聖マリアンナ医科大学雑誌
Online ISSN : 2189-0285
Print ISSN : 0387-2289
ISSN-L : 0387-2289
51 巻, Suppl 号
特集増刊号
選択された号の論文の46件中1~46を表示しています
巻頭言
年表
診療統計
トピックス
  • 大坪 毅人
    2024 年 51 巻 Suppl 号 p. S15-S20
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/03/29
    ジャーナル フリー

    聖マリアンナ医科大学病院では新型コロナウイルス感染症の対応を平時の診療では対応不可能であると判断し,2度にわたり災害対策本部を設置した。1回目の設置はダイヤモンド・プリンセス号の着岸によるDMAT派遣要請があった2020年2月7日から第1波の対応に繋がる2020年6月2日まで,第2回目は重症者の急増した第5波に対応した2021年8月16日から同年9月21日までの期間であった。医療現場が必要とするニーズに迅速に対応するためには,平時の診療モードから有事のモードに適宜切り替えることは極めて重要なことである。また,時間的制限のある対応には従来のPDCAサイクルではなく,OODAループ(Observe→Orient→Decide→Action)を実行することにより,スピード感を持って臨機応変な対応が可能となった。本稿では新型コロナ診療において当院に設置した災害対策本部の機能を中心に述べる。

雑報
  • 石上 智嗣
    2024 年 51 巻 Suppl 号 p. S21-S25
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/03/29
    ジャーナル フリー

    2020年2月7日,ダイヤモンド・プリンセス号の船内で発生したCOVID-19感染拡大事案に対処するため,神奈川県が県下の医療機関に対しDMAT派遣要請を発出した。当院はこの要請に応じDMATを派遣すると共に,船内から搬出される未知の感染症に罹患した患者の受け入れを想定し,速やかに災害対策本部を設置し対応を開始した。当初は限られた関係者による会議で対応策を協議していたが,市中感染等により事態が悪化するに従い,複数の部署が連携する必要性が高まり,会議に参加するスタッフも増加していった。クローズドSNSの活用による情報共有,Web会議の導入,学内用公式メーリングリストや学内専用の情報サイトによる継続的かつ即時的な情報発信などを駆使しながら,種々の難局を乗り越え,多くの重症患者を受け入れることができた。感染症パンデミックは医療の供給と医療を求める需要のアンバランスが生じた「災害」であり,災害医療を展開するために継続してきた体制整備や備蓄が有用であった。危機発生時には組織を横断した取り組みが必要となること,ロジスティクス分野の活動が肝となることをあらためて実感した。今後発生するであろう大規模災害に対峙する教職員の助けとなるよう,効果的であった取り組みと改善が求められる取り組みを記しておく。

解説
総説
  • ―感染制御部の取り組み
    竹村 弘, 中谷 佳子
    2024 年 51 巻 Suppl 号 p. S33-S42
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/03/29
    ジャーナル フリー

    2019年12月,中華人民共和国湖北省武漢市で,「原因不明のウイルス性肺炎」として新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の最初の症例が確認され,翌2020年1月には日本を含む世界中の国と地域から患者が報告された。周知のように,その後我々人類は坂を転げ落ちるように未曾有のパンデミックへの道を歩むことになり,当院でも多数の患者を受け入れ,様々な感染対策に多大な労力と時間を使うこととなった。2023年5月世界保健機関(World Health Organization:WHO)は「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態(Public Health Emergency of International Concern: PHEIC)」の終了を決めた。わが国でも2023年5月8日より感染症法上の類型が5類定点報告になった。感染症例の全数報告が無くなり,様々な規制が緩和され,パンデミックは一段落したかのように思われている。しかしSARS-CoV-2の感染性や病原性は特に弱まったわけではなく,医療の現場では今後もまだ数年間は現在と同様の対応をせざるを得ないと思われる。本稿ではこの約3年間に感染制御部が取り組んできたCOVID-19の感染対策について,検査と二次感染予防という視点で総括する。

雑報
  • 森澤 健一郎
    2024 年 51 巻 Suppl 号 p. S43-S56
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/03/29
    ジャーナル フリー

    当院救命救急センターのCOVID-19対応を振り返る。2020年2月に横浜港へ停泊したクルーズ船内でのパンデミックに対するDMAT出動要請と同時に,院内には災害対策本部が設置され,病院全体としての対応が開始された。情報共有システムJoin®を用いた連絡手段を確立し,職種と診療科を横断的につなぐ迅速なガバナンスを実現した。ポータブル空調機による陰圧室とゾーニング,クラウドカメラ・光学カメラによる遠隔診療,多人数による同時会話システムBONX®,病院救命士と迅速調整員によるタスクシフト等,現在に続く救命救急センターの革新的な取り組みが実装された。特異的な症状に乏しく,PCR検査にも時間を要したため,疑似症対応に難渋したが,当院に特徴的な対応として,胸部CT所見を軸とした診断と,陽性確定症例,疑似症,非感染症例のいずれにも対応可能な,ベッド毎のカーテン隔離と換気設備により,ひっ迫する救急医療の中でも,フレキシブルに病床比率を変化させ,救急車の応需を継続することができた。まずは当院で受入れ,診断と重症度判定,さらにはACPの確認の後に,地域の医療機関へ再配分する,地域中核病院としての活動を維持することができた。同時に,神奈川モデルにおける高度医療機関として,人工呼吸器管理やECMO導入を必要とする最重症例を受入れ,大学病院・救命救急センターとしての役割を果たした。2023年5月8日の5類感染症への移行を経て,「Withコロナ時代」となったが,COVID-19は救急医療が包含する多くの問題点を表面化させた。本稿により課題が風化しなければ幸いである。

