保育学研究
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61 巻, 1 号
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<巻頭言>
第1部 自由論文
原著<論文>
  • 石田 祥代, 藤後 悦子, 野澤 純子
    2023 年 61 巻 1 号 p. 7-18
    発行日: 2023/08/31
    公開日: 2023/11/22
    ジャーナル フリー
    特別ニーズ児が支援に繋がった事例を検証し,保育者の役割と支援を促す園の体制について明らかにすることを目的とした。園長に半構造化面接を実施しM-GTA法で分析した結果,支援がうまくいかない要因として母親と園との関係不全がみられた。保育者の介入が,特別ニーズ児・保護者への理解と母親からの信頼に繋がること,管理職の力量が母親の気持ちや障害受容に好影響を及ぼすことが明らかとなった。特別ニーズ児の家庭支援のためには,児の発達を促すことに加え担任の視点拡大や専門性向上,保護者に寄り添う園体制整備が不可欠で,管理職としての指導力や統率力に加え園長への信頼が,保育者による主体的支援のための土台となることが分かった。
  • ―母親が主体的な遊び手となることの意味―
    富岡 麻由子
    2023 年 61 巻 1 号 p. 19-30
    発行日: 2023/08/31
    公開日: 2023/11/22
    ジャーナル フリー
    本研究は,主体的な遊び手としての親の振る舞いの特徴を示すこと,そのような親の振る舞いの親子の遊びや関係における意味を考察することを目的とした。家庭での親子の遊びの観察により,親と子が対等に影響力をもって遊び,親が集中と楽しみを示す事例を抽出し分析した。その結果,親が主体的な遊び手となるのは,1)挑戦や競争を楽しむ遊び,親子の技量の差が縮めやすい遊びで,2)遊びそものもに惹かれる場合と意図的に遊びに入り込む場合があった。また,3)親は自身の多様な心情や実感,遊びに関わる要望を率直に表現し,そのような親の振る舞いが親子の関わり方や遊びの展開を広げる可能性が示された。
  • 須永 真理
    2023 年 61 巻 1 号 p. 31-42
    発行日: 2023/08/31
    公開日: 2023/11/22
    ジャーナル フリー
    本研究は保護者が連絡帳に育児の悩みを記載した際,保育者はどのように話し合い,支援するのかその連携過程を明らかにすることである。1歳児クラスの一組の親子を対象とした連絡帳記載内容の分析と保育実践の参与観察及び保育者へのインタビューを通して検討を行った。その結果,話し合いが保育室に限らず,休憩室や職員室でも繰り広げられ,また同じクラスだけでなく,主任や園長,他クラスといった多様な保育者との話し合いがされていたことが明らかになった。さらにその親子にとって大切なことは何かを確認し,保育者がそれぞれの立場で親子を支援していくといった,園全体での連携によって子育て支援が展開されていることが見出された。
  • 遠藤 愛
    2023 年 61 巻 1 号 p. 43-54
    発行日: 2023/08/31
    公開日: 2023/11/22
    ジャーナル フリー
    本研究は,気になる子どもの事例検討を運営する際,その進行役が行う工夫や調整のプロセスや全体像を明らかにすることを目的とした。気になる子どもの事例検討を運営・進行した経験を有する保育者8名にインタビューを実施し,その逐語録を修正版グラウンデッド・セオリー(M-GTA)を用いて分析した。その結果進行役は,①事例検討で職員が活発に意見を交換しあうこと,②事例提供者が保育実践に前向きになることの2点を重視して,工夫や調整を行っていることがわかった。これらの工夫は,事例検討の実施前,実施中,実施後にそれぞれ行われるが,運営側の日常的な配慮がベースとなって効力が発揮されることが推察された。
  • ―協働的風土,被援助志向性,問題に対する内的帰属及び他者からの評価に着目して―
    浦川 麻緒里
    2023 年 61 巻 1 号 p. 55-66
    発行日: 2023/08/31
    公開日: 2023/11/22
    ジャーナル フリー
    本研究では,保育現場における保育者の援助要請行動に及ぼす要因として,協働的風土,被援助志向性,保育者個人の認知及び態度に焦点を当て検討した。調査の結果,保育者の問題に対する内的帰属が低-中程度の事例場面において,協働的風土が個人の内的帰属及び上司や同僚への相談行動に対する懸念や抵抗感を抑制する効果を持つことが示された。また,協働的風土は同僚への援助要請を直接的に高めていた。上司に対しては,協働的風土が個人の内的帰属や上司からの評価懸念を抑制し,その結果,上司への援助要請を促進するという,同僚とは異なるパスが存在した。職場の協働的風土が保育者の援助要請行動に促進的な影響を及ぼすことが示唆された。
  • ―3年保育就園を断念するまで―
    松原 乃理子, 廣部 朋美
    2023 年 61 巻 1 号 p. 67-78
    発行日: 2023/08/31
    公開日: 2023/11/22
    ジャーナル フリー
