保育学研究
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56 巻, 1 号
70周年記念号 保育をいかに「評価」するか-子どもの豊かな生活や遊びを保障するために-
選択された号の論文の14件中1~14を表示しています
<巻頭言>
第1部 70周年記念号論文「保育をいかに『評価』するか―子どもの豊かな生活や遊びを保障するために―」
<総説>
原著<依頼論文>
  • ―一元的評価の意義と可能性―
    池本 美香
    2018 年 56 巻 1 号 p. 11-20
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/10/31
    ジャーナル フリー

    待機児童問題を背景に保育所が急増するなか,保育の質の低下が懸念されている。本稿では,保育の質確保に向けた海外の保育評価の動向をふまえて,日本の保育評価の課題について考察した。

    日本では主に,有資格者の配置と自治体の実地検査で保育所の質確保を目指しているが,保育士は不足しており,保育所が急増している自治体では実地検査実施率が低くなっている。海外では,全国の保育所の質を定期的に評価し,その結果を公表する保育評価機関を設置する動きや,保育評価に子どもや親が参画する動きがある。日本においても,全国の保育の質を評価する機関を設置し,全施設に評価の定期的な受審を義務付けることや,保育評価に親や子どもの参画を促すことに向けた検討が期待される。

  • 川田 学
    2018 年 56 巻 1 号 p. 21-32
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/10/31
    ジャーナル フリー

    小論では,心理学的観点から保育評価のあり方を検討した。その際,発達理論の構築で重視されてきた「分析単位」の考えを重視し,媒介理論に依拠して2つの分析単位を設定した。1つは,子どもの遊びの展開を捉えるための「遊びの三角形」であり,もう1つは,遊びの展開を支える保育者の援助を捉えるための「導かれた参加」(ロゴフ)である。この2つの分析枠組みを用いて,〈遊び―発達〉および〈保育の過程〉という2つの評価軸から,エコロジーの異なる2つの保育実践を分析した。両実践において,遊びの状況や課題のダイナミックな変化・発展は,「遊びの三角形」の図式である程度可視化できると考えられた。そして,エコロジーや思想的系譜の異なる保育実践であっても,保育の過程における共通性を,「導かれた参加」概念によって抽出できる可能性が示された。

  • 山縣 文治
    2018 年 56 巻 1 号 p. 33-43
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/10/31
    ジャーナル フリー

    教育・保育制度は公的かつ専門的なものであり,専門性や質の管理および向上,社会や利用者に対するアカウンタビリティの双方の視点から評価が必要である。社会福祉分野では,伝統的なソーシャルワーク視点での評価に加え,社会福祉基礎構造改革以降,アカウンタビリティとしての評価も重視されるようになり,情報提供,第三者評価を通じた情報開示,苦情解決制度の推進などの取り組みが進んでいる。改定された保育所保育指針や幼稚園教育要領などは,教育・保育実践の評価や,質の向上にかかわる評価は記載されているが,社会に対するアカウンタビリティについては,言及されていない。自己評価,利用者評価を踏まえた第三者評価の推進と,その結果の公表が求められる。

  • 定行 まり子
    2018 年 56 巻 1 号 p. 44-55
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/10/31
    ジャーナル フリー

    本稿は,保育の評価のあり方について,建築の視点で述べることが目的である。保育施設は,子どもが職員や他の子どもたちとの生活や遊びを通じて,基本的生活を身につける場である。これを保障するためには保育施設の建物が,子どもの安全を確保できること,面積や空気・温熱・音環境などの保育機能に必要な物理的環境を完備していること,保育実践における思想や理念を具現化できることが必要である。保育者・保護者・施設経営者・建築士・地方自治体の行政担当者を含む保育にかかわる関係者が協力して,これらの建築の3つの視点に基づき,課題を認識し,解決を図るべきである。

  • ―テ・ファーリキと歩んだ20 年に焦点を当てて―
    飯野 祐樹
    2018 年 56 巻 1 号 p. 56-67
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/10/31
    ジャーナル フリー

