保育学研究
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52 巻, 2 号
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<巻頭言>
第1部 自由論文
原著<論文>
  • ―2011年教育改革後の教育学的ドキュメンテーションに着目して―
    大野 歩
    2014 年52 巻2 号 p. 150-161
    発行日: 2014/12/25
    公開日: 2017/08/04
    ジャーナル フリー
    本論文の目的は,生涯学習制度を構築したスウェーデンで,2011年教育改革後に導入された保育評価の特徴を検討することにある。方法としては,「教育学的ドキュメンテーション」という評価方法に焦点を当て,先行研究の検討からその特徴を分析した。また,現地調査に基づいて,就学前学校における新しい評価の導入への対応を検討した。検討の結果,「教育学的ドキュメンテーション」はスウェーデンの幼児教育学の研究を基盤に開発された独自の実践手法であり,子どもの学びと保育者の学びという2つの学びのプロセスを観察するという観点から編成されていることが明らかとなった。
  • ―保育課目手細工・遊嬉に着目して―
    澤田 真弓
    2014 年52 巻2 号 p. 162-171
    発行日: 2014/12/25
    公開日: 2017/08/04
    ジャーナル フリー
    明治期,日本の幼稚園教育は東京女子高等師範学校附属幼稚園がけん引したことは確かである。しかし,この場合の多くは附属幼稚園の本園を指し,附属幼稚園分室のかかわりが検討されることはほとんどなかった。分室は本園と性質の異なる対照的な存在とみなされてきたのである。本稿では保育課目の手細工と遊嬉に焦点を当て,分室の指導内容を検討した。すると,「幼稚園保育及設備規定」の保育課目制定に分室の保育内容が関与していたことが明らかとなった。本稿は,分室が簡易幼稚園あるいは貧民幼稚園という枠組みを超えて,一般市民に向けた幼稚園のモデル作成において重要な役割を果たしていたことを指摘するものである。
  • 大桑 萌
    2014 年52 巻2 号 p. 172-182
    発行日: 2014/12/25
    公開日: 2017/08/04
    ジャーナル フリー
    本研究では,0〜2歳児の仲間関係について子ども同士の模倣に焦点をあてて観察を行なった。その結果,模倣の機能を3つに分類することができた。子どもたちは,(1)学習としての模倣によって社会的スキルを習得する。(2)コミュニケーションとしての模倣によって仲間関係を構築・維持を図っている。(3)表現としての模倣によって,他者の姿を伝えるのである。模倣を通じて子どもたちは他児から学び,相互に楽しくコミュニケートし,他児を真似ることで表現し豊かな集団生活を送っている。模倣が,様々な状況で複数の機能を果たし,子どもたちの心身の成長を促進させることが示された。また,模倣によって子どもたちの心が豊かに現れるという模倣のあり方も示唆された。
  • ―崩れに伴う応答と行為に着目して―
    宮田 まり子
    2014 年52 巻2 号 p. 183-196
    発行日: 2014/12/25
    公開日: 2017/08/04
    ジャーナル フリー
    本研究は,幼稚園3歳児の積み木場面における,積み木崩れ時に対する幼児の肯定的な反応について,(1)どのような崩れにおいて肯定的な反応が生起するか(2)崩れという物的な環境の変化が相互作用にいかに影響を及ぼすのかという2点についての検討を行うものである。分析の結果,崩れに対し肯定的な反応が見られる時は,積み手の積み上げに対する目的が無い時や曖昧な時であった。ただし,積み手の目的が積み木場面を共有する仲間との同調にあった場合は,その仲間の目的に合わせた反応が見られた。また,積み手の目的の相違が崩し行為によって明示化されることから,目的を有した積み手による他者への働きかけが促進されることが示唆された。
  • ―根拠の明示と関係性に着目して―
    辻谷 真知子
    2014 年52 巻2 号 p. 197-209
    発行日: 2014/12/25
    公開日: 2017/08/04
    ジャーナル フリー
