保育学研究
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60 巻, 1 号
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<巻頭言>
第1部 自由論文
原著<論文>
  • ―保育要領から幼稚園教育要領への変化を保育者はどう捉えたか―
    永倉 みゆき
    2022 年 60 巻 1 号 p. 7-19
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/15
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は,静岡大学教育学部附属幼稚園が昭和25年と昭和32年に作成した二つの教育課程を比較検討することにより,「保育要領」から「幼稚園教育要領」への改訂が保育者達に与えた影響を明らかにすることである。その結果,それぞれの教育課程作成に於いては「要領の基本精神の理解」と「要領に沿った教育課程の作成」が,矛盾を孕みながら進められていたことが明らかになった。保育者達は,時代に合わせて教育課程を作成しながらも,自らの実践を基にした修正を加えていた。それは,他の学校種の教育課程形式には収まり切れない保育の独自性を表そうとする,保育者の主体的な姿勢から生まれたものであった。
  • 横山 草介, 関山 隆一
    2022 年 60 巻 1 号 p. 21-32
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/15
    ジャーナル フリー
    本稿の目的は保育の実践に関わる「信念」と「実践知」とを区別した上で,保育の担い手が抱いている実践についての信念のあり様をヴィジュアル・ナラティヴの方法論に依拠した「イメージ描画法」を用いて明らかにすることにある。研究協力を得た29名の保育士によって描かれたイメージ画の分析の結果,保育実践に関わる信念イメージの典型を示し得るものとして(1)子どもと同じ目線,(2)多様性の受容,(3)見守りの姿勢という3つのコードによって特徴づけることのできる信念イメージが抽出された。保育者の抱く実践についての信念の研究に視覚的なイメージの生成という方法を導入することにより保育者の信念研究の新たな可能性を展望した。
  • ―目標共有の仕方に着目した縦断的観察―
    瀬野 由衣
    2022 年 60 巻 1 号 p. 33-44
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/15
    ジャーナル フリー
    本研究では,2〜3歳児の遊び場面を半年間,保育園で縦断的に観察し,仲間同士で「一緒に」を求める目標共有の仕方に着目して事例を考察した。その結果,前後期共に観察された「相互模倣」では,目標共有という点では明示的な自覚はないが,同じ動きを介してコンタクトの成立を確認し,「一緒であること」を共有する姿が観察された。後半期には,「ごっこ遊び」や「共同構成」の中で,言葉を使って他児と目標を共有する姿が観察された。具体的には,同じ行動を行っていることをアピールしたり,目標を共有していることを確認する姿が観察された。以上の結果は,2歳児クラスの子ども同士の仲間関係や合意形成,自我発達との関連で考察された。
  • 中道 圭人, 砂上 史子, 髙橋 実里, 岩田 美保
    2022 年 60 巻 1 号 p. 45-56
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/15
    ジャーナル フリー
    1-2歳児の社会情動的能力の発達と保育所の環境設定の質の関連を検討した。参加者は,公立保育所に通う1-2歳児とその保護者の829ペア,各クラス担当の保育者378名であった。保護者が子どもの社会情動的能力を,保育者が保育所の環境設定の質を評定した。その結果,子ども要因(月齢,性,出生順位)や家庭要因(世帯収入,保護者の被教育歴,養育態度,等)を考慮した場合でさえ,「遊びのための環境設定」の質の高さは,1-2歳児の問題行動の少なさに寄与した。特に,保護者の応答性が低い場合に,その環境設定の質は子どもの発達と関連した。本結果は,長時間の保育を経験する子どもにとっての保育所の環境設定の質の重要性を示している。
  • ―幼小連携・接続のアイディアの結晶化の過程―
    齊藤 多江子, 無藤 隆
    2022 年 60 巻 1 号 p. 57-68
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/15
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は,幼小連携・接続に着目し,制度や行政の動きが実践現場,保育団体,研究者からどのように影響を受けてきたのかを分析することを通して,日本の幼児教育における広義の明示的また暗黙的「知識」の産出とその伝播を検討することである。その結果,「連続性」や「接続期」,「協同的(な学び)」は,実践に支えられたものとして具体化され,これらの「アイディア」を行政側が取り上げたことが明らかになった。そしてその背景には,保育現場,研究者,保育団体,そして行政これらの相互作用が「知識」の産出と伝播につながり,日本の幼児教育のシステムの一部を作り出してきたと考えられた。
  • 須永 真理
    2022 年 60 巻 1 号 p. 69-80
