保育学研究
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52 巻, 1 号
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<巻頭言>
第1部 自由論文
原著<論文>
  • ―ある自治体の公立保育所における年齢別保育目標・内容の形成過程に注目して―
    渡邉 保博
    2014 年 52 巻 1 号 p. 6-18
    発行日: 2014/08/31
    公開日: 2017/08/04
    ジャーナル フリー
    本研究は,ある自治体の公立保育所の全保育者が参加する研修会の年次報告書を分析し,この研修会が保育スキーマの創造的発展に果たした役割を歴史的に検討した。その結果,(1)この研修会を通して創造された保育のスキーマ(年齢別保育目標・内容)は,実践を発展させる契機であったが,制約する契機にもなった。(2)この研修会は,そのスキーマの「継続的な批判的検討,その再構成を導く学習組織」であったこと,(3)特に,保育者たちは,「問題児」の事例を,他の園の保育者たちと一緒に検討することによって,新たな保育スキームが見通せるようになったこと,(4)また,彼らは,その身体的かつ情緒的なケア労働の質を高めるとともに,その子たちを養護する「暖かい対人ネットワーク」を形成していったことがわかった。
  • 幼稚園での自然観察にもとづく検討
    榊原 知美
    2014 年 52 巻 1 号 p. 19-30
    発行日: 2014/08/31
    公開日: 2017/08/04
    ジャーナル フリー
    本研究では,年長(5歳児)クラスを対象にした自然観察を通して,幼稚園において年長児が経験している数量活動と,そこでの保育者の援助の実態を明らかにすることを目的とした。具体的には,私立幼稚園6園10クラスを対象に合計20回の観察調査を実施し,年長クラスで行われている数量活動の種類,頻度,そのような活動における保育者の援助の方法について検討した。その結果,保育者は,数量学習を目的としない多様な保育活動に数量の要素を導入する形で,5歳児に数量への関与を頻繁に促していることが明らかになった。援助の方法としては,製作の材料を特定の数だけ取りにくるように促す,出欠の確認をしたときに出席人数を質問する,数の利用が必須なゲームを行う,などがみられた。
  • 辻谷 真知子
    2014 年 52 巻 1 号 p. 31-42
    発行日: 2014/08/31
    公開日: 2017/08/04
    ジャーナル フリー
    本研究では幼児が規範を提示し合うことと,仲間関係における排除・包摂との関係を探ることを目的とする。1つの幼稚園において4〜5歳児のやりとりが観察された。2人の女児(イチカとアンナ)と他児との関係に焦点を当てる。イチカは度々クラスの他児から規範を示され,アンナは他児に度々規範を示していた。観察記録の分析から,規範を示すことがその共有,そして規範から逸脱する特定の幼児(本研究ではイチカ)の排除につながることが示唆された。共有された規範が「規範を守れない子」という特定の見方にもつながっていることが示唆された。しかしこれらの関係は時間とともに変容し,イチカを援助対象として見ることにより包摂につながる面も明らかになった。
  • ―身体配置・視線に着目して―
    佐川 早季子
    2014 年 52 巻 1 号 p. 43-55
    発行日: 2014/08/31
    公開日: 2017/08/04
    ジャーナル フリー
    本研究は,幼児の造形遊びにおいて,子どもが他児に向かってモチーフを伝え,モチーフを共有する過程を明らかにすることを目的とする。幼稚園の4歳児クラスを半年間参与観察し,子どもの身体配置や視覚的なやりとりを分析の視点とした。分析の結果,幼児はモチーフを他児と共有する前に,他児と隣り合う場所に位置取り,他児の制作物を見たり制作物を見せたりしていた。つまり,互いの視点が近い場所で両者の視線が交差していた。その後でモチーフを伝える発話が大人のみから他児にも向けられるようになり,子ども同士でモチーフを共有していた。そして,最後に,共同で造形遊びを行う中で,他児の制作物のアイデアを積極的に自分の制作に採り入れることが明らかになった。
  • ―「身体」を視点として―
    池田 久美子
    2014 年 52 巻 1 号 p. 56-67
    発行日: 2014/08/31
    公開日: 2017/08/04
    ジャーナル フリー
    本研究では,特別な支援を必要とする子どもの仲間関係の形成と発展の過程を検討する。発達の遅れのある4歳の女児が,本事例の対象児である。観察データは,幼稚園にて,18か月間,参与観察の方法で収集した。観察データは,コミュニケーションの基底となる主体としての「身体」を視点として検討した。その結果,次のようなことがわかった。(1)特別な支援を必要とする子どもと他児は,同じ身体の状態を持つことや,意図して互いに同じ動きをすることを通して,仲間関係の基盤を作っていく。(2)特別な支援を必要とする子どもと他児は,ともに過ごす中で,協同した身体の動きによってかかわり合うようになる。結果として,その関係は深まって一体化し,やがて心でつながるようになる。
