションID: 061
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/03/28
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
     大腿骨頚部骨折は高齢者において受傷例の多い四大骨折の一つであり、歩行獲得だけでなく在宅生活の獲得が重要視されている。大腿骨頸部骨折後は一定期間の安静を余儀なくされることが多く術後歩行能力や日常生活動作能力の低下を招きやすい。本研究は術前の栄養状態から個々の症例に合わせた早期の予後予測を行うために後期高齢者の栄養状態と退院時能力の関連性を調査、検討するために実施したものである。
    【対象】
     平成20年8月から平成22年4月までに大腿骨頸部骨折により骨接合術(ITST:INTERTROCHANTERIC/SUBTROCHANTERIC FIXATION)が適応となった後期高齢者30例(女性26例、男性4例平均86.1±5.38歳、左14例、右16例、平均在院日数53.53日)を対象とした。尚、倫理的配慮として当院倫理審査委員会の承認を受け研究を行った。
    【方法】
     退院後の患者カルテを基に後方視的研究を行った。術前血清アルブミン値(以下術前Alb値)と退院時Functional Independence Measureの運動項目(以下退院時運動FIM)、3mtimed up&go Test(以下3mTUG)、10m歩行テスト、の項目においてSpearmanの順位相関係数を用いた。(p<0.05)
    【結果】
     術前Alb値と退院時運動FIMにおいては0.531の相関が得られたが、3mTUGは-0.03、10m歩行テストでは-0.09となり相関が得られなかった。
    【考察】
     大腿骨頸部骨折を呈する症例は後期高齢者が主であり、身体能力の低下とともに低栄養状態にも陥りやすい。Alb値の正常値は4~5g/dLであるが本研究症例の術前Alb値は3.8±0.45g/dLであり、後期高齢者ではAlb値の正常値に満たない症例が少なくない。今回の研究結果から、大腿骨頸部骨折後の後期高齢者の術前Alb値が退院時能力の獲得について影響する因子である可能性が示唆された。術前Alb値が高い程退院時運動FIMの点数も高く日常生活自立度も高い。このため転帰後の日常生活においても介護負担の軽減、社会参加の指標として活用できるのではないかと考えられる。今後の可能性として症例数の増加による精査を高め、妥当性を追加研究していく必要性がある。
    【まとめ】
     大腿骨頸部骨折を呈した後期高齢者の入院時の栄養状態が退院時の能力に影響を与えうるかを調査した。方法は術前Alb値と退院時運動FIM、3mTUG、10m歩行テストとの関連性をSpearmanの順位相関係数を用いて検証した。結果として退院時運動FIMにおいて術前Alb値が影響を与える可能性があることが示唆された。後期高齢者が日常生活を送る上で身体能力と同等に栄養状態も重要であると言える。
  • 岩崎 大輔
    セッションID: 062
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/03/28
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
     入院中患者さまはリハビリ(以下リハ)が可能な時間やお茶の時間の有無の違いにより日中の活動量に違いがあることを実感した。そのため、今回当院入院中患者さま(回復期・一般)の日中の活動量の違いを比較することにした。その結果をもとに患者さまに対し今後いかに私達が取り組むべきか明らかにするため研究を行った。
    【対象】
     病棟内移動自立(補装具使用可)の入院患者さま計6名(男4名、女2名)を対象とし、Barthel Index(以下BI)80点以上で改訂長谷川式簡易知能評価スケール21点以上で認知症を有さない者を対象とする。比較するためBI 80点・90点・95点の患者さまを回復期・一般病棟から各点数2人ずつ抽出し対象とした。BI 80点をA群、90点をB群、95点をC群とする。年齢(回復期・一般)はA群a 81歳・b 81歳、B群c 77歳・d 64歳、C群e 90歳・f 54歳である。
    【方法】
     身体活動量計を日中着用してもらい日中の活動量を活動強度(EX)・歩数(歩)・活動エネルギー量(kcal)にて測定した。着用時間は午前9時から午後5時までとしリハ中も着用してもらい、一日だけの測定とする。
    【結果】
     3METs以上の運動(EX)・4METs以上の運動(EX)・歩数(歩)・活動エネルギー量(kcal)を回復期/一般の順で提示する。
     1)A群(a/b):0.1/0.5・0/0.3・1109/212・1175/1156であった。
     2)B群(c/d):0.1/0.1・0/0・708/2881・1122/1149であった。
     3)C群(e/f):0.3/2.2・0/0.8・431/4756・1471/1931であった。
    【考察】
    ・A群において、a・b 共にリハでの活動量・強度が日中の活動量の大半を占めていることがわかる。
    ・B群において、d はリハ以外でも活動量が多く、A群同様にc はリハが一日の活動量の大半を占めていることがわかる。
    ・C群において、d 同様 f はリハ以外でも活動量が多く、eは活動エネルギー量より日中平均的に離床していることがわかる。
     今回の結果より共通してわかることは若年者はリハ以外でも活動量が多いが高齢になるほど活動量が少なくリハ以外の時間の臥床を防ぐため両病棟共に他職種と共同し離床を促していく必要があると考える。
    【今後の課題】
     今回、対象者が少なかったことや年齢の幅が広かったことで信憑性は十分とは言えないと考える。そのため、今後対象者を増やし当院全体の入院患者さまの活動量の測定・比較を行っていきたい。また、継続して測定することで患者さまの活動レベルの把握・結果のフィードバックを行い患者さまの活動意識の向上につなげていきたいと考える。
  • ~患者から利用者そして、市民へ~
    小出 裕幸, 宇田 陽一, 山本 由美子
    セッションID: 063
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/03/28
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
     当事業所は医療的なリハビリの提供に重点を置き「幸福な生活」の手助けとなれるように「治せるものは、維持期であっても治す」という姿勢で今まで取り組んできた。今回、経時的評価からこれまでの反省点と今後の方向性が見えてきたので報告する。
    【対象・方法】
     当事業所の利用者69名に、TUG・FBS・FIM、主観的幸福感としてPGCモラールスケール(以下PGC)を行った。HDS-Rを行い認知症の疑いのあるものを除外し、口頭での受け答えに支障が無く、かつ3月と9月で経過を追うことが出来た34名(性別:男性5名、女性29名、平均年齢82.0±6.6歳、)を対象とした。 PGCの結果を用いて向上群と非向上群の2群に分類し、各評価項目に差があるか、t検定を用いて比較した。なお、全ての対象者には本研究の目的等を説明し、同意を得た。
    【結果】
     TUG・FIM・FBSの結果は2群間に有意差は見られず、PGCと各項目間に相関がないことが認められた。
    【考察】
     各評価項目に有意差が認められなかったことより、医療的なリハビリを継続し、どれだけ治療の質を高め、身体機能を向上させてとしても、PGCは向上してこないことが明らかとなった。斎藤らは、通リハにおける重要な視点として、「主体性の再構築、新たな地域生活の再構築」を挙げている。障害の受容等を無視したエンドレスな“医療的リハビリ”の継続は、「医療者―患者」の「治す―治される」の関係から抜け出すことが出来ず、上記の視点の阻害因子であると考えられる。
    【今後の方向性】
     まずは、スタッフの意識改革を行っていくと共に、デイケア組織全体が主体性を引き出せる場へと変化しなければならない。また、利用者には“リハビリはしてもらうもの”から“自分でするもの・健康の自己管理”へと意識を転換して頂く必要性がある。今後は、経過や心理状態等を考慮しながら、根気よく説明していくこと、「良い目標」を利用者と共に探すことを実践していかなければならない。そして、再び市民として生活を送って頂きたい。その為には、“移行的リハビリ”の提供は必須であり、何をすべきか追究し続けなければならない。そして、再び市民となるために、利用者の意欲や興味に基づく地域生活の再構築を目指したリハビリを実践しなければならないと考えている。今後もこの取り組みを継続し、経過を報告したいと思っている。
  • ~利用者アンケートからの考察~
    財津 真由美, 長野 久美子, 佐野 功一
    セッションID: 064
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/03/28
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
     介護保険制度導入後、在宅を基盤としたリハビリテーションの重要性が強調されている。しかし、現状では訪問リハビリテーション(以下、訪問リハ)の供給は十分と言えず、地域に拡大・浸透させていく為の取り組みが必要である。当院での訪問リハは月曜から土曜日(8時30分~17時30分)に理学療法士(以下、PT)3名、作業療法士(以下、OT)3名が訪問業務に従事している。介護保険での利用者の半数が当院から、残りの半数は院外の病院から指示を頂いて実施している。介護度の内訳は9割が要介護者(平均要介護度2.8)、1割が要支援者(平均要支援度1.8)である。
    【目的】
     訪問リハを行うにあたり利用者ニーズを把握する事は重要であり、当事業所では年1回利用者向けのアンケートを実施している。平成22年に介護保険での訪問リハ利用者に対して実施したアンケート調査をもとに今後の課題と考察を行ったので報告する。
    【方法】
     平成22年7月、当院の訪問リハ利用者48名に対して無記名、郵送による回収でのアンケートを実施。回答数30名、回収率62.5%。質問項目は、1.スタッフの接遇、2.スタッフの信頼度、3.訪問リハの満足度、4.訪問リハを受けて良かったと思う点、5.訪問リハを知ったきっかけ、以上の項目を選択回答方式と自由回答方式で行った。
    【結果】
     1.スタッフの接遇:とても満足22名、やや満足8名、2.スタッフの信頼度:信頼できる28名、普通1名、無回答1名、3.訪問リハサービスの内容:とても満足20名、やや満足8名、普通2名、4.良かった点(複数選択可):筋力・体力向上9名、疼痛緩和7名、起居動作向上5名、移動動作向上5名、移乗動作向上4名、生活環境の整備4名、介護負担軽減4名、自主訓練の定着3名、身体・病状の相談ができ安心した11名、話し相手になってくれた13名、その他2名、5.訪問リハを知ったきっかけ:ケアマネージャー15名、病院9名、知人・友人4名、行政2名、であった。
    【考察】
     今回の結果から、現利用者は訪問リハを受け身体面・生活面に改善を感じサービスに対して概ね満足していると思われる。具体的には、PT・OTの専門分野である身体機能面・ADL面に多くの方が改善を感じている。特にADL面では「家のトイレの乗り移りがし易くなった」など、より具体的な回答も多かった。これは家屋環境に合わせた練習が実際のADL改善につなげられたと考える。それに加え、身体・病状の相談や話し合い相手といった回答も同様に多く、利用者は訪問リハスタッフに対し医学的視点でのリスク管理や専門的知識を用いたコミュニケーションも必要と感じていることが明確となり在宅支援の特性と考える。また、訪問リハを知ったきっかけは、半数以上がケアマネージャーや病院からの紹介であり、知人・友人といった地域住民から勧められたという人は少なく、訪問リハの知名度はまだ低い状態にあると思われる。そのため当院では今後、訪問リハに効果を感じ満足される利用者を増やす努力や地域の活動にも積極的に参加するなど普及活動の取り組みも必要と考える。
    【まとめ】
     在宅ケアでは家族や各種在宅サービス、地域住民など多方面から一人の利用者を支えている。その在宅ケアチームの中で訪問リハスタッフとして専門性を発揮し、利用者やその家族、他職種と連携し信頼関係を構築しながら訪問リハの拡充を行っていきたい。
  • 戸倉 京都
    セッションID: 065
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/03/28
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
     今回、保存療法にて当院入院し、受傷2ヶ月後より当院通所リハビリテーション(以下通所リハビリ)利用開始となった、右上腕骨近位骨折の80歳代独居女性に対し、右手のADL拡大を目的に介入した結果、右手での自然な箸操作を獲得したので報告する。
    【経過と作業療法】
     当院入院中は医師の指示よりデゾー氏固定をしており、右肩の振り子運動と右肩関節以外の自動運動を行っていた。
     受傷3週後、内科病院へ転院したが、退院時の手指の可動性は良好であった。転院先では右上肢への積極的なリハビリは少なかったとの事であった。
     受傷2ヶ月後、自宅退院し右手の機能回復と閉じこもり防止の目的で通所リハビリを週2回利用となった。骨癒合不十分であり三角巾を使用していた。手指の可動域制限と手背の腫脹、手指表在感覚鈍麻が認められた。但し右手で書字は可能で、箸操作に必要な可動域は獲得していたが、実際の食事においては左手でスプーンとフォークを使用し、食べこぼしもあった。作業療法にて右肩関節以外の上肢自動運動と、左上肢の疲労感・疼痛の緩和を行った。
     受傷3ヵ月後、仮骨形成認められ三角巾除去の指示が出た。しかし疼痛と不安感及び認知症による問題で、三角巾使用の終了や廃用について説明しても、三角巾使用が継続した。右肩関節の自動運動と食事動作訓練を追加し、右手の使用を促すが左手のみの使用が続いた。
     受傷7ヵ月後、疼痛軽減し右手の使用に対する恐怖感が薄れた為、自ら三角巾除去し右手を補助手として使用し始めた。右手での箸操作は可能だが、実際は左手で箸を用い食事をしていた。右手での食事を促すとフォークを使用するが、左手での食事に比べ食べこぼしは少なかった。
     受傷10ヶ月後、自発的に右手で箸を使用するようになり、食べこぼしはなくなった。
    【考察】
     本症例と家族のニーズは、在宅生活の維持と右手の機能回復であった。症例は幼少期に左利きから右利きに矯正された為、左手での食事も可能だったが食べこぼしがみられた。また右手の使用頻度の減少により、廃用が起こる事も予測された為、右手のADL拡大を目標として、可動域訓練、手指機能訓練、食事動作訓練を行った。更に右手の使用頻度の向上を促し、実際の食事場面へ継続的に介入した。症例は認知症により指導内容を意識し続けることが困難であり、独居の為日常的に指導を受けられなかった。その為継続的な介入が十分に行えず、左手を実用手としたADLが向上した事で、右手が実用手となるまでに時間を要したと考える。通所リハビリ開始時より継続して介入した結果、右手の機能回復と使用頻度の向上がみられ、右手での自然な箸操作を獲得した。しかし早期から継続的に介入し、右手の使用について指導が行われれば、より短い期間で右手のADL拡大が図れたのではないかと考える。病院や施設移行の際、詳細な情報提供を行い、不十分な点は積極的に情報収集を行う事の必要性を強く感じた。
  • ~static stretchingの有効性~
    田島 徹朗, 村山 伸樹
    セッションID: 066
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/03/28
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
     在宅で過ごす維持期脳卒中片麻痺患者にとって,歩行能力の維持は充実した生活の質を保つために必要不可欠である.前同学会で報告した股関節周囲筋に対するstatic stretching効果を基に片麻痺患者に施行し,同様の歩行機能変化が認められた.そこで今回,在宅で過ごす片麻痺患者の自己訓練として取り入れることで,歩行機能に若干の傾向性が認められたので報告する.なお,本研究は,協力病院内に設ける倫理審査委員会にて承認された後,対象者に文書にて研究の目的ならびに意義を説明し同意を得た.
