聖マリアンナ医科大学雑誌
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43 巻, 3 号
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原著
  • 御影 秀徳, 永渕 裕子, 山田 秀裕, 尾崎 承一
    2015 年 43 巻 3 号 p. 129-138
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/11/25
    ジャーナル フリー
    関節リウマチ(rheumatoid arthritis: RA)患者における感染症の罹患率は高く,RA治療を困難にさせ,生命予後にも影響を与える。感染症に罹患したRAの患者の特徴を明らかにする目的で当科に感染症で入院したRA患者の臨床像の検討を行った。2007年4月から2012年3月までの5年間に聖マリアンナ医科大学リウマチ・膠原病・アレルギー内科に感染症で入院加療を要したRA患者79例(女性64例,男性15例)を対象にした。感染症の内訳は,肺・上気道感染症が最も多く (52.3%),次に尿路感染症 (11.9%),皮膚・軟部組織感染症 (11.0%) であった。感染症群は外来通院中の非感染RA患者(対照群)に比べ,低アルブミン血症が有意であった (p < 0.001)。さらに感染症群では感染前において既に低アルブミン血症が存在し,RA患者の感染症の背景に低アルブミン血症が存在していることを明らかにした。また感染症を繰り返す(複数回感染)症例が多く,単回感染は59例,複数回感染を繰り返した症例は20症例42件であった。多変量解析では,単回感染群に比べ複数回感染群では,間質性肺炎,プレドニゾロン(prednisolone: PSL)投与量が多い症例が有意に多く (p = 0.029, p = 0.046),これらが感染症を繰り返す要因になっていると考えられた。低アルブミン血症,間質性肺炎,PSL投与量が多い症例はRA治療中の感染症の発症に注意すべきであると考えた。
  • 清川 博史, 安田 宏, 及川 律子, 石井 俊哉, 山本 博幸, 月川 賢, 大坪 毅人, 峰岸 知子, 越川 直彦, 清木 元治, 伊東 ...
    2015 年 43 巻 3 号 p. 139-150
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/11/25
    ジャーナル フリー
    【背景】大腸癌の診断および術後管理において腫瘍マーカーの臨床的意義は大きい。ラミニンγ2単鎖(Ln-γ2)の発現は様々な腫瘍浸潤先進部において著しく亢進することが報告されており,これはLn-γ2が浸潤性の腫瘍マーカーとして有用である可能性を強く示唆している。我々は,Ln-γ2を選択的に認識するモノクローナル抗体を用いてLn-γ2の定量ELISA法を開発した。
    【方法】定量ELISA法により78症例(健常者51例,良性疾患8例,大腸癌19例)における血清中のLn-γ2の定量を行った。同時に,化学発光免疫測定法 (chemiluminescent immunoassay: CLIA) を用いてCarcinoembryonic antigen (CEA) とCarbohydrate antigen 19-9 (CA19-9) を測定し診断能について比較検討を行った。
    【結果】Ln-γ2の中央値は,健常者241.9 pg/mL,良性疾患138.8 pg/mLであり,一方大腸癌においては323.0 pg/mLと非癌症例より有意に高値であった(p = 0.0134)。大腸癌症例と非癌症例とを区別するLn-γ2のカットオフ値を315.8 pg/mLとすると大腸癌症例の57.9%に陽性であった。Ln-γ2とCEA併用における大腸癌陽性率は78.9%であり,CEAとCA19-9併用での陽性率57.9%よりも高率であった。大腸癌の各病期における陽性率では,いずれのマーカーにおいても進行期は高率であったが,CEA,CA19-9におけるStage I/IIの陽性率は低率であった。一方,Ln-γ2はStage I/IIにおいて陽性率50.0%とより高率であった。
    【結語】血清Ln-γ2は大腸癌診断において既存の腫瘍マーカーを補助可能なバイオマーカーとなる可能性がある。
  • 黒田 貴子, 岡田 麻衣子, 津川 浩一郎, 太田 智彦