  • 熊木 孝代
    2024 年 51 巻 Suppl 号 p. S57-S61
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/03/29
    ジャーナル フリー

    COVID-19患者を受け入れるにあたり,看護マネジメントは,『人材確保と環境整備』『情報共有と指揮者の必要性』『ストレスマネジメント』『モチベーション維持』が重要と考えた。

    『人材確保と環境整備』は受け入れ開始とともに閉鎖空間での人工呼吸器やECMOが複数台稼動し,通常よりはるかに重症度が高い患者が収容された。これまで助手,あるいは清掃員が担っていた清掃や物品物資の補充,物品の洗浄すべてを看護師が担い,看護師のマンパワー不足となり重症患者対応を法人で呼び寄せ,マンパワーの強化が実現した。

    『情報共有と指揮者の必要性』は医師や他職種と患者の治療に向かって一丸となりチームで取り組める形にしていきたいとフロアの全体をコーディネートするこの役割がチーム医療へとつなげた。『ストレスマネジメント』はスタッフの健康チェックと,精神面に気を配り,受け入れ開始から2週間でストレスチェックを実施し臨床心理士との面接を計画したスタッフの不満や不安を表出することができた。『モチベーション維持』先が見えない不安に対して,スタッフの教育と柔軟性をチーム医療として生かすことができる。自分たちがやらなくてはいけない使命感に誇りを持つことができ不安はあるものの組織に守られて働くことができ自分たちにできることを実施していく活力につながったと考える。今回は様々な活動を紹介する。

解説
  • 西根 広樹, 峯下 昌道
    2024 年 51 巻 Suppl 号 p. S63-S68
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/03/29
    ジャーナル フリー

    新型コロナウイルス感染症(COVID-19)により,呼吸器病センターでは従来の体制を大きく変更する必要に迫られた。診療においては単科での対応は困難であり,全ての内科学講座(以下,内科)からなる内科のコロナチームを結成し,感染症学,救急医学,外科系の診療科と密に連携して対応に当たった。発熱患者専用の発熱外来が設置され,内科,感染症学,耳鼻咽喉科を中心に診療を行った。肺癌,びまん性肺疾患,呼吸器感染症などの診断目的に行われる気管支鏡検査はエアロゾルが発生する手技であり,検査を実施するにあたり感染予防策を再考する必要があった。基礎的検討や検査の適応基準を検討しながら従来とほぼ同等の件数を実施した。呼吸器疾患は重症化のリスクであり,外来通院の差し控えや治療内容の変更などの影響があった。診断の遅れで患者の予後に影響が極力出ない様に配慮して診療を継続した。また重症のCOVID-19患者を中心にコロナ後遺症外来を開始した。研究では気管支鏡検査時のエアロゾル対策を考えるための基礎的検討を行い,コロナ流行期における気管支鏡検査時の感染予防策を実施した。また複数の臨床研究に参加し,得られた知見を学会や誌上で報告した。さらにコロナ流行下における呼吸器診療について,学会や研究会を通じた啓蒙活動や病診連携も積極的に行った。

  • 堅田 紘頌, 横山 仁志, 渡邉 陽介, 中田 秀一, 韮澤 光太郎, 佐々木 信幸
    2024 年 51 巻 Suppl 号 p. S69-S76
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/03/29
    ジャーナル フリー

    ICUでの管理が必要となる重症患者は,その後の経過に大きな影響を及ぼす集中治療後症候群(PICS)を高率に発症する特性がある。このPICSの改善にリハビリテーションが大きな役割を担っていることから近年,ICUにおけるリハビリテーションは非常に注目を集めている。ICUで管理が必要となる重症患者におけるリハビリテーションの必要性を認識していた我々は,ICUに専従理学療法士を配置し,ICU患者に対して積極的なリハビリテーションを行ってきた。このような診療体制を比較的早期から実施してきたことにより,COVID-19の感染拡大が日本全国に広がる以前から入院管理が必要となったダイヤモンド・プリンセス号のクラスター感染患者に対するリハビリテーションを行うことができ,今日に至るまで数多くの重症COVID-19患者への診療に携わってきた。重症COVID-19患者は,他のICU患者と比較して,PICSのリスクファクターをより多く有しており,発症・重症化率が高い傾向にあるため,リハビリテーション実施による機能改善の獲得に非常に難渋する。ここでは,ICUにおけるリハビリテーションの概要に触れた後に当院で実施した重症COVID-19に対するリハビリテーションの実際やポイントなどについて記述する。

雑報
  • 森 寿一
    2024 年 51 巻 Suppl 号 p. S77-S80
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/03/29
    ジャーナル フリー

