聖マリアンナ医科大学雑誌
Online ISSN : 2189-0285
Print ISSN : 0387-2289
ISSN-L : 0387-2289
50 巻, 3 号
選択された号の論文の6件中1~6を表示しています
原著
  • 小西 公子, 芳賀 俊明, 袖長 光知穂, 蜂須 貢
    2022 年 50 巻 3 号 p. 69-76
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/22
    ジャーナル フリー

    緒言:抗コリン薬は長期使用により,認知機能やフレイル,肺炎の悪化が懸念されるが,先行研究における抗コリン作用強度には諸説あり薬剤選択に迷う。そこで我々が新たに確立した方法を用いて抗精神病薬の抗コリン作用を評価することを目的とした。

    方法:我々はNobregaらのムスカリン(M)受容体サブタイプ1を発現させたM1WT3細胞を用いたラジオレセプターバインディングアッセイ法のシンチレターを液体から固体に変更する方法を確立した。この方法を用いて抗コリン作用強度の相違が散見されるクロルプロマジン,クロザピン,ペルフェナジン,ピモジド,フルフェナジン,オランザピンに加え近年,精神科領域で使用頻度の高いアリピプラゾール,リスペリドンの抗コリン作用を測定・評価した。薬物の有効血中濃度はインタビューフォーム等より判断した。

    結果:IC50(half maximal(50%)inhibitory concentration:50%阻害濃度)値はクロザピン0.028±0.007 μMが最も抗コリン作用が強く,次いでクロルプロマジン0.149±0.001 μM,オランザピン0.382±0.195 μM,ペルフェナジン6.780±1.310 μM,ピモジド7.250±3.510 μM,フルフェナジン8.950±3.150 μM,リスペリドン10.638±7.054 M,アリピプラゾール28.440±4.520 μMであった。

    結論:アリピプラゾールは,抗コリン作用が低く安全な薬物であると評価できた。M1WT3細胞を用いたラジオレセプターバインディングアッセイによる抗精神病薬の抗コリン活性の評価は,副作用発現のモニタリングとして有用な可能性がある。

  • 上野 純子, 大山 バク, 駒瀬 裕子, 粒来 崇博, 檜田 直也, 峯下 昌道
    2022 年 50 巻 3 号 p. 77-84
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/22
    ジャーナル フリー

    抗SARS-CoV-2 IgMまたはIgG抗体により,SARS-CoV-2 PCR陰性集団からCOVID-19疑い患者を検出できるかを検討した。聖マリアンナ医科大学横浜市西部病院で発生したCOVID-19院内クラスターの調査被験者計266例中,PCR陰性213例から17例の有症状者に胸部CTを行い陰影を認めた9例を抽出した。SARS-CoV-2への暴露から5週,7週,11週,19週後に抗SARS-CoV-2 IgM抗体価およびIgG抗体価を測定した。抗SARS-CoV-2 IgM抗体は5週の時点で2例陽性,11週以降は全例陰性であった。抗SARS-CoV-2 IgG抗体は5週で5例が陽性,5または7週目で最大値を呈した。COVID-19の院内クラスターにおいて,PCRの結果が陰性だが有症状の場合,補助診断として抗SARS-CoV-2 IgM抗体価またはIgG抗体価測定が有用な可能性がある。

症例報告
  • 清野 奈々恵, 伊藤 英道, 内田 将司, 藤谷 茂樹, 田中 雄一郎
    2022 年 50 巻 3 号 p. 85-91
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/22
    ジャーナル フリー

    症例は80歳の男性で症候性右頭蓋内内頸動脈狭窄症である。右大腿動脈穿刺にて右頭蓋内内頸動脈に対する経皮的血管形成術を施行した。カテーテル抜去前の大腿動脈撮影で総大腿動脈は大腿骨頭中心レベルで分岐部しており,末梢の浅大腿動脈が穿刺されていた。止血デバイス設置後に圧迫を継続したが2日後に穿刺部の圧痛が生じ,エコー検査にて穿刺部直下に26 mmの仮性動脈瘤を認めた。エコーガイド下の圧迫で瘤の消失を確認したが術後4日目の下肢CTアンギオグラフィーで再発を認め,術後6日目に外科的に血管を修復した。大腿動脈の高位分岐は稀であり,仮性動脈瘤のハイリスク因子になり得る。仮性動脈瘤のリスク因子を理解したうえで発生を防ぐには,総大腿動脈本幹に穿刺することが理想的である。そのために,透視下に大腿骨頭中心から上縁の間を穿刺することと大腿動脈撮影による穿刺部の確認が重要である。浅大腿動脈と大腿深動脈は並走しており,触知による識別は困難であるため,万一仮性動脈瘤が発生してしまった場合はエコーを用いて圧迫部位を決定すべきである。