    この研究では,幼児が幼稚園において他児に規範を提示する場面を観察し,規範の重要性にどのように気付いていくのか検討する。幼稚園4歳児クラス35名の6ヶ月間の観察の記録から,「1)規範提示の際に示される根拠」「2)その規範提示が誰のためになされたか」の2点により分析した。その結果,1)規範提示の根拠には提示者側の伝えたい意図だけでなく,他者への意識が含まれるということ,2)園内で共有されている規範については保育者が根拠として提示される一方で,多くの場合は規範の根拠が示されないことが分かった。それらの規範を示す必要がない,あるいはそれらの規範に根拠を想定していないことが示唆された。保育者には子どもたちが他者との関係性の中で規範の重要性やその根拠に気付くような援助が求められる。
  • 藤野 紀子
    2014 年52 巻2 号 p. 210-219
    発行日: 2014/12/25
    公開日: 2017/08/04
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は,自分の子どもに障害があるのではないかと感じ始めた時,母親はどのような感情を抱き変化したか,自閉症児が加わった家族成員はどのように変化したか,母親と家族の変化に影響を与えた要因は何であるかを明らかにすることである。本研究では,幼児期の自閉症児を持つ母親5名に半構成的な面接を実施し,修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチを用いて分析した。母親の感情は,「子どもとの一体感」へ変化し,自閉症児の加わった家族は,子どもを中心に夫婦で協力するようになった。家族と母親の変化は循環的に影響し,母親と家族の変化に影響を与えた要因は,一般社会との関わりであることが示唆された。
  • ―A市内における保育士への意識調査を通して―
    本間 英治
    2014 年52 巻2 号 p. 220-231
    発行日: 2014/12/25
    公開日: 2017/08/04
    ジャーナル フリー
    保育制度が変化し,保育ニーズが多様化する中,保育現場では,保育士と子どもとの関わりにどのような変化が生じているのだろうか。本研究では,ある自治体における保育士と子どもの関わりの実態や変化を明らかにする量的調査を行った。その結果,A市の保育士の多くが保育にゆとりがない,保育環境が悪化したと感じており,子どもの安全に不安を覚えていた。保育士と子どもの関わり方にはあまり変化はなく,日々の関わる時間(回数)も減少していなかったが,危険を回避するため,保育士が全体を見渡せる場所に立って保育をする状況が増えていた。本調査から,保育士が保育状況を評価する場合,「園児定員数」「主観的規模」「勤務形態」が大きく影響することが明らかになった。
  • ―保育行為スタイルと価値観に着目して―
    上田 敏丈
    2014 年52 巻2 号 p. 232-242
    発行日: 2014/12/25
    公開日: 2017/08/04
    ジャーナル フリー
    本研究は,初任保育者を対象にインタビュー調査を行い,初任保育者の保育行為と価値観との関係性を発生の三層モデルを手がかりに明らかにすることで,日々の保育行為が価値観に影響を与えていくプロセスを明らかにする。インタビューは,2012年6月から2013年3月まで,月1回行われた。サトミ先生は公立保育園に勤務し始めた初任保育者である。保育者の語りを質的研究法のSCATとTEMを用いて分析した。結果として,とまどい期から,試行錯誤期を経て,保育できた・できる観を獲得していくプロセスが明らかになった。
  • 佐藤 和順, 熊野 道子, 柏 まり, 田中 亨胤
    2014 年52 巻2 号 p. 243-254
    発行日: 2014/12/25
    公開日: 2017/08/04
    ジャーナル フリー
    本研究は,保育者のワーク・ライフ・バランスにかかわる意識とその実際を明らかにし,保育の評価との関係性を検証するものである。本研究から得られる知見は,次の通りである。第一に,性別役割観とワーク・ライフ・バランスの意識には関連がある。性別役割観が,ワーク・ライフ・バランスの捉え方に影響を及ぼしている。第二に,保育者は理想と考える生活とは異なり,仕事中心の生活をおくっている。理想と現実の生活の間には乖離がある。第三に保育者のワーク・ライフ・バランスと保育の評価には関連性がある。保育の評価の高い保育者は,ワーク・ライフ・バランスの満足度も高い傾向にあり,「積極的なかかわり」を保育に取り入れている。保育者がワーク・ライフ・バランスを取れるようにすることも,保育の質を保障する一助になると考える。
