保育学研究
Online ISSN : 2424-1679
Print ISSN : 1340-9808
ISSN-L : 1340-9808
49 巻, 2 号
選択された号の論文の14件中1~14を表示しています
<巻頭言>
自由論文
原著<論文>
  • ―家庭改良および隣保改善に焦点をあてて―
    中根 真
    2011 年 49 巻 2 号 p. 122-134
    発行日: 2011/12/25
    公開日: 2017/08/04
    ジャーナル フリー
    この論文の目的は社会事業家・生江孝之(1867-1957)の保育事業論について,とりわけ家庭改良および隣保改善に焦点をあてて分析と考察を行うことである。研究方法として,生江の内務省在任期間に限定した文献調査を行った。その結果,保育所の副業としての家庭改良および隣保改善に関するいくつかの考え方が明らかになった。そこで,筆者は保育所保母による家庭改良と隣保改善のさまざまな内実について考察した。結論として,感化救済事業を背景とした保育事業において,家庭改良および隣保改善は母親の監督や貯金の奨励,職業紹介等を通じた「良民」育成プロジェクトであった。
  • ―「学校化」問題と生涯学習アプローチの観点から―
    大野 歩, 七木田 敦
    2011 年 49 巻 2 号 p. 135-145
    発行日: 2011/12/25
    公開日: 2017/08/04
    ジャーナル フリー
    本論文の目的は,スウェーデンにおける「学校化」と呼ばれる現象の形成を考察しつつ,現在の「学校化」議論への課題を見出すことにある。方法としては,保育と学校教育の制度完全統合に伴って設置された「就学前クラス」という活動形態に焦点を当て,統計資料および就学前クラスの観察による2側面から実態に関する検討を行った。さらに,学校庁が刊行した冊子の内容から,国による「就学前クラス」の定義つけを分析した。検討の結果,スウェーデンは,子どもの視点を中心(child-centered)でありながら,より包括的(holistic)であり,「生涯学習」という学習アプローチで教育の統一化を図ろうとしている点で他国の「学校化」と異質な展開がなされていた。
  • 牧 亮太, 湯澤 正通
    2011 年 49 巻 2 号 p. 146-156
    発行日: 2011/12/25
    公開日: 2017/08/04
    ジャーナル フリー
    からかいとは,相手を不快にさせたり困らせたりする攻撃的な行為に,それが冗談であることをほのめかす遊戯的なサインが伴われた行為である。本研究では,幼児の遊びにおけるからかいの機能を明らかにすることを目的とし,5歳児の自由遊び場面の観察を実施した。からかいが生起した文脈に着目し,遊びの枠組みの有無,からかいの能動性という視点から分析をした結果,誘発的ちょっかい,遊び場づくり,仲間入り,遊びの承認,おかしさ生成,ツッコミ,遊びの展開という7つの文脈と機能が明らかになった。見た目の乱暴な特徴から,否定的に受け取られがちなからかいではあるが,幼児の遊びの中では様々な形で行われ,遊び仲間を形成したり,遊びを盛り上げたりする上で重要な役割を果たしていることが示唆された。
  • ―「安心」関係から「信頼」関係を築く道筋の探究―
    岩田 恵子
    2011 年 49 巻 2 号 p. 157-167
    発行日: 2011/12/25
    公開日: 2017/08/04
    ジャーナル フリー
    本研究においては,幼稚園における子どもたちの仲間づくりが,社会的集団のあり方と相互規定的なものとして存在することを前提として,子どもたちの仲間集団の形成とそのプロセスにみられる「排除」「いざこざ」の意味を問い直すことを目的とした。3年保育の幼稚園における子どもたちの自由遊び場面におけるやりとりの事例分析の結果,子どもたちは不安定な中で小さな共通点から「安心」できる場の形成を試み,それとともに「排除」ととれる行為が構成されていること,ただし,そのままの状態には留まらず,多様な関係の可能性をさぐる「いざこざ」の中で他者を理解した上での「信頼」関係の形成が試みられることが見出された。幼児期の仲間集団の形成は,個々の社会的なスキルを身につける側面からだけではなく,集団のダイナミクスからその行為の意味を検討する必要が示唆された。
  • 矢部 朋子
    2011 年 49 巻 2 号 p. 168-176
    発行日: 2011/12/25
    公開日: 2017/08/04
    ジャーナル フリー
    本研究では,日常生活にみられる日本語の話しことばは,遊びの中でどのように音楽的表現として生み出されるのか,また,その音楽的表現は周囲の子どもたちにどのように共有されていくのかを明らかにすることを目的とする。公立幼稚園4歳児の遊びを対象に観察を行い,遊びにみられる子ども同士の音楽的表現を対象に,内界,外界,表現界の相互作用の視点から検討した結果,次の3段階を導き出した。1.1人の遊びの場ではなく,遊びの中で友だちとのかかわりが生まれる場において,自分の感情やイメージを他者に伝えたいという欲求が生じ,表現が生み出される。2.遊びの中で生み出された音楽的表現は,友だちによって模倣され,イメージや感情の共有が行われる。3.身体的同調を伴う音楽的表現は何度も繰り返される中で,拍節的・旋律的にまとめられ,音楽的コミュニケーションによる遊びが生み出される。以上に述べた3段階で重要な役割を果たすのが,友だちの存在である。音楽的表現が遊びの中で生まれ,発展していくには,友だちとのかかわりが必要不可欠といえる。