    【方法】
     発症より平均50.2±28.8ヶ月経過した単独歩行可能(装具,一本杖使用可)な在宅片麻痺患者39人を対象に,7ヶ月間にわたり自己訓練を施行したA群22名(平均年齢63.6±9.7,BRS4)と,通常の生活のみのB群17名(平均年齢59.9±9.4,BRS4)の2群に分類し検討した.自己訓練とは,ループ状の紐(約50cm)を非麻痺側足部に掛け,非麻痺側ハムスト,および内転筋群のstatic stretching(30秒間3回を日に3回施行)であった.歩行機能分析は,往復10m歩行を動画記録し,Form Finderに取り込み解析した.なお,歩行計測時の加・減速期である計測期前後の各1歩は計測値より除外した.解析は,歩行率・距離・時間・速度,および踵接地期の膝・股関節角度について,非・麻痺側各々について対応のあるt検定(p<0.05)で検討した.なお,この期間,対象者には歩行機能に影響する特別なエピソードは認められなかった.
    【結果】
     B群に7ヶ月前と比較して特異的な変化は認められなかったが,A群では,非麻痺側の歩幅で平均0.66±0.2mから0.7±0.2mへ,麻痺側歩幅が0.65±0.2から0.71±0.2mへとそれぞれ6.1%,9.1%の増加を認めた.さらに,非・麻痺側下肢の変化率においても正の相関(P<0.01)が認められ,左右バランスのとれた増加を確認できた.また,A群では麻痺側が前方に降り出された踵接地期において,股関節屈曲角が平均3.4 増大し,膝関節では,非・麻痺側どちらが前方に降り出されたときでも,常に非麻痺側の膝伸展角度の増加が認められた.
    【考察】
     前合同学会で報告した疑似脳卒中片麻痺患者に対するstatic stretchingの効果を基に,在宅脳卒中片麻痺患者を対象にその効果を確認することにした.その結果,非・麻痺側どちらにも歩幅の増大が認められたことより,継続的なstatic stretchingは非麻痺側の筋制御力を高め,さらに麻痺側筋コントロールにも好影響を及ぼしたものと推察される.また,A群では,踵接地期の膝伸展角が増大していることから,static stretchingは股関節周囲筋のみならず膝周囲の筋コントロールにも影響することが伺えた.この結果static stretchingは,在宅における維持期脳卒中片麻痺患者の歩行機能を維持する上で有効な訓練方法となりうることが確認できた.しかし,B群に有意な変化が認められなかったことより,7ヶ月という短期間では歩行機能に変化を来すほどの問題が生じない事も同時に確認できた.今後,継続的な経過観察を続けることで,より効果的な自己訓練方法を検討して行きたい.
  • ~外来患者と要支援者の比較から~
    高山 光弘
    セッションID: 067
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/03/28
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
     外出頻度は介護保険の認定調査項目の一つであり、この減少は介護度を悪化させる要因にもなる。これについては、身体的、心理的要因など様々視点から研究が進んでいるが、地域の特徴を選定して行われたものは少なく、また外出の困難を来しやすいと思われる山間の過疎地域(以下過疎地域)についての報告は少ない。そこで過疎地域に在住している者で、外出能力の低下が危惧される虚弱高齢者を対象にして外出頻度の調査を行った。このことから介護予防における外出能力の確認をすることを今回の目的とした。
    【対象】
     対象者である虚弱高齢者は、一戸建てに在住の年齢が80歳以上の後期高齢者で、定期的に医療・介護機関を利用している者とした。この中で外来リハビリテーション患者(以下外来群)17名(男性4名、女性13名83.1±2.8歳)、通所リハビリテーションを利用し要支援1の認定者(以下要支援群)の14名(男性3名、女性11名87.7±4.2歳)の2群に対し調査を行った。対象者の条件としては歩行自立者とし、認知面に関しては問題なく、重度の整形、中枢神経疾患を有する者は除外した。また全ての対象者について、今回の内容は十分に説明し、同意を得た上で調査を行った。
    【方法】
     今回の外出の定義は、家屋内から出ることを範囲別に分け、庭などの敷地内(以下敷地内)と、敷地から外側の(以下敷地外)の2項目に大別した。この項目の、1週間の外出日数を聴取し、各日数を外来群と要支援群で比較を行った。統計処理には対応の無いt検定を用い、有意水準は5%未満とした。
    【結果】
     外出頻度の平均値において、敷地内では、外来群6.9±0.5日/週、要支援群7.0±0日/週となり、この間での有意差は認められなかった。敷地外では、外来群6.5±1.3日/週、要支援群5.0±2.2日/週となりこの間での有意差は認められた。以上により、敷地内・外において統一した結果とはならず敷地外のみ差が認められた。
    【考察】
     外出頻度の低下要因は、身体的要因の他に心理的・環境的要因など多角的な面で考えていかなくてはならない。地域性の他に年齢もその一つであり、高齢であるほど外出頻度は低下すると予測される。しかし、本調査では、敷地内であれば両群共にほぼ7日と外出頻度の高さが確認できた。これは80歳以上の虚弱高齢者であっても歩行自立していれば、敷地内は日常の生活範囲に保たれると言える。その他敷地外では、要支援群の外出頻度が減少しているという知見も得た。このことは介護認定者であることや過疎地域という地域性の問題が影響していると考えられる。よって要支援群に対して敷地外への外出アプローチを行う事が今後の介護予防に繋がるものと考えられた。今後は症例数を重ねながら過疎地域の環境因子解析も含め、外出能力の把握に努めたい。
  • ~脊髄梗塞の症例を通して~
    坪田 和英
    セッションID: 068
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/03/28
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
     身体に障害を抱えた方が在宅で生活することは、障害を持たない者の想像できない困難がある。その困難を解消し、より良い生活をする手段の一つに住環境の整備がある。今回、身体機能の変化に応じて環境整備を行い、ADL、QOLの向上に寄与できた症例を経験し、環境整備についての考察を報告する。なお、症例情報の使用については本人、家族の同意を得ている。
    【症例】
     氏名:A氏 疾患名:脊髄梗塞(四肢不全麻痺)性別:男性 年齢:50歳代後半。病歴:仕事から帰宅後、背中に痛みを訴え病院を受診。四肢麻痺、呼吸障害などの症状を呈し入院となる。肺炎や褥瘡の増悪など繰り返したが、回復期リハビリテーション病院を経て在宅復帰となった。
    【経過】
     発症当初、人工呼吸器管理下で身体機能は著しく低下し、主治医からは「電動車いすでの移動が精いっぱい」と宣告された。回復期転院後、徐々に身体機能の改善がみられ、積極的なリハビリテーションもあり屋内車いす駆動自立、長下肢装具着用しロフストランド杖使用にて平地歩行監視レベルにまで改善し退院となった。
    【環境整備】
     家は二階建て住居だが、一階は要介護認定を受けている母が住んでおり、退院後も二階での生活が前提となる。また、通院もあり出入りの手段の検討が必要であった。さらに屋内の段差や、トイレ、浴室の環境整備も必要であった。そこで、二階への出入りにリフトを設置し、段差を解消、トイレ、浴室には手すりを設置し、バスボードとシャワーキャリーを導入した。その後、訪問でのPT・OTの介入により階段昇降が可能になり、車いす駆動もスムーズになった。また上肢機能の改善により車の運転が可能となった。この時点で住環境を再評価し、環境整備として階段の手すり設置、車いすフットレストの除去、駐車場への階段に手すりを設置し、ハンドルにノブを設置した。さらに身体機能の向上がみられ、長下肢装具を外しアンクルバンドでの歩行が可能になった。また運転はノブを使用せずに可能となり手指の巧緻性向上がみられ台所用品や時計の修理ができるようになった。その他、生後間もない孫の風呂入れや二歳の孫の抱っこもできるようになった。
    【考察】
     退院時の環境整備が適切に行われ、在宅生活を営む中で身体機能を活かすことができ、ADLの向上が図れたと思われる。さらに身体機能の変化に応じて環境整備を行うことで、ADL、QOLの向上へつながる支援ができたと思われる。それが本人のモチベーション向上の要因となり、車の運転や孫の世話など新たな挑戦をするきっかけになった。
    【まとめ】
     身体機能の変化に応じて環境整備を行い、ADL、QOLの向上に寄与することができた。しかし、今回は機能向上が見られた症例にであり、機能低下した症例に対しても同様に環境整備が必要と思われる。適切な環境整備が行われるよう、セラピストには環境整備に対する観察力と豊富な知識が要求される。
  • 下田 啓介, 瀬戸口 肇, 白木 信義, 生駒 成亨
    セッションID: 069
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/03/28
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
     近年,人工膝関節置換術(以下TKA)後の理学療法開始の早期化が進み,早期退院・ADL拡大のために,関節可動域(以下ROM)の早期獲得が求められている.術後ROM獲得に影響する因子として,術前ROMや原疾患,性別,術後疼痛,後療法などが報告されているが,ROM運動開始日の違いによるものは散見される程度である.そこで本研究では,術後ROM運動開始日の違いが術後ROM獲得に影響するのか明らかにすることを目的に比較検討を行った.
    【対象】
     対象は2009年9月から2010年9月までに,当院で変形性膝関節症と診断されTKAを施行した130膝とし,関節リウマチや再置換,創状態・全身状態を考慮しリハビリに制限が生じた症例は除外した.なお,全症例において調査対象になることの了承を得た.
    【方法】
     TKA施行後1病日目よりROM運動を開始した群を1日目群,2病日目より開始した群を2日目群,3病日目より開始した群を3日目群とし,3群間での術後3病日目,7病日目,14病日目での膝関節他動屈曲角度及び他動屈曲120°到達日をそれぞれ比較検討した.他動屈曲120°は当院での目標屈曲角度であるために指標とした.
     対象者の内訳は,1日目群13例,2日目群41例,3日目群76例で性別,年齢,身長,体重,術前ROMにおいて3群間での有意差は認められなかった.
     統計は術後3病日目,他動屈曲120°到達日は一元配置分散分析,術後7,14病日目はKruskal-Walis検定を用いて処理し,その結果で有意差を認めた場合は,多重比較検定により各群間の有意差を判定した.いずれも危険率5%未満とした.
    【結果】
     膝関節他動屈曲角度において,術後7病日目,14病日目では有意差が認められなかったが術後3病日目,他動屈曲120°到達日において有意差が認められた.群間比較では術後3病日目,他動屈曲120°到達日において,1日目と3日目群間に有意差が認められた(p<0.05).
    【考察】
     本研究では,性別,年齢,身長,体重,術前ROMに有意差は認められなかったことより,術後早期からのROM運動が早期ROM獲得に関与することが示唆された.早期にROM運動を開始することで,循環改善による腫脹軽減や術後安静期間短縮による自動運動の促進が期待でき,早期ROM獲得に繋がったのではないかと考える.また他動屈曲120°到達日においても有意差が認められており,1日目群では,術後癒着や瘢痕形成期へ移行するまでに更なるROM拡大が期待できると考える.
     今回,ROM運動開始日と術後ROM獲得の相違について比較検討を行ったが,今後は術後疼痛や術後ADL獲得時期も併せて検討を行い,より疼痛の少ないROM獲得,早期ADL獲得に役立てていきたいと考える.
  • 深井 健司, 羽田 清貴, 徳田 一貫, 奥村 晃司, 杉木 知武, 川嶌 眞人
    セッションID: 070
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/03/28
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
     今回,右人工膝関節全置換術(以下,TKA)後,短期間で左TKA施行となった症例を担当した.術前歩行にて,右荷重応答期から立脚中期にかけては骨盤動作戦略が行えているのに対し,左荷重応答期から立脚中期にかけては頭部・上肢・体幹の動作を用いた戦略(以下,HAT:Head,Arm,Trunk)と下腿傾斜を利用した戦略を行っていた.術後において,既往歴である腰椎固定術を考慮し,体幹‐骨盤帯‐股関節に対してアプローチを行った結果,動作戦略に改善がみられたため以下に報告する.
    【症例紹介】
     80歳代女性,診断名は左変形性膝関節症(Kellgren-Lawrence分類gradeIV,FTA185°).現病歴は両膝OAあり右TKA後,歩行時の左膝痛増悪した為,2011年3月左TKA施行.既往歴は1988年腰椎辷り症固定術,2010年10月右TKA施行.
    【術前評価】
     疼痛は荷重時に左膝関節内側にVisual Analog Scaleで50mm.ROM(右/左)は,膝関節屈曲125°/135°,伸展-10°/-5°,股関節伸展5°/0°.MMTは,膝関節屈曲4,伸展4,股関節伸展3,外転3,内転3であり左右差なし.歩行は左立脚期において,左股関節内転による骨盤左側方移動が低下し,体幹‐骨盤帯を一塊にしたまま左傾斜させ,左股関節外転・外旋,下腿外旋・外側傾斜での荷重対応を行っていた.
    【術後理学療法アプローチ】
     1膝関節機能再構築練習,2股関節機能改善練習,3体幹‐骨盤機能改善練習,4立脚期の重心移動再学習
    【最終評価】(術後4週)
     荷重時痛は消失.ROM(右/左)は,膝関節屈曲125°/130°,伸展-5°/0°,股関節伸展10°/10°.MMTは,股関節外転4,内転4と左右ともに改善あり.歩行は,体幹‐骨盤帯‐股関節機能改善から上半身重心正中化・骨盤水平保持の獲得により,荷重応答期に骨盤動作戦略が出現した.
    【考察】
     本症例は下位腰椎の固定術の影響により腰椎の分節的な運動が制限されることで安定性が低下し,体幹‐骨盤帯の正中位保持が動作戦略の中で困難であると推察した.その為,術前歩行時のHAT動作戦略による重心移動が術後歩行においても残存していた.理学療法では,歩行時の荷重応答期から立脚中期を想定し,動的場面での体幹の安定化・股関節内外転の筋機能改善に着目し展開した.その結果,体幹を安定させ重力に対して筋活動を発揮して行う骨盤動作戦略が可能となり,歩容改善に至ったと推察した.TKA術後のアプローチは,膝関節機能の再構築に加え,体幹‐骨盤帯‐股関節の連携した運動を引き出し,新たな下肢アライメントに適した動作戦略を再学習させる必要がある.これは,歩容改善だけでなく,腰椎固定部・人工関節への持続的なストレスによる,インストルメントやインプラントの耐久性低下や破綻を考慮した治療にも繋がると考える.
