保育学研究
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60 巻, 2 号
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巻頭言
第1部 自由論文
原著<論文>
  • ―保育士・介護福祉士・看護師が投稿したtweetsの感情価の比較検討―
    中井(松尾) 和弥
    2022 年 60 巻 2 号 p. 7-17
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/03/27
    ジャーナル フリー
    近年,Social Networking Service(SNS)に関する研究が目覚ましく発展している。しかし,保育に関するSNSの研究は皆無であった。そこで本研究では,保育士が投稿した「保育」という語を含んだtweetsの感情価について検討した。スクレイピングを行うことで,計3,287,646件のtweetsを収集した。収集したtweetsのうち,本研究の目的とは関係のないものは削除したため,最終的に計68,544件のtweetsを分析に用いた。分析の結果,保育士によるtweetsには,介護福祉士および看護師のそれと比較して,ポジティブ感情語が有意に含まれやすかった。また,保育士によるtweetsには,看護師のそれと比較して,不安語も有意に含まれやすかった。本研究の結果より,保育士が自身の業務や職業に魅力ややりがいを感じる者がいる一方で,不満を抱いている者もいることが示唆された。
  • ―その関係調整的役割に着目した3〜4歳児クラス期の発達的検討―
    岩田 美保
    2022 年 60 巻 2 号 p. 19-31
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/03/27
    ジャーナル フリー
    本研究は,幼稚園の3〜4歳児クラス期の2年間の縦断的観察に基づき,仲間遊びでのポジティブな感情表現としての「かわいい」への言及について,その関係調整的役割に着目し検討した。言及状況及びやりとりの分析から,3歳児クラス期前期の保育者の介在する状況での萌芽的な言及を経る中で,3歳児クラス後期から一方主導的な言及も含めて,子どもたちが「かわいい」への言及を関係調整的に用い始めるようになること,4歳児クラス期になると,子ども同士での愛着共有や,価値づけ,「かわいい」ものの実現化等を通じて同言及をより明確に関係調整的に用いるようになることが示された。これらは感情コンピテンスの発達の観点から重要といえる。
  • 奥谷 佳子
    2022 年 60 巻 2 号 p. 33-44
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/03/27
    ジャーナル フリー
    本研究は,幼稚園4・5歳児クラスの協同的な遊びと活動場面における保育者の質問の特徴を明らかにすることを目的とする。場面別に学年による保育者の質問の違いを,指導計画やインタビューでの保育者の語りを踏まえて分析した結果,以下3点が明らかになった。第1に,場面・学年に共通し保育者の質問は主に幼児の意図やイメージを問う内容であった。第2に,協同的な遊び場面では,保育者の担う役割が学年で異なることから,幼児や保育者の意図やイメージに関する質問に学年による違いがあった。第3に,協同的な活動場面では,幼児の保育経験が学年で異なることから,保育者の意図や幼児の行為の可能性に関する質問に学年による違いがあった。
  • ―「学びほぐし」を分析枠組みとして―
    山下 愛実
    2022 年 60 巻 2 号 p. 45-56
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/03/27
    ジャーナル フリー
    本研究は1年目の新人保育者が創出する実践と実践にみる視点の変化に着目し,立場を異にする保育者と観察者の相互交流を通じて見出される実践変容の内実の一端を捉えることを目的とした。幼稚園で参与観察を実施し,学級で過ごす時間に「保育者の意図と異なる子どもの姿」が見られた場面における保育者の実践について,「学びほぐし」の概念を分析枠組みとして分析した。その結果,保育者の教示的な実践の型は観察者の視点が共在することでほぐされ,子どもの視点を含む新たな実践が創出された。この変容プロセスでは,“パートナーシップに基づく子ども理解”が下支えとなった事象の共有を重ねることが一つの契機となっていたことが見出された。
  • ―アクションリサーチによる縦断的検討を通して―
    片岡 今日子, 松井 剛太
    2022 年 60 巻 2 号 p. 57-68
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/03/27
    ジャーナル フリー
    本研究では,園内研修におけるリフレクションに注目し,保育者集団はどのようなリフレクションの過程を経て,本質的な諸相への気づきに至るのかを,コルトハーヘンのALACTモデルを参照に検討した。その結果,課題意識を持って保育を行うこと,同僚と語り合う経験ができること,見方・認識の再構築に迫る問いが生まれることにより,本質的な諸相への気づきに至ること,そうして得られた本質的な諸相への気づきは保育者の行為を裏付け,手応えになることが分かった。それらの実現のためには,ミドルリーダー的役割を担う者による研修のデザイン,そういった存在が正統的に発生するような状況が重要であることも示唆された。
  • 長野 康平, 篠原 俊明
    2022 年 60 巻 2 号 p. 69-77
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/03/27
    ジャーナル フリー
    本研究では,幼児の基本的動作に対する客観的評価と保護者の主観的評価との一致度を明らかすることを目的とした。対象者は179名(男児94名,女児85名)の幼児とその保護者であった。7種類の基本的動作について,客観的評価は専門家による観察的方法,主観的評価は保護者による質問紙によって,動作水準を5段階で評価した。その結果,幼児の基本的動作の客観的評価と保護者の主観的評価の一致率は低かった。保護者がわが子の基本的動作の水準を過小評価していることにより,未熟な段階での一致率が高まった可能性が示唆された。
  • ―幼児の利用実態と幼児同士の相互作用の分析―
    根橋 杏美, 砂上 史子
    2022 年 60 巻 2 号 p. 79-90
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/03/27
