聖マリアンナ医科大学雑誌
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50 巻, 4 号
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原著
  • 井上 留美子, 谷田部 かなか, 室井 良太, 足利 光平, 藤谷 博人
    2023 年 50 巻 4 号 p. 129-137
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/05/16
    ジャーナル フリー

    我々は,ヨガが骨格筋の筋量増加と転倒予防に効果があると推察し,独自のヨガプログラムを開発した。今回,本プログラムが中高年者の全身筋量,下肢筋力,ハムストリングスの柔軟性,及びバランス能に及ぼす影響について検証を行った。対象は運動習慣のある30歳以上の成人25名(平均年齢69.4歳)で,2週間に1回,3ヵ月間(計6回)のヨガ教室を行い,初日と最終日に全身・体幹・上下肢の筋量,体脂肪率,TUG,SLR,片脚起立時間を測定した。また,問診の他に質問紙で行う日常生活活動テスト,転倒不安感尺度,気分プロフィール検査;POMS2を施行した。その結果,同一被験者における前後比較で,全身と体幹筋量は有意に増加(p<0.02),体脂肪率は有意に低下した(p<0.01)。またSLRでも有意な増加を認めた(p<0.05)。POMS2ではTMD得点(総合的気分状態得点)の低下を認めた。以上のことから今回のヨガプログラムにおいて,筋量増加,柔軟性向上に加え,ポジティブな心理効果があることが示唆された。

  • 小山 照幸
    2023 年 50 巻 4 号 p. 139-149
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/05/16
    ジャーナル フリー

    【目的】平均寿命の延長により高齢者が増加しており,高齢者の透析導入も増加している。保険診療の面から血液透析診療の近年の動向を調査した。

    【方法】厚生労働省公表の「NDBオープンデータ」(2014年度から2020年度)と「社会医療診療行為別統計」(2016年から2021年)を参照し,「人工腎臓」の算定回数と点数の年次変化を性別,年齢階級別,入院・入院外別に検討した。

    【結果】算定回数は毎年増加し,2020年度は47,516,874回となり,6年間で9.6%増加していた。算定点数は2019年度まで増加していたが,2020年度は減少していた。概算医療費に占める人工腎臓の算定点数の割合は,2019年度まで年々増加していたが,2020年度は2.36%と減少していた。外来の算定回数は,入院の8.4から9.8倍多く,男性は女性の1.7から1.9倍で,男性の割合が年々増加していた。最頻年齢階級は2014年度は60歳代後半であったが,徐々に70歳代前半に移動しており高齢化傾向が見られた。2019年6月期の算定点数は増加傾向であったが,2020年6月期は前年比6%減であった。しかし2021年6月期は0.4%増加していた。

    【結論】人工腎臓算定回数と点数は2019年までは増加していたが,2020年6月期は減少しており,2020年度診療報酬改定での減点とCOVID-19感染症流行の影響を受けていたと考えられた。

  • 小山 照幸
    2023 年 50 巻 4 号 p. 151-161
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/05/16
    ジャーナル フリー

    目的:心臓リハビリテーション(以下,心リハ)は近年,急速に普及が進んでいるが,最近,流行している新型コロナウイルス感染症により,通常の診療に影響が出ている。今回,保険診療の面から心リハ治療のこれまでの経過と現状を調査した。

    調査方法:厚生労働省が公表している社会医療診療行為別統計の,平成21年から令和3年までの「心大血管疾患リハ料」の算定回数,点数を調べ,年次変化および年齢階級別割合・年次変化,令和元年から令和3年の入院外・入院別年次変化を検討した。

    結果:算定回数は,平成21年99,865回,令和元年791,226回で,10年間で約8倍になった。しかし令和2年は前年より18%減少したが,令和3年は令和元年の95.7%まで回復していた。算定点数は,平成21年21,210,079点,令和元年186,409,625点で,10年間で約9倍に増加していたが,令和2年は前年より16%減少していた。令和3年は令和元年の97.2%まで回復していた。年齢階級別では,70歳以上が78%,85歳以上が32%を占めており,80歳代前半の増加率が最も多かった。令和2年には主に入院外の45歳から89歳にかけて減少しており,中でも70歳代後半の減少が著しかった。

