保育学研究
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61 巻, 2 号
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巻頭言
第1部 自由論文
原著<論文>
  • ―7年間の縦断研究―
    中道 直子, 中道 圭人, 中澤 潤
    2023 年 61 巻 2 号 p. 7-17
    発行日: 2023/12/31
    公開日: 2024/03/02
    ジャーナル フリー
    本研究は,幼児期の実行機能が小学校6年時までの学業達成をいかに予測するのかを検討した7年間にわたる縦断研究である。本研究では,46名の幼児(M=77.88か月)を対象に2種類の実行機能(Cool-EF,Hot-EF)を測定し,さらに同じ子どもの小学校1・3・6年生時の学業達成(国語,算数)を測定した。その結果,幼児期のCool-EFとHot-EFの両方が小学校1年時の学業達成を直接予測し,特にCool-EFがHot-EFより大きな予測力を持っていた。また,幼稚園時点のCool-EFとHot-EFは,小学校1年時の学業達成を媒介して,3・6年時の学業達成を予測した。本研究の結果は,幼児期の2種類の実行機能が,小学校1年時の学業達成を支え,そこで育まれた学力が小学校6年までの学業達成に影響することを示した。
  • 山中 拓真
    2023 年 61 巻 2 号 p. 19-30
    発行日: 2023/12/31
    公開日: 2024/03/02
    ジャーナル フリー
    幼保一元化論は保育学の伝統的な論点である。先行研究は,幼保一元化に対する親の混合的な態度と,より手頃な保育料への選好を示してきた。本稿の目的は,幼保の所管・施設面での一体化が保育料軽減率に及ぼす影響を検証することである。自治体保育担当課への質問紙調査と統計サイトを通して,データを収集した。重回帰分析の結果,幼保の所管を一体化している自治体や,公営認定こども園を設置している自治体ほど,保育料軽減率が高い傾向にあることを見出した。この結果は,親の経済的要望に対する行政の応答性が,幼保一体化によって高まることを示唆している。今後,幼保一体化の実利を示すエビデンスを蓄積するべきである。
  • ―保幼の資格・免許を有する小学校教師へのインタビューを通して―
    芦田 祐佳
    2023 年 61 巻 2 号 p. 31-42
    発行日: 2023/12/31
    公開日: 2024/03/02
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は,保幼の資格・免許を持つ小学校教師にインタビューを行い,保育・幼児教育の理解が小学校の教育活動に与える影響を明らかにすることである。調査の結果,園で活用している教育技術や乳幼児期の教育環境といった就学準備に実用的な情報は小学校低学年の教育には役立つものの,高学年教育にはほとんど活用されないことが明らかになった。一方で,環境を通した教育や子ども理解から始まる教育といった保育・幼児教育に特有の教育の見方・考え方は高学年教育にも通ずることが示された。以上の結果を踏まえ,小学校教師を幅広く保幼小連携に誘っていくための視座について議論した。
  • 井上 果子
    2023 年 61 巻 2 号 p. 43-54
    発行日: 2023/12/31
    公開日: 2024/03/02
    ジャーナル フリー
    本研究では,公立の保育所管理職(園長・副園長)93名に質問紙調査を実施し,管理職として捉えた対応に苦慮する保護者の特徴とその子どもの特徴の対応関係から,親から子への世代間伝達を明らかにした。さらに,管理職が6年以上前に体験した問題行動傾向のある親との関わりが,現在の管理職の精神的健康に及ぼした影響を明らかにした。特に保護者から攻撃的態度を受けると,恐怖不安が発生し,精神的健康が損なわれる状態が継続することが明らかになった。管理職は保護者から向けられる怒りの扱い方が,健全な状況を維持するための重要な要因となることが示唆された。
  • ―楽しさ・やりがい,大変さ・困難さに着目して―
    川合 美奈, 内田 千春
    2023 年 61 巻 2 号 p. 55-66
    発行日: 2023/12/31
    公開日: 2024/03/02
    ジャーナル フリー
    保育所とは異なった状況下で子どもの支援が求められる医療型障害児入所施設での保育士の業務内容,仕事に関連する感情を明らかにするためにインタビュー調査を行った。業務内容の特徴として【看護業務の補助】が含まれていた。仕事に関連する感情として,楽しさ・やりがいの特徴では【子どもとの直接的な関わり】から感じられることが多くあがった。大変さ・困難感では【自身の経験や能力の不足】【保育士の役割への理解不足】【保育士業務を遂行する上での気持ちの葛藤】に関する感情が多くあがった。これらには子ども達の重症度,医療的ケアの多さ,多職種協働の場であるための難しさが推察された。
  • ―バーデン=ヴュルテンベルク州の教育計画におけるSelbstständigkeitに着目して―
    大道 香織
    2023 年 61 巻 2 号 p. 67-78
    発行日: 2023/12/31