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は,登はん型遊具における幼児の「挑戦的活動」の取組実態と幼児同士の相互作用を明らかにすることである。4・5歳児向けに開発された登はん型遊具で遊ぶ3~5歳児の行動観察を行ったところ,「達成」「挑戦」の取組は4・5歳児に多くみられた。これには4・5歳児の身体特徴を考慮した安全で難易度の高い遊具構造が関連していた。また,幼児の発話内容は〈他児との関わり〉〈自他認知〉〈危険安全認知〉の3グループで構成される。登はん型遊具における「挑戦的活動」は,登り降りの場面により挑戦の質が異なり,幼児同士の教え合いや他児の挑戦的意欲を引き出し,危険や安全に対する学びの場になるという教育的意義が示された。
  • ―「ハザード」「リスク」に着目して―
    板東 愛理香
    2022 年 60 巻 2 号 p. 91-101
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/03/27
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は,保育の遊び場面に適した「危険性」を,「ハザード」「リスク」の概念を用いて新たに提案することである。子どもの安全に関するこれまでの研究を精査した結果「ハザード」と「リスク」の概念に混乱が見られた。子どもの遊びにおける「危険性」には価値があるとする概念と,存在する「危険性」は限りなく排除することが前提となる概念がある。そうした混乱を解消するため新たな定義を提案した。新たな定義では「ハザード」は「子どもが関わる可能性のある全ての事象」,「リスク」は子どもにとって“良い影響”と“悪い影響”の両方が含まれる。
  • ―積極的に支援を行う園に対するインタビュー調査より―
    木曽 陽子, 中谷 奈津子, 吉田 直哉, 鶴 宏史, 関川 芳孝
    2022 年 60 巻 2 号 p. 103-115
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/03/27
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は,積極的に生活困難家庭への支援を行う保育所等へのインタビューをもとに,家庭への介入プロセスを明らかにすることである。M-GTAによる分析の結果,園全体での関係構築を土台に,状況に合わせて支援の主体を担任から管理職に移行させつつ介入を行うプロセスが示された。介入の基盤には,〈園全体で関係構築しながらの家庭支援〉,〈異変の感知と情報収集〉,〈園内での情報共有〉があった。異変があるたびに子どもと保護者の状況をふまえて〈管理職を中心とした随時判断〉が行われ,〈管理職による家庭への介入〉や〈外部機関と協働した介入〉が実施されていた。これら全体に『介入の必要性に対する管理職の考え』が影響していた。
  • ―育児コストと子に対する親の評価を中心に―
    西本 瞳, 河野 和明
    2022 年 60 巻 2 号 p. 117-124
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/03/27
    ジャーナル フリー
    幼保園に対する親の評価の特徴を明らかにするため,6歳までの未就学児を1名以上もつ親を対象としてWEB調査を実施した。親による幼保園の評価6項目は強い一因子性を示し,幼保園の多様な側面が一様に評価される傾向が示唆された。評価得点は女性が男性よりも高かった。子に対する親の評価6項目も強い一因子性を示した。幼保園評価を重回帰分析によって予測したところ,父親の幼保園評価は,育児時間,子に関する反芻,子に対する評価が有意に予測したが,母親は,反芻および子に対する評価のみが有意に予測した。全体的に,子に対する評価・子についての反芻といった親の心理的側面がより強く幼保園評価と関連することが示唆された。
  • ―担当児の退所に伴う喪失体験に着目して―
    坂元 晴香
    2022 年 60 巻 2 号 p. 125-136
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/03/27
    ジャーナル フリー
    本研究は,担当児の退所を経験した施設保育士の態度変容のプロセスを明らかにすることを目的とする。対象は担当児の退所を経験した乳児院に就業する保育士8名である。面接法にて収集したデータをM-GTAにて分析した結果,本プロセスは【揺らぎつつ担当児との生活を過ごす】【葛藤しながら担当児の退所を支える】【喪失の悲しみを抱える】【揺れ動きながら変えていく】【乳児院での養育を再定義する】【乳児院での養育を引き受ける】という過程を辿ると考えられた。施設保育士は担当児の退所によって乳児院での養育を再定義し,自身の悲哀をも抱えながら乳児院での養育を引き受けていくことが明らかとなった。
  • 長野 未来
    2022 年 60 巻 2 号 p. 137-147
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/03/27
    ジャーナル フリー
    遊ぶことと識別される「遊びこむ」ことを周囲のモノや人や出来事と関係を深めていくことと定義づけ,二人称的アプローチによって1歳児が情感の「揺れ動き」を伴って遊びこむプロセスを明らかにした。結果として1歳児は,まず関係を深める対象として定めたモノ自体への理解を深める「What的関係深化期」と,なじんだモノを媒介物として用いることで遊びを展開していく「How的関係深化期」を経験することが示された。また,遊びこむプロセスにおいて1歳児は情感の揺れ動きを伴う葛藤を経験しており,人的環境である保育者は行為レベルの援助にとどまらず,遊び手の情感を受け止め支えるような姿勢でそのプロセスに関わることが求められる。
第2部 国際的研究動向
  • ―子どものWell-beingという視点から―
    七木田 敦
    2022 年 60 巻 2 号 p. 151-161
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/03/27
    ジャーナル フリー
    本稿では,保育の質の問題についてドイツがどのように取り組んできたかについて言及する。特に発展途上とされてきたドイツでは,保育整備がなぜ急務とされてきたのか,そしてなぜ保育の質について議論が盛んになってきているのかをドイツの保育の政治的歴史的な特殊性から捉え直す。2001年の「PISA ショック」以降,ドイツでは国を挙げて保育の整備に取り組み,その成果が報告されている。近年では保育者の労働環境や心理的,身体的な健康も保育の質に影響を与えるリスク要因であると考えられている。また子どもの”well-being”という側面を指標にすることで新たな「質」を見直す試みがされている。
英文目次
編集後記
奥付
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