  • ―両義性に着目して―
    平野 麻衣子
    2014 年 52 巻 1 号 p. 68-79
    発行日: 2014/08/31
    公開日: 2017/08/04
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は,片付け場面における子どもの経験内容及び育ちの過程を明らかにすることである。3歳児男児の1年間の片付け場面を観察・記録し,得られた事例を鯨岡の「人間存在の根源的両義性」(「わたし」と「私たち」の両義性)の視点から分析した。片付け場面における子どもの変容過程は,子どもの中に「わたし」と「私たち」の両側面を育む過程として捉えられた。その過程には,子どもと保育者・他児とのさまざまな関わり合いが見られ,子どもは気持ちの揺れや折り合いを経験していた。本論では,「わたし」と「私たち」のバランスを図りながら主体的に生活する3歳児の姿に着目することで,片付け場面の意義を見直す視点を示唆した。
  • 田中 善大, 伊藤 大幸, 野田 航, 高柳 伸哉, 原田 新, 望月 直人, 大嶽 さと子, 辻井 正次
    2014 年 52 巻 1 号 p. 80-89
    発行日: 2014/08/31
    公開日: 2017/08/04
    ジャーナル フリー
    本研究では,保育記録による発達尺度改訂版(Nursery School Teacher Rating Developmental Scale for Children-Revised:NDSC-R)を用いた就学後の適応及び不適応の予測について検討した。2つの学年コホートについて,保育所年長時に保育士評定尺度であるNDSC-Rを,就学後に教師評定版SDQ(Strengths and Difficulties Questionnaire)を実施し,783名の幼児児童のデータを得た。第1コホート(414名)は小学1年時に,第2コホート(369名)は小学4年時にSDQを行った。重回帰分析及びリスクの分析の結果,就学後(小学1年時及び4年時)のSDQの各下位尺度及び困難性総合得点を一定の精度で予測するNDSC-Rの下位尺度が明らかになった。
  • ―関係者へのインタビュー調査を通して―
    飯野 祐樹
    2014 年 52 巻 1 号 p. 90-104
    発行日: 2014/08/31
    公開日: 2017/08/04
    ジャーナル フリー
    本研究は,1996年にニュージーランドで就学前統一カリキュラムとして作成されたテ・ファーリキの作成過程を作成に携わった関係者へのインタビューから明らかにすることを目的としたものである。テ・ファーリキの作成には,ヨーロッパ系民族とマオリ族の代表執筆者との協同によって作成されたことがこれまでの研究で明らかになっている。本研究では,代表執筆者に加え,ニュージーランド政府関係者へのインタビュー調査を行うことで,3方向からテ・ファーリキの作成過程を検討した。結果,テ・ファーリキの作成過程では,マオリ族側が主導し,そこにヨーロッパ系民族の価値観が内包されるというこれまでの見解とは異なる事実が明らかとなった。
  • ―医療保育専門士への面接調査を通して―
    上出 香波, 齋藤 政子
    2014 年 52 巻 1 号 p. 105-115
    発行日: 2014/08/31
    公開日: 2017/08/04
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は,病棟保育の専門性を小児病棟に勤務している保育士に対する面接調査により検討した。本研究では10名の医療保育専門士を対象に面接調査を行った。面接結果は階層的クラスター分析により分析した。分析結果から,病棟保育の専門性は,医療チームの一員として自覚を持つこと,保育の視点でコメディカルスタッフと意思疎通や議論をすることができること,病気を持つ子どもの生活の質の向上に貢献できることであることが示された。
  • ―両立の「難しさ」に焦点をあてて―
    中根 真
    2014 年 52 巻 1 号 p. 116-128
    発行日: 2014/08/31
    公開日: 2017/08/04
    ジャーナル フリー
    この論文の目的は保育所保育士のワーク・ライフ・バランスの実態,特に両立生活の「難しさ」を明らかにすることである。研究方法として,12歳以下の子を育児中の保育所保育士7名に対するインタビュー調査を行った。その結果,主体的条件,職場の条件,家庭の条件,社会的条件の4条件について,保育士個々に多様であった。そこで,筆者は就労の継続要因と中断要因を考慮して分析した。結論として,就労継続や両立の「難しさ」は,本人の母親意識,職場や家庭,社会資源の状況にあることが明らかになった。
応募要項
第2部 保育の歩み(その1)
英文目次
編集後記
奥付
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