社会情報学
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ISSN-L : 2432-2148
9 巻, 2 号
選択された号の論文の4件中1~4を表示しています
原著論文
  • ―サポート・ネットワーク論と社会関係資本論の文脈から―
    塚常 健太, 大戸 朋子
    2021 年 9 巻 2 号 p. 1-18
    発行日: 2021/02/28
    公開日: 2021/03/16
    ジャーナル フリー

    親同士で形成される友人グループには,子育ての相談相手やサポートなどを得られる利点があるといわれており,居住地域に即した情報の交換と流通の基盤としても機能していると考えられる。

    親の友人関係の形成や活動に関する従来の研究では,特に母親に注目した分析が行われてきたが,実際には必ずしも母親役割(あるいは父親役割)と直結しない,社会的属性や血縁,地縁などの影響も存在すると予想される。また,子育ての脱性役割化が叫ばれるだけでなく,既婚者の実態としても共働き家庭が増加している現状を踏まえると,就業形態や経済力などの影響も考慮した,男女共通の視点が必要だと考えられる。そこで本稿では,サポート・ネットワークと社会関係資本に関する研究の知見を援用し,子を持つ既婚男女を対象とした計量分析を行い,親同士の友人グループへの参加の規定要因を明らかにする。特に社会経済的地位,家族・親族などのサポート・ネットワークの影響に注目する。

    分析の結果,個々の学歴・収入,サポート源および家事育児分担納得感の影響には男女で異なる傾向が見られる一方,社会経済的地位とサポート全体で見ると,父親と母親で共通の規定構造が明らかとなった。地位や既存のサポートが不足している親同士が友人グループへの参加によって補完を行うのではなく,既に生活環境が整った親同士が新たな人間関係を獲得している様相が見られた。

  • 金山 智子
    2021 年 9 巻 2 号 p. 19-35
    発行日: 2021/02/28
    公開日: 2021/03/16
    ジャーナル フリー

    本研究では,災害が繰り返される社会において,災後・災間にコミュニティ放送がどのように災害の記憶の継承を意識し,実践しているかについて明らかにする。災害発生から復興までの一連の捉え方に,災後・災間の視点を新たに加えることで,コミュニティ放送の役割を災害文化継承の観点から再考することを試みた。1995年からの23年間に発生した7つの大規模災害被災地を対象に,24のコミュニティ放送局にインタビュー調査を実施した。結果,コミュニティ放送局は災害発生時から災害の記憶の継承について意識的であり,放送活動を通した継承が行われていることが明らかになった。一方,時間経過に伴い,災害の記憶の捉え方は変容しており,番組や活動の中で記憶の構築・再構築を交えながら,その時々のコミュニティに向けた伝え方をしていることが考察された。コミュニティ放送局の実践は,(1)語り継ぎ,(2)次世代への伝え方,(3)災害の記憶のアップデートという三点において特徴的であり,これらの実践は,災害経験が社会的な行動や規範となる,いわゆる災害文化の継承につながっていることも知見として得られた。本研究では,先行研究で復興後を平常と捉え,コミュニティ放送も平常放送に戻るという一般的な認識に対し,災後・災間という視点により,災害の集合的記憶に関する内容が変容しながらも,継続的に放送されていることを可視化し,コミュニティ放送を災後放送と位置付ける意義を示唆した。

  • 記虎 優子
    2021 年 9 巻 2 号 p. 37-53
    発行日: 2021/02/28
    公開日: 2021/03/16
    ジャーナル フリー

    決算短信による決算発表は,上場会社が法定開示に先立って決算の内容をいち早く公表するものである。通期の決算発表は,「決算期末後45日以内」に行われるのが適当であり,また「決算期末後30日以内(決算期末が月末である場合は翌月内)」に行われるのがより望ましいとされている。本稿では,会社法に基づく内部統制システム構築の基本方針についての具体的な開示内容を分析することで,企業の目に見えない財務報告志向を定量的に捉えている。その上で,前決算期に上述のような適当であるかまたはより望ましいとされる時期に通期の決算発表を実施できていなかった企業にそれぞれ着目して,企業が内部統制システムの構築に際して財務報告をより重視していることが決算発表時期をより早めることに資するのかどうかを解明している。

    検証の結果,本稿では,前決算期には「決算期末後45日以内」に通期の決算発表を実施できていなかった企業であっても,内部統制システムの構築に際して財務報告をより重視していれば当決算期にはかかる時期に決算発表を行えるようになるとの頑健な証拠を提示している。また,前決算期には「決算期末後30日以内(決算期末が月末である場合は翌月内)」に通期の決算発表を実施できていなかった企業についても,やや弱いながらも同様の証拠を提示している。このように,本稿では,決算発表の早期化に寄与する要因の1つに,財務報告の重視という企業の目に見えない認知があることを明らかにしている。

研究
  • 山口 達男
    2021 年 9 巻 2 号 p. 55-70
    発行日: 2021/02/28
    公開日: 2021/03/16
    ジャーナル フリー

    本稿は,Z. BaumanがSNSやインターネットへのアップロードを「告白」として捉え,それらが日常的に行なわれている現代社会を「告白社会」と評したことに対して,批判的に検討する試みである。その際にまずM. Foucaultの議論を参照し,4~5世紀の修道院で行なわれていた「エグザコレウシス」や,中世以降のキリスト教における「告解」の特徴を整理することで,キリスト教的告白には「権力関係」「言表行為」「文脈依存」「秘密主義」という四つの特徴があることを明らかにした。次に,非キリスト教的な在り方を探るため,日本近代文学で描かれてきた告白についても言及した。そこでもやはり「権力関係」「言表行為」という特徴を見出すことができた。

    他方,インターネットをコミュニケーションの技術的な基盤としている現代社会にとって,こうした特徴はすべて無効化されてしまう。「ネットワーク」の特性として「平面化」「データ化」「脱文脈化」「透明化」を挙げることができるからだ。つまり,ネットワークの特性は告白の特徴を無化してしまうのである。したがって,ネットワーク社会の現代では,SNSやインターネット上で告白するのは不可能な営みと指摘できる。むしろ,ネットワークの特性から窺えるのは,われわれのあらゆる情報がインターネット上に〈露出〉していってしまう状況である。すなわち,われわれはインターネットに向けて何かを告白しているのではなく,ネットワークの「運動」によってわれわれの営みが露出させられているのだ。このことを踏まえると,Baumanが評したのとは異なり,現代社会は「告白社会」ではなく〈露出化社会〉と称すべきだと言い得る。

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