    救命救急センターで新型コロナウイルス感染症患者の受け入れが始まり,3次救急としての機能を維持したまま,感染症患者さんの撮影ができるように対応を開始しました。撮影装置の養生や消毒方法など感染制御部の指示のもと,他病院と情報共有を行いながら実施。受入れ当初は少人数で撮影担当者を築き,経験と情報を共有して教育を行い,全員が撮影できるよう体制を整えました。ポータブル撮影や外科用イメージを用いた手技では,感染症への対応ならではの苦労を経験し,装置の性能を把握した効率化を行い現場の要望に応えました。災害対策本部による情報共有や調達部による安定した物品の供給により安心して業務遂行できました。今回の感染症対応に際して,医師,看護師,臨床工学技士など複数の医療従事者によるチーム医療の大切さを再確認しました。診療放射線技師の新型コロナウイルス感染症患者に対する取り組みをご紹介します。

  • 赤津 哲
    2024 年 51 巻 Suppl 号 p. S81-S83
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/03/29
    ジャーナル フリー

    当院における新型コロナウイルスに対する取組みは,2020年2月,ダイヤモンド・プリンセス号(DP号)で新型コロナウイルスの集団感染が発生した際,それらの感染患者受け入れに始まり,その後,幾度となく発生した感染の波を病院の全職種のスタッフが一丸となって乗り越えてきた。そうした中で臨床検査センターが行ってきた新型コロナウイルス感染症への対応について振り返ってみた。臨床検査センターでは,当院でのDP号の感染患者受け入れから二か月後の2020年4月から細菌検査室で遺伝子検査のLAMP法を開始し,各検査室から応援要員も加わり臨床検査センター全体で対応を開始した。そして2021年2月にLAMP法から感度・特異度ともに優れた大型測定器のBDマックスによるPCR検査に変更した。さらに生化学検査室では同時期にHISCLによる抗原定性検査を開始した。一方,緊急検査室では2020年5月からイムノクロマト法による抗原定性検査,7月からはFilm ArrayによるPCR検査を開始した。また,12月からはルミパルスによる抗原定量検査を開始し,2021年の10月にGeneXpert,2022年8月にID NOW,2022年12月にはコバスLiatを導入し,それぞれの検査を開始した。こうして,新型コロナウイルス感染症の感染症法上の位置づけが5類に移行されるまでに,臨床検査センターでは約83,000検体以上の測定を行ってきた。

解説
  • 五十嵐 義浩, 大川 修
    2024 年 51 巻 Suppl 号 p. S85-S95
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/03/29
    ジャーナル フリー

    新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)による感染症であるCOVID-19肺炎は,人工呼吸器,体外式補助循環装置(ECMO),腎代替療法(CRRT)などの生命維持管理装置(ME機器)を必要とする。2020年2月11日に当院で初めて患者を受け入れ,ME機器の導入・管理を行うこととなったが,感染当初は,ガイドラインやマニュアルなどの感染対策が確立されていないなか,対応を予備なくされた。

    患者の増加と共に,パンデミック状態となり,物品不足やME機器の使用台数が増加したため,一般診療を行う際のバックアップ機を含めた多科(救命・循環器・心臓血管外科)との調整が必要となり,法人で導入されているMarianna-netシステム内におけるGoogleスプレッドシートを活用した,院内のME機器在庫状況把握システムを確立した。

    医療従事者の感染を防ぐため,遠隔操作可能な人工呼吸器,ME機器データ抽出可能なGAIAシステム(日本光電社),遠隔監視カメラ映像システム(HIROYA社)の導入により,感染エリア外より監視,医療機器の点検を行った。

    また,在宅用人工呼吸器使用中患者に対する,エアロゾル感染防止のスクリーニングや集中治療業務に特化した業務をマンパワー不足で行わなければならず,限られた人員で勤務体制を調整した。

    本稿では,パンデミック時に行われた「臨床工学技術部の対応・対策・取組について」報告を行う。

総説
  • 勝田 友博, 文元 礼, 新谷 亮, 中村 幸嗣, 清水 直樹
    2024 年 51 巻 Suppl 号 p. S97-S102
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/03/29
    ジャーナル フリー

    当学においては,coronavirus disease 2019(COVID-19)流行開始直後から,仮設扉を用いた複数のエリアに分類された小児入院病棟の設置など,小児への流行拡大を事前に想定した診療体制の準備を進めた。その結果,小児医療従事者における職業曝露リスクを最小限に維持しつつ,広域からの小児COVID-19患者の受け入れを実現した。その内容は,小児重症COVID-19患者の入院管理だけでなく,中等症や軽症患者に対する経過観察や隔離を主たる目的とした入院,社会適応入院,親子入院,など多岐に渡った。さらに,平時より認める様々な小児疾患に対する通常医療の継続に成功した。一方で,新興感染症流行時の小児受け入れ態勢が事前に十分構築されていたとは言い難い。今後,新たな新興感染症のパンデミックに備え,小児外来・入院診療体制のシミュレーション,小児医療従事者への平時からの継続的な感染予防策スキルアップ教育,他施設との診療連携体制の事前構築などが必要である。

解説
  • 西村 陽子, 本間 千夏, 高江 正道, 鈴木 直
    2024 年 51 巻 Suppl 号 p. S103-S110
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/03/29
    ジャーナル フリー