    2015 年 43 巻 3 号 p. 151-162
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/11/25
    ジャーナル フリー
    BRCA1遺伝子の生殖細胞系列変異は家族性乳癌および卵巣癌の主要因の一つである。その臓器特異的な発癌機序は解明されていないものの,癌発生母地の組織学的知見からエストロゲンレセプターα (ERα) が何らかの役割を果たすと考えられている。このため発癌における両因子の関連性解明には,正常な二倍体細胞を用いてBRCA1機能不全におけるERαの影響を解析することが重要である。しかしながら株化されたERα陽性二倍体細胞は存在しない。そこで,本研究では解析に適したモデル細胞株として,遺伝子工学的手法を用いたERα陽性BRCA1枯渇のヒト乳腺細胞の樹立を行った。
    まずERα陰性の正常乳腺細胞株であるMCF10Aを用いて,doxycyclin (Dox) 誘導性BRCA1枯渇細胞を作成した。BRCA1に対するshRNA配列をエントリーベクターにクローニングし,Gateway法にてCS-RfA-ETBsd-shBRCA1レンチウィルスベクターを作成した。Lenti-X 293T細胞より調整したレンチウィルスをMCF10A細胞に感染後,Blasticidinで選択してMCF10A-Dox-shBRCA1細胞株を樹立した。同様にして,CSIV-TRE-Rfa-Ubc-puro-ERα由来レンチウィルスを作成し,Puromycinの選択下でDox誘導性にERαを発現するMCF10A-Dox-ERα細胞を樹立した。さらにMCF10A-Dox-ERα細胞にCS-RfA-ETBsd-shBRCA1由来レンチウイルスを感染後,BlasticidinとPuromycinの両抗生剤選択下でMCF10A-Dox-ERα-shBRCA1細胞を樹立した。MCF10A-Dox-ERα-shBRCA1細胞においてDox 添加によりBRCA1の発現が低下すると同時にERαが発現することを確認した。
    最後に細胞増殖能を指標として,BRCA1枯渇時におけるERαの影響を検討した。興味深いことに,BRCA1正常発現細胞ではERαの発現は細胞増殖に影響を与えないのに対して,BRCA1枯渇細胞ではERα発現により細胞増殖の著しい低下が観察された。
    以上,Doxで誘導可能なERα陽性BRCA1枯渇ヒト乳腺細胞を樹立した。今後,BRCA1機能不全を背景としたERαによる遺伝子不安定性への影響を解析するための有用なツールになると思われる。
  • 三井 一央, 塩野 陽, 向後 二郎, 宮本 純輔, 佐々木 寛季, 四方田 涼, 高木 均
    2015 年 43 巻 3 号 p. 163-170
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/11/25
    ジャーナル フリー
    目的:光干渉断層計(optical coherence tomography: OCT)を用いて網膜形態の観察を行い,硝子体手術適応症例の検討を行う。
    方法:2009年6月〜2011年12月までの間で当院にて糖尿病黄斑浮腫に対して硝子体手術を施行され,6ヵ月以上経過観察可能であった22例24眼。嚢胞様浮腫のみの症例(7眼),漿液性剥離併発症例(7眼),黄斑上膜併発症例(10眼)の3群における網膜形態の変化についてOCTを用いて検討を行った。
    結果:嚢胞様浮腫のみの群における中心窩網膜厚は術前640±189 um,術後6ヵ月が319±122 um,術後6ヵ月で浮腫が改善した症例(中心窩網膜<250 um)は3例(42%),嚢胞所見は全例で消失を認めなかった(0%)。
    漿液性剥離併発群における中心窩網膜厚は術前583±230 um,術後6ヵ月が348±164 um,術後6ヵ月で浮腫が改善した症例は3例(42%),嚢胞所見は3例で消失しており(42%),漿液性剥離は全例で消失していた(100%)。
    黄斑上膜併発群における中心窩網膜厚は術前559±80 um,術後6ヵ月が263±82 um,術後6ヵ月で浮腫が改善した症例は7例(70%),嚢胞所見は7例で消失していた(70%)。
    結論:一般的に抗VEGF治療が効きにくいと言われている漿液性剥離に対し,硝子体手術は有効である可能性が示唆された。黄斑上膜併発群は硝子体手術にて,良好な黄斑形態へと改善した例が多かった
