聖マリアンナ医科大学雑誌
Online ISSN : 2189-0285
Print ISSN : 0387-2289
ISSN-L : 0387-2289
43 巻, 4 号
選択された号の論文の6件中1~6を表示しています
訂正
原著
  • 佐藤 工, セドキーナ アンナ, 小林 大地, 山形 周, 遠藤 春夏, 熊井 俊夫
    2016 年43 巻4 号 p. 237-243
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/03/14
    ジャーナル フリー
    T細胞は抗原認識による活性化と同時に免疫寛容のシグナルも受け取る。この免疫寛容はB7-CTLA4経路とPD1-PDL1経路が存在する。近年,癌細胞はPDL1を発現することにより免疫寛容をおこし免疫システムから逃れていることが明らかとなっている。このことから新しい抗癌療法として,癌由来の免疫寛容の阻害(免疫チェックポイント阻害薬)が注目されている。PD1やPDL1に対する抗体を用いた免疫チェックポイント阻害薬が開発され,黒色種,非小細胞性肺癌,腎細胞癌において臨床試験で良好な結果が報告されている。ただしPDL1が発現しているにもかかわらず一部の癌では十分な抗癌効果がえられないこともあることから,免疫チェックポイント阻害薬の効果予測因子の同定が重要と考える。そこで効果判定因子を同定するためにTCGAダータベースを用いたin silico analysisを行いPDL1の発現量が効果判定となるか,さらに免疫チェックポイント阻害薬に高感受性の癌種で見られる遺伝子発現変化から実用的な効果予測因子が存在するか検討した。この分析により,PDL1発現量だけでは効果予測因子となり得ず,これに加えてCyclin/CDK ネットワークを構成する10遺伝子の発現変化が効果予測因子となりうることを明らかにした。
  • 井上 健男, 栗本 典昭, 干川 晶弘, 阿座 上真哉, 柿沼 一隆, 村岡 弘海, 岡本 真理子, 薄場 彩乃, 峯下 昌道, 宮澤 輝臣
    2016 年43 巻4 号 p. 245-252
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/03/14
    ジャーナル フリー
    近年,多くの施設で縦隔・肺門リンパ節腫脹症例に対して超音波気管支鏡下針生検(EBUS-TBNA)が施行されるようになってきた。本研究では我々の施設におけるEBUS-TBNAによる細胞組織学的診断の正診率について後方視的に分析,検討を行った。対象は当科でEBUS-TBNAが施行された258症例のうち,経過観察中の31症例を除いた227症例で検討した。227症例中223症例で確定診断が得られ正診率は98.2%であった。悪性疾患における組織検体における診断率は95.6%であったのに対して細胞診では86.3%であり,有意に組織検体の方が良好であった(p < 0.05)。さらに炎症性変化など良性疾患における非特異的な所見を針生検による細胞診で診断するのは非常に困難であった。本研究ではEBUS-TBNAにおける組織診断の有用性が示唆された。
  • 芦川 和広, 伊藤 弘昭, 大坪 毅人
    2016 年43 巻4 号 p. 253-261
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/03/14
    ジャーナル フリー
    嚥下障害は,誤嚥性肺炎の原因となり,経皮内視鏡的胃瘻造設術 (percutaneous endoscopic gastrostomy: 以下PEG) は 脳梗塞,認知症や老衰状態の経口摂取困難な高齢者に広く普及している。PEG造設後は経口摂取しなくなり食事の誤嚥による肺炎は無くなるが,PEG造設後の合併症の一つにも肺炎が挙げられる。今回我々は,1) PEG造設による肺炎発症の抑制効果,2) 逆流性食道炎,食道裂孔ヘルニアの内視鏡による所見の有無を指標に胃食道逆流症に起因する誤嚥とPEG造設後の肺炎との関連性,3) PEG造設前と後の肺炎の有無による生存率を調査検討した。2001年1月から2010年12月の期間に当院でPEG造設が施行され,2014年12月まで経過観察・追跡調査し評価可能であった222症例を対象に後ろ向きに検討した。PEG造設前に肺炎を認めた症例は119例,造設後に肺炎を発症した症例は124例であり,PEG造設により肺炎の発症が減少しないことが確認できた。食道裂孔ヘルニアが55例,逆流性食道炎が41例で,PEG造設前での肺炎の有無と逆流性食道炎,食道裂孔ヘルニアの関連を調べたが有意差を認めないが,逆流性食道炎,食道裂孔ヘルニアのある症例のPEG造設前と後での肺炎発症の有無に有意な関連性を示した (P < 0.05)。肺炎が最も多い最終的な死亡原因であり,PEG導入前に肺炎が認められた症例は生存率が有意に低かった (P < 0.001)。PEG造設により肺炎発症の抑制効果は期待できないと考えられた。
    胃瘻造設前の肺炎の有無と胃食道逆流症の有無は重要な肺炎発症・予後の予測因子となり,それを把握することは施行後の患者管理上きわめて重要と考えられた。
症例報告
  • 佐治 淳子, 井上 哲兵, 山本 崇人, 新井 基央, 峯下 昌道, 宮澤 輝臣
    2016 年43 巻4 号 p. 263-268
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/03/14
    ジャーナル フリー
    気管支喘息治療において,吸入ステロイド薬により予防も含めた加療が可能となり,以前に比べコントロール可能な症例は飛躍的に増加した。しかしながら各種治療を併用してもコントロールが困難な症例も少なくない。
    症例は66歳,女性。気管支喘息罹病歴は26年間であり,喘息予防・管理ガイドラインにおいてStep 4の治療を行っても,呼吸器症状が出現しコントロール困難であった。Omalizumab投与を開始し,はじめて治療開始後に救急受診の回数,発作時のステロイド使用量が著明に減少し,良好なコントロールが得られた。
  • 福岡 麻子, 佐治 攻, 真船 太一, 松下 恒久, 榎本 武治, 民上 真也, 大坪 毅人
    2016 年43 巻4 号 p. 269-274
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/03/14
    ジャーナル フリー
    腸管膜様包裏症は白色〜灰白色の線維性被膜に小腸を中心とした腹腔内臓器が覆われ,イレウス症状を呈するまれな疾患である。英語ではsclerosing encapsulating peritonitis (SEP) と訳され,原因が明らかである続発性と,明らかでない特発性に分類される。今回我々は,急性にイレウスを発症し,緊急手術を施行した特発性の腸管膜様包裏症の一例を経験した。症例は74歳の男性で,前日からの嘔吐,腹痛を主訴に当院を受診した。腹部造影CT検査で上腹部にヘルニア嚢様構造物を認め,小腸が嵌頓している様であり,内ヘルニアの診断で緊急手術を施行した。開腹すると小腸全体が線維性被膜に包まれており,被膜を切開すると内部に漿液性の腹水を認め,小腸がさらに線維性被膜に包まれて癒着していた。腸管膜様包裏症と診断し,可能な限り小腸同士の癒着を剥離し,線維性被膜を切除した。術後経過は良好であったが,退院後に2回腸閉塞で再入院した。腸管膜様包裏症の画像所見は内ヘルニアと類似している。症状は慢性から急性の経過でイレウス症状を呈するが,自験例では急性の経過であり,内ヘルニアの疑いで緊急手術を施行した。術中所見では腸管の虚血性変化は認めず,まずは保存的加療を選択できた可能性があった。腸管膜様包裏症は稀な疾患であり,術前診断に苦渋したが,その重要性が示唆された一例であった。
feedback
Top