  • ―確認し合う事例における宛先・話題・話題への評価に着目して―
    淀川 裕美
    2011 年 49 巻 2 号 p. 177-188
    発行日: 2011/12/25
    公開日: 2017/08/04
    ジャーナル フリー
    本研究は,2-3歳児の保育集団における食事場面での対話の変化について特徴を明らかにすることを目的とした。保育所の2歳児クラスを半年間参与観察し,"確認し合う事例"について,宛先・話題・話題への評価に着目し分析を行った。話題の変遷に着目すると,時期を経るにつれ,他児からの承認を得る事例が減り,入れ替わるように,フォークの持ち方を確認する事例が増えていた。抽象的な内容から,より具体的な全員が共有している眼前の物へと,話題が変化していた。宛先に着目すると,話題ごとに差はあるものの,二者間対話が連続して生じる時期から,三者間対話へと広がる時期を経て,三者間対話が連続して生じる時期へと変化していた。また,話題への評価に着目すると,他児の評価を共有した上で自らの評価を述べるようになっていった。
  • ―3歳児クラスの片付け場面から―
    永瀬 祐美子, 倉持 清美
    2011 年 49 巻 2 号 p. 189-199
    発行日: 2011/12/25
    公開日: 2017/08/04
    ジャーナル フリー
    子どもにとって,生活習慣を獲得することは重要である。片付けは幼稚園での日々の生活の中で重要な習慣である。本研究では,1学期間の片付け場面での行動の変容を検討して,遊び場面との関連を検討する。3歳児クラスの28名を研究対象として,4月から7月まで観察した。クラス担任の保育者にインタビューを行った。7月になると,子どもたちのほとんどは保育者が片付けの時間を告げると片付けをすることができた。遊びから片付けへ移行するためには,2つの要因があった。一つは,子どもたちが片付けの時に遊びを満足して終えられること,もう一つは片付けに楽しみを見出せていることであった。
  • ―保育士の語りの質的分析より―
    木曽 陽子
    2011 年 49 巻 2 号 p. 200-211
    発行日: 2011/12/25
    公開日: 2017/08/04
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は,「気になる子ども」の保護者との関係の中で現れる保育士の困り感に着目し,その変容プロセスを明らかにすることであった。そこで,公立保育所の保育士5名に半構造化面接を行い,修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチにより分析を行った。分析の結果,以下の3点がこのプロセスの特徴として明らかになった。第1に,「気になる子ども」の保護者に関わる際に,保育士は<"子どものため"の思いの基盤>を常に持ち合わせていた。第2に,<保護者との思いの対立>という経験を経て,保育士の働きかけが<"子どものため"に理解を求める>から<保護者に合わせる>へ変わっていた。第3に,<保護者に合わせる>関わりに変わっても,保育士は<"子どものため"の思いの基盤>とく保護者に合わせる>の間に葛藤を抱いていた。
  • ―保育専攻学生における自信経験・自信喪失経験に着目して―
    森野 美央, 飯牟礼 悦子, 浜崎 隆司, 岡本 かおり, 吉田 美奈
    2011 年 49 巻 2 号 p. 212-223
    発行日: 2011/12/25
    公開日: 2017/08/04
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は,保育者効力感の変化に関する影響要因について,縦断的に検討することであった。保育専攻学生279名(1年生144名,2年生135名)を対象とし,保育者効力感の変化を縦断的に調査するとともに,その変化の要因として自信経験と自信喪失経験に関する記述を収集した。その結果,保育者効力感の変化には,各経験の数,および経験の内容が関連していることが示された。結果をふまえ,保育者養成の過程において,保育者効力感が「夢見る効力感」から「身の丈効力感」へと質的に変容していく可能性が示唆された。
  • ―日系ブラジル人児童を中心として―
    品川 ひろみ
    2011 年 49 巻 2 号 p. 224-235
    発行日: 2011/12/25
    公開日: 2017/08/04
    ジャーナル フリー
    本研究は日系ブラジル人が多く入所する保育所において,通訳がどのような役割を果しているのかについて,保育士に対するアンケート調査,園長に対するインタビュー調査をもとに,「日常の保育」と「文化の保障」という二つの視点で検討した。その結果,「日常の保育」においては,通訳の存在は大変重要であり,通訳がいることで子どもや保護者へのコミュニケーションがスムーズにいき,細かいところにまで配慮した保育が実現できることがわかった。「文化の保障」についても,通訳が子どもの母語や文化を保障する役割としても機能していることがわかった。一方で,日本人保育士たちは多様な考えをもち,必ずしも文化の保障が必要であるとは考えていない者も見られた。また,通訳が常駐している保育所と,巡回型の保育所では,通訳の役割そのものは,どちらも同じように重要であったが,巡回型では時間的な制約があり,十分な関わりができない面も確認された。
英文目次
編集後記
奥付
feedback
Top