  • 新山 順子, 西山 修
    2014 年52 巻2 号 p. 255-267
    発行日: 2014/12/25
    公開日: 2017/08/04
    ジャーナル フリー
    本論では,保育者養成の身体表現の授業において即興表現を中核とする実践を行い,受講学生の学びの特性を明らかにした。具体的には,受講学生の内省を量的分析及び質的分析により検討した。その結果,行為に着目した場合,「身体表現の主要行為」である「動く」「作る」「見る」を中心に,「感覚的行為」,「関係性から生じる行為」,「思索的行為」,「理解や判断の行為」等の出現を確認することができた。また,その内容は,身体や動きへの実感から,表現の工夫まで広がりがあり,仲間との関係性の中で深められる様子も確認できた。
  • 今井 麻美
    2014 年52 巻2 号 p. 268-278
    発行日: 2014/12/25
    公開日: 2017/08/04
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は,子どもの幼稚園入園に伴い,母親が保育者と関わるプロセスを母親側の視点から記述することである。さらに,「母親をする」プロセスにとって,保育者との関わりはどのような意味があるかを明らかにすることを目的とする。方法は,母親18名を対象としたインタビュー調査であり,M-GTAを用いて分析した。その結果,保育者との関わりが深まるプロセスの中で,母親は保育者を意味付けると同時に,母親である自分自身を捉え直し,再構築していた。従って,子どもの幼稚園入園に伴い,保育者と出会い,関わりが深まる経験は,「母親をする」プロセスにおいて一つの分岐点であると考えられた。
  • 杉本 信, 並木 真理子
    2014 年52 巻2 号 p. 279-292
    発行日: 2014/12/25
    公開日: 2017/08/04
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は,母親の怒り感情の抑制と怒り感情への評価,子育てに関するメタ認知,育児自己効力感の関連を検討することであった。4〜5歳児を持つ母親を対象に,子育てに関する怒り感情の抑制と評価,子育てに関するメタ認知,育児自己効力感に関する質問紙調査を実施した。結果,以下の点が明らかとなった。怒り感情への評価の『他者懸念』と子育てに関するメタ認知の「他者をとおした省察」との間に有意な正の相関を見出し,怒り感情に対して他者を意識している母親は,他者をとおして自分の育児を見直していることを示した。また,怒り感情への評価の『負担感』と育児自己効力感との間に有意な負の相関が見出され,怒り感情を負担であると評価していない母親の育児自己効力感が高いことを示した。
第2部 国際的研究動向
  • ―形式的統合から実質的統合への挑戦―
    洪 福財, 劉 郷英
    2014 年52 巻2 号 p. 294-305
    発行日: 2014/12/25
    公開日: 2017/08/04
    ジャーナル フリー
    2012年,台湾では,「幼児教育及照顧法」(「幼児教育とケア法」)が施行された。本法の施行により,教育行政管轄の幼稚園と社会福祉行政管轄の託児所の二元化したシステム生態が変化し,幼児教育機関も新法の施行により名称が変更された。政府もこの法変革のことを「幼托整合」(「幼保一元化」)と位置付けている。台湾における百数年の幼児教育の発展史を顧みると,日本模倣や中国等の勢力の影響で,幼児教育機関の性質や,受け入れ対象,保育者養成,カリキュラムと教育方法及び施設設備等の面では,次第に規範化されてきた。しかし,今回の政策変革の目的は,制度改革を通して,今まで築いてきた幼児教育体制に即効的な影響を及ぼすことによって,台湾の幼児教育発展の抜本的な改革をもたらすことである。本稿では,先ず台湾における幼児教育の現状を紹介し,前述の法変革の年を分岐点にして,変革前と変革後の幼児教育の発展状況についてそれぞれ検討を行う。次に,前述の政策変革が幼児教育にもたらす影響と今後解決すべき課題について考察する。
英文目次
編集後記
奥付
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