    結論:保険診療上,心大血管疾患リハ料算定回数,点数は,令和元年までは増加していたが,令和2年に減少しており,新型コロナウイルス感染症の流行が影響したと考えられた。

  • 小澤 南, 右田 王介, 清水 直樹
    2023 年 50 巻 4 号 p. 163-172
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/05/16
    ジャーナル フリー

    緒言:日本においても2020年に6万人近い新生児が生殖補助医療(ART)の恩恵をうけて出生している。体外受精した胚の状態を評価する方法として,胚生検による着床前遺伝子検査が,すでに臨床応用されている。しかし,その侵襲が胚変性を惹起する可能性が残されている。培養液中に認められるcell free DNA(cfDNA)は生検にかわり着床前診断を行う胚の無侵襲な評価方法となりうる。今回,溶液中のcfDNAを回収し,定量することで解析の実用性を検討した。

    方法:マウス卵を体外受精させ,胚盤胞期胚を得るために5日間培養した。胚盤胞期胚に発育した胚の培養液のDNAの回収を試みた。マウス脳組織DNAをコントロールに用い,リアルタイムPCRを使用した検量線法による溶液中のDNA定量を行った。

    結果:個別の培養液のDNAは微量であった。5日目の培養液中に平均900 pg前後のDNAが含まれていると推定した。

    考察:エタノール沈殿処置を行い,マウスの培養液からcfDNAが回収可能となった。cfDNAは培養細胞の状態を無侵襲に評価でき,胚の評価に応用できる可能性がある。一方,胚培養液中のcfDNAはごく微量であり,その回収に当たっては,その後の解析に合わせた精製方法の選択が必要と考えられた。

  • 原田 賢, 高江 正道, 鈴木 直
    2023 年 50 巻 4 号 p. 173-180
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/05/16
    ジャーナル フリー

    目的:妊孕性温存療法の一つに,卵巣組織凍結・移植がある。卵巣凍結に続く移植先の部位としては同所性移植が一般的とされているが,侵襲的な手術療法が必要であることなどのデメリットもある。そのため,今回我々はマウスにおいて卵巣組織移植の新規移植対象臓器として,異所性移植となる子宮内膜への卵巣組織移植の可否を検討した。

    方法:レシピエントとして8週齢のICRマウスを使用し,ドナーとして7-10日齢のICRマウスを使用した。下垂体抑制のもとレシピエントマウスに対してエストロゲン及びプロゲステロンを投与し,子宮内にドナー卵巣を移植した後,組織学的手法を用いて生着の確認を行った。

    結果:コントロール群では12匹中2匹(16.6%)に,エストロゲン投与群では9匹中3匹(33.0%)に,エストロゲン+プロゲステロン投与群では11匹中1匹(9.1%)に生着を認めた。また,生着した卵巣組織内に発育卵胞を認めた。

    考察:子宮内膜への卵巣組織の生着を確認できただけではなく,生着した卵巣組織内で卵胞が成長していることも確認できた。

    結論:妊孕性温存における卵巣移植の移植対象部位として,子宮内膜への移植が成立することが示唆された。さらに,子宮内膜への移植の際には子宮内環境を外的にコントロールすることで生着率を向上させることができる可能性が示された。

症例報告
  • 望月 靖史, 梶川 明義
    2023 年 50 巻 4 号 p. 181-185
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/05/16
    ジャーナル フリー

    下眼瞼下垂に対する筋膜移植による矯正術において,外眼角部固定点に作成した双茎骨膜弁を利用して移植筋膜の張力調整および縫合糸による固定を円滑・容易にする手技を考案した。本法をこれまで2例に適用し,いずれも術者単独による円滑な固定操作および良好な矯正結果を得られた。本法の利点は,①双茎骨膜弁を滑車として利用することで,移植筋膜の至適張力の術中評価が円滑となること,および②双茎骨膜弁を通して把持した筋膜を適宜前後に振ることにより,通糸部の視野確保や運針操作も容易となること,である。本法は下眼瞼下垂のほかにも,顔面神経麻痺による眉毛下垂に対する筋膜による吊り上げ術などに応用しうる,有用な手技である。