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/15
    ジャーナル フリー
    本研究では,連絡帳を通して保育者は自己主張期の子どもをもつ保護者をどのように支援しているのか,その様相を明らかにするために一組の親子を対象とした2年間の連絡帳記述内容の分析を行った。その結果,保育者による支援の枠組みとして「保育実践を基盤として関わる」「子どもの立場に立って自己主張の背景を伝える」「子どもへの関わりの方向性を伝える」といった3つの大カテゴリーが見出された。そうした支援の枠組みを用いて保育者は保育実践の中で積み上げてきた子どもとの関係性を土台とし,子どもを中心とした関わりを通して,保護者自らが子育ての方法を見つけ出すことができるように支援していることが明らかとなった。
  • ―乳児保育担当経験のある園長の語りから―
    永井 久美子, 香曽我部 琢, 渡辺 俊太郎
    2022 年 60 巻 1 号 p. 81-90
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/15
    ジャーナル フリー
    本研究では,園長がどのような基準で乳児保育担当者を選定しているのか,そのプロセスを明らかにし,選定プロセスにおいて,用いられる概念を抽出し,それらの概念間の相互作用や因果関係を明示することによって,園長が乳児保育担当者に求めている専門性を探り,検討を加えた。具体的には,乳児保育の経験のある園長に対して半構造化インタビューを行い,乳児保育担当者をどのような基準の下で選定するのか,その選定プロセスにおける園長の意識や意志について言語化した。その言語データをGTAによって分析することにより,乳児保育経験のある園長が「乳児保育担当者の専門性」をどのように捉えているのか暗黙知を可視化することができた。
  • 藤崎 亜由子, 麻生 武
    2022 年 60 巻 1 号 p. 91-102
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/15
    ジャーナル フリー
    子どもと自然との関わりを育むための基礎的データを集めることを目的に,園庭に生息する15種の身近な虫に対する子どもの認識を調べた。3,4,5歳,計91名の幼稚園児にインタビュー調査を実施した。虫の写真を見せて,名前を知っているか,見たことがあるか,好きか,触れるかを尋ねた。その結果,虫の名前の認識は加齢とともに増加していた。一方で,5歳児になると特に女児は虫を嫌う子が増え,幼児期にはすでに虫への嫌悪感情に男女差が生じることが示された。ダンゴムシ,テントウムシ,チョウなどは名前もよく知られておりかつ好かれていた。クモ,カメムシ,カなどは嫌われていた。最後に虫に対する幼児の認識を5つに類型化して教育的関わりについて議論した。
  • 井上 果子, 田村 和子
    2022 年 60 巻 1 号 p. 103-112
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/15
    ジャーナル フリー
    本研究では,保育士が捉えた「対応に苦慮する保護者」および「その子ども」の特徴に着目し,これらの特徴の関係を分析した。調査協力者は,5年以上の保育経験をもち,対応に苦慮する保護者への対応の経験がある414名であった。解析の結果,「対応に苦慮する保護者の特徴」では「拒絶的養育態度」「園への過剰な要求」「怒りのまき散らし」の3因子が抽出され,「対応に苦慮する保護者の子どもの特徴」では「攻撃的態度」「低意欲・他者回避的態度」「不潔・食欲異常」の3因子が抽出された。親の拒絶的な養育態度は我が子にも伝達され,子の攻撃的態度や意欲の低下や他者回避的態度に関連していることが示唆された。
  • 嶌田 弘子, 鈴木 裕子
    2022 年 60 巻 1 号 p. 113-124
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/15
    ジャーナル フリー
    本研究では,保育所実習の質向上の手立てとして,保育所実習を指導する保育者のための自己評価尺度を開発した。研究Ⅰでは,保育者298名を対象に保育所実習指導における困難感等に関する質問紙調査をもとに,60の尺度候補項目を選出した。研究Ⅱでは,因子分析によって,「実習生を尊重した関わり」「保育所実習の原則や理念の理解」「保育実践力を生かした指導」「指導案,実習記録にかかる指導時間の確保」「指導者自身の保育への姿勢」の5因子34項目の尺度が作成され,信頼性と妥当性が検証された。研究Ⅲでは,保育所実習指導者の熟達度群と5因子との関連を検討した。本尺度作成の過程から保育所実習指導の課題と解決のための示唆が得られた。
  • 荒牧 美佐子, 大豆生田 啓友, 松永 静子
    2022 年 60 巻 1 号 p. 125-135
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/15
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は,保育における協同的な学びの背景要因及び保育の豊かさとの関連について明らかにすることである。首都圏の幼稚園,認可保育所,認定こども園の園長(所長)を対象とした質問紙調査を実施した。分析には820名のデータを用いた。園長による園の運営が,保育者の子どもへの関わり,5歳児クラスにおける保育,そして,保育の豊かさにどのように関与するかを検証するモデルについて,共分散構造分析を行った。その結果,職員間の同僚性を促進し,保育を振り返るための時間を確保することが,保育者の子どもへの応答性を高め,子ども自律型の保育を軸とした協同的な学びを支え,保育の豊かさへとつながっていることが確認された。