    公開日: 2024/03/02
    ジャーナル フリー
    ドイツ幼児教育において,バーデン=ヴュルテンベルク州の教育計画から,「自律・自立」がどの文脈で述べられているのかを明らかにし,教育的戦略を検討した。その結果,2点明らかになった。①子ども自身の「自律・自立」として責任や権利,子どもの学びに関する文脈で述べられており,保育者は子ども自身の「自律・自立」の内なる衝動を信じることを重視していた。②子どもの育成の「自律・自立」として,モチベーションや努力する意欲,方向付けの指導に関する文脈で述べられていた。保育者は状況に応じた子どもの経験の配慮,モチベーションを高めるような刺激,個々の努力のする意欲を認める等の称賛,そして方向付けの指導を重視していた。
  • ―乳児クラス担当保育者と幼児クラス担当保育者との比較による検討―
    塩崎 寛美
    2023 年 61 巻 2 号 p. 79-89
    発行日: 2023/12/31
    公開日: 2024/03/02
    ジャーナル フリー
    本研究では,認定こども園保育者ストレッサー尺度を作成し認定こども園に勤務する保育者を対象に乳児クラス担当保育者と幼児クラス担当保育者の比較分析を行った。その結果幼児クラス担当保育者は乳児クラス担当保育者に比べ「勤務待遇への不満」と「保育観の相違」のストレス得点が有意に高かった。ワーク・エンゲイジメントを従属変数とした階層的重回帰分析では,乳児クラス,幼児クラスともに「手段的サポート」の影響が大きいことが確認された。また,バーンアウトを従属変数とした階層的重回帰分析で有意な調整効果がみられたのも「手段的サポート」であった。認定こども園の保育者に手段的サポートが有効であることが明らかとなった。
  • ―よく遊ぶ友達とあまり遊ばない友達についての縦断的インタビューから―
    野田 淳子
    2023 年 61 巻 2 号 p. 91-101
    発行日: 2023/12/31
    公開日: 2024/03/02
    ジャーナル フリー
    本研究では,よく遊ぶか否かという関係性が年齢差と共に,幼児期後期の友達理解に与える影響を検討した。34人の幼児に対して,4歳クラスと5歳クラスの時点で,友人がどんな人か,好ましいと思うか否かについて縦断的に個別インタビューが実施された。その結果,5歳児クラスの時に友達の傾性,中でも特性に言及するという年齢差に加えて,4歳児クラスの時には特性に言及する子どもがよく遊ぶ友達で多いという関係差も得られた。関係差は,よく遊ぶ友達に関して肯定的側面からだけでなく,否定的側面からもとらえる子どもが年齢を問わず多いという点でも見られた。従って,幼児の友達理解の発達における親密な関係性の重要性が示された。
  • ―組織アイデンティティとの関連性に着目して―
    豊永 麻美, 廣澤 満之
    2023 年 61 巻 2 号 p. 103-114
    発行日: 2023/12/31
    公開日: 2024/03/02
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は,児童発達支援センターに勤める保育者の専門性の形成過程において組織アイデンティティをどのように認知し自身のアイデンティティとすり合わせて取り入れるのか,その関連を明らかにすることである。保育者4名へ半構造化インタビューを行い,複線経路・等至性モデルで分析した。その結果,他者とのやりとりを通した省察を繰り返すことで保育者アイデンティティを明確に認知できるようになり,支援を捉える視点が包括的に広がることで組織アイデンティティを日々の実践と結びつけて実感できるようになるプロセスが明らかとなった。包括的な視点での支援が児童発達支援センターに勤める保育者の専門性であることが示唆された。
  • ―親自身の幼保園経験評価と子に対する感情を中心に―
    西本 瞳, 河野 和明
    2023 年 61 巻 2 号 p. 115-124
    発行日: 2023/12/31
    公開日: 2024/03/02
    ジャーナル フリー
    親の幼保園評価の特徴を明らかにするため,6歳までの未就学児をもつ親を対象にWEB調査を実施した。まず,親自身の幼保園経験評価について肯定的評価項目を選出し得点化した。評価得点は男性より女性が高かった。次に,子に対する感情8項目を因子分析した結果,子への肯定的感情と否定的感情に分類され,それぞれ尺度として用いたが,有意な性差はなかった。重回帰分析により幼保園評価を予測したところ,父親は,親自身の幼保園経験評価,子への肯定的感情,育児時間が有意に予測し,母親は,親自身の幼保園経験評価,子への肯定的感情のみが有意に予測した。前報に続き,子に関する全般的な肯定的態度と幼保園評価との関連が示唆された。
  • ―文化的多様性のある保育現場のエスノグラフィー―
    長江 侑紀
    2023 年 61 巻 2 号 p. 125-136
    発行日: 2023/12/31
    公開日: 2024/03/02
    ジャーナル フリー