    本研究は,我が子にHSC傾向を感じている母親の,幼稚園就園へ向けた活動の過程と,その過程で生じた困難さ及びその要因を明らかにした。乳幼児を育てる母親へインタビューを行った結果,就園に至らなかった過程は,母親が育児に疲弊し,社会から孤立し,心身が追い込まれる過程であることが明らかになった。また,HSC傾向のある子の養育家庭の抱える困難さは,子どもの敏感さを発端に日常生活への支障を引き起こし,社会参加への困難さや養育家庭の孤立へと繋がっていた。そして,養育家庭のHSCに関する知識や,社会におけるHSC認知と当事者理解の状態によっては,それらが養育家庭の育児の障壁となる可能性が示された。
  • 匝瑳 岳美, 小笠原 明子, 前田 泰弘
    2023 年 61 巻 1 号 p. 79-90
    発行日: 2023/08/31
    公開日: 2023/11/22
    ジャーナル フリー
    本稿では,SDGs達成に向けた質を追求する欧州の保育事情からフィンランドに着目し,保育制度が確立された1970年代から30年間にわたる制度改革について論じた。主にフィンランド語による文献を資料とした。本稿で明らかになったのは以下である。1980年代,こども保育法の施行から国家主導型による急進的な改革が,現場に混乱を引き起こす事態を作り出したが,その反省から,1990年代にはこども主体の教育の在り方へ回帰した。ECECは1986年に始まった就学前教育と連携し,情報指導型政策によるカリキュラム開発の結果,2000年代に入りECECと就学前教育の二種のナショナル・コアカリキュラムが施行された。これは,幼保小の連結による教育継続の整備にもつながった。
  • ―中堅期の困難に着目して―
    小島 好美
    2023 年 61 巻 1 号 p. 91-102
    発行日: 2023/08/31
    公開日: 2023/11/22
    ジャーナル フリー
    本研究では,幼稚園教諭が中堅期以降,主に担う役割「(1)幼稚園教諭(実践者)」「(2)園組織人」「(3)家庭人」という3つの視点を設け,中堅期以降のキャリア発達プロセスと困難を明らかにした。そして,キャリア発達を支えた要因について検討を行った。研究方法は半構造化面接法を用い,対象者は,経験年数16年目以降,3名の教諭である。TEMによる分析から,各教諭のキャリア発達プロセスと困難を可視化した。中堅期以降のキャリア発達は,(1)~(3)の役割に関連する「実践者として学び自己成長を実感する機会」「園組織内の立場及び役割への意識変容」「家庭人である自己を再確認する経験」これらの要因に支えられたことが明らかになった。
  • ―教員養成学部教官研究集会(1955岡山大学)における「保育内容の研究」の 議論に焦点をあてて―
    後藤 正矢
    2023 年 61 巻 1 号 p. 103-114
    発行日: 2023/08/31
    公開日: 2023/11/22
    ジャーナル フリー
    本研究の主題は戦後初期の国立大学における幼稚園教員養成カリキュラムを明らかにすることである。そのために「保育内容の研究」がどのように出発したのかを教員養成学部教官研究集会における議論に焦点をあてて検討した。その結果以下のことが明らかになった。研究集会では単位内訳の結論は出なかった。幼稚園教育の独自性や領域の特性を考慮して,養成課程において「総論」を必ず扱うことと,その内容が定まった。参加者たちの妥協点として6領域「各論」で扱うべき内容を検討することとし,その内容が定まった。研究集会の結論ではなく,当時必ずしも自明でもなかった領域毎に科目を開講するという方針が実際には研究集会によって強化された。
  • 木田 千晶
    2023 年 61 巻 1 号 p. 115-126
    発行日: 2023/08/31
    公開日: 2023/11/22
    ジャーナル フリー
    本稿では,「子ども理解」に関連する先行研究の関心の中心を分析し,「子ども理解」が抱える課題の整理を通して,保育・幼児教育において「子ども理解」が形骸化されず,実質的で固有な言葉としてあり続けるための提案を試みる。各先行研究の「子ども理解」の扱い方を分析した結果,8つの【解釈】と3つの傾向に分類された。「子ども理解」が普遍化したのは,保育者の行為を代弁する言葉として「子ども理解」という言葉が用いられたことに起因していた。「子ども理解」への関心の高まりと研究の蓄積が,「子ども理解」の自明な使用を促し,保育・幼児教育の一つの通念としての側面を強めた経緯を示し,課題と展望を論じた。
  • ―言語の選択に焦点をあてて―
    鬼頭 弥生
    2023 年 61 巻 1 号 p. 127-138
    発行日: 2023/08/31
    公開日: 2023/11/22
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は,就学前施設において日本語を母語としない子どもが,母語を使用しながらクラスの一員としてその子らしさを発揮していく過程を明らかにすることである。日本語が全く分からない状態で入園した子どもの1年8か月を園で使う言語に焦点を当て参与観察を行い,発生の三層モデルを用いて複線径路・等至性モデリングで分析した。その結果,通じないから母語を使う必要がないのではなく,母語を使う自分が周囲に受け入れられることで丸ごと自分を受け入れてもらえたという実感を得ることが不可欠であり,母語を肯定的に感じられるクラスは主体的な行動を促すことが示唆された。
応募要項
第2部 保育の歩み(その1)
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編集後記
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