  • 竹内 淳, 呉 文文, 鈴木 直, 太田 智彦
    2015 年 43 巻 3 号 p. 171-182
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/11/25
    ジャーナル フリー
    HERCファミリー蛋白質はRCC-likeおよびHECTドメインから構成される。RCC-likeドメインはRan-GEF活性を持つと考えられており,またHECTドメインはユビキチンリガーゼ (E3) 活性を有している。HERC1とHERC2は残基数が4800アミノ酸を超える巨大な蛋白質で,複数のRCC-likeドメインとC-末端のHECTドメインという類似構造を有する。著者らはHERC2が1) 家族性乳癌および卵巣癌の原因遺伝子産物であるBRCA1を分解するE3であること,2) 細胞周期のG2/M期チェックポイントを制御すること,さらに,3) Claspinと結合してDNA複製を制御することを報告してきたが,その機能については未だに不明な点が多い。本研究ではHERC2と類似構造を持つHERC1が,HERC2の機能を補完する可能性を考慮し,両蛋白質の発現を同時に抑制し得る細胞株を樹立した。また,機能解析に必要なHERC2特異的ウサギポリクローナル抗体を作成した。特異抗体はHERC2のHECTドメインを含むC-末端のリコンビナント蛋白質を作成し,これを抗原として作成した。細胞株についてはまず,shHERC2のみを発現細胞株を樹立した。Tet repressorとともにH1tetO制御下にHERC2に対するshRNA (shHERC2) を発現するCS-RfA-ETBsdベクターを内包するレンチウィルスを作成し,HeLa, HCT116およびU2OS細胞に感染させた。同ベクターは同時にblasticidin抵抗性蛋白質を発現するため,細胞をblasticidinで選択してDoxycyclin (Dox) 誘導性shHERC2発現細胞株を樹立した。同様にHERC1に対するshRNAとpuromycin抵抗性蛋白質を発現するレンチウィルスを作成し,上記細胞に感染させ,blasticidinとpuromycinで二重選択し,Doxycyclin (Dox) 誘導性shHERC1/shHERC2発現細胞株を樹立した。Dox 添加後にこれらの細胞ではHERC1とHERC2の発現が同時に抑制されることをウェスタンブロットにて確認した。HERC1およびHERC2の単独抑制と比較して,両蛋白質を同時に抑制した細胞では顕著に放射線照射後のDNA損傷局所へのReplication protein A (RPA) 蛋白質の集積が阻害されたことは非常に重要な意味を持つと考えられる。我々はDoxで誘導可能なHERC1およびHERC2の同時発現抑制細胞株を樹立した。今後,この細胞株の樹立はHERC1およびHERC2の細胞周期およびDNA損傷応答における役割を解析する上で有用である。
  • 長田 洋資, 武半 優子, 水野 将徳, 桜井 研三, 都築 慶光, 麻生 健太郎, 山本 仁, 松本 直樹
    2015 年 43 巻 3 号 p. 183-192
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/11/25
    ジャーナル フリー
    我々は出生前グルココルチコイド (GC) 投与が胎児の心臓の心筋収縮関連蛋白の発現やATP産生能を増強し,心臓の成熟を促進する作用があることを報告した。また形態学的に心筋断面積が増大することを示した。しかしこの現象が心筋の肥大または増殖による作用かは不明であった。本研究では心筋の形態変化における分子機構を明らかにすることを目的とした。
    8週齢の妊娠ラットの胎生17日,19日にデキサメタゾン (DEX) 0.5, 1.0, 2.0 mg/kgを2日間皮下投与し,胎生19日,21日に帝王切開で心臓を摘出した(胎仔群)。また胎生20日にDEX0.5, 1.0, 2.0 mg/kgを2日間皮下投与し自然分娩で出生した日齢1の新生仔ラットにおいて心臓を摘出し実験に用いた(新生仔群)。対照としてDEXの溶媒であるごま油を同容量投与した。心臓肥大や細胞増殖に関与するAktおよびc-Mycの蛋白発現は,免疫組織染色およびウエスタンブロット法で検討した。また初代培養心筋細胞にGC受容体阻害薬 (RU486) を前処理後,DEXを添加し培養後c-MycのmRNA量についてRealtime RT-PCRで解析した.
