保育学研究
Online ISSN : 2424-1679
Print ISSN : 1340-9808
ISSN-L : 1340-9808
59 巻, 2 号
選択された号の論文の13件中1~13を表示しています
巻頭言
第1部 自由論文
原著<論文>
  • ―『保育要領』作成ヘの関与に着目して―
    佐藤 浩代
    2021 年59 巻2 号 p. 7-18
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/06/13
    ジャーナル フリー
    本研究は,1948年に刊行された『保育要領』作成において,責任者であるGHQ/SCAP,CI&Eヘレン・ヘファナンの信頼を得て尽力した功刀嘉子の保育論を検証することを目的としている。1944年に刊行された彼女の著書にある保育環境論は,『保育要領』にも反映されている。著書を中心に彼女の保育論を描出し,戦前におけるナースリー・スクールの保姆としての実践やアメリカ留学による保育の先見性をもつ視点を明らかにした。通訳者として認識されてきた功刀嘉子は,先見性のある自身の保育論をもち,ヘファナンのよき理解者として戦後の教育改革期に幼児教育にとどまらない役割を果たしたことをCI&Eレポートにより確認した。
  • ―教員養成学部教官研究集会幼稚園部会(1954大分大学)における議論に焦点をあてて―
    後藤 正矢
    2021 年59 巻2 号 p. 19-30
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/06/13
    ジャーナル フリー
    本稿の目的は幼稚園教育要領の成立過程を明らかにすることである。そのために,教員養成学部教官研究集会幼稚園部会(1954)における審議がどの程度,どのように反映されたかを検討した。研究方法は,研究集会時の「案」,審議内容,幼稚園教育要領(1956)の比較である。
    検討の結果,この研究集会における審議が幼稚園教育要領にかなり反映されていることが明らかになった。また,幼稚園教育要領の成立に国立大学の研究者の一部のみが大きな影響を与えたことも明らかとなった。
  • ―3歳児クラス期から4歳児クラス期の変化に着目して―
    岩田 美保
    2021 年59 巻2 号 p. 31-42
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/06/13
    ジャーナル フリー
    本研究は,幼稚園の3歳児クラス期から4歳児クラス期の仲間遊びにおける遊戯的なネガティブ感情言及について,その言及状況と関係調整的役割に着目し発達的検討を行った。3歳児クラス期では,保育者の働きかけへの反応を含め,仲間間で遊戯的なやりとりが共有された状況で同言及がみられた。4歳児クラス期では,同言及が仲間間でより自主的かつ多様になされるようになり,ネガティブな状況設定を楽しく共有しうる状況や,反省・自嘲的及び経験の振り返りに関わる状況で言及がみられるようになった。それらの状況を通じ,同言及が関係調整的な役割を果たしていることが示唆された。これらは感情コンピテンスの発達の観点から重要と考えられた。
  • 井川 貴裕
    2021 年59 巻2 号 p. 43-50
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/06/13
    ジャーナル フリー
    本研究は4~5歳の幼児38名を対象として,幼児期の反応敏捷性と疾走能力及び方向転換能力との関係性を検討した。測定項目は反応敏捷性として4センサーアジリティ,疾走能力として10m走,方向転換能力としてプロアジリティを測定した。その結果,すべての項目において有意な相関関係が認められた。また,プロアジリティおよび10m走が速ければ4センサーアジリティが速いという関係性が明らかとなった。さらに,4センサーアジリティにおいては10m走よりもプロアジリティが大きな影響を及ぼしていることが示唆された。幼児期の反応敏捷性を向上させるには,直線の疾走速度ではなく,切り返しを含んだ方向転換能力を高める必要があることが示唆された。
  • 阿部 仁美
    2021 年59 巻2 号 p. 51-61
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/06/13
    ジャーナル フリー
    本研究は,異年齢保育における多層的な関係性について,正統的周辺参加論を援用し明らかにすることを目的とした。3・4・5歳児の異年齢クラスの3歳児3名を対象として,ビデオを用いた参与観察を行い,異年齢の仲間への働きかけを分類し,エピソード分析を行った。その結果,3歳児の同年齢の仲間への働きかけ方略が,異年齢児相手にもみられると共に,新たに見出した働きかけ方略も用いていた。3歳児の主体的な「参加」の背景には,3歳児自身がもつ興味関心とそれを支える関係の網の目が存在した。これまで「ケアされる」立場とされてきた年下の子どもが主体的に「参加」していること,その「参加」には共同体との多層的な関係があることが明らかになった。
  • ―保育室内における滞留行動と回遊行動に着目して―
    中田 範子
    2021 年59 巻2 号 p. 63-74
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/06/13
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は,保育所の2~3歳児クラスに在籍するS子の保育室内での滞留行動と回遊行動に着目し,幼児の求める場の機能を考察することである。約21ケ月の観察データから,140事例をサンプリングし,各事例をエピソード法とSCAT分析により,質的に分析した。その結果,本研究では,縦断的に分析したところ,S子は場の機能を求めて滞留する場を移行させているのではなく,その場に滞留することを繰り返しながら,新たな場の機能を見出していた。また,S子は,他児と一緒に滞留・回遊行動を繰り返すことにより,回遊行動が目的化し,遊びを展開してストーリーを実現する「場」を生成していることが明らかになった。
  • ―質問紙調査の結果より―
    和田 美香
    2021 年59 巻2 号 p. 75-85
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/06/13
    ジャーナル フリー
    本稿では,保育所や幼稚園等に勤務する保育者277名に対し質問紙による衝動・多動傾向のある子どもの対応の有無(14項目),対応した時の保育者の困り感(14項目),保育者の認識(14項目),具体的な対応について(3項目)の調査を行った。204名から回答を得て分析と考察を行った。結果は,衝動・多動傾向のある子どもへの対応について,多くの保育者が困難を感じていることがわかった。その理由の一つとして,障害に関する概論的な知識は得ていても,現場での具体的な対応方法の知識が不足しているのではないかということが示唆された。
  • ―ベテラン保育者の加配1年目におけるリフレームに着目して―
    櫻井 貴大
    2021 年59 巻2 号 p. 87-98
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/06/13
    ジャーナル フリー
    本研究は,ベテラン保育者が初めて加配保育者として配置された際に,担任保育者のフレームがどのようにリフレームするかに着目し,加配保育者特有のフレームを明らかにすることを目的とする。担任経験17年の加配保育者1名を対象に,半構造化インタビューを行い,SCAT(Steps for Coding and Theorization)により分析を行なった。その結果, 加配保育者特有のフレームとは,子ども理解のフレームとして対象児の個性を通して障害特性を理解する個人差理解フレーム,集団理解のフレームとして障害の有無に関わらず,それぞれが異なっている存在の集合であるという多様性集団理解フレームであることを明らかにした。
第2部 国際的研究動向
  • ―0歳から6歳の統合制度をめぐって―
    星 三和子
    2021 年59 巻2 号 p. 101-112
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/06/13
    ジャーナル フリー
    イタリアの乳幼児教育制度は3歳未満と3歳以上の分離制度であるが,最近の国家政策は0歳から6歳の統合制度に移行しつつある。この統合制度には,制度と実践の両面で主導的な役割を果たしてきたいくつかの自治体の経験が基盤にある。本稿では6年間を通した統合に関連する,以下のイタリアの乳幼児教育の特徴を検討する:発展の経過,現在の制度,乳幼児期の特性を反映した国と自治体の指針,教育コーディネータの支援の下での教育職の協働的な労働条件。また,0~2歳の教育実践および6年間の教育の一貫性についての事例が分析される。
英文目次
編集後記
奥付
feedback
Top