    本研究は,文化的多様性のある保育現場の異年齢保育に注目しながら,多文化保育の実践を考究する。多文化共生を理念とする保育園でのフィールド調査の参与観察と保育者のインタビュー調査を分析対象とする。逸脱の解釈をされてきた文化・言語的差異は,異年齢児とともに自由保育を行う開放的な空間の中で,多様性の一つに変換されることで包摂されていた。多様な関係性の中で主体的な参加をすることで,子どもたちは異文化・異言語の課題を乗り越える方法を見つけていた。保育者は,異年齢保育を支える実践者として保育環境の整備に取り組む一方で,異言語コミュニケーションの支援や既有の専門性の活用などにおいては課題を感じていた。
  • ―園長の語りを通して―
    伊東 麻衣子, 大豆生田 啓友
    2023 年 61 巻 2 号 p. 137-148
    発行日: 2023/12/31
    公開日: 2024/03/02
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は,幼児の主体性を尊重した運動会への変容の要因を検討することである。運動会の取り組みを転換した園の園長の語りをM-GTAを用いて分析した結果,運動会の変容には【運動会の変容の障壁】【見直しの契機】【変容を推し進めた要因】【保育の見直し】【変容がもたらした効果】の5つの構造が見出された。運動会の変容の障壁は,大人の過去の経験や園文化により形成された運動会の固定観念にあり,見直しの重要な要因は園長の存在とそのマネジメントであった。職員及び家庭と対話を重ね,子どもへのふさわしさを追求していく組織への変化により,園の保育と連動して運動会の変容が推し進められたことが明らかとなった。
  • ―装う主体としての保育者の語り分析―
    平野 麻衣子, 須藤 麻紀
    2023 年 61 巻 2 号 p. 149-160
    発行日: 2023/12/31
    公開日: 2024/03/02
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は,保育者の装いがもつ機能と機能間の関係を明らかにすることである。幼保連携型認定こども園3園に勤務する保育教諭,保育経験年数10年以上の者18名を対象に,半構造化面接法によるインタビュー調査及び実地調査を行った。修正版グラウンデット・セオリー・アプローチ(M-GTA)を用いて分析し,自己と他者との間にある保育者の装いには,〈身体管理機能〉〈自己内心理機能〉〈自己概念形成機能〉〈明示的コミュニケーション機能〉〈暗黙的コミュニケーション機能〉の5機能があることを明らかにした。保育実践における装いの意義として,保育者の自己を形成し続ける意義と,意味や価値を含む保育環境となる意義を考察した。
  • 伊勢 慎, 小山 憲一郎
    2023 年 61 巻 2 号 p. 161-172
    発行日: 2023/12/31
    公開日: 2024/03/02
    ジャーナル フリー
    本研究は,現職の保育士を対象に質問紙調査を行い,独自の保育士における勤務継続を支える要因尺度(JCSF)作成を試みたものである。因子分析の結果,JCSFは4因子構造となった。その後の検定の結果,信頼性・併存的妥当性も一定水準に達した。一方,この4因子は,職場での居場所感に関連する因子は直接的に勤続年数を高めるが,勤労・研修サポートシステムに関連する因子は,職場での居場所感を媒介した場合にのみ勤続年数を高めるという結果となり,職場での居場所感が勤続継続には優先されるものであると考察した。サンプルサイズが小さいという統計解析上の問題や給与に関する因子を含んでいないことなど改善すべき今後の課題も見出された。
  • 櫻井 貴大
    2023 年 61 巻 2 号 p. 173-184
    発行日: 2023/12/31
    公開日: 2024/03/02
    ジャーナル フリー
    本研究は障害児を保育する際に担任保育者と加配保育者がどのように共有フレームを構成しているのか,そのプロセスを明らかにすることを目的とする。11か月間に計11回の保育観察と担任保育者と加配保育者への半構造化インタビューを行った。その結果,1学期はそれぞれ異なったフレームにより同じ課題設定をする時期からフレームのみなしによりフレーム固着が起こっていた。2学期に入り,新たな課題設定に触れることでフレームの省察がなされフレーム固着が解消されると同時に共有フレームが構成されることを明らかにした。
第2部 国際的研究動向
  • 門松 愛
    2023 年 61 巻 2 号 p. 187-197
    発行日: 2023/12/31
    公開日: 2024/03/02
    ジャーナル フリー
    本研究は,バングラデシュの就学前教育教員に求められる専門性と養成内容を明らかにすることを目的とした。まず,教員ガイドと教員実践から求められる専門性を検討し,教員養成プログラムと教員1名へのアンケート,インタビュー調査から養成内容を明らかにした。結果,求められる専門性として,授業を進める力,子どもとの関わり方,遊びをおこなう技術の3点が指摘できた。このなかで授業を進める力が重視される一方で,子どもとの関わり方,遊びに関する専門性の養成は限定的であることが明らかとなった。しかし,特に子どもとの関わりに関しては,もともと教育学の専門性をもたない教員にとっては有益な養成内容であることがうかがえた。
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