    胎仔において細胞増殖ないし肥大を誘導するAkt-1の蛋白発現は,非投与群で成長するにつれて有意に増加した。また非投与群と比較しDEX投与群で有意に増強した。非投与群のc-Myc蛋白発現は,日齢1と比較して胎生19日,21日が有意に高値を示し,DEXにより有意に増加した。
    出生前GC投与は胎児心臓でAkt-1を介しc-Mycが増加し細胞増殖を促進することで,胎児心筋の発達に寄与することが示唆された.
症例報告
  • 南 圭祐, 米山 喜平, 平野 智之, 滝村 由香子, 西尾 智, 宮崎 秀和, 小林 泰之, 明石 嘉浩, 水野 幸一
    2015 年 43 巻 3 号 p. 193-198
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/11/25
    ジャーナル フリー
    近年の心臓computed tomography (CT) 検査は,冠動脈狭窄のみならず,壁運動障害も観察可能である。本症例は心臓CT画像を参考にし,左冠動脈前下行枝びまん性高度狭窄の治療に成功した症例である。我々は,この症例から心臓CT画像の4つの有用性について再検討したので報告する。
    ①心臓CT画像は,びまん性高度狭窄治療のガイドワイヤー操作に有用であった。②心臓CT検査は,左冠動脈前下行枝の閉塞部位に一致して左室前壁に壁運動障害を示した。③同部位の壁厚は保たれ,心内膜下の造影不良を認めた。④左冠動脈前下行枝内腔のCT値は,閉塞部位の近位側で低値を示したが,側副血行路のため末梢でのCT値が上昇していた。
    経皮的冠動脈形成術前に心臓CT検査を用いることは,術中のガイドワイヤー操作のみならず,壁運動や心筋の造影効果を介して患者病態の把握に有用と考えた。また,臨床医がこれらを使用する場合には,放射線科医師,診療放射線技師,循環器内科医師の連携や,有効なCT読影レポートが必要であると考えた。
  • 森 美佳, 山下 敦己, 足利 朋子, 長江 千愛, 上嶋 亮, 足利 光平, 明石 嘉浩, 瀧 正志
    2015 年 43 巻 3 号 p. 199-205
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/11/25
    ジャーナル フリー
    【緒言】血友病患者が血栓症を発症した際,相反する病態のため治療の選択に苦慮する。我々は心筋梗塞を発症した血友病患者に,凝固第VIII因子 (FVIII) 製剤の補充の下,未分画ヘパリン (unfractionated heparin; UFH) による抗凝固療法下に経皮的冠動脈形成術 (percutaneous coronary intervention; PCI) を行い,良好な治療成果を得た症例を経験したので報告する。
    【症例】軽症血友病Aの64歳男性。胸痛を主訴に近医を受診し,急性心筋梗塞の診断で搬送された。凝固第VIII因子活性(FVIII:C)の目標ピーク因子レベルを100%とし,FVIII製剤補充下に緊急冠動脈造影を施行し,左前下行枝 #7 100%,右冠動脈 #2 90% の2枝病変を認めた。前者に対しUFH投与下にPCIを施行し,抗血小板療法を開始した。UFH投与中はFVIII:Cの目標トラフ因子レベルを50–60%としFVIII製剤を補充した。第16病日,右冠動脈#2 90%に対し同様にFVIII製剤補充下にUFHを投与しPCIを施行した。その後抗血小板療法を継続し,出血抑制のためFVIII製剤の定期投与を行ったが,出血性合併症や治療部位の再狭窄は認めなかった。
    【考察】高齢化した血友病患者の増加に伴い,血友病患者においても心筋梗塞を合併する患者が今後増加する可能性がある。症例を集積し,適切な治療を検討する必要がある。
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