    新型コロナウイルス(COVID-19)が世界を席巻してから早いもので3年以上が経過し,2023年5月に新型コロナウイルス感染症は2類から5類感染症へ位置づけられることとなった。わが国でも,2020年1月に第一例が確認されて以来,急速に感染が拡大し2020年4月に初めての緊急事態宣言が発令された。聖マリアンナ医科大学総合周産期母子医療センターは,神奈川県にある5つの総合周産期センターの一つであり,川崎市の3つの周産期センターを統括する役割を担っている。我々は,新型コロナウイルス感染拡大と共に妊産婦の感染者の受け入れ体制を整えるべく,当初は手探りでの対応に悪戦苦闘しながら,周産期コロナ診療の最前線で妊産婦の受け入れを行ってきた。妊産婦の感染という特有の状況に対応しなければならない周産期の現場においては,日々刻々と変化する感染状況の中で様々な課題に直面した。本稿では,総合周産期母子医療センターとして当院が行ってきた妊産婦の新型コロナウイルス感染に対する様々な対策や取り組みについて述べる。

雑報
  • 塚本 孝枝
    2024 年 51 巻 Suppl 号 p. S111-S114
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/03/29
    ジャーナル フリー

    2020年1月に国から2回目の緊急事態宣言が発令され,当院でも病床数がひっ迫し,急激に増加する陽性患者と疑似症患者の受け入れ病床の拡大が必要となった。同時期に入院患者から陽性者が発生したために,入院患者数が減少したA病棟が陽性患者22床,疑似症6床の専用病棟(以降「コロナ病棟」と略す)へ機能変更が決定した。準備期間は3日,看護職員は25セクションから35名の看護師が集結した。初対面の看護師・別館の病棟に初めて入った看護師・経験年数・看護実践能力も分からない看護師の集団であったため,病棟内の物品整理や掲示物準備など協働作業を通し,同じ病棟で働く看護師だという認識を持つことを意図的に行った。

    【開棟後の実際】コロナ病棟開棟直後2週間の患者の動向だが,陽性患者の平均在院日数5.6日,疑似症は2.1日だった。疑似症入院はコロナ病棟の滞在日数が2.1日と短期間であったため,勤務時は毎回,初回対面の患者がほとんどで,患者背景や治療スケジュールの情報収集に時間を要し,インシデント発生とならないよう申し送りにも配慮を必要とした。陽性患者では病棟機能や構造が異なるために病棟毎に運用していた独自のルールが原因でインシデントが発生した。呼吸不全の終末期患者の看取りの経験を通し,呼吸ケアの学びや家族看護を経験でき,複数の看護師から成長の機会を得たとの言動もあった。

総説
  • 坂本 三樹
    2024 年 51 巻 Suppl 号 p. S115-S122
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/03/29
    ジャーナル フリー

    SARS-CoV-2 coronavirus disease2019(以下COVID-19)感染症は手術管理を基本とした周術期医療において,様々な変化や影響をもたらした。手術部内では既存の手術室に陰圧装置を設置することや,ゾーニングを行うなどの手術環境整備を必要とすること,また感染拡大を来さないための手術器械や器材の準備,医療従事者の感染防御対策,術野でのサージカルスモーク発生などについての理解も重要となった。感染者に対する適応の判断基準や手術施行手順を新規に必要とする一方で,非感染者への手術医療の継続という問題も発生した。病院機能が感染者への対応へ著しく傾いた状況において,手術待機症例の入院治療の可否や手術施行時期の決定が求められた。各学会が示す基準や,それぞれの疾患が手術医療を必要とする時期について検討を重ね,医療資源や人的資源に大きな影響の出ない状態で手術計画が遂行された。COVID-19流行の経過とともに非感染者の手術予定は調整される中,COVID-19患者の手術医療は慎重に行われた。術前管理においては,短時間で最も安全に手術麻酔管理ができるような術式と人員の選択や,その症例に携わるすべてのスタッフの認識を共通にするための手術直前ミーテイングが重要であった。また,診断されていない発熱患者を疑似症として扱わなければならないことの弊害や煩雑さも経験した。COVID-19感染症流行後の,聖マリアンナ医科大学病院中央手術部における対応についてまとめた。

解説
  • 櫻田 勉, 小島 茂樹, 櫻井 絵里香, 田中 明子, 柴垣 有吾
    2024 年 51 巻 Suppl 号 p. S123-S128
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/03/29
    ジャーナル フリー

    血液透析患者は週3回透析施設への通院が必要となるため,緊急事態宣言下においても隔離生活を送ることが出来ない。また,透析患者の多くは高齢者であり,併存疾患のため複数の医療機関や介護施設へ行き来している。さらに,透析患者は送迎を要する高齢者も多く,送迎車内で感染する可能性もあり,大人数が長時間同一空間で治療が行われるため感染リスクの高い集団である。実際,本邦において新型コロナウイルス感染症(Coronavirus disease 2019:COVID-19)による透析患者の集団感染事例がいくつか報告されている1-3)。透析患者は免疫力が低下しており,一旦感染すると重症化するリスクが高いため,管理する施設において感染対策を十分に講じなければならない。