  • 合津 卓朗, 羽田 清貴, 徳田 一貫, 吉田 研吾, 杉木 知武, 川嶌 眞人
    セッションID: 071
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/03/28
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
     人工膝関節全置換術(以下TKA)における術後急性期では,手術による要因や術前機能など様々な因子が,術後の治療展開を阻害するケースを多々経験する.特に術後における疼痛は,治療展開を阻害する大きな要因の一つであると捉えている.そこで今回,薬物療法やポジショニング,筋緊張の緩和などの疼痛コントロールを重点的に行い,自動運動が行いやすい環境作りを第一選択とし,二次的疼痛を惹起させないよう考慮した.次いで他動・自動ROM運動,膝周囲筋機能改善運動を行い,膝関節の機能的可動性が獲得されてから荷重・歩行練習へと発展させるよう,段階的に理学療法を展開した.その結果,術後ROMにおいて改善を認めた為,以下に報告する.
    【対象と方法】
     対象は,当院で手術を行ったTKA患者17名18膝.疼痛を考慮せず早期よりROM運動,筋機能改善運動,荷重・歩行練習を実施したTKA患者9名10膝(女性9名79±5.4歳)を従来群.疼痛を考慮し,段階的理学療法を実施したTKA患者8名8膝(女性6名,男性2名73±7.8歳)を段階群とし,両群間の術前,術中,退院時での膝屈曲伸展ROMの差を比較・検討した.なお,統計は統計処理ソフトR2.8.1を使用し,2標本t検定,Mann-Whitney検定を行った.
    【結果】
     従来群の術前ROMは屈曲121.5±15.8°,伸展-14±6.4°.術中ROMは屈曲140.5±6.4°,伸展0°.退院時ROMは屈曲108.5±7.1°,伸展-6±5.2°であった.段階群の術前ROMは屈曲110.6±18.2°,伸展-13.1±8.8°.術中ROMは屈曲125.6±15.2°,伸展0°.退院時ROMは屈曲118.1±11.6°,伸展-1.3±2.3°であった.両群を比較・検討した結果,術前-退院時,術中-退院時における屈曲ROM,術中-退院時における伸展ROMで有意差が認められた(P<0.05).
    【考察】
     段階群は,従来群と比較し膝屈曲伸展ROMに関して有意に改善を認め,より術中ROMに近い値となった.これは,疼痛を考慮したことにより,術後における防御性筋緊張の抑制が図れ,ROM運動時に術部周囲の過剰な伸張ストレスを軽減することができた為と考える.また,二次的疼痛を抑えることで,積極的な自動膝屈伸運動が可能となり,早期に機能的可動性を獲得できたと考える.今回の結果から,TKA術後急性期における理学療法として,段階的理学療法を展開することで,より術中に近いROMの改善が図れると考える.
    【まとめ】
     段階的理学療法を展開した結果,ROMの改善が有意に図れた.今後は,段階的理学療法による,歩行能力・歩容への効果について検討したいと考える.
  • 後藤 良幸, 東 幸児, 石橋 達郎, 坂本 大和, 鵜殿 翔太, 中村 明生
    セッションID: 072
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/03/28
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
     人工膝関節全置換術(以下TKA)において、これまで術前より関節可動域が低下した症例を経験した。関節可動域の低下を予防するため軟部組織の治癒過程を考慮し術部の癒着防止・柔軟性維持に努めたことで、良好な可動域を得ることができた症例をここに報告する。今回の発表にあたり、患者様へは十分に説明を行い許可を頂いた。
    【症例紹介】
     A氏70歳代。60歳代で両膝痛出現し保存療法を行うも改善せず当院受診。X線より左FTA180°、grade4、左膝内反変形著明。左TKAを施行。左膝術中可動域:0°~160°(full flexion) 左膝術前可動域:0°~160°(full flexion) 術前に正座を頻繁に行っていた。
    【TKAについて】
     機種はDepuy LCS CR typeを使用。関節展開はmedial parapatella approachにて施行。LCSの設定屈曲可動域は145°であり完全屈曲は困難である。当院では大腿骨コンポーネントを4°前傾、脛骨コンポーネントを10°後傾させることで理論上約160°の可動域を獲得している。LCSの設定伸展可動域は15°であり上記のように設置しても理論上伸展不全はおこらない。
    【関節可動域の経過】
    術前:160°/14日目:125°/21日目:140°/42日目:160°
    【考察】
     本症例は術前は和式生活を送っており、今回も本症例のDemandは和式生活であった。そのため和式生活をより楽にすることを目的に関節可動域に着目した。術後早期より膝関節の深屈曲を目指すと炎症・疼痛を助長する可能性が高いため軟部組織の治癒過程を考慮した治療を提供した。一般的に関節軟部組織は15日前後で癒着するといわれている。そのため軟部組織が増殖期に入る術後3日目よりパテラセッティング・マッサージを行い皮膚・膝蓋上嚢・膝蓋腱部の癒着防止に努めた。その結果術後14日目に左膝関節屈曲125°を痛みなく獲得した。術後15日目より左膝関節の深屈曲を目指した。内側広筋腱と内側広筋下にある前内側関節包との滑走性改善、後内側関節包の柔軟性維持を目的に徒手療法を施行。また、再炎症による癒着を防止するためにアイシングを励行した。その結果21日目に左膝関節屈曲140°を獲得することができた。
    【まとめ】
     本症例は術後早期から可能な限り術部の癒着予防、軟部組織柔軟性維持、腫張改善を行った。そのため軟部組織の増殖期が終了する20日までに良好な可動域を獲得できたと考える。そして、42日目には術前と同じ左膝関節屈曲160°を獲得することができた。今後の課題として21日目~42日目までに関節可動域が20°改善した具体的な理由を検討する必要があると考える。
  • ~膝蓋骨に対する張力に着目して~
    東 幸児, 石橋 達郎, 坂本 大和, 後藤 良幸, 鵜殿 翔太, 中村 明生
    セッションID: 073
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/03/28
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
     高度外反膝に対するTKAで問題となるのは,変形を如何に矯正し,良いアライメントを得て,機能的な膝を獲得するかである.そのためには機種の選択・軟部組織の処置などが重要となってくる.また膝蓋骨においては術前に外方偏位しており術後トラッキングの不良例が多いとの報告もある.膝蓋骨トラッキング異常は膝関節屈曲制限・大腿四頭筋筋力低下・滑膜炎などの二次的問題を惹起する.今回,高度外反変形膝を呈した症例に二期的に手術を行い膝蓋骨に対する内外側張力バランスに着目し理学療法を行なう機会を得たのでここに報告する.
    【症例紹介】
     氏名I 60歳代 13歳の時に交通事故に会い左大腿骨顆上骨折受傷.保存的に加療を行うが外反位にて変形治癒.徐々に下肢外反強くなりニ次性変形性膝関節症となる.一年ほど前から歩行困難となり当院受診.FTA135度と高度外反位を呈していた.
    【経過】
     術前はX線にて著名な膝蓋骨脱臼を呈していた.first stageとして左膝関節形成を目的にTKA・腸脛靭帯切離・膝窩筋腱切離・外側膝蓋支帯切離を施行.FTA145度に改善するも膝蓋骨脱臼を認めた.second stageとしてアライメント矯正を目的に大腿骨内反骨切り術・脛骨粗面内側移動術・内側支帯縫縮・内側広筋腱縫縮術を施行.FTA165度・膝蓋骨傾斜角11度に改善した.術後18ヶ月膝蓋骨傾斜角12度.
    【考察】
     本症例では高度外反変形矯正による軟部組織の機能改善が大きな問題となった.一般的に外反膝の矯正では膝関節内側組織の弛緩状態・外側組織の短縮が問題となる.本症例においてもFTA135度の高度外反変形膝を矯正したことにより内側広筋の弛緩,腸脛靭帯・外側広筋の短縮を呈した.軟部組織処理として内側広筋腱の縫縮術が行なわれたが内側広筋は収縮を認めるものの筋張力は不十分なものであった.内側広筋は膝関節最終伸展域においてFTA・外側広筋による膝蓋骨外方作用に相反し膝蓋骨固定を得て大腿直筋の伸展作用を効率的に脛骨へ伝える作用がある.内側広筋の機能低下は膝蓋骨外側偏位傾向を強め,膝伸展機構・膝蓋骨トラッキング異常を惹起する.本症例において内側広筋の機能改善は多くは望めないと考え,腸脛靭帯・外側広筋の短縮・大腿筋膜の緊張不均衡による過剰な外側引き付け作用を減じていくことに着目し理学療法を展開した.術後18ヶ月経過後も膝蓋骨の外側偏位の悪化は認めず良好な状態を維持できていた.
    【まとめ】
     TKAにおいては下肢機能改善を図り「長く使える関節」とするかは術後リハビリテーションによるものが大きい.本症例において内側広筋機能不全の影響を最小限にするため,外側広筋・腸脛靭帯・大腿筋膜の緊張不均衡に着目することにより良好な経過をたどることが出来たと考える.今回の発表にあたり本人へ十分な説明を行い同意を得た.
  • ~立脚後期に着目して~
    吉田 研吾, 辛嶋 良介, 合津 卓朗, 奥村 晃司, 杉木 知武, 本山 達男, 川嶌 眞人
    セッションID: 074
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/03/28
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
     歩行立脚初期の動作方略に問題を呈する場合,立脚初期に必要となる局所機能の改善や下肢の機能的連結を目的とした荷重練習を行うことで改善を得られることが多い.しかし,今回,術後早期から局所機能の改善を図り,荷重評価での動作方略に問題がないにも関わらず,左立脚期初期に体幹の左側方への不安定性が認められた症例を経験した.理学療法評価の結果から,立脚後期に着目してアプローチを行い,改善を得られたため,以下に報告する.
    【症例紹介】
     70歳代女性.診断名は左変形性膝関節症.2009年頃より誘因なく左膝に疼痛が出現,2011年2月22日に左全人工膝関節置換術を施行した.術後翌日よりROM・筋機能練習を開始,早期荷重を段階的に実施し,10日目より杖歩行練習を行った.歩行時に体幹の不安定性が認められ、転倒への不安からADL拡大を図れなかった.
    【理学療法評価~訓練前~】
     術後14日目において,主な疼痛は左立脚後期に術創部周囲に出現していた.ROM(Lt)は膝関節屈曲110°,伸展0°,股・足関節での制限はなかった.MMT(Rt/Lt)は体幹屈曲4,回旋4/4,腸腰筋3+/3-,大殿筋4/4,中殿筋4/4,内転筋4/4,大腿四頭筋4/4,ヒラメ筋5/4,足趾屈筋4/3であった.静止立位での体幹の著名な変位はなく,立脚初期を想定した荷重評価では体幹左側屈の増大なく,骨盤の側方移動が可能であった.歩行では左立脚期にて,体幹左側屈位で初期接地(以下,IC)し,荷重応答期(以下,LR)へ移行するにつれ,体幹左側屈が増大し,この時期に左側方へバランスを崩すことがみられた.立脚終期(以下,Tst)では,フォアフットロッカー機能の低下が認められ,体幹左側屈位を呈した状態で遊脚期・立脚初期へと移行していた.
    【臨床推論】
     左立脚初期における体幹の左側方への不安定性は,静止立位での変位がなく,IC時に体幹左側屈位を呈すること,側方制御に関わる股関節機能,荷重評価での動作方略に問題がないことから,立脚初期以前でのPheseに問題があると考えた.本症例ではフォアフットロッカー機構に関与する腸腰筋やヒラメ筋,足趾屈筋群の機能低下が認められ,Tstにて前方への推進力が得られず,右下肢への荷重伝達が行えないことで体幹左側屈位を呈し,遊脚期での体幹正中化を困難にしていると考えた.その結果,体幹左側屈位にてICすることで体幹に左側屈方向のモーメントが生じ,左側方への不安定性を呈していると推察した.
    【理学療法アプローチ】
     臨床指標に立脚初期での体幹正中化を挙げ,腸腰筋やヒラメ筋,足趾屈筋の機能改善と立脚後期を想定した荷重練習を実施した.
    【結果~訓練後~】
     左Tstでのフォアフットロッカー機能の改善が得られ,遊脚期および立脚初期での体幹左側屈が軽減し,不安定性の改善を図れた.症例の転倒に対する不安感も軽減し,2日後に杖歩行への移行が可能となった.
  • ~骨盤帯アライメントと片脚立位の重心動揺~
    赤川 精彦, 山形 卓也, 荒木 秀明
    セッションID: 075
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/03/28
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
     臨床上、慢性腰痛症例において骨盤帯の左右非対称性が頻繁に観察される。骨盤帯の左右非対称性を左右対称に調整するために様々な手技の有効性が報告され、実際その有効性を体感している。しかし、骨盤帯のアライメント修正後、再度骨盤帯の非対称性が生じる。今回、骨盤帯のアライメント調整と同時に、キルケソーラ氏により提唱されている運動単位を最大限に動員させるトレーニング方法(Maximizing Neuromuscular Recruitment:以下MNR)併用して、両脚立位時の重心動揺と左右の片脚立位における重心動揺の変化、さらにMNR後の立脚側の仙骨と寛骨の相対的位置関係を検討したので報告する。
    【対象と方法】
     対象者は、足部、足関節・膝関節に問題のない30名、内訳は男性25名、女性5名の30名。平均年齢26±3.58歳。30名を無作為に10名ずつの3群に分ける。各群に対し、1)骨盤帯の位置の確認(上前腸骨棘/上後腸骨棘/仙骨のアライメント/腰方形筋の圧痛/梨状筋の圧痛)、2)仙腸関節のjoint play test、3)仙腸関節に対する疼痛誘発テスト、4)立脚側の仙骨と寛骨の相対的位置関係、5)重心動揺計(Zebris社製、PDM)を用いて両脚安静立位重心と片脚立位の重心動揺の測定、6) 骨盤帯の非対称性に適応させたmanual therapy、7)MNRを後部靭帯系理論を基本に後部斜方向、前部斜方向、外側方向の3群にわけ、Redcordを用いて、MNRを1種類ずつ行う。内容は無作為に実施した。再度同様に検査を行い、MNR前後での比較、検討を行った。研究施行前に全対象者に対して、研究の目的、内容を提示して同意を得た。
    【結果】
     1)仙骨と寛骨の相対的位置関係:30例中15例の右仙腸関節が仙骨に対し寛骨の前方回旋、30例中13例の左仙腸関節が仙骨に対し寛骨の後方回旋、30例中2例の左仙腸関節に寛骨の前方回旋が認められた。2)両脚安静立位重心:全例ともMNR前に認められた総軌跡長がMNR後、有意(P<0.05)な短縮が認められた。3)寛骨前方回旋側の片脚立位の重心動揺の変化:前部斜方向群において、重心動揺の総軌跡長の有意(P<0.05)な短縮が認められた。外側方向、後部斜方向群において、重心動揺の総軌跡長の有意な短縮は認められなかった。4)寛骨前方回旋側の立脚側の仙骨と寛骨の相対的位置関係:前部斜方向群は、MNR後10例中7例に改善が認められた。外側方向群は、MNR後に10例中3例に改善が認められた。後部斜方向群は、MNR後に10例中4例に改善が認められた。
    【考察】
     仙腸関節が安定する状態は、仙骨が前傾(nutation)し、仙骨に対し寛骨が後方回旋するときである。今回、仙腸関節における荷重伝達機能に着目し、荷重伝達障害がMNRによって改善するか検討を行なった。荷重伝達障害のある仙腸関節に対し、前部斜方向MNRをすることによって、重心動揺の総軌跡長は有意に減少し、荷重伝達機能の改善も認められた。後部斜方向、外側方向においては、有意な改善は認められなかった。仙腸関節の安定性と正常な荷重伝達を獲得するためには前部斜方向における内転筋のトレーニングが重要であると考えられる。
  • ~ブリッジ運動と疼痛と圧潰程度の関連性~
    塚崎 幸雄, 中村 千恵子, 松本 智人, 大佐古 達也, 日高 滋紀
    セッションID: 076
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/03/28
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
     圧迫骨折において,受傷急性期には安静を要するが,患者にとって身体的能力の低下を招くだけでなく,精神的な苦痛を伴うものである.そこで,椎体を支える背筋群に着目し,背筋群が多く関与するブリッジ運動が可能であれば椎体の圧潰を防げると仮説を立て,ブリッジ運動の程度とその時の疼痛,更にレントゲン撮影による椎体圧潰程度の関連性について調べ,ブリッジ運動が可能であれば臥床期間を短縮できるかを検討したので,ここに報告する.