    ニュージーランドの幼児教育部門は過去25年にわたり生産的な発展を遂げたとして国際的な関心を集めてきた。中でも,ニュージーランドで最初のナショナル・カリキュラムとして作成されたテ・ファーリキは,それに伴う保育記録として作成されたラーニング・ストーリーと共に注目が寄せられている。本研究はテ・ファーリキが交付されて以降の20年に焦点を当て,この期間,ニュージーランド政府が幼児教育に対する政策として「質保障」と「質評価」をどのように展開してきたのか,さらには,子どもの「学び」をどのように位置づけ評価してきたのかについて,テ・ファーリキを取り巻く状況から検討を行った。結果,ニュージーランドの幼児教育は知識経済に依拠した幼児教育政策の展開を試みようとする政府側の勢力と,確固たる哲学や展望を抱きそれを実現させようとする研究者・実践者側の勢力との対立軸を背景に色づけられてきたことが示された。

  • 埋橋 玲子
    2018 年 56 巻 1 号 p. 68-78
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/10/31
    ジャーナル フリー

    諸外国の評価スケールで,日本で利用されているものにはECERS/ITERS,SICS,SSTEW,ECERS-Eがある。SICSを除く4のスケールは同じ構造と評点のシステムである。サブスケールと下位項目に分かれ,各項目が7段階で評定される。ECERSは3~5歳,ITERSは0~2歳の集団保育の総合的な質を測定する。ECERS-Eは就学前教育を対象とし,学力につながる要素に焦点づけている。SSTEWは2~5歳の集団保育を対象とし,教師の指導と子どもの学びに焦点づけている。これらの4スケールは保育の質の向上と調査目的の利用が可能である。SICSは日本用に改善された自己評価用のツールである。いずれのスケールの使用に当たっても幼稚園教育要領等との詳細な参照が必要である。

原著<論文>
  • ―保育者が語る現状と課題―
    妹尾 華子, 湯澤 美紀
    2018 年 56 巻 1 号 p. 79-90
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/10/31
    ジャーナル フリー

    イングランドの教育水準局(Office for Standards in Education, Children’s Services and Skills,Ofsted)は,学校監査の実施を管轄している独立政府機関である。本稿では,まず幼児教育・保育分野での学校監査に関する基礎的資料を提供した。次に,実施に係る現状と課題を保育学校に勤務する5名の保育者を対象とした半構造化インタビューより明らかにした。結果,①学校監査による評価に対する感想と態度,②監視され続けることに対する感情,③子どもの成長・発達を促すための持続的な保育の改善,といった3つのテーマが示された。保育者は,学校監査に関してアンビバレントな評価感情を抱きつつも,監査を通して自己評価が促されていることが示唆された。

  • ―「子ども向けクラスだより」の取り組みから―
    松本 博雄, 西宇 宏美, 谷口 美奈, 片岡 元子, 松井 剛太
    2018 年 56 巻 1 号 p. 91-102
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/10/31
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は,幼稚園において「遊びの質」を改善するアセスメント法の効果を検討することであった。そのため,「しんぶん」という子どもたち向けのクラスだよりを作成し,アクションリサーチを通じて,子どもたちの行動の変化を分析した。結果として,3つのポイントが明らかになった。第1に,幼稚園の遊びや生活の情報が子どもたちに周知され,特に3歳児はそこから安心感を得ていた。第2に,子どもたちはそれまでの遊びを思い起こしたり,振り返ったりすることで,遊び込むことができていた。「しんぶん」の情報が遊びの新しいアイデアを見つけるきっかけになっていることが示唆された。第3に,「しんぶん」が子ども間の対話を促していた。子どもたちは,「しんぶん」を見た後に新しい遊びの場を選択したり,参加したりする傾向にあった。

第2部 保育の歩み(その1)
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英文目次
編集後記
奥付
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