    今回,これまで当院で行ってきたCOVID-19に罹患した血液透析および腹膜透析患者への対応について解説する。

  • 高野 知憲, 國島 広之
    2024 年 51 巻 Suppl 号 p. S129-S134
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/03/29
    ジャーナル フリー

    2019年末に発生した新型コロナウイルス感染症(Covid-19)は変異を繰り返しながらも,予防や治療も進み,社会も正常化しつつある。しかし,2022年1~12月のCOVID-19を原死因とする死亡数は47,635名であり,インフルエンザよりも死亡リスクも高い(HR:1.61)。ワクチン接種回数が多いほど死亡リスクは減少するが,2021年末から流行しているオミクロン株は高い免疫逃避性を有する。更にCovid-19に対するワクチン接種は,抗体価(IgG)は4回接種の場合でも接種後約13週間で接種前の抗体価まで低下し,有効な細胞性免疫の維持も8ヶ月程度である。これらのことから,流行に応じたワクチン接種を定期的に行うことが死亡リスクと重症化防止には重要であると考えられる。ワクチン接種の更なる利点として,後遺症リスクの減少,ウイルス排出量の減少と排出期間の短縮がある。継続的なワクチン接種が今後も重要な課題となるなかで,ワクチンセンターでは,職員や学生向けの集団接種を除いて,職員・医学科・看護学科学生・委託業者・患者等を対象に延べ12,969接種を行った。また,アレルギー歴があり,接種の判断を躊躇することがある患者に対して。リウマチ・膠原病・アレルギー内科のサポートを得て,500件を超えるワクチンの接種を行うことができた。今後も,継続的にワクチン接種を提供し社会への貢献を目指したい。

雑報
  • 本舘 教子
    2024 年 51 巻 Suppl 号 p. S135-S138
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/03/29
    ジャーナル フリー

    未知の感染症として出現したCOVID-19は看護管理に大きな影響を与えた。すなわち確実な状況把握,叡智の結集,大胆な意思決定とスピード感のある実践,きめ細やかな評価,戦略の素早い変更と徹底した周知など,看護管理サイクルを高速回転で実行する必要があった。またいつ感染するかも解らない状況の中で,看護職員は使命感の下,医療現場に対応した。生活者である看護職員の個を大切にしながら,役割を遂行する難しさを痛感した。

    当時を振り返りながら,看護管理者として実践したことを振り返り,学びについて整理したい。

総説
  • 櫛野 宣久, 木下 直紀, 岡田 智幸, 古茶 大樹
    2024 年 51 巻 Suppl 号 p. S139-S147
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/03/29
    ジャーナル フリー

    世界的災害となったCOVID-19の流行は,医療の逼迫を招いた。聖マリアンナ医科大学病院では,災害医療体制をとりつつも平常時と同等の日常診療も続けた。大きな負担がかかった職員に対して,初期段階から職員の心理的負担への対策に着手した。本稿では,惨事ストレスや医療従事者の心理的特性を踏まえ,われわれが立案実行したこころの健康保持対策について報告する。

    今回の職員支援は,多岐にわたる活動となり,災害など非常事態下で医療従事者にかかる負担とそれに伴う苦痛について深く知る機会となった。われわれは,日常の臨床精神医学に基づく知識と経験でこれに対応した。個人から組織の水準まで幅広く困難を生じており,適切な支援なしでは組織の機能が維持できないものであった。幸い保健管理センターが把握している限りでは,COVID-19流行の前後でこころの健康を理由として休職した職員は増えていない。

    われわれの経験は,単に災害時の支援にとどまるものではなく,医療従事者の産業衛生に関して,大きな示唆を与えるものであった。

雑報
  • 竹内 萌, 前田 幹広, 坂上 逸孝
    2024 年 51 巻 Suppl 号 p. S149-S151
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/03/29
    ジャーナル フリー

    新型コロナウイルス感染症の治療における薬剤師の役割と課題について,当院の経験を報告する。エビデンスが乏しい中で,抗ウイルス薬使用による有効性と副作用のリスクベネフィットを考慮しながら,チームで治療方針を決定した。また,適応外使用や在庫管理,薬物治療プロトコール作成など多岐にわたる業務を行った。また,消毒用アルコールや鎮静薬の調達にも苦労し,院内外の協力を得ながら対応した。さらに,職員対象のワクチン接種が始まると,すべてのワクチンの調製作業を薬剤部で行い,正確かつ効率的に運用した。新型コロナウイルス治療薬についても,感染症科と相談して院内の使用ガイドラインを作成し,処方支援及び調剤払出を行った。このように,薬剤師は新型コロナウイルス感染症治療において重要な役割を果たしてきたが,今後もエビデンスのアップデートや在庫管理などに注意を払いながら,チーム医療の一員として貢献していく必要があると考える。

  • 柴田 みち, 伊藤 彩香
    2024 年 51 巻 Suppl 号 p. S153-S157
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/03/29
    ジャーナル フリー