    【方法】
     入院から10日間の安静臥床期間のなかで,入院3・7・10日目の午前中に,ベッド上にてブリッジ運動を実施し,運動の可否と疼痛の程度(フェイススケール)を評価した.ブリッジ運動の可否については,腸骨の上後腸骨棘を指標とし,何横指分骨盤挙上が可能かを評価した.
    【対象】
     当院にて脊椎圧迫骨折と診断され入院加療した男性1名,女性24名の計25名.平均年齢は77歳±12.4歳.
    【結果】
     疼痛の減少に伴いブリッジ運動が可能となる傾向が認められ,最も良好に挙上可能となったのは胸椎部群であった.椎体の圧潰が強く認められたのは胸椎部群であった.疼痛が強い傾向を示したのは胸腰椎移行部群であった.疼痛と椎体の圧潰程度,ブリッジ運動の3者に関連性は認められなかった.また部位別での入院日数に有意差は認められなかった.
    【考察】
     本研究は体幹伸筋群に着目し,早期よりブリッジ運動が可能であれば,椎体のThree column theoryのうちPosterior columnの作用により椎体の安定化が図れ,椎体圧迫が軽減され,圧潰防止と同時に疼痛軽減効果もあると考え,早期離床が可能ではないかと考えた.結果,多くの症例で疼痛の減少に伴いブリッジ運動が可能となる傾向が認められた.しかし椎体の圧潰程度が高度であっても疼痛が弱く,ブリッジ運動も容易に可能な症例がいる一方で,圧潰程度は軽度であるにも拘らず疼痛が強く,ブリッジ運動が困難な症例もおり,圧潰程度と疼痛,ブリッジ運動の関連性を見出すことはできなかった.圧潰の程度に着目すると,胸椎部で受傷時より強度の圧潰を認めた.一般的に圧迫骨折の運動療法では体幹伸筋・屈筋群強化が重要視されており,その運動方法としてブリッジ運動が挙げられる.しかし胸椎部は椎体が小さく後弯を呈しているため,ブリッジ運動時に椎体に対する圧がより強く掛かりやすい状態であり,胸椎圧迫骨折患者に対するブリッジ運動は適していないことが示唆される.そのため胸椎圧迫骨折患者に対しては運動内容の検討が必要と考える.疼痛に関して,安静臥床開始から10日で,ブリッジ運動やベッド上動作時において,概ねフェイススケール2程度と軽減している.本研究で入院6週目時点における椎体残存率は,椎体前方部で65.1%,中央部で72.9%であり,一般的に椎体形成術適応となる圧潰率50%を考慮すると,比較的良好な残存率を示している.よって,安静臥床を10日間継続することは,疼痛の沈静化や圧迫部位の安定化に妥当であると考える.
  • 久場 美鈴
    セッションID: 077
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/03/28
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
     疼痛が長期間にわたり継続し日常生活に支障をきたしているため,関節鏡視下肩峰下徐圧術(以下ASD)を施行された理学療法を経験した.術後は疼痛管理,不良姿勢の改善に着目し,理学療法を施行した症例について報告する.
    【方法】
     対象は左肩インピンジメント症候群の診断にてASDを施行された60代女性.当院クリニカルパスに従い,術後2週間は三角巾固定,他動運動実施.2~3週後自動介助運動実施.徐々に自動運動から抵抗運動へ移行する.本症例は2週後自宅退院となった.
    【説明と同意】
     当院の倫理調査委員会に承認を得た後,対象者に本研究の趣旨を説明し同意を得た.
    【結果】
     術前評価:疼痛(NRS)は夜間時・安静時痛4/10,運動時痛9/10.左肩関節可動域(臥位測定)は屈曲150,外転145,水平内転100,水平外転-15,伸展10,内旋/外旋:1st70/0,2nd30/45.握力は右5.5左7.姿勢は背臥位にて床面から肩峰後角の高さ右9cm,左14cm.座位にて頭部前方位,頚椎過伸展位,上腕骨頭前方偏位.肩甲骨内側縁から脊柱間右10cm,左14cm.肩関節挙上運動は,頭部前方移動を行い頚椎過伸展位で肩を挙上させる.その際過度に肩甲骨挙上,上方回旋させ,肩甲上腕リズムの破綻が観察された.結帯動作困難.2週間後:疼痛(NRS)は夜間時・安静時痛2/10,運動時痛3/10.左肩関節可動域(臥位測定)は屈曲165,外転160,水平内転110,水平外転10,伸展50,内旋/外旋:1st70/10,2nd80/60.握力は右7左21.5.姿勢は背臥位にて床面から肩峰後角の高さ右11cm,左10cm.座位にて重心線は耳垂と肩峰を通り頭部前方位姿勢改善.肩甲骨内側縁から脊柱間右10cm,左11cm.結帯動作L1レベルまで触診可能.
    【考察】
     本症例の痛みの発症要因は,上肢を用いる作業の際に,頭部前方位,頚椎過伸展位による不良姿勢により僧帽筋上部線維,肩甲挙筋などの筋緊張が発生し,肩甲骨挙上,上方回旋を引き起こし,肩甲骨の偏位により肩甲上腕リズムの破綻が生じた.僧帽筋中・下部線維,菱形筋による筋機能不全により小胸筋が代償性短縮を呈し,肩甲骨前傾位となり肩峰下腔の狭小化により肩峰下滑液包に機械的刺激が加わり滑膜組織の増生や肥厚による侵害性疼痛であり,それを逃避するための可動域制限ではないかと考える.術後はポジショニング,リラクゼーション,アイシング,モビライゼーションにより筋スパズムが軽減し,上腕骨頭と関節窩の適合性が改善された.大・小胸筋に対しストレッチを加え,腰椎前彎,骨盤前傾位で肩甲骨の内転運動を行い僧帽筋中部下部線維など胸椎伸筋群の機能改善,下部体幹の安定性向上を図り,不良姿勢や肩甲骨位置が改善された.
    【まとめ】
     術後より疼痛管理を行い,局所的な部位に着目するのではなく,肩関節の機能を発揮できるように全身運動や肩甲骨の正中位姿勢を取り戻す運動療法は重要である.
  • ~シングルケーススタディによる筋力増強運動効果の検討~
    江郷 功起, 西辻 一成
    セッションID: 078
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/03/28
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    【目的】
     筋収縮に伴う血圧変動は一般人より高齢者の方が大きく見られる。そこで我々は安全に使用できる握力を含む把握力機器の開発を行っている。先行研究において本開発機器で計測した最大等張性収縮力と握力の間には相関関係があること、最大筋力測定時における収縮期血圧の上昇が握力計と比較して少ないことを確認した。今回は本開発機器が計測機器のみならず、筋力増強機器として使用した場合に効果があるのか、若干の知見を得たので報告する。
    【方法】
     開発機器は把握動作機能計測システムである。本機器の特徴は、小型の発電機を利用して握る動作から発生させた運動エネルギーを電気エネルギーに変換させ、最大電圧を計測し握力を推定する仕組みである。トレーニングモードにすると、任意の張力を発生したときにカウントされるようセットされている。対象は1症例で40歳代の男性である。20××年4月左橈骨遠位端骨折を発症し、受傷後5週でシーネを除去し可動域練習と筋力強化を開始した。同年8月に退院され、以降外来通院として週3回の理学療法を行った。研究方法は筋力増強運動の効果を判定するために、市販のハンドグリップ抵抗運動(A法)と本機器での抵抗運動(B法)を交互に使用した理学療法を行い握力の推移を記録した。各法での筋力強化期間は5週間とし、ABABと行い合計20週間とした。運動負荷はA法がグリップ力30kg、B法がトレーニングモード負荷とした。症例への指示は、なるべく強い力で30回握るよう伝えた。
    【説明と同意】
     本研究はヘルシンキ宣言に沿った研究であり、被験者には本研究の趣旨を口頭で行い同意を得ている。
    【結果】
     握力の推移は計測時34kg、1クール目のA法終了時39kg、B法終了時44kg、2クール目のA法終了時42kg、B法終了時44kgとなり、復職のため理学療法終了となった。理学療法終了後4週では42kg、8週では38kg、15週では42kg、22週では38kgであった。
    【考察】
     一般に筋力増強運動には最大収縮の60%以上の負荷が必要であると言われている。本症例にも増強運動となる負荷を加えて運動を行った。筋力増強に関する効果は、1クール目はA法・B法ともに増強が見られたが、2クール目になるとA法では握力が44kgから42kgへ減少し、B法では42kgから44kgと元の水準まで増強した。A法の場合、60%以上の負荷であるが、筋力を強く素早く発揮しようという気持ちが薄れた可能性がある。逆にB法の場合は、原理上素早く握る力に応じて最大負荷が変化する特性がある。また視覚的な確認が容易で、それが症例の運動意識を高め、素早く握る動機となり2クール目の結果となったと考えた。以上より本機器は筋力増強機器としても有効であることが示唆された。今回は症例検討での報告であるが、今後は症例を増やし有効性の検証を行いたいと考えている。
  • ~健常群と腱板断裂群の比較~
    溝田 丈士, 壇 順司, 大石 浩嗣, 田中 創, 山田 実
    セッションID: 079
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/03/28
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    【目的】
     腱板断裂症例の挙上制限因子として,棘上筋機能低下に伴う上腕骨大結節の肩峰下への通過障害がある.その確認は治療する場合の不可欠な評価となるがその明確な指標はない.そこで今回,健常群と腱板断裂群(術後)の肩関節自由挙上時において上腕骨大結節が肩峰下へ通過する肩甲骨面挙上角と,その時のspino-humeral angle(以下SHA)を測定し,両群間で比較を行い各々の特性を調べることを目的とした.
    【対象と方法】
     対象は,本研究の主旨を説明し同意を得た健常人(男性16例16肩,平均年齢25.9歳)を健常群とし,当院にて肩腱板断裂と診断され鏡視下腱板断裂修復術を施行した10例10肩(男性6例,女性4例,平均年齢61.8歳)を腱板断裂群とした.なお腱板断裂群は術後5週以降の症例を対象とした.測定肢位は座位にて上肢自然下垂位と肩関節自由挙上における上腕骨大結節前上端部が肩峰下を通過し始めた時点(以下通過開始時)を測定した.測定角度は,通過開始時の肩甲骨面挙上角度(肩甲骨面挙上角度の計測は肩峰角から床面へ向かう垂線を基本軸とし,肩峰角と上腕骨外側上顆を結ぶ線を移動軸とした)とSHA(肩甲棘三角の外側頂点と肩峰角を結ぶ線と肩峰角と上腕骨外側上顆を結ぶ線)とした.下垂時と通過開始時のSHAの角度変化を肩甲上腕関節の動きとし,肩甲骨面挙上角度から肩甲上腕関節の動きの差を肩甲骨の動きとして算出した.両群の自由挙上における通過開始時の肩甲骨面挙上角・SHA・開始肢位から通過開始時までの肩甲骨の動きの比較を対応のないt検定を用いて行った.
    【結果】
     通過開始時の肩甲骨面挙上角度は,健常群では30.8°±2.55,腱板断裂群では49.5°±14.77であった.通過開始時のSHAは,健常群では124.1°±2.46,腱板断裂群では122.2°±3.62であった.開始肢位から通過開始時までの肩甲骨の動きは,健常群が18.1°±3.96,腱板断裂群では40.5°±14.26であった.両群間の比較では,通過開始時の肩甲骨面挙上角度,開始肢位から通過開始時までの肩甲骨の動きに有意差が認められた(P<0.05).通過開始時のSHAには有意差が認められなかった.
    【考察】
     本結果より健常群に対し腱板断裂群では,SHAには差はないが,通過角度や肩甲骨の動きに差がある.これは,棘上筋の機能である挙上初期時の上腕骨頭を頭方から尾方に押し付ける機能が低下したことや,もともとの腱板断裂にて上腕骨頭の頭方偏位により,骨頭-肩峰間距離が狭小していることで,通過開始時が遅延し肩甲骨面挙上角度が増大していることが考えられる.そのため腱板断裂群において棘上筋の機能不全を肩甲骨の動きにて代償し,通過開始時までの肩甲骨の動きが健常群より大きくなると推察される.
  • 手島 誠宣, 矢野 雅直, 森澤 佳三, 西川 英夫, 副島 義久, 山田 実
    セッションID: 080
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/03/28
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    【目的】
     当院では肩腱板断裂手術例に対して術前後にSF-36v2を用いてQOLを調査している.術後8週目での達成目標を身辺動作自立での自宅復帰としている.今回,術前と術後8週目のSF-36v2の点数推移とそれに関連する因子を検討したので報告する.
    【方法】
     対象は2010年3月から2011年1月までに肩腱板断裂と診断され,当院にて鏡視下腱板修復術(以下ARCR)を施行した58例中,術後8週まで経過を追えた29例29肩(男性20例20肩・女性9例9肩)である.平均年齢は67.3歳.これらの対象者に,術前と術後8週目に, 健康関連QOL尺度であるSF-36v2,肩関節可動域測定,疼痛検査を実施した.肩関節可動域測定は,背臥位で他動・自動屈曲・他動外転・他動2nd外旋可動域,坐位で自動屈曲可動域を日本整形外科学会の方法に基づいて測定した.疼痛の評価には,Visual Analog Scale(以下VAS)を用い,疼痛の種類は運動時痛とした. SF-36v2は記述式のアンケートで,そこで得られた得点を国民標準値に基づいたスコアリング法(Norm based Scoring,以下NBS)で割り出した.得点は身体機能(以下PF),日常役割機能・身体(以下RP),体の痛み(以下BP),社会生活機能(以下SF),全体的健康感(以下GH),活力(以下VT),日常役割機能・精神(以下RE),心の健康(以下MH)の8項目に分類して算出した.各項目の術前と術後8週目の変化を対応のあるt検定を用いて検討した.また, SF-36v2の推移と肩関節可動域及び疼痛の関連性を,Pearsonの相関分析を用いて検討した.
