保育学研究
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48 巻, 2 号
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<巻頭言>
第1部 自由論文
原著<論文>
  • ―1999年から2008年における労働党Clark政権に注目して―
    飯野 祐樹
    2010 年 48 巻 2 号 p. 112-122
    発行日: 2010/12/25
    公開日: 2017/08/04
    ジャーナル フリー
    2007年ニュージーランドの労働党政権は,就学前教育改革において,教師が中心となって運営する就学前教育施設に通うすべての3歳児と4歳児を対象に,週20時間の保育費を無償にするという発表を行った。この政策には,政府の長期計画として掲げられた就学前教育における就園率を増加させるという目的が背景にあり,この目的の達成において焦点が当てられたのが,子どもの就園に大きく影響を与える保育費を減免することであった。本研究では,1999年から2008年に亘ってこの政策の立案及び実行が行われたClark政権に焦点を当て,この政策における概要について,"Path way to the Future"の内容の検討,私立施設及び保護者が中心となって運営する施設の政策への参加の是非に対する論争,そして,費用の課題,という3点から検討を試みることとする。そして,これらの検討を通して最終的には,この政策における今日的課題を見出すことを目的とする。
  • ―ある園児に投げかけられた言葉をめぐる考察から―
    藤井 真樹
    2010 年 48 巻 2 号 p. 123-132
    発行日: 2010/12/25
    公開日: 2017/08/04
    ジャーナル フリー
    本論文の目的は,筆者が,保育園での関与観察の中で得たある印象的なエピソードを分析することにより,園児にとっての関与観察者の存在の意味について省察することである。考察によってまず,関与観察者は園児にとって,単なる「観る者」ではなく,固有の間主観的関係性を築く可能性をもった具体的他者として現れていることを示した。第二には,こうした「生きた自他関係」を生きることによってこそ,固有性をもった生身の子どもの体験世界を真に理解することが可能になることに言及した。最後に,これらの省察から,関与観察という方法が,現場において研究者に極めて実践的な「問い」を立ち上げる方法論であることに言及した。
  • 杉田 穏子
    2010 年 48 巻 2 号 p. 133-144
    発行日: 2010/12/25
    公開日: 2017/08/04
    ジャーナル フリー
    これまでの障害児保育では,障害のある子ども・保護者への関わりに焦点があてられてきたが,筆者は,周囲の人たちが,障害のある子どもや保護者に向けている偏見を取り除くような取り組みも重要であると考えている。本事例で担当保育士は,障害のある子どもとクラスの子どもたちとの関わりを描いてニュース(月1回)にまとめ,同僚やクラスの保護者に配布した。ニュースを読むことで,同僚や保護者たちは,子どもたちの間に形成されている関係性の豊さに目を向ける視点が育った。今後は,障害ある子どもがクラスにいる意味を,周囲の多くの人に伝えていく取り組みが重要である。そのことが障害児者の理解と関係の輪の広がりにつながっていくからである。
  • 片山 美香
    2010 年 48 巻 2 号 p. 145-156
    発行日: 2010/12/25
    公開日: 2017/08/04
    ジャーナル フリー
    担任クラスに慢性疾患をもつ子どもが在籍する保育士は,回答者の8割を越えていた。多かった疾患は,食物アレルギー,アトピー性皮膚炎,喘息であった。保育士が挙げた1事例に関する回答から,保育士は子どもの症状や注意事項を概ね理解していると認識していることが示された。約4割の保育士が,日々の保育の中で必要な配慮が十分できているかということや,緊急時の対応など,身体管理に不安を抱いることがわかった。しかしながら,医療機関との直接的な連携はできておらず,保護者を介しての連携にとどまっていることが明らかになった。保護者との連携はおおむね出来ているとの認識であったが,子どものことに無頓着な保護者の存在に困難感を抱く保育士もいた。今後の課題として,保護者と子どもの発達に関する共通理解をもち,発達過程を見据えた保育を行うことが挙げられた。
  • ―相互模倣とその変化に着目した縦断的観察―
    瀬野 由衣
    2010 年 48 巻 2 号 p. 157-168
    発行日: 2010/12/25
    公開日: 2017/08/04
    ジャーナル フリー
    本研究では,2〜3歳児の遊び場面を半年間にわたって幼稚園で縦断的に観察し,遊びにおいて子どもたちが生み出す共有テーマの特徴を調べた。その結果,遊びを特徴づける共有テーマは時間経過に伴い,質的に変化していくことが示された。前半の3か月間は,相互模倣によって共有テーマを生み出す子どもの姿が観察された。相互模倣において,子どもたちは同じモノ,同じ動きを介して関わりながら,"同じ"であることを体感したり,互いの間にコンタクトが成立していることを確認しあう姿がみられた。その後,徐々に,ごっこの開始を誘いかける言葉が契機となって開始されるごっこのテーマが共有されるようになった。初期のごっこ遊びはルーティンに支えられていたが,徐々に皆で目標を共有しながらテーマを共有する姿がみられるようになった。
  • ―3歳児の砂遊びにおける"振り向き"から相互作用への展開事例の検討より―
    香曽我部 琢
    2010 年 48 巻 2 号 p. 169-179
    発行日: 2010/12/25
    公開日: 2017/08/04
    ジャーナル フリー