    聖マリアンナ医科大学病院で,2020年2月に新型コロナウイルス感染症(以下コロナ感染症)患者を受け入れて以来,栄養部では,院内での対応方針に従い,入院患者の食事提供や栄養管理業務に関して,感染予防対策を行いながら業務を遂行してきた。個人の感染予防対策を行うことを基本とし,労務環境については,蜜を避け,換気を心掛け,食事中の会話を禁止した。コロナ感染症患者の食器については,2020年4月より2023年1月までの間,ディスポ食器で提供した。配膳,下膳,食器洗浄などの各業務においても,感染予防対策の実施を担当者に指示した。栄養食事指導や病棟訪問においては,患者と近距離で会話するため,感染予防対策の遵守を徹底した。コロナ感染症患者は,重篤な呼吸器障害を併発し,集中治療室で長期に治療が必要となるケースが多く,治療経過において低栄養に陥りやすいため,適切な栄養管理を行うことが重要である。医師や他職種より食事が進まないための介入依頼があった際は,その原因としては発熱や呼吸苦等の症状や味覚障害などが考えられ,経口的栄養補助(以下ONS)を追加することが多かった。ONSは飲料や半固形,経口経腸栄養剤などを適宜選択して摂取栄養量の増加をはかるようにした。ウイズコロナ時代も感染症予防対策を緩めることなく,他職種と協働しながら,適切な患者給食業務および治療効果が上がる栄養管理業務を遂行していく。

  • ~マリアンナ精神を感じ得た数々の出来事~
    杉下 陽堂
    2024 年 51 巻 Suppl 号 p. S159-S162
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/03/29
    ジャーナル フリー

    コロナ感染症はその発症の急峻さ,幅広い年齢層で重症化し,命を奪う未知のウイルスであることに世界全体が不安と恐怖に陥った。当院はコロナ診療を行う病院として最前線で診療にあたった国内有数の病院の一つである。医療スタッフをはじめ,多くのマリアンナの教職員が精神的,肉体的に極限のストレスの中で業務にあたり疲弊やバーンアウトの懸念があった。救急診療で直接コロナ感染症患者の診療にあたる前方スタッフと,グリーンゾーンで勤務し日常診療の維持を担う後方スタッフ一同が一丸となり共にコロナ感染症の脅威に立ち向かうことを目的にコロナ対策後方支援チームが発足された。当学のコロナ後方支援チームの活動がうまく機能できた理由の考察として,第1に医師や看護師を含めた医療職の他,事務職や役員などさまざまなバックグラウンドを持つスタッフで構成されており,役職の垣根をこえたフラットな発言を要求されることでそれぞれの視点から忌憚のない意見交換が可能となった点,第2に当院へのコロナ感染症対策への寄付金の執行権を得ることができ,スピード感を持って支援を実行することができた点,第3に支援者からの寄付の金額の大きさもさることながら,寄付に込められた応援の気持ちが届けられたことが原動力になった点が挙げられる。本チームの活動実績を紹介し,活動を通して得られた経験について述べる。

トピックス
  • 大坪 毅人
    2024 年 51 巻 Suppl 号 p. S163-S167
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/03/29
    ジャーナル フリー

    新型コロナ感染症は治癒後も,嗅覚障害や,倦怠感,呼吸困難といった様々な症状が起こる感染症で,その発症機序については解明されていないことが多かった。当院では,2020年11月より総合診療内科を中心として感染症後外来の準備を進め2021年1月より外来を開始した。外来は総合診療内科をHUBとして症状に応じた多くの診療科で担当医を決め情報の散逸を防いだ。また,定期的な報告会を開催し情報を共有した。2023年6月5日までに912名の患者が受診した。新型コロナ感染症に対する治療のみならず,感染症後(後遺症)の対応について専門領域を有機的に協働することで大学病院ならではの医療が提供できた。

解説
  • 土田 知也, 藤井 啓世, 石塚 晃介, 井上 陽子, 片山 皓太, 廣瀬 雅宣, 大平 善之
    2024 年 51 巻 Suppl 号 p. S169-S175
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/03/29
    ジャーナル フリー

    新型コロナウイルス感染症は感染症法で5類感染症となり,日常生活はパンデミック前に戻りつつある。しかし,その罹患後症状については,診断法や治療が確立されておらず,長期にわたり苦しんでいる患者は少なくない。当院では2021年1月18日より,罹患後症状の診療に特化した新型コロナウイルス感染症後外来(後遺症外来)を開始した。これまでに約1,000名が紹介受診しており,その症状は倦怠感をはじめとして,頭痛や味覚嗅覚障害,記憶力の低下といったBrain fogと呼ばれる症状の他,気分の落ち込みや不安感など精神的な症状の訴えも多い。その背景には学校や仕事に行くことができない,周囲から理解がないという声の他,経済的困窮という社会的な問題を抱えていることもある。倦怠感では,自律神経障害の評価,抑うつの評価,生活習慣の乱れに伴う体重増加や筋力の評価を行うことが,Brain fogではSPECTによる脳血流の評価が重要である。罹患後症状は体位性頻脈症候群や片頭痛など新たな合併症が見つかることが多く,また既往疾患が再燃することも多い。罹患後症状としてまとめてしまうのではなく,症状からこれまでもよくあった疾患群を想定した問診,診察をして診断をつけ,治療を開始することが必要である。また身体的な症状のみならず心理的,社会的背景に目を向けて対応していくことも重要である。

総説
  • 勝田 友博, 後藤 理華, 新谷 亮, 中村 幸嗣, 清水 直樹
    2024 年 51 巻 Suppl 号 p. S177-S180
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/03/29
    ジャーナル フリー