    【説明と同意】
     対象者にはその趣旨を十分に説明した上で同意を得た.また,本研究は当院の倫理委員会による承認を得た上で実施した.
    【結果】
     SF-36v2は,術前に対し術後8週目でRP,RE,SFが有意に低値を示す傾向にあった(P<0.05).また, SF-36v2の各項目の術前・術後8週目の変化と術前・術後8週目の肩関節可動域,疼痛の変化には関連性が認められなかった.
    【考察】
     RPとREは仕事や日常生活の制限に関与する項目であり,術後8週目での調査が入院中や退院後早期であったことが活動性の制限となり低値を示す結果になったと考えられる.SFは社会生活における他者や社会との関わりに関与する項目であり,前記同様の理由で制限され低値を示したと推測される.特に,今回の検討では,RP,RE,SFが有意に低値を示した.3項目の特性より,術後8週目では入院生活による活動性の制限が症例のQOLの低下に関与している事が示唆された.今後はSF-36 v2を用いて,長期的な経過も追っていきたい.
  • ~座位姿勢でのコアエクササイズ効果検証~
    由川 明生, 中村 雅幸, 柴田 伸子, 植野 拓, 林 尚, 平林 幸雄
    セッションID: 081
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/03/28
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    【目的】
     近年では脊柱の分節的安定において、腹横筋や多裂筋などの体幹深部筋トレーニングが有用とされている。richardsonらは3段階のエクササイズモデルの目的を(段階1)抗重力体重支持機能を加えずにローカル筋トレーニングをする。(段階2)重力負荷刺激を漸増することにより、ローカル筋と体重支持筋を統合する。(段階3)腰椎骨盤姿勢を維持し、個々の関節の分節コントロールを高めるとしている。段階1に対する研究やトレーニングは散見しているが、段階2および段階3は少ない。本研究は、段階2である座位でのコアエクササイズ前後で、MRI信号強度変化を用いて複数の体幹筋活動に相違があるかを検討した。
    【方法】
     対象者は腰痛既往のない健常人男性5名、女性4名とした。平均年齢は26.8歳であった。本研究は千鳥橋病院倫理委員会の承認を受け、全ての対象者にインフォームドコンセントを行い承諾を得た。端座位にて被検者の脊柱後方に木材を垂直に設置し、後頭部・胸椎部・腰仙骨部に3点接地し、膝関節90°屈曲、股関節内外転中間位姿勢をニュートラルポジションと定めた。三点接地を維持したまま5°後傾位保持を20秒間、10秒休憩を1セットとし、計40セット20分間行った。L4-5間高位横断面を息止め下で撮影し、腹横筋・内外腹斜筋・腰方形筋・腹直筋・脊柱起立筋を対象筋群とした。MRIはシーメンス社製1.5Tを用い、撮影法はtrue FISPを用いた。画像解析ソフトSDS viewerを用い、運動前後の信号強度変化を得るため各筋にROI(region of Interest)を5カ所設定し平均値を採用し、前後で比較した。統計処理ソフトはJMPを用い、Wilcoxon符号付順位和検定を行った。有意水準は5%未満とした。
    【結果】
     信号強度の平均(運動前/後)は腹横筋49.76/56.83、内腹斜筋52.63/51.83、外腹斜筋55.65/52.55、腹直筋93.63/91.53、腰方形筋49.79/51.34、脊柱起立筋111.50/108.91であった。運動前後で腹横筋のみ統計学的に有意差がみられた。
    【考察】
     MRIの信号強度変化を用いて座位での体幹筋の活動を捉えることが出来た。また、座位でニュートラルポジションを保持しながら、股関節屈曲・伸展運動が腹横筋単独の収縮を促す運動として、有用である事が示唆された。5°後傾位というわずかな範囲での運動イメージは比較的容易であると考えられ、今後は機材を用いず自主訓練等に汎化することや、腰痛既往者への有効性の検証も行いたい。
  • 永崎 孝之, 加藤 浩, 岡田 裕隆, 矢口 潤哉
    セッションID: 082
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/03/28
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    【はじめに】
     関節可動域(range of motion:ROM)を定量的に測定する機器として角度計が一般的に用いられている。東大式角度計など軸が長い角度計は、対象指標に適合させ易く視認性が高いため正確な角度を測定できるが、小関節のROM測定には適さない。また嵩張るため携帯には不向きである。逆に携帯用プラスチック角度計は、軸が短いため小関節のROM測定には適しているが、大関節の測定は誤差が生じ易いとされている。また携帯できるため場所を問わず測定することができる。このように角度計それぞれに一長一短があり、臨床では測定する関節にあわせ角度計を使い分けている。今回ほとんどのROM測定に対応可能となる携帯用プラスチック角度計を産学連携共同研究により開発したので報告する。
    【角度計の原理】
     ROM測定とりわけ大関節の測定は、矢状面、前額面上において骨指標を通る床への垂直線や水平線を基本軸とする場合が多く、鉛直が基準となっている。今回ここに着目した。従来の全円型携帯用プラスチック角度計の一方の自由端に円柱形の回転する角度つき円盤(回転盤)を新たに取り付け、その中に鉄球を配置する。鉄球は重力により常に鉛直方向に静止するためそれを基準として利用する。つまり測定する基本軸に角度計をあわせ、回転盤の0°の目盛を鉄球が鉛直方向に静止するところに合わせる。その上で移動軸に角度計をあわせれば回転盤は同時に移動するが、中に配置した鉄球だけは常に鉛直方向に静止するので鉄球がおちる目盛がROMとなる。また測定の際、角度計の基本軸、移動軸を伸ばして一直線上に配置すれば従来の倍の長さの軸が確保でき、指標に適合し易く視認性も向上するため測定誤差を減じることが期待できる。この原理に基づき測定精度向上を目指した携帯用プラスチック角度計(以下、角度計)を酒井医療株式会社と共同で開発し、特許を取得した。
    【測定精度の検討】
     角度計の測定精度を検討するため、肋木を利用し設定した肩関節屈曲75°・100°・110°について、本学学生15名を検者としそれぞれ3回、5°単位でROM測定を行った。得られたデータより、級内相関(ICC)を用いて検者内信頼性および検者間信頼性を検討した。
    【結果および考察】
     各15名の検者内級内相関係数は、r=0.929~1.000と高い相関を示した。検者間級内相関係数は5°単位で計測している点を考慮し、3回の測定値の平均でなく、3回目の測定値を15名の代表値として係数を求めた。その結果、r=0.962と高い相関を示した。今回の結果より、角度計の測定精度(信頼性)は高いと示唆された。また角度計は、学生や新人理学療法士のROM測定の測定誤差解消などにも幅広く利用できると思慮された。今後さらに信頼性について検討していくとともに、妥当性についても検証していきたい。
  • 片渕 友一, 村田 伸, 中山 伸太郎, 宮副 智礼, 渡邊 絵理子, 野方 徳浩, 中村 隆弘, 宮崎 真樹
    セッションID: 083
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/03/28
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    【目的】
     一般に、下肢に疾患を有し整形外科的手術を行った患者は、術後より患肢の機能低下がみられ、以後も動作に影響する例が少なくない。そのため術後では、患肢の機能やADL評価が重要である。そこで、本研究の目的は、先行研究で簡易下肢機能評価法として有用な下肢荷重力測定法が、下肢荷重力と身体機能との関連性から、下肢術後において有用な評価法となり得るかを検証することである。
    【方法】
     対象は、当院でリハビリテーションを行っている下肢術後の女性患者19名とした。平均年齢は75.8±7.6歳、平均体重53.1±9.4kgであり、手術の内訳は大腿骨骨接合術10名、大腿骨骨頭置換術1名、人工股関節術3名、人工膝関節術3名、その他2名であった。 なお対象者はいずれも術後で立位および歩行が可能な者とし、重篤な心疾患や循環障害等の合併症を有する者、理解力が不良な者は対象から除外した。なお、本研究は当院倫理委員会で承認を受けて開始した。方法としてまず、下肢荷重力測定は、先行研究に基づき治療台に端坐位とし、下肢で市販体重計を垂直方向に押す方法とした。健肢・患肢それぞれ2回ずつ行い、その最大値を測定値とした。その他の測定項目は、1.大腿周径(膝蓋骨上縁より10cm・15cm上方)、2.大腿筋四頭筋筋厚(超音波測定装置 ビジファット EU-2002B使用:周径と同部位)、3.大腿四頭筋筋力(ハンドヘルドダイナモメーター使用:端坐位)、4.ADL能力(FIM motor使用)を測定した。また、下肢荷重力および筋力はそれぞれ体重比百分率に算出して分析した。統計処理にはSPSS16.0Jを用い、各測定項目の関連性をSpearmanの順位相関係数を求めて検定を行った。なお、統計的有意水準は5%未満とした。
    【結果】
     患肢における各測定項目の結果は、下肢荷重力体重比23.3±10.8%、筋力体重比14.3±7.3%、周径(10cm) 39.2±4.3cm、(15cm)41.2±6.4cm、筋厚(10cm)16.1±5.4cm、(15cm)21.2±7.1cm、FIM motor62.7±22.5点であり、FIM motorの項目別では、セルフケア31.5±10.9点 排泄10.9±4.3点 移乗12.8±5.1点 移動6.2±3.9点 である。
     下肢荷重力と筋力との間に有意な正の相関(r=0.57、p<0.05)が認められ、下肢荷重力は筋厚15cm(r=0.58、p<0.01)、FIMmotor(r=0.69、p<0.01)との間に、項目別ではセルフケア(r=0.68、p<0.01)、移乗(r=0.87、p<0.01)、移動(r=0.80、p<0.01)との間にそれぞれ有意な正の相関が認められた。大腿四頭筋筋力もそれぞれFIMmotor(r=0.58、p<0.01)との間に、項目別ではセルフケア(r=0.51、p<0.05)、移乗(r=0.49、p<0.05)、移動(r=0.56、p<0.05)との間にそれぞれ有意な正の相関が認められた。
    【考察】
     本研究では、下肢術後における下肢荷重力と身体機能との関連に着目し検討した。下肢荷重力は、先行研究で体幹や大腿四頭筋筋力との関連性が報告されている。本研究の結果より、患肢の下肢荷重力は筋厚、ADLと有意な相関関係にあり、特にADLにおいて、移乗・移動動作との相関が高いことを示した。また、筋力も同様にADLおよび同項目と有意な相関が認められたが、下肢荷重力の方が筋力と比べ相関係数が高かった。これらのことから、下肢術後における下肢荷重力測定は、術後の患側下肢機能の評価尺度として有用であることが示唆された。
  • 柳迫 由佳, 岡 治道(MD)
    セッションID: 084
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/03/28
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
     昨年,当院リハビリテーション科にアニマ社製シート式足圧計測装置(以下,足圧計)が導入され,各疾患患者に対し歩行の客観的な評価・治療判定が行えるようになった.今回は腰椎椎弓切除術後患者の歩行について歩容評価と足圧計評価を行い,改善の客観的指標として有用であるかを検討した.
    【症例紹介】
     70歳代,女性.診断名:腰部脊柱管狭窄症.農業を営み,家庭内では家事全般を担っている.平成22年1月に他院にて腰椎椎弓切除術を施行後,左腰部~左下肢の疼痛・痺れが軽減せず,当院へ紹介受診となった.平成23年2月9日にL4~S1内視鏡下椎弓切除術施行.脊柱以外の骨関節疾患または合併症は無かった.
    【方法】
     (1)日本整形外科学会腰痛疾患治療成績判定基準(以下JOA score,自覚症状・他覚所見・ADL)(2)歩容(3)足圧計{歩幅・歩隔,足圧中心点(以下COP)の移動距離・加速度}をそれぞれ術前・術後1週・退院時(術後2週)に評価した.
    【結果】
     (1)JOA scoreについては自覚症状5→7→8点,他覚所見5→5→6点,ADL11→9→11点と変化した.(2)歩容については,術前に認められた右立脚中期の体幹右側屈・対側骨盤の降下,左立脚中期の骨盤の左側偏位は術後1週の時点で修正され,前額面における姿勢がほぼ対称的となった.また,退院時には歩行周期における骨盤の回旋運動が観察された.(3)足圧計での計測結果からは,平均歩幅40.0→41.0→44.3cm,平均歩隔7.0→4.0→3.8cmと変化を認めた.COPの移動距離情報からは,まず術後経過につれて左右方向の移動距離が右1.1cm・左1.4cm短縮した.前後方向におけるCOPの加速度については,右足では術前,最高値は接地後0.08秒(立脚初期)に示したが,術後1週では徐々に立脚後期へ移行し,退院時には接地後0.7秒(立脚後期)で最高値を示した.左足では,術前では右足と同様に接地後0.12秒で最高値を示し,術後1週では接地後0.7秒へ変化した.しかし退院時には再び接地後0.14秒に最高値を示す術前と同様の波形を認めた.
    【考察】
     術後アプローチを通して,セラピストによる歩容評価をはじめ,足圧計評価からも歩幅・歩隔などの距離情報に良好な変化を得た.COPの左右移動距離が短縮したことから,単脚支持期での身体動揺が軽減したことが考えられる.また,術後経過につれて右足の加速度最高値が立脚後期へ移行したことから蹴り出し力が増したことが考えられ,歩行時の骨盤回旋や歩幅拡大に繋がったと推測された.足圧計評価は足部の接地情報を示すが,歩行分析を加え多角的に捕らえる事で腰部疾患に対してもセラピストの評価に客観性を付加でき,臨床評価としての有用性は高いと思われた.今回は1症例での報告となったが,今後は複数症例での比較検討・評価方法の再考が求められると考える.
  • ~第3報~
    塩崎 智之
    セッションID: 085
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/03/28
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
     先行研究においてハイリスク転倒者の選定を目的に当施設での自立度判定表を作成した.本研究の目的は実際に自立度判定表を使用しその後の転倒との関連性を検証することで自立度判定表の実用性の有無及び臨床場面での使用方法を検討することである.
    【方法】
     当施設入所時またはセラピストにより歩行での移動が可能であると判断され移動方法の変更を行う際にBerg Balance scale(以下BBS),日本版Fall Efficacy scale(以下FES),Stop When Walking Test(以下SWWT)を測定した.その結果をふまえ看護師,介護士とのカンファレンスにて移動方法の変更の可否を判断し,3か月間の転倒の有無を調べた.今回の研究ではカットオフ値として先行研究で算出されたBBS:47点,FES:31点SWWT:NO判定を採用した.転倒群と非転倒群に分類しBBS,FES,SWWT及び各検査の2項目,3項目を組み合わせた場合のテストの感度,特異度,陽性的中度,陰性的中度を算出した.
