聖マリアンナ医科大学雑誌
Online ISSN : 2189-0285
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51 巻, 1 号
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症例報告
  • 高城 伸平, 中野 浩, 角 泰廣, 松下 恒久, 宮原 利行, 尾﨑 貴洋, 田中 雄也, 大坪 琢磨, 中山 敏裕, 高木 正之, 大池 ...
    2023 年 51 巻 1 号 p. 1-7
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/05/31
    ジャーナル フリー

    症例は70代の女性。検診にて右肺に異常陰影を認めて前医を受診。CT検査の結果,肺陰影は陳旧性肺結核と判断された。その際の検査で上腹部腫瘤性病変が指摘され,精査加療目的に当院紹介となった。造影CTで膵尾部に長径約83 mmの不均一に造影される腫瘤性病変が指摘された。超音波内視鏡検査で,腫瘤は境界明瞭で内部モザイクエコーを呈していた。MRI検査では,内部の信号は不均一で一部に嚢胞を伴う腫瘤であった。以上の結果から,膵体尾部の充実性偽乳頭状腫瘍やその他の悪性病変の可能性を考慮し,外科的切除の方針とした。肋弓下弧状切開で開腹し,膵体尾部切除,脾臓摘出,所属リンパ節郭清を施行した。検体は,膵体尾部の80×75×65 mmの被膜を伴う嚢胞性腫瘤であった。当初,病理診断の結果では,上皮細胞は認めず血種と診断された。しかし,その後の診断で周囲の被膜部分に異形細胞および多数の破骨型巨細胞が指摘された。当初この部分は出血による反応性偽腫瘍病変とも考えられたが,CK7,p53陽性の異型紡錘形腫瘍細胞や多核腫瘍細胞を認めるため,広範な壊死を伴った破骨型多核巨細胞を伴う退形成膵癌の診断となった。破骨型多核巨細胞を伴う退形成膵癌の1切除例を経験したので,若干の文献的考察を含め報告する。

雑報
  • 田中 雄一郎
    2023 年 51 巻 1 号 p. 9-14
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/05/31
    ジャーナル フリー

    日本のロボトミーの歴史を語る上で重要な人物を2人選ぶとすれば,中田瑞穂広瀬貞雄が挙がる。脳外科医の中田は日本のロボトミーの先駆者で,広瀬は日本で最も多くのロボトミーを手掛けた精神科医である。中田は1939年に日本で初めての精神外科手術(ロベクトミー)に着手し,1941年にロボトミーを施行した。彼がどのような時代背景で精神外科を開始したのか,戦前の1900年代前半の精神疾患を取り巻く日本の状況を理解しておく必要がある。私宅監置,優生思想,身体療法などをキーワードに考察する。1920年代以降に新たな身体療法が欧州から導入された。1925年には睾丸有柄移植事件という奇想天外な手術が世間の耳目を集めた。日本ではエガス・モニス(Egas Moniz,ポルトガル)のノーベル賞受賞に対する社会的関心は薄く,朝日新聞は記事にせず読売新聞は受賞から5ヵ月経った1950年3月に初めて取り上げた。

    本稿では,ロボトミーに関連するエピソードを以下の年代に分けて俯瞰する。①1940年以前(太平洋戦争前),②1941~1945年(戦時中),③1946~1955年(戦後10年間)の3期におけるロボトミーおよびそれを取り巻く精神科医療,法制度,新聞に報じられた社会事象を中心に言及する。

  • 田中 雄一郎
    2023 年 51 巻 1 号 p. 15-22
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/05/31
    ジャーナル フリー

    本稿では戦後10~30年の期間のロボトミーとそれを取り巻く日本の社会状況について解説する。日本のロボトミーの歴史で最も激動の時代であった。脳生検問題,国際学会騒動,ロボトミー訴訟といった,苛烈な社会的圧力がロボトミーを襲った。1973年東京の国際学会騒動に巻き込まれた会長の佐野圭司および学会理事として出席していたスコヴィルに触れる。そしてスコヴィルの術式を更に進化させた広瀬貞雄の後半生の業績を記す。最後にロボトミーを封印した1975年の日本精神神経学会による精神外科否定決議に至る顛末を解説する。

  • 田中 雄一郎
    2023 年 51 巻 1 号 p. 23-27
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/05/31
    ジャーナル フリー

    本稿では1975年の日本精神神経学会による精神外科否定決議以降に発生したロボトミーに纏わる社会事象に触れる。マンガの神様と言われた手塚治虫がなぜ全国主要5紙に謝罪文を掲載することになったのか,その背景を探る。衝動的暴力抑制の目的で行われたチングレクトミーの15年後に元患者が起こした,いわゆるロボトミー殺人事件の経緯を解説する。最後に精医連の活動が真相解明に大きく寄与した宇都宮病院事件に触れる。

  • 田中 雄一郎
    2023 年 51 巻 1 号 p. 29-31
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/05/31
    ジャーナル フリー

    精神外科の手術手技は3世代に分けて論じられることが多い。本シリーズ(1)~(9)では外科的手法で脳の特定部位を破壊する手術手技(surgical lesioning)さらにはあらゆる精神外科手技を一括してロボトミー(広義のロボトミー)と呼ぶことがあった。しかし本稿(10)ではモニスやフリーマンの時代の穿頭による破壊術を古典的なロボトミーと呼び,それに開頭による外科的な白質切開や部分的脳切除を合わせて第一世代の精神外科手技(狭義のロボトミー)と定義する。第一世代の精神外科手技が行われた期間は国によってまちまちであるが1935年からおよそ1960年代(日本では1970年代前半)までである。現在,第一世代の精神外科手技は行われておらず,第二および第三世代の精神外科手技が混在して諸外国で行われている。日本では第二世代精神外科手技が行われた形跡はなく,第三世代精神外科手技のなかで唯一TMS(経頭蓋磁気刺激)療法がうつ病に対して2019年に始まった。

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