  • 入江 慶太
    2022 年 60 巻 1 号 p. 137-147
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/15
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は,小児病棟に勤務する保育士の専門性を文献から抽出し,「医療保育専門士」等の認定資格を有していない保育士の専門性の特徴を検討することである。文献研究により得られた6つの専門性(子どもに関わる姿勢,医療的知識・技術,他職種連携,発達支援,生活支援,専門職としての責務)について,小児科を標榜する全国の病院にアンケート調査を行い,得られた回答をt検定や分散分析により比較した。分析の結果,認定資格を有していない保育士は,「子どもに関わる姿勢」「医療的知識・技術」「他職種連携」「発達支援」の専門性を重視しており,「生活支援」や「専門職としての責務」の重視度は低いことが明らかになった。
  • ―保育者としてのやりがいと困難に注目した量的・質的視点からのアプローチ―
    加藤 孝士
    2022 年 60 巻 1 号 p. 149-160
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/15
    ジャーナル フリー
    本研究では,放射能災害を受けた,福島の保育者の保育意識について明らかにするために,量的調査・自由記述調査・インタビュー調査を実施し,分析を行おこなった。その結果,福島の保育者は,他県の保育者よりも保育に関するネガティブな認識が低いことが示された。また,福島の保育者は,子どもの成長について困難を抱えていたが,他の地域の保育者は,保護者や他の保育者との関わりに困難を抱えていた。加えて,福島の保育者は,震災直後の混乱の中,保護者の悩みに寄り添い,保育者同士も連携し合いを通じて,乗り越えていた。そして,その活動が,現在の保育者の意識に影響を与えたことが示唆された。
  • ―TEAによる分析から―
    八代 陽子
    2022 年 60 巻 1 号 p. 161-172
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/15
    ジャーナル フリー
    本論では,前期ミドルリーダーに視点を当て,後輩との関わりが,前期ミドルリーダーの中でどのような保育観の変容をもたらしていくのか,その変容のプロセスを明らかにすることを目的とする。個人の生の歴史をより詳細に描き出すことに視点を当てて,TEMにより時間軸上の変容や安定を描き,またTLMGにより内的変容過程の分析を通じて対象理解を深めることを目指した。分析をとおして,「子どもと向き合う保育観」において,「私の経験に裏付けされた子どもと向き合う保育観」から,「私と後輩のかかわりに裏付けされた子どもと向き合う保育観」へと,ミドルリーダーの中で保育観の質が変容しているという事が明らかになった。
  • 松尾 杏菜
    2022 年 60 巻 1 号 p. 173-184
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/15
    ジャーナル フリー
    本研究は,米国で展開するエマージェント・カリキュラム研究が,どのようにしてレッジョ・エミリアの幼児教育実践と結び付き,その影響を受けて展開してきたのかを明らかにするものである。エマージェント・カリキュラム研究の展開過程を1970年代,1990年代,2000年以降の3つの時期に分け,レッジョの位置づけを分析した。その結果,Emergent Curriculum(1994)を機に,レッジョをエマージェント・カリキュラムのモデルと捉えて参照する傾向が生じたが,近年では,その位置づけが変化していることが明らかとなった。さらに,この変化が,米国のレッジョ理解の象徴であるThe Hundred Languages of Children初版から第三版に見られる,レッジョに対する受容態度の変化に沿うものであると考察した。
  • ―ツーリストカリキュラムに陥らないための注意点とはなにか―
    濱名 毅
    2022 年 60 巻 1 号 p. 185-196
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/15
    ジャーナル フリー
    日本の要領や指針では,国籍や文化の違いを認め尊重する方法として,外国にルーツを持つ保護者の料理の紹介を挙げている。一方,先行研究では,料理を紹介する活動は,ツーリストカリキュラムに陥り誤解や偏見を生む危険性が指摘されている。本研究では,ツーリストカリキュラムに留意した,外国にルーツを持つ保護者の料理を給食で紹介する活動を調査する。該当する保育施設の保育者と栄養士のグループインタビューを基に,活動の内容を,①保護者からのレシピの聞き取り,②保護者の料理を給食で調理,③子どもたちに料理を紹介の過程に整理して,ツーリストカリキュアムを避ける上で配慮すべき点の検討を行った。
応募要項
第2部 保育の歩み(その1)
英文目次
編集後記
奥付
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