    成人において先行して報告されていたCOVID-19罹患後症状(long COVID)は,近年,小児における報告も増加している。その頻度は,海外においては1.6~70% と報告により様々であり,約半数に入院患者が占める国内小児においては4.0% と報告されている。臨床症状も報告による差を認めるが,多くの報告において倦怠感が上位を占めた。小児COVID-19罹患後症状患児は,過剰な検査・治療が患児に多大な負担となっていることも多く,医療従事者は適切な検査治療計画を策定する責任がある。さらに,小児においては登校困難など小児特有の問題点が併存することも多く,小児科医だけでなく,心療内科,児童精神科,ペインクリニック,学校医,養護教諭,スクールカウンセラー,臨床心理士,公認心理師など多職種連携による診療体制の確立が重要である。

雑報
  • 小口 芳世
    2024 年 51 巻 Suppl 号 p. S181-S184
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/03/29
    ジャーナル フリー

    COVID-19感染は精神医学においても多面的な影響を与えている。本論文では,その精神医療への影響について総合的に調査し,3つの主要な症状群を識別した。第1に適応障害に類似した症状が確認され,対象とした症例は,中等度の不安,抑うつ,睡眠障害を呈していた。第2にCOVID-19後遺症として慢性疲労症候群(ME/CFS)が明瞭に認められるケースがあった。特に,介護福祉士である40歳女性症例は,COVID-19感染後,持続する倦怠感や身体不調に悩まされていた。第3に内因性精神病の再発症例も確認された。さらに,COVID-19後遺症としてしばしば報告される「Brain Fog」に対する治療アプローチとして,反復性経頭蓋磁気刺激(rTMS)が一定の効果を示しているが,その有効性にはさらなるエビデンスが必要である。特にME/CFSやBrain Fogには根本的な治療法が未確立であり,対症療法と精神療法的アプローチが主体である。治療の脱落率や時間的要因も考慮に入れ,継続的な研究と症例蓄積が必要である。COVID-19パンデミックが始まって4年以上経過した現在でも,新たな症例とその治療法の開発が急募されている。症状の遷延や軽快を伴う症例を蓄積し,その背景要因を解析することが,今後の治療戦略の確立に不可欠である。本研究はその一環として,COVID-19と精神医療との相互作用に新たな視点を提供する。

総説
  • 齋藤 善光, 岩武 桜子, 赤羽 邦彬, 多村 悠紀, 山田 善宥, 小森 学
    2024 年 51 巻 Suppl 号 p. S185-S191
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/03/29
    ジャーナル フリー

    新型コロナウイルス感染症は2019年12月に報告され,全世界に猛威を振るったが,ワクチンを含めた予防や感染対策,治療法の解明により,本邦では5類感染症へ移行され通常診療での対応が可能となった。今後も感染者数の増減を繰り返す事は想定されリスクを伴う状況に変化はないが,同時に問題となるのが,罹患後のコロナ後遺症である。

    後遺症の発症要因は上咽頭との関連性が指摘されており,炎症が上咽頭に継続することで慢性上咽頭炎が併発する可能性がある為,その治療法である上咽頭擦過療法(EAT)の有効性が報告されている。以上から当科ではEATを積極的に導入し,より明視下に行うため,鼻咽腔内視鏡を用いた内視鏡下上咽頭擦過療法にて,的確な処置と患者との画像共有を心がけて実施している。自覚症状アンケートを用いた当科でのEAT治療成績は,EAT施行前後で全てのアンケート項目で有意に自覚症状の改善を認め,改善率では1割以上の自覚症状が改善した症例は82%,7割以上改善した症例は28% 存在し,完治した症例も6% 認められた。また,EAT導入早期より症状は改善し,継続施行にてさらに改善する傾向が得られた。以上からコロナ後遺症に対するEATはある一定の治療効果を示す可能性が示唆されたが,未だエビデンスレベルの低い治療法で,完治症例が少ない事も実状である為,今後より効果的な新たな治療法が解明されることを期待したい。

雑報
総説
  • 秋山 久尚
    2024 年 51 巻 Suppl 号 p. S197-S207
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/03/29
    ジャーナル フリー

    2019年12月に中国武漢で発生した新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染症は急速に世界中に拡大し,2020年3月には世界保健機関がパンデミックを宣言,coronavirus disease 19(COVID-19)と命名された。当初,このCOVID-19感染症の重症例では肺炎から急性呼吸窮迫症候群,呼吸不全となり死に至ることで注目された。一方,死までには至らない重篤例,非重篤例でも発熱,咳嗽,咽頭痛等耐え難い症状が出現し,これらの症状改善後も長期間にわたり疲労感・倦怠感,息苦しさ,味覚・嗅覚障害等の後遺症が認められることがありlong COVIDと呼ばれている。この症状のひとつに頭痛がありlong COVID headacheと呼ばれ,流行から約3年経った今でも当院脳神経内科の感染症後外来(後遺症)へ長期間にわたり通院している頭痛患者がいる。この頭痛の発症病態生理は未だに明確に解明はされておらず,診断基準や治療方針も確立されていないが,近年,発症機序として三叉神経血管系の活性化が関与する可能性が報告され,臨床的特徴,治療の推奨に関する報告も散見されてきている。本稿では,このlong COVID headacheの臨床的特徴,発症機序,診断,治療の推奨について既報をまとめ,当院脳神経内科へ長期間通院中のlong COVID headache症例の臨床的特徴を紹介する。