雑報
  • 田中 雄一郎
    2022 年 50 巻 3 号 p. 93-96
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/22
    ジャーナル フリー

    筆者は脳腫瘍や脳動脈瘤の開頭手術を専門とする脳外科医であるが,かつて精神病を手術で治そうとした時代があったと知り驚いた。自身が1981年に脳外科医になった時本邦では,その手術すなわちロボトミーはすでに1975年に否定された治療法になっていた1-3)。実は日本は世界でも最も激しくロボトミーが糾弾され,精神科医主導で精神外科を否定する決議がなされた経緯がある。もちろん私も脳の一部を破壊して精神病を治療することに賛成しない。ただし脳手術を生業にしている者として,ロボトミーの歴史を正しく知り後進に伝えることは大切な責務と考える。国内外のロボトミーの歴史を知ろうと筆者はこれまでに様々な出版物やネット情報,そして新聞や映画に至るまで折に触れ検証してきた。本稿を書く動機は,ネット上にロボトミーに関する誤認や歪んだ情報が溢れていること,医学生向けの教科書ではロボトミーの用語が消去されて久しく,教育すべき項目から除外されていることに違和感を覚えたことにある。

    欧米ではロボトミーの歴史について多くの書籍4, 5)や論文6-15)が出版されてきた。しかし日本におけるロボトミーの医学史ならびに社会史を詳述した書籍は少なく,橳島16)の『精神を切る手術』(2012年)と立岩17)の『造反有理』(2013年)以外ほとんど出版されていない。とくに医学者なかでも外科医による著作は皆無であった。本シリーズ(ロボトミーの歴史1~10)は現代の脳外科医の視点でロボトミーの歴史を俯瞰する特徴がある。現在,ロボトミーは史上最悪の手術,悪魔の手術などと揶揄され常に否定的なイメージで語られ,精神科領域では語ることすらタブーという風潮が続いている。どのような時代的要請があって,ロボトミーが登場したのか,なぜ奇跡の手術としてノーベル賞の栄誉に浴したのか,どのような経緯でそれが悪魔の手術に転落したのか,それぞれの時代の大衆はロボトミーをどの様に捉えたのか,新聞や映画がロボトミーをどのように扱ったか,これまでにない視点で切り込む。

  • 田中 雄一郎
    2022 年 50 巻 3 号 p. 97-109
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/22
    ジャーナル フリー

    ロボトミー誕生以前の脳科学や精神病の治療について概説する。精神病の治療には精神療法と身体療法がある。身体療法のなかには,電気治療,水治療,持続睡眠療法の他,様々な臓器切除があった。臓器切除の中には女性器切除や,精神病治療を目的とする男性の断種もあった。これまで十分な分析がない領域であったがNgramで光を当てる。1800年代後半,ロボトミーが行われる50年前に,精神病治療のために脳の部分切除を試みたスイスの精神科医がいた。それは世界初の精神外科手術ではあったものの,精神医学の発展に貢献することなく人々から忘れ去られた。1900年代前半には人為的にマラリアを感染させることで,ある種の精神病(進行麻痺)が治療可能となり精神医学発展に大きく寄与する。

  • 田中 雄一郎
    2022 年 50 巻 3 号 p. 111-120
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/22
    ジャーナル フリー

    ロボトミーは欧州の西の辺縁にあるポルトガルで1935年に誕生した。どの様な人物が,どの様な時代背景で,どの様にしてロボトミーを着想し実行したのであろうか。ロボトミーの誕生と発展を理解する上で,ロボトミーと同時期に誕生した3つのショック療法を知る必要がある。マラリア発熱療法が1927年にノーベル賞を受賞したインパクトは見逃せない。マラリア療法が8年後のロボトミー誕生に果たした役割を述べる。ロボトミー誕生を世界はどの様に受け止めたのか,誕生早期の状況を検証する。

feedback
Top