    本研究では,まず,遊びにおいて表れる幼児の"振り向き"という行為に着目し,その"振り向き"の実態を明らかにする。次に,事例をもとに"振り向き"から相互作用へと展開する過程について明らかにすることで,遊びにおける幼児の"振り向き"の意味について分析と論証を行う。その結果,"振り向き"が主に4つの要因によって引き起こされ,3歳児が一人で行う砂遊びにおいて"振り向き"が多く表れることを明らかにした。そして,3歳児の砂遊びの事例から,"振り向き"直後の注視,双方向的な"振り向き"によって幼児同士にその後の相互作用に対する暗黙的な承認が行われることを明らかにした。さらに,その後,幼児は接近することで場を共有し,暗黙的方略で交渉したり,模倣的方略を用いたりすることで相互作用へと至る過程を明らかにした。そして,遊びで表れる幼児の"振り向き"は,その空間にいる幼児や保育者と共に遊びたいという能動的な心理の欲求によって表象されていることを示し,保育者が幼児の"振り向き"を理解することは,その幼児の理解だけでなく,その場においてどの程度の仲間意識,イメージの共有が幼児間に保たれているのか確認する一つの目安になることを示唆した。
  • ―3歳児の分析から―
    鈴木 幸子, 岩立 京子
    2010 年 48 巻 2 号 p. 180-191
    発行日: 2010/12/25
    公開日: 2017/08/04
    ジャーナル フリー
    本研究は,幼稚園の帰りの集まりにおいて,3歳児が「別れのあいさつ」のルーティンを学んでいくダイナミックな過程を,幼児と保育者,幼児と他児のやりとりにおける言葉や仕草,表情を詳細に記録し,心情面も含めて考察した。その結果,まず,子どもは個人の楽しさや自分の思いを表現するために教師の提示したルーティンを破り,共に行動する楽しさによってルーティンに戻る。保育者はあいさつのルーティンの要素間の間合いを短くすることで,子どもがルーティンを実行するように援助をしていた。次第に,子ども同士がルーティンの実行を互いにうながすようになっていった。この変化の様相から,子どもが自発的にルーティンを学んでいくためには,子ども同士が影響し合うこと,また,その基盤としての子どもと保育者との信頼関係が重要であると考察された。
  • 神谷 哲司
    2010 年 48 巻 2 号 p. 192-201
    発行日: 2010/12/25
    公開日: 2017/08/04
    ジャーナル フリー
    本研究は,保育者養成校への進学のきっかけ(動機)や理由によって在学中の保育者効力感がどのように変化するかについて検討することを目的とした。214名の女子学生を対象に,短期大学在学中に4回,質問紙調査を実施した。進学のきっかけについては,自成的動機と他成的動機の2側面から構成されることが示され,ともに1年次の保育者効力感との間に関連が見られたものの,2年次には関連がなかった。進学の理由については,クラスタ分析の結果,積極進学群,社会的価値群,消極進学群,自己興味群の4群に分類された。積極進学群は保育者効力感が高いままであったが,一方で消極的進学群は徐々に低下していった。これらの結果から,在学中の学生を対象としたキャリア・ガイダンスの必要性が論じられた。
  • 谷川 夏実
    2010 年 48 巻 2 号 p. 202-212
    発行日: 2010/12/25
    公開日: 2017/08/04
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は,幼稚園実習におけるリアリティ・ショックとリアリティ・ショックにともなう学生の保育に関する認識の変容プロセスを9名の学生へのインタビューにより明らかにすることである。分析の結果,リアリティ・ショックをともなう問題状況における学生の認識の変容には,【子ども理解の発展】というプロセスを経るものと,【ショックからの回避】というプロセスを経るものの2つが見出された。これらの対照的な2つのプロセスにおいて,学生がどちらのプロセスをたどるかは実習先の保育者との出会いの在り方に規定されており,その在り方が実習内容の質に大きな影響を与えることが示された。
  • ―担当保育者に焦点をあてて―
    足立 里美, 柴崎 正行
    2010 年 48 巻 2 号 p. 213-224
    発行日: 2010/12/25
    公開日: 2017/08/04
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は,保育者がどのような問題や落ち込み(揺らぎ)の中で,保育者アイデンティティを形成していくかを明らかにすることである。本研究においては,保育経験別,所属別の合計24名の保育者を対象にインタビューを行い,SCQRM法を用いて分析を行った。結果,保育者にはその成長に応じた様々な問題や落ち込み(揺らぎ)があった。そして,その解決のためには相談できる重要な他者の存在など保育者を取り巻く職場環境が大きく関与していることが明らかになった。
  • ―和歌山県白浜町「幼保一元化施設白浜幼児園」を事例として―
    手塚 崇子
    2010 年 48 巻 2 号 p. 225-236
    発行日: 2010/12/25
    公開日: 2017/08/04
    ジャーナル フリー
    本論文の目的は,過疎地における幼保一体化の財政分析をし,問題を明らかにすることである。事例としては,国の財政措置を受けやすい過疎地であり,早くから幼保一体化に対応していた和歌山県白浜幼児園を事例とした。非常勤(臨時職員)を多く使用し,幼稚園教諭と保育士の垣根をなくて,連携を強化してコストを下げており,施設長に各園の給与計算等,財務システムを管理させ,施設長の職務が経営にまで及んでいる点は興味深い。また,保育園と幼稚園の両方の自治体の財源には地方交付税が大きな役割をはたしており,幼稚園では運営費の19.0%,保育園では運営費の18.2%であった。今後,国は次世代の子どもの教育・保育を守るために,地域格差是正と地方交付税による明確な財源保障,財政調整をする必要がある。
第2部 委員会報告
第10回国際交流委員会企画シンポジウム報告
課題研究報告
第3部 保育の歩み(その2)
英文目次
編集後記
奥付
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