雑報
  • 原口 直樹, 松本 伸行, 細谷 美鈴, 黒沢 裕哉, 荒川 明, 森下 弘之, 細川 聖子, 田中 広子, 川口 珠巳, 松崎 貴志, 内 ...
    2024 年 51 巻 Suppl 号 p. S209-S217
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/03/29
    ジャーナル フリー

    2020年に我が国に到来した新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対して,聖マリアンナ医科大学横浜市西部病院は,地域の中核病院として様々な対応および治療を行った。感染制御室,医療安全管理室,健康管理部,臨床検査部,薬剤部,患者支援センター,クリニカルエンジニア部,栄養部,画像診断・治療部,総務課庶務係,総務課人事係,施設係,物品管理係および医事課における新型コロナウイルス感染症(COVID-19)への対応を総括する。また当院では感染拡大初期に大規模なクラスターが発生し,対処法がほぼ未知であった中で各職員がその対応に奔走したが,その経緯を述べる。

  • 北原 日美紀
    2024 年 51 巻 Suppl 号 p. S219-S224
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/03/29
    ジャーナル フリー

    2020年2月,新型コロナウイルス感染症(以下COVID-19)のパンデミックが始まった。コロナ禍以前より稼働率60~70% の病院経営に課題があった中,COVID-19のパンデミックにより稼働率6% と病院経営上創立以来最悪の状況に陥った。第1波から未知なるウイルスとの闘いが始まる中,災害モードとしての人員配置を要し,第8波まで幾度も新たなチーム編成が余儀なくされたが,そのたびに奮起し,かけがえのない命を支え続けることができたのは,西部病院看護職員ひとり一人の使命感と,志を一つにした仲間とのチーム力であった。肉体的にも精神的にも大きな打撃を受けつつも,部署運営を率いる看護管理者の細やかなサポートが支えとなり立ち向かう姿勢の維持が可能となった。さらに感染対策強化として,緻密な病床管理を行いながら,感染対策と経営改善の2大プロジェクトを立ち上げ,両輪を軸にした看護部運営が始まった。その後3年にわたり地域支援病院としてその機能を発揮し,COVID-19が5類に移行した現在も最大限に病院機能を発揮している。今後,災害時も平時においても,使命感を持ち働き続けるためには,ミッションの認識,ビジョンの明確化,組織風土やチームワークの醸成など,働く意欲を高める要素が欠かせない。現在,西部病院ではこれらを大切に掲げつつ,それぞれの部署で多くの患者を受け入れ,地域貢献,経営貢献に至っている。

  • 石井 将光, 本橋 伊織, 杉本 麻衣, 長島 悟郎
    2024 年 51 巻 Suppl 号 p. S225-S233
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/03/29
    ジャーナル フリー

    新型コロナウイルスパンデミックが発生する前の2019年4月から,2023年5月に2類感染症から5類感染症に変更される直前の2022年3月までの院内データを解析し,実施してきた対策の評価を行った。神奈川モデルの重点医療機関として最大34床までの患者受け入れ態勢を確保し,私立医科大学病院の中でも特に中等症患者の受け入れでは,大きな実績を残した半面,延べ入院患者数や救急車搬入台数はコロナ禍前の6~7割程度にまで減少し,2020年11月に発生したクラスターは病院の経営に大きな爪痕を残した。手術件数も1割程度減少し,川崎市内の分娩件数の増加に反して当院での分娩件数も減少した。こうした状況の中,医療者へのさらなる肉体的,精神的負担を避けるための対策の結果,過度な超過勤務の増加を抑えることができた。地域に根差した市立病院として,その役割の再検討が必要と考える。

  • 長島 悟郎
    2024 年 51 巻 Suppl 号 p. S235-S238
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/03/29
    ジャーナル フリー

    豚インフルエンザのパンデミック以降,川崎市全体の感染制御体制の向上を目指して2011年に立ち上げたKAWASAKI感染制御協議会が,今回のパンデミックに大きな役割を果たす結果となった。ダイヤモンド・プリンセス号事件の対応,行政からの朝令暮改のような要請,各学界の無責任なガイドラインなど,様々な課題が発生する中,「医療従事者の安全が患者の安全より優先される」という理念に基づいて,早々にCOVID-19倫理綱領を作成して職員のみならず市民にも周知し対応した。職員の意欲を維持するためにマスコミへの露出も増やし,医療者一人一人の意見を吸い上げるシステムを立ち上げるなど,命も顧みずに奮闘する医療者に寄り添いながら,このパンデミックを乗り越えてきた。川崎市には,南部と北部の2つの二次医療圏があるが,北部地域の医療に対する行政サービスは決して十分なものではない。こうした状況の中で,当院が今後向かう方向を考えていく必要がある。

総説
  • 奥瀬 千晃
    2024 年 51 巻 Suppl 号 p. S239-S260
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/03/29
    ジャーナル フリー

    2020年2月21日,