  • 梅澤 早織, 牧角 良二, 勝又 健太, 根岸 宏行, 福岡 麻子, 瀬上 航平, 浜辺 太郎, 小林 慎二郎, 朝野 隆之, 大坪 毅人
    2023 年 50 巻 4 号 p. 187-193
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/05/16
    ジャーナル フリー

    30歳代の女性。腹痛を主訴に当院を受診した。CT検査で盲腸軸捻転症と診断し,当院消化器・肝臓内科で内視鏡的整復術が施行された。過去にも2回盲腸軸捻転症に対して内視鏡的整復術を施行されており再発を繰り返しているため,外科的治療を目的として当科に紹介となり,根治目的で手術の方針となった。

    腹腔鏡下に観察すると,上行結腸の口側1/2程度から盲腸にかけて後腹膜との固定不全を認めた。盲腸および上行結腸と後腹膜の癒着を促進させる目的で,腹膜を一部切開し,同部に盲腸から上行結腸までを縫合固定した。術後経過は良好で,術後第3病日に食事を再開し,術後第8病日に軽快退院となった。術後4年2か月現在,再発なく経過している。

    盲腸軸捻転症は,本邦における発生頻度は腸閉塞のうち0.4%,結腸捻転症のうち5.9%を占める比較的まれな疾患である。好発年齢は高齢者であるが,今回我々は,若年発症した盲腸軸捻転に対して腹腔鏡下盲腸固定術を施行した1例を経験したので若干の文献的考察を加え報告する。

雑報
  • 田中 雄一郎
    2023 年 50 巻 4 号 p. 195-203
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/05/16
    ジャーナル フリー

    ロボトミーはどのようなプロセスを経て世界に広まったのか。ロボトミーには当初から批判的な意見が付き纏っていた。受け入れに当たっては国によって大きな温度差があった。ロボトミー伝播の過程で勃発した第2次世界大戦という人類史上最大の戦乱が,精神疾患治療の歴史にも大きな影を落とした。モニスやフリーマンの古典的ロボトミーの術式は,世界に拡散する過程で様々な「改良」が加えられ変容を遂げる。

  • 田中 雄一郎
    2023 年 50 巻 4 号 p. 205-213
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/05/16
    ジャーナル フリー

    ロボトミーはモニスのノーベル賞受賞で奇跡の治療として市民権を得る。しかし受賞からわずか3年後に,クロルプロマジンというロボトミーに対する最も強力なライバルが現れる。ロボトミーの負の側面,すなわち手術死亡率の高さや人格の変化などが問題点として顕在化しロボトミーに対する世間の風向きが変わる。ロボトミーに批判的な映画や様々な社会スキャンダルが登場し奇跡の治療が悪魔の手術に転落する。ロボトミーに対する社会の評価の変貌を読み解く。

  • 田中 雄一郎
    2023 年 50 巻 4 号 p. 215-217
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/05/16
    ジャーナル フリー

    大衆は映画を通じてロボトミーを知ることが多い。ロボトミー(精神外科手術)にはいくつもの術式がある。映画にもそれら異なる術式が登場する。『猿の惑星』ではブルクハルトのトペクトミー(ロベクトミー),『カッコーの巣の上で』ではフリーマンの標準式ロボトミーが登場する。フリーマンの経眼窩ロボトミーは他のロボトミーに比べてビジュアル的な訴求力が強いことから映画の重要な場面として繰り返し採用された。代表的な映画を年代順に並べると,『女優フランシス』(原題 Frances,1982年,米国),『未来世紀ブラジル』(Brazil,1985年,米国),『アサイラム 狂気の密室病棟』(Asylum,2008年,米国),『シャッターアイランド』(Shutter Island,2010年,米国),『エンジェル ウォーズ』(Sucker Punch,2011年,米国),『グレイヴ・エンカウターズ』(Grave encounters,2011年,カナダ),『パラノーマルエクスペリエンス』(Paranormal experiences,2011年,スペイン),『The mountain』(本邦未公開,2018年,米国)などがある。ロボトミーの一術式に過ぎない経眼窩(アイスピック)ロボトミーが,映画の世界では主役として圧倒的な存在感を誇る。

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