    【結果】
     今回の研究において20名中転倒者は10名であり検査前確率は50%であった.それぞれのテストの結果は感度,特異度,陽性的中度,陰性的中度の順に記載するとBBS:70%70%70%70%,FES:80%60%66%75%,SWWT:20%100%100%56%,BBS+FES:90%50%64%83%,BBS+SWWT:80%70%73%78%,FES+SWWT:90%60%69%86%,BBS+FES+SWWT:100%50%67%100%であった.
    【考察】
     今回検査後確率(陽性的中度)はすべての検査において検査前確率に比べ高かった.すなわちハイリスク転倒者を見極めるため,自立度判定表の利用が効果的であることがいえる.また,3項目のコンビネーションテストにおいて感度・陰性的中度が100%であり転倒の危険性の低い利用者の選定に有効である.ただし,特異度の低さから3項目全てカットオフよりも高い利用者のみを自立にすることは利用者の活動度を下げることになる.2項目のコンビネーションテストでは感度・特異度ともに高くハイリスク転倒者・自立可能者の選定に有用であることがいえる.
    【おわりに】
     当施設での自立度判定表はハイリスク転倒者・自立可能者の選定に有用であることがいえた.しかし,3つの検査で転倒発生をすべて予測するのは困難であり,実際はこの自立度判定表を使用しカンファレンスで情報を共有することで転倒の発生を最小限にすることと訓練場面への応用が大事である.
     今回の研究では症例数の少なさが問題であり、今後は症例数を増やすとともに多施設での研究を行うことでより妥当性の高い検査にする必要があると考える.
  • 中山 泰人, 川口 博, 北島 貴大, 村田 伸
    セッションID: 086
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/03/28
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
     上肢操作機能評価では,簡易上肢機能検査(以下STEF)や脳卒中患者の上肢機能検査(MFT)などが一般的である.しかし,検査に時間がかかり患者に負担が生じやすい.本研究では,短時間で検査が可能なPurdue Pegboard Test(以下ペグテスト)の上肢機能検査としての妥当性を検討した.
    【対象】
     当院でリハビリテーションを受けている脳血管障害による片麻痺患者で,重度の認知および高次脳機能障害が認められない高齢者27名(男性10名,女性17名)の非麻痺側上肢27肢である.なお,被験者には研究の内容と方法について十分に説明し,同意を得た後研究を開始した.
    【方法】
     STEF,ペグテストの検査肢位は椅子座位(足底が着く高さのもの)とし,机端との距離はこぶし一個分に統一した.机の高さは上肢を下垂させ,肘を90度屈曲した時,腕の底部が机の上部に接するように設定した.ペグテストは,25個の穴が縦に2列配置されたボードに鉄製のピン(長さ:25mm,直径:3mm)を一定時間内に片手で何本差し込むことができるかを評価する.本研究では30秒間と1分間の計測を非麻痺側で2回行い,2回の平均値を採用した.STEFは説明書に基づき,非麻痺側のみで行い,各検査に要した所要時間も測定した. 統計学的処理は,ペグテストの本数とSTEFの点数,ならびに各項目における所要時間との関係をピアソンの相関関係を用いて検討した.なお,統計学的有意水準は5%とした.
    【結果】
     STEFの平均値は87.3±7.1点であり,30秒間のペグテストの平均値は9.6±1.5本,1分間のペグテストでは19.5±3本であった. STEF と30秒ペグテストの相関係数はr=0.29,1分間ペグテストではr=0.56(P<0.01)であり,1分間ペグテストのみ有意な相関が認められた.
     STEFの各項目別の所要時間と1分間ペグテストとの間に有意な相関が認められたのは,大球r=-0.40(P<0.05),中立方r=-0.47(P<0.05),小球r=-0.50(P<0.01),ピンr=-0.51(P<0.01)であった.その他の項目(中球r=-0.10,大直方r=0.06,木円盤r=-0.21,小立方r=-0.20,布r=-0.37,金円盤r=-0.33)には、有意な相関は認められなかった.
    【考察】
     本研究において, 1分間のペグテストのみSTEFとの有意な相関が認められた.このことより,少なくとも1分間程度のテスト時間を設定する必要性が示唆された.STEFの項目別にみると,大球や中立方のような粗大な握り動作の要素が大きい項目や、小球,ピンのうように指尖つまみ動作の要素が大きい項目に有意な相関が認められた. このことは,STEFと1分間のペグテストでは,どちらも,肩関節,肘関節,手関節,手指の複合した運動であることが関係していると推察した.しかし,横つまみや握り動作の要素が大きい項目に関しては有意な相関が認められなかったことから,総合的に上肢機能を評価するためには、1分間のペグテストのみでは不十分であることも明らかとなった.
  • 森田 潤, 櫻木 美穂子, 宮永 敬市, 橋元 隆
    セッションID: 087
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/03/28
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
     北九州市の高齢化率は、平成22年3月31日現在において、政令指定都市の中で最も高い24.8%となっている。このため北九州市では、身近な地域で市民が介護予防に取り組むことができる環境を促進することを掲げており、その一つの方法として、オリジナルの介護予防体操「きたきゅう体操」、介護予防太極拳「ひまわりタイチー」を開発した。「きたきゅう体操」及び「ひまわりタイチー」は、介護予防事業の一般高齢者施策として65歳以上の要介護認定を受けていない市民を対象に、自主的なグループ活動を促し、介護予防に取り組むための様々な普及・啓発活動を行っている。
     当センターでは、平成20年度より北九州市から委託を受けて実施してきたところである。以下、平成22年度の取り組みを報告する。
    【方法】
     普及・啓発方法は、教室、体験会、普及活動、指導者向け研修を実施した。体験会は、市民の既存グループを対象に随時実施し、「きたきゅう体操」及び「ひまわりタイチー」を活用した継続的な運動を促した。教室は、グループに属していないが介護予防のため運動をしたい市民を対象とした。普及活動は、多くの市民へ認知を促すためにイベント等で実演を行った。指導者向け研修は、自主グループを作り活動するリーダーを養成した(「ひまわりタイチー」は普及員養成講座として実施)。
     「きたきゅう体操」は、準備体操、筋力向上体操、バランス協調体操、整理体操で構成された20項目の体操プログラムであり、理学療法士、作業療法士が指導を行った。ひまわりタイチーは、北九州市武術太極拳連盟の協力により、専門の指導員が太極拳の特性・風格を活かしながらストレッチや全身の筋力アップの指導を行った。
    【結果】
     「きたきゅう体操」は、教室(4会場、延べ591人)、体験会(60箇所、延べ1076人)、普及活動(2箇所、延べ6581人)、指導者向け研修(延べ37人)の参加があった。「ひまわりタイチー」は、教室(7会場、延べ2015人)、体験会(33箇所、延べ637人)、普及活動(4箇所、延べ6732人)、普及員養成講座(延べ495人)の参加があった。また、参加した市民の80%以上から「今後とも継続したい」とのアンケート結果が得られた。
    【まとめ】
     新しい取り組みとして平成22年度からは、「ひまわりタイチー普及員養成講座」で自主グループ活動を支援するリーダー養成を始めた。講座終了後約3ヶ月経った時点で16団体の登録があり、積極的な自主グループづくりが進んでいる。今後の展開としては、普及・啓発活動と同時に身近な地域で継続して介護予防が行える環境を整えるために、地域の介護予防活動を把握し、指導者の養成に取り組んでいきたい。
  • 羽野 裕介, 大里 浩之, 高辻 勇太, 松崎 秀隆, 副島 修
    セッションID: 088
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/03/28
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
     投球時のlagging back現象によって、肘関節外反が誘発され発生する内側型野球肘は成長期投球障害の代表例の一つである。本疾患においては、尺側手根屈筋や浅指屈筋が外反に抗する内反トルクとして動的に肘関節外反制動に寄与するとの報告がある。また、成長過程にあるジュニア期においては、その影響はより大きなものであると考えられる。これら症例において、当院では前腕屈筋群、特に尺側手根屈筋、円回内筋に圧痛を認める例が多く、投球過多やオーバーユースなど筋疲労が背景にあると考えている。
    【目的】
     当院で内側型野球肘と診断されたジュニア期選手は、軟式野球競技者およびソフトボール競技者であった。ポジション別では、軟式野球競技者はピッチャー、ソフトボール競技者は野手に多いという特徴を認めた。今回これら症例の尺側手根屈筋、円回内筋の筋活動に着目し、軟式球およびソフトボールの違い、ボール把持の違いが肘関節外反ストレスに影響をおよぼすのかを検討した。
    【対象】
     上肢に手術などの既往がない健常成人男性7例7肢、平均年齢は26.7±3.1歳、利き腕を調査対象とした。対象者には研究参加への任意性と同意撤回の自由について承諾を得て実施した。
    【方法】
     体幹、下肢の影響を一定にするため直立姿勢とし、肩関節外転、外旋90° および肘関節屈曲90° 、前腕中間位、手関節中間位にて手掌部に対し肩関節外旋方向へ2kgの負荷をかけ10秒間固定、その時期の尺側手根屈筋、円回内筋の筋活動量をノラクソン社製筋電図モニターを用いて導出し、比較検討した。測定には軟式球とソフトボールを使用し、母指~中指の3指で把持する野球ボール把持のものと、母指~小指の5指で把時するソフトボール把持のものを用いた。それぞれのボールで2回の測定を実施し、その平均値を測定値としてMann-Whitney検定を用いて有意差検定を行った。
    【結果および考察】
     軟式球を5指で把持した場合、同様にソフトボールを把持した場合よりも尺側手根屈筋の筋活動が有意に増加することが示唆された。一方、3指の把持において有意な違いを認めなかった。一般的にジュニア期では軟式球は3指で把時し、ソフトボールは5指で把持することが多い。今回の結果から、ボール把持の違いが肘関節外反時の尺側手根屈筋、円回内筋の筋活動量に影響を与えないことが示唆された。今回、肘関節外反制動の影響を前腕筋の筋出力で検討を行ったが、今後は投球動作として動的な要因の関連を研究していく必要がある。
  • ~ストレステストの有用性~
    大堀 洋平, 小林 豊和, 黒田 良
    セッションID: 089
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/03/28
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
     疲労性骨膜炎・疲労骨折は,スポーツ選手によく起こる疾患である.理学療法評価において,疲労性骨膜炎・疲労骨折の病態を示唆する評価法は散見するばかりである.今回、骨に直接的にストレスを加える評価法を考案した.その評価法を用い,アプローチの結果,良好な結果が得られたので,ここに報告する.
    【症例紹介】
     小学生(高学年),男性,野球選手(軟式・センター/ショート・右投げ左打ち).診断名は,右脛骨疲労性骨膜炎.レントゲンは,異常所見なし.現病歴は,当院受診約3週間前,走行時に右下腿内側に疼痛出現.疼痛軽減しないため,当院受診した.受診時の主訴は,歩行時痛であった.
    【理学療法評価】
     圧痛は右脛骨近位内側にあり,歩行時に疼痛出現.立位アライメントは,右足位やや外転位,両膝顆間距離2横指,右骨盤やや前方回旋位,体幹やや右側屈位.脛骨ストレステスト(徒手で脛骨に外反・内反,前弯・後弯,外旋・内旋ストレスを加える)実施(以下,疼痛出現時,+と表記する).外反ストレス(++),前弯ストレス(+),外旋(遠位)ストレス(+).スクワッティングテストは,knee in時疼痛出現.歩行において,initial contactからmid stanceにかけて遅延し、骨盤・下腿外方移動不十分であった.
    【アプローチ】
     当院初診時;右足部に内側縦アーチサポーター(ソルボ素材)装着.
     約1週間後;サポーターに,後足部横アーチパッド1mm追加.
    【経過】
     理学療法開始(当院初診)時,右足部への内側縦アーチサポーター装着にて,歩行時痛消失.練習は,走行・ノック禁止.約1週間後,走行時痛は10点法にて2点と軽減し,後足部横アーチパッド1mmを追加にて走行時痛消失.翌日には,制限なく練習参加.約3週間後来院し,圧痛・動作時痛消失を確認し,終了.
    【考察】
     本症例は,動作時,脛骨近位内側に疼痛が出現していた.疲労性骨膜炎・疲労骨折は,疼痛部位にどのようなストレスが加わり生じたのかを把握することが重要と考える.どのようなストレス(方向・種類)かを示唆する評価として,脛骨へ直接的にストレスを加えた.その結果,脛骨外反・前弯・外旋(遠位部)ストレスにて,疼痛出現した.荷重位にて,スクワッティングテストを行い,knee inにて疼痛出現し,歩行時立脚期において,骨盤・下腿外方移動不十分であった.以上を解釈すると,本症例の疲労性骨膜炎は,立脚期における下腿の前内方への動きが脛骨近位内側への離開ストレスとなり,疼痛を発生させていたのではないかと考える.よって,右足内側縦アーチサポーターを装着することで,立脚期に下腿を後外方へ誘導し,離開ストレスを軽減させ,疼痛軽減に至ったと考える.
    【おわりに】
     疲労性骨膜炎・疲労骨折の理学療法において,骨への直接的ストレステストは病態を示唆する有効な評価法であり,サポーターの適切な選択,運動療法の一助となると考える.今後,ストレステストと動作の関係を検討していきたいと考える.
  • 安田 知子
    セッションID: 090
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/03/28
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
     こどもの運動不足や能力低下が危惧される一方、早期から競技スポーツに携わるこどもたちも多い。今回、小学生を対象にスポーツ外傷に関するアンケート調査を行ったので若干の考察を加えて報告する。
    【対象】
     某公立小学校生徒690名中、有効回答460名(男児214名、女児246名)をコントロール群とした。また、県内でスポーツ整形外科を専門としている医療機関9箇所を平成15年9月末から約1ヶ月間に受診し、調査協力可能であった117名中の有効回答97名(男児66名、女児31名)を受診群とした。
    【調査内容】
     アンケートは、年齢、性別、身長、体重、現在行っているスポーツ、外傷の既往とし、受診群は診断名も調査した。尚、アンケートは、本調査の趣旨を説明し、同意を得られた無記名の回答を集計した。
    【結果】
     コントロール群の平均年齢は8.9±1.9歳、身長132.5±12.2cm、体重29.7±8.4kg、受診群10.3±1.6歳、141.9±11.6cm、35.0±8.9kgであった。コントロール群の205名が競技を行っており、多いものから水泳77名、野球27名、サッカー19名、バスケット18名であった。受診群82名は、野球29名、バスケット25名、サッカー10名であった。
     次に、競技種目と外傷との関連性を検討した。コントロール群の水泳は、いわゆる筋肉痛などが3名であった。野球では、キャッチボール中の骨折1名、走行時の膝等の痛み3名であった。サッカーでは、足関節捻挫1名、競技後の痛みが7名で、バスケットは、7名が足関節捻挫で受診、いわゆるつき指の3名は受診していなかった。また、オスグッドを疑わせる膝痛が4名いた。受診群の野球は、足関節捻挫や打撲などが5名、野球肘が12名であった。サッカーは、足部骨端線障害5名、膝蓋靭帯周囲痛も2名いた。バスケットは、足関節捻挫が4名、打撲5名、突き指が3名、有痛性外脛骨など足部痛は2名、膝蓋靭帯炎も2名であった。
    【考察】
     コントロール群と受診群では年齢、身長、体重には有意水準1%で有意差を認め、一定の年齢に達して以降に外傷が多発していることを示していると考えられた。競技種目と外傷の関連では、水泳はコントロール群で最も多く行われていたが、受診群では少なく、起因する外傷もなかった。水泳は、全身運動として幼少期から親しませる種目として推奨されており、かつ安全に楽しむことができると考えられた。野球は、受診群に野球肘が多く、コントロール群にはいなかった。これは体幹を含めた正しい投動作習得の難しさと、肘関節が成長期では未成熟な関節であることに加え、練習量の過多等の問題にも注意が必要であることを示唆すると考えられた。球技系では、急性外傷の足関節捻挫が多く、避けがたい問題であり、適切な予防策が必要であると考えられる。受診群の成長期に特有な骨端線障害は、コントロール群も同様な問題が疑われ、的確な診断と治療が必要ではないかと考えられた。
  • 森田 正輝, 永吉 由香, 平岡 大介, 木村 淳志
    セッションID: 091
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/03/28
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
     前十字靭帯再建術(以下、ACLR)後患者は、関節固有受容器の破綻により関節位置覚・運動覚(固有感覚)の低下が認められる。固有感覚の一般的な評価法は、非荷重位で行うものであり、スポーツ動作との関連性が薄い。また、ACLR後の固有感覚とスポーツ動作を関連付け調査した報告は無い。今回、スポーツ動作の中でも前十字靱帯損傷を起こしやすいとされるジャンプ動作に着目し、動的な固有感覚の評価法を検討した。
    【対象】
     片側ACLRを施行し、18ヶ月以内の症例(以下、短期群)14例(BTB法13例13膝・ST法1例1膝、平均年齢20.9±3.6歳)、18ヶ月以上の症例(以下、長期群)15例(BTB法14例14膝・ST法1例1膝、平均年齢22.5±3.4歳)。
    【方法】
     足元に視線を向けず、前方を向いた状態での片脚立位を開始肢位とした。開始肢位から、出来る限り高く、上方へジャンプする事を指示し、母趾の踏み切り点から着地点までの誤差を測定した。測定は、健側と患側ともに、開眼・閉眼にて、それぞれ3回ずつ(計12回)測定した。短期群と長期群の2群を、健側と患側の開眼・閉眼間で比較検討した。
     統計学的処理は、Mann-Whitney U-testを用い、5%未満を有意差ありとした。
    【結果】
     短期群は開眼時、健側58.64mm,患側58.82mmで有意差は認められなかった。閉眼時は、健側60.84mm,患側104.22mmで患側の差が有意に増大した。
     長期群は開眼時、健側68.67mm,患側72.19mm、閉眼時は健側69.17mm,患側87.98mmでいずれも有意差は認められなかった。
    【結論】
     閉眼がACLR後患者のジャンプ動作に影響を及ぼすことが分かった。閉眼によるジャンプ動作は有用な評価法として活用できる。さらに術後からの期間が関与していることも分かった。この結果より、競技復帰に当たって、開眼のみでなく閉眼でのスポーツ動作訓練が必要であると考えられる。今後、術後からの期間を詳細に分け、基準を明確化したい。
  • ~アンケート結果より~
    川頭 由実子, 大塚 則男, 大社 学美, 花田 直美, 岡 瑛子
    セッションID: 092
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/03/28
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
     当院では糖尿病患者に対する療養指導として糖尿病教室入院を行っており、その中で理学療法士は40分の講義にて運動療法指導にあたっている。糖尿病の療養指導では、個人の身体状況や生活スタイルに合わせた個別な指導が重要とされており、今後個別指導を実施していくにあたり糖尿病患者の運動の傾向や現状を把握するためアンケートを実施し、今後の指導方法について検討したので報告する。
    【対象と方法】
     平成22年12月から平成23年3月までに当院で糖尿病教室入院した患者100名(男性63名、女性37名)にアンケートを実施。アンケートは1)運動の好き嫌い、2)普段から運動を心がけているか、3)運動の必要性を実感しているか、4)仕事の有無、5)疼痛、6)動悸や息切れの有無、7)麻痺の有無の全7項目であり、その後運動習慣があると答えた75名(男性47名、女性28名)と、運動習慣がないと答えた25名(男性16名、女性9名)に分けて2つの群を比較した。また、習慣がないと答えた群には、運動していない理由について選択回答(複数回答可)にて調査した。なお、アンケートは趣旨を説明し同意を得て実施した。
    【結果】
     1)運動習慣のある群(以下あり群):好き37%、普通52%、嫌い11%。運動習慣のない群(以下なし群):好き12%、普通48%、嫌い40%。2)あり群:心がけている71%、心がけていない29%。なし群:心がけている20%、心がけていない80%。3)あり群:実感している100%。なし群:実感している80%、実感していない20%。4)あり群:仕事している47%、していない53%。なし群:仕事している60%、していない40%。5)あり群:疼痛有り53%、無し47%。なし群:疼痛有り48%、無し52%。6)あり群なし群ともに有り24%、無し76%。7)あり群:有り3%、無し97%。なし群:有り8%、無し92%であった。また、なし群の運動していない理由として最も多かった回答は、始めても続かない、時間がないであった。
    【考察】
     運動習慣がある群とない群の結果を比較すると運動の好き嫌い、心がけ、運動の必要性に対する実感、仕事の有無に差がみられた。また、運動していない理由では、続かない、時間がないなどが大半を占めた。一方、疼痛、動悸息切れ、麻痺などの身体面の状況にはあまり差がみられなかった。このことから、自宅での運動習慣の有無は、運動の好き嫌いや意識の高さなどが大きく影響していることが推測される。また、時間的な余裕の有無も影響していると思われる。今後は運動習慣のない方に対し、運動の効果や必要性を分かりやすく説明し、運動が嫌いな方でも取り組みやすいような簡単な運動方法の提案、パンフレットの作成、時間的余裕がない方でも生活に取り入れやすい運動方法の工夫・提案等を行っていきたい。
  • 溝上 沙央里, 稲田 剛久, 平野 康二, 大垣 充, 福島 正剛, 月川 奈菜, 濱辺 淳一, 大城 昌平
    セッションID: 093
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/03/28
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
     今回、当施設通所リハビリテーションのご利用者が腰椎圧迫骨折後に入院加療を経て、日常生活関連行為(以下、IADL)の再獲得を目的に入所された。在宅復帰に向けて、他職種との連携を図り取り組んできたことを報告する。
    【症例紹介】
     80歳代女性。次男家族と2世帯住宅に住まれている。受傷前は家事全般をご自身で行なっていた。買い物や病院受診は徒歩または公共交通機関を利用されていた。平成23年1月18日に風呂場の出入り口で段差につまずき転倒し、腰椎圧迫骨折を受傷している。入院加療を経て、平成23年3月7日に当施設にIADLの再獲得を目的とし、早期在宅復帰を目標に定め入所となった。
    【作業療法評価】
     入所前に家屋状況をチェックし、ご本人様・ご家族様の要望を詳細に情報収集した。基本動作では屋外歩行以外は問題なし。セルフケアでは入浴行為以外は自立。IADLは身の回りの清掃は可能。立位での作業は腰痛のため長時間は困難。洗濯物干しは軽い物であれば可能。身体面では作業時の腰痛と下肢筋力低下があった。立位バランスも不安定で転倒の危険性がある。
    【取り組み】
     作業療法は、温熱後に徒手アプローチ、マシントレーニングを行なった。立位での調理や買い物を実施した。その他、家庭内でも調理、入浴、洗濯、掃除を4回実施し、退所までに試験外泊を3回行った。そこで、ご本人様・ご家族様から不十分なことを情報収集し、以後のアプローチに反映させた。看護・介護スタッフも屋外歩行や洗濯、ポータブルトイレの洗浄を実施した。
    【結果】
     上記のアプローチの結果、下肢筋力の向上や歩行時の安定性が増している。立位でのIADLにおいても痛みや疲労感が軽減し、長時間の作業時間が可能になり、時間短縮にもつながった。
    【考察】
     現在、介護老人保健施設が直面している問題として退所率の低下がある。今回、早期在宅復帰を目標に取り組みを行い、入所前からご本人・ご家族との話し合いを持つことができた。結果、より具体化された目標を見出すことでき、全スタッフ同じ認識のもとアプローチが可能となった。要望や目標が明確になったことで、入所初日から全スタッフ同じ認識でアプローチできたと考えられる。さらに施設内では実施することが困難な課題も、ご本人のご自宅で体験できた。そのことにより、ご本人の「自宅に帰りたい」というモチベーションを保ちつつ、自信もついたのではないかと推測された。
     今後退所に向けて、ご本人・ご家族が安心でき在宅生活を長く継続できるような、フォロー体制を全スタッフで確立する必要がある。
  • ~食事姿勢・時間の改善のために~
    平野 康二, 稲田 剛久, 福島 正剛, 月川 奈菜, 大垣 充, 溝上 沙央里, 濱辺 淳一, 大城 昌平
    セッションID: 094
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/03/28
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
     身体機能が低下し褥瘡が発生した高齢者は、褥瘡の治療を優先させるため離床時間を制限し、臥床時間が長くなる傾向にある。そのため廃用性の機能低下が進行する問題に直面する。褥瘡の治療を行いながら離床時間を確保し、廃用症候群を予防していくには、座位時に接触面の除圧が重要である。今回、車椅子座位の不良姿勢により褥瘡が発生し、また食事動作においても摂食動作が困難な入所者様に対し、車椅子座位時の除圧と食事姿勢の改善を目的に車椅子の変更とシーティングを実施した。良好な効果が得られたので報告する。
    【対象】
     80歳代女性。診断名は脳梗塞後遺症左片麻痺(平成14年発症)。脳血管性認知症、陳旧性腰椎圧迫骨折。平成15年2月当施設入所。徐々に機能低下みられ、殿部への褥瘡を繰り返していた。要介護度は5である。
    【理学療法評価】
     Brunnstrom recovery stageは上肢2、手指1~2、下肢2レベル。Hoffer座位能力分類(JSSC版)における座位能力は3(座位不能)。車椅子座位姿勢は簡易モジュラー型車椅子、モデラートクッション(ラックヘルスケア株式会社)使用。骨盤は後傾・右回旋位。体幹は円背・左側屈・左回旋位。頚部は屈曲・右側屈位。食事動作は所要時間約50分程度で全介助。食事摂取量は8割程度。頚部の不良姿勢により、摂食動作困難。OHスケールは8.5点(危険要因は高度レベル)。褥瘡発生部位は左臀部、右臀部、臀裂の順に多い。大きさは最大1.3×0.5cm。夜間の体交は2時間毎に実施。日中の離床時間の細かな設定はない。
    【介入】
     車椅子を簡易モジュラー型からティルト型車椅子へ変更。座面の除圧を図るためモデラートクッションからアカデミークッション(ラックヘルスケア株式会社)へ変更。背部の褥瘡防止のためバックサポート部に市販の低反発クッションを設置。
    【結果】
     骨盤・体幹・頚部の傾き改善により摂食動作改善。食事時間の減少(約30分程度)。食事摂取量の向上(全量摂取)。褥瘡部の治癒。
    【考察】
     褥瘡の発生リスクの一つは臥位や車椅子座位時間が長く、除圧ができない状態が続くことである。本症例は自力での姿勢修正や除圧が困難で、褥瘡を繰り返す状態であった。そのため臥床傾向にあり、そのなかで食事時間が長く、不良姿勢の影響により摂食動作も介助が困難な状態であった。今回車椅子をティルト型へ変更し、シーティングを実施したことにより、骨盤・体幹・頚部の傾きが改善されたこと、ティルトを行なうことで除圧が図られたことにより食事姿勢・時間の改善、褥瘡部の治療が行えたと考える。今後は褥瘡リスクの高い入所者様の臥位・座位時の姿勢と姿勢補助具の選定、臥床・離床時間を細かに設定する個別プログラムの検討が必要であると考える。
  • 川藤 典子, 佐藤 哲也, 金子 創一, 阿比留 淳也, 牛津 智美
    セッションID: 095
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/03/28
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
     当院回復期リハビリテーション病棟において、人工骨頭置換術後に3度の脱臼を経たが、在宅復帰を遂げることが出来た症例を担当する機会を得た。安全、かつ早期に病棟内ADLを拡大するための回復期リハビリテーション病棟の取り組み、在宅での再脱臼に対するリスク管理を含めた動作指導などを行った一症例をここに報告する。
    【症例紹介】
     70代後半女性、自宅で転倒により受傷し、右人工骨頭置換術施行なる。合併症に高血圧症、狭心症慢性肝機能 障害、心不全、腎不全を持つ。認知機能の低下はなく、人当たりがよく周囲へ気を配るが、内向的でやや悲観的思考傾向あり。入院前の移動動作能力は室内独歩・室外歩行車歩行レベル。また入院中、合併症などの影響から積極的なリハビリ困難といった状況もしばしば見られた。
    【経過】
     自宅で転倒し、受傷 10日後手術施行。翌日より端座位開始、術後5日より平行棒内歩行開始。1 週経過後、回復期病棟へ転棟となる。3週経過時より、熱発や逆流性食道炎の影響からADL拡大が困難となり、車いす移動となる。術後 6週、トイレにて患側へしゃがもうとし、後方脱臼する。その後四点杖歩行可能となるが術後10週の際再脱臼、2日後再々後方脱臼を繰り返す術後14週に歩行車移動見守りレベルにて自宅退院となる。
    【まとめ】
     一般的にTHAや人工骨頭置換術後、約8週間は脱臼のリスクが高い時期とされているが、実際の脱臼発生頻度の割合は1 ~5%程度とされる。また再脱臼の発生率は1回目に比べ約 2~3倍になるといわれており、チーム間での早急の対応が求められた。回復期病棟での取り組みとして、統一した動作を指導するために各ADL において一連の動作を写した写真を作成しデモンストレーションによる申し送り・指導を行い、更にベッドサイドに掲示した。また病棟での日常生活そのものを利用して脱臼に対する注意を喚起する事で、患者本人の認識を高めた。特にベッド周囲環境などを在宅と一致させ、在宅へ円滑に移行出来る動作の習得へアプローチを行った。動作指導の中で「行ってはいけない動作」と指導していた部分を、具体的な肢位を表記し、「安全に行える動作」と視点を転回することで、日常生活を拡大する内容へ改善を行った。その際に写真を使用し、安全な動作を視覚的方面からと実際の動作反復によるアプローチを徹底した。今回の反省点を踏まえ、現在脱臼予防動作写真付説明書を作成し、入棟日に配布すると共にベッドサイドへ掲示するよう取り組んでいる。また、病棟の多職種間で動作指導の統一を図ることや、チーム間での密な連携によってリハビリ状況や夜間の情報などを共有することが事故防止に繋がると思われる。回復期リハビリテーション病棟でのチームの特性を生かし、全職種が取り組むADL指導や環境設定、その際のより効率の良い指導法や伝え方については今後も改善を続ける必要性があり、課題といえる。
  • 宗野 亮, 松本 清実, 庄山 真理子, 藤井 弘通, 山田 将弘
    セッションID: 096
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/03/28
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
     入院患者にとって排泄動作の自立がニードとして多く挙げられており、日常生活場面においてもかかせない項目である。排泄動作は、下衣の着脱など姿勢の変化が見られる動作であり、立位での静的・動的バランス能力が必要であると考えられる。ADLの中でも早期に獲得したい項目であるが、自立度判定の指標となりえる研究やADLと立位バランス機能の関係についての報告は少ない。そこで今回、大腿骨近位部(頸部、転子部)骨折術後患者の排泄動作に着目し、バランス評価ツールのひとつであるBerg Balance Scale(以下BBS)との関係について検討した。
    【方法】
     平成22年1月から平成23年3月に当院入院した大腿骨近位部骨折術後患者55名(男性10名、女性45名、平均年齢80.4±8.5歳を対象とした。なお認知症や著しいコミュニケーション障害を呈した者は除外した。
     方法は、BBSを測定しFIM(トイレ動作)とBBSの14項目との相関をみた。統計解析には、Spearmanの順位相関計数を用い検討を行った。なお、有意水準はp<0.05とした。
    【結果】
     FIM(トイレ動作)とBBSすべての項目でrs=0.4以上の相関が得られたが、そのなかでも「起立」rs=0.739(p<0.01)「物拾い」rs=0.724(p<0.01)「閉脚立位」rs=0.721(p<0.01)の項目に強い相関が得られた。
    【考察】
     今回、FIMとBBSの項目について検討した。「起立」「物拾い」「閉脚立位」に強い相関が得られた。
     排泄動作の構成要素として座位保持、起立、立位保持、着衣の上げ下げ、陰部の後始末などがあげられる。起立は、座位保持から体幹の屈曲・膝伸展を伴う上下の重心移動、物拾いは着衣の上げ下げの際、膝屈伸を伴う体幹屈曲・回旋動作、閉脚立位は、立ち上がりからの立位保持という動的から静的状態への移行する姿勢保持に関与すると考えられる。
     これらの結果から排泄動作には、立位での体幹屈曲・回旋動作・重心移動など複合的な安定した静的・動的バランスに関与することが考えられる。
     臨床においても一連の動作の中で、どのような動作が排泄の自立を妨げる要因となっているのか明確に抽出していく必要がある。また個人の尊厳を守る為にも排泄動作の早期自立は優先課題であり自宅復帰するためにも重要な動作であると考える。
    【まとめ】
     FIMとBBSの「起立」「物拾い」「閉脚立位」に強い相関がみられ、排泄動作自立には立位での静的・動的バランスが大きく関与していると考えられる。
     今後症例数を増やし、「起立」「物拾い」「閉脚立位」の三項目に着目し、臨床応用していきたい。
  • 川崎 洋平, 前田 英児
    セッションID: 097
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/03/28
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
     長期的な松葉杖歩行は、荷重を受ける上肢へのストレスにより肩・頸部痛を生じ、ADLにおける問題や、QOL低下を生じることがある。筆者もその経験者であり、松葉杖歩行による、肩・頚部痛への問題を感じていた中、大腿骨頚部骨折後に荷重制限を必要とし筆者とよく似た症状を訴える患者を担当した。
     本症例を通して、松葉杖歩行により二次的に生じる肩・頚部の痛みに関して検討したので文献的考察を含めて報告する。
    【症例紹介】
     50歳代女性。H23.1.9交通事故により受傷、診断名は右大腿骨頚部骨折(H23.1.11骨接合術施行Twin hook +CCS)。術後6週間まで完全免荷期間であり、当院入院初期(H23.2.8)より移動手段は主に松葉杖歩行であった。
     入院当初より頚部から右肩にかけて倦怠感を訴えており、肩甲帯アライメントは右肩甲骨が1.5横指下制。右肩甲挙筋に圧痛、頚部右回旋時に右頚部に運動時痛あり、右側への起き上がり時に痛みを訴えることがあった。
     なお、ここで使用する情報に関してはヘルシンキ宣言に基づき、発表することに同意を得た。
    【考察】
     市橋らは、松葉杖歩行による肩周囲の痛みに対しての胸鎖関節の関わりとその治療効果について研究を行っている。市橋らは松葉杖からかかる荷重より、胸鎖関節が荷重関節となり、関節機能異常を起こすことに着目しているが、胸鎖関節だけでのアプローチでは痛みが完全に消失しなかったことを報告している。
     本症例の場合、頚部から右肩にかけての倦怠感を訴えている。これは、完全免荷での松葉杖歩行において、右側下肢の立脚相にあたる時期では、両松葉杖支持であっても右側上肢により強い荷重がかかることが予測される。この荷重に耐えるため、右側の小胸筋、広背筋、僧帽筋下部繊維といった肩甲骨下制筋群が過剰な筋収縮を引き起こし、二次的に右肩甲骨が1.5横指下制するというアライメント異常が生じたものと考えた。
     肩甲挙筋の圧痛・頚部の運動時痛に関しては、上記の理由により、相対的に持続的な伸張ストレスと遠心性収縮を引き起こし、筋スパズムが生じたと考える。そのため、第1~4頚椎の横突起に起始をもつ肩甲挙筋のスパズムが、頚部右回旋時に頚椎関節面上の滑りを阻害し、運動時痛を引き起こしていたと考える。
    【考察に基づいたアプローチ】
     本症例に対してのアプローチとして肩甲骨下制筋群のストレッチを指導したところ、頚部の運動時痛、肩甲挙筋の圧痛に徐々に改善がみられた。全荷重(術後9週)時期には肩甲骨のアライメントに左右差はなくなり、肩周囲の倦怠感・頚部運動時痛の訴えはなくなった。
    【結語】
     本症例を通して、松葉杖歩行では歩行の安全性や安定性だけでなく、二次的に生じる肩・頚部の痛みについて全般的なアセスメント、アプローチ、メンテナンスを行っていく重要性を感じた。
  • ~アセスメントシートを作成・活用して~
    山本 隆人, 毛井 敦, 松崎 哲治
    セッションID: 098
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/03/28
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
     排泄行為は在宅生活を支援する上で最も回数が多く、重要な行為である。しかし、動作面ばかりに着目されがちであり、症状への対処が優先されることが多い。対処方法では、根本的な問題解決にはならないばかりか、返って問題が複雑化することがある。排泄へのアプローチは、行為のどの部分に問題が生じているか、そしてそれが生活全体にどのような影響を与えているかをアセスメントし、問題点を明確にしてアプローチすることが重要である。そこで、『排泄サポートチーム』を発足させ、独自のアセスメントシートを作成し、チームでの取り組みを通して現状の課題と今後の展望について検討したため報告する。
    【当センターでの排泄行為支援における課題】
     当センターでの排泄行為支援における課題として、アセスメント方法が各職種により統一されておらず、着目点にずれが生じている。また、職種間で話し合いをもつ機会が少なく、排泄行為の課題点や目標が共有しにくくなっている。
    【取り組み内容】
     患者の課題を多角的にアプローチしていくために、Dr、Ns、CW、PT、OT、放射線技師の構成とした。また、多職種が同じ視点でアセスメントを行うためのツールとして、独自のアセスメントシートを作成した。シートの特徴は、運動機能・認知機能・膀胱機能の3つの評価項目があり、『行為』として捉える視点を重要視した。カンファレンスでは、排泄行為の問題点と原因を明確にすることに努めて、知識不足を補うため勉強会も平行して実施した。
    【考察】
     現在、チーム発足から数ヶ月経過したが、シートを活用した適切なアセスメントが行え始めている。アセスメントでは、運動機能、認知機能、膀胱機能のどの部分に課題があり、排泄行為が阻害されているのかを明確にし、多職種でどのようにアプローチしていくのかを共有することが必要である。そして、在宅生活を見据えた上で、患者や家族の身体的・精神的な支援につなげ、QOL向上を図ることが重要である。また、サポートチームではPT・OTが多く参加している。従来セラピストは、専門性から動作面ばかりに目がいきがちであるが、退院後の生活を考慮すると膀胱機能に目を向け、排泄動作ではなく排泄行為としてとらえていくことが必要で、これからのセラピストには、こういう視点が今後求められる。
    【おわりに】
     今後は、アセスメントシートの検討を重ね、排泄行為として捉えていく視点を定着させ、より多くの患者の自宅復帰を支援していきたいと考える。
  • 溝田 康司
    セッションID: 099
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/03/28
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
     3月11日に発生した東北関東大震災による津波被害は想像を絶する甚大な被害をもたらした。昨今多発する大規模災害において災害時要援護者対策は、リハビリテーションにおけるリスクマネージメントとして極めて重要な課題といえる。特に通所系事業所の管理運営の中核を担うことが多くなりつつあるPT・OTにおいては、減災に向けた日常業務を常に意識する必要がある。今回、地理情報システム(Geographic Information System:以下GIS)を用いて熊本市所在のPT、OT勤務の病院、施設の立地に着目したリスクマネージメントのための空間分析を行ったので報告する。
    【対象】
     分析対象は熊本市内所在のPT、OTが勤務する病院・施設159施設とした。
    【方法】
     地図データとして国土地理院が公開する基盤地図ベクトルデータと標高データをダウンロードし、地理情報分析支援システム「MANDARA」に取り込んだ。病院・施設については熊本県理学療法士協会及び作業療法士協会が発行する会員名簿をもとに病院・施設の住所と勤務者数を抽出、住所についてはジオコーディングし経緯度と標高を取得、「MANDARA」にポイントデータとして取り込んだ。次に「MANDARA」上でレイヤー管理し背景地図とオーバーレイの上可視化を図った。標高と病院・施設の立地、施設区分、勤務者数についてはクロス集計を行った。
    【説明と同意】
     本研究に使用したデータは個人を特定しないものであり説明と同意は必要ない。
    【結果】
     標高と施設立地では、159施設中標高10m~20m内に立地する病院・施設が45施設(28%)と最も多く、ついで40m以上が42施設(26%)であった。また、10m未満の標高に立地する施設も40施設あり、全体の25%を占めていた。標高と施設区分では、クリニック・診療所の大半と介護老人保健・福祉施設の半数以上が20m未満の地域に立地し、一般病院では10m~20mと40m以上の地域に分散して立地していた。標高と勤務者数の関係では3名未満の勤務者施設が5m未満で13施設、標高10m~20mで21施設と、低地に立地する施設で勤務者が少ない傾向が見られた。
    【考察】
     熊本市は、中央に白川、南部に緑川水系を擁し下流域に広がる熊本平野で大部分が構成される。縄文海進期には河川沿いに10km以上海岸部が内陸進展したとされ、市街地を中心に15mから20m程度の海生及び非海生沖積低地が広がる。リハビリテーションを提供する市内の約半数はこのような低地に立地し、かつPT・OTが3名未満の施設の半数以上が標高20m未満の低地に集中することから、災害時要援護者となるリハビリテーション対象者に対し災害時の避難等について、勤務施設の立地環境を事前に把握し、周辺で発生するリスクの高い災害を想定した危機管理をリスクマネージメントの1つとして考慮することが今後の地域リハビリテーションの展開において重要であることが示唆された。
  • 佐野 幹剛, 石橋 敏郎, 神崎 良子
    セッションID: 100
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/03/28
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
     目的は、2回の長期臨床実習における実習生の行動特性の変化を明らかにすることである。
    【方法】
     対象は、調査研究の趣旨を理解し同意を得た4学年理学療法学科61名及び作業療法学科の学生24名、計85名。調査は、10週間の第1期及び第2期臨床実習終了後にアンケート法により実施した。アンケートは、実習生が陥りやすい行動の57項目で構成した。評定は、「頻繁にあった」から「全くなかった」までの4件法を採用し、「頻繁にあった」1点、「全くなかった」4点として集計した。従って、点数が高いほど行動特性が弱いことを示す。分析には、第32回合同学会で報告した臨床実習における学生の行動特性4因子19項目を採用した。統計処理はStatflex Ver.6を用いて、Wilcoxon検定法にて第1期と第2期を比較した。
    【結果】
     実習生の行動特性ついて、第1因子「注意の持続困難」では第1期の中央値2.57、第2期2.86、第2因子「気分の落ち込み」では第1期の中央値2.75、第2期2.75、第3因子「言動のまとまりのなさ」では、第1期の中央値2.75、第2期3.0、第4因子「生活リズムの乱れ」では、第1期の中央値2.5、第2期2.75であった。第1期と第2期の差の検定では、第1因子危険率5%未満で有意差が認められた(p=0.0179)。第2因子(p=0.2243)、第3因子(p=0.0868)、第4因子(p=0.0742)では有意差がなかった。
    【考察】
     第1期では、実習生は注意力低下や意欲低下から正確な判断ができず、効率的で適切な言動が困難になり、前頭葉の実行機能が一時的に低下するのではないかと考えられた。第1期と比較して第2期では、「気分の落ち込み」以外の行動特性が減少傾向であった。特に「注意の持続困難」は第2期で有意に減少した。症例レポート、デイリーノートなどの実習課題は、時期による質的量的な違いはない。第1期終了後のセミナーで、学生はバイザーとのコミュニケーションの難しさ、評価手技の未熟さ、知識のなさなどを反省し、各自の弱さを改善すべく演習を行った。さらに、実習を通して臨床での適応能力やコミュニケーション能力が高まり、情報を処理しやすくなったのではないかと推測される。その結果、実習生はバイザーの指導や課題内容に持続的に注意を向けることができるようになったと考えた。しかし、言動のまとまりや生活リズムに明らかな差はなかった。これは、実習課題に対する指導は厳しいため、気分が落ち込んでしまう状況に変わりはなく、睡眠や食事のリズムも不規則になる傾向があったと推測される。行動特性の予防には、1年次から見学実習やボランティア活動等で臨床を体験し、社会適応能力やコミュニケーション能力を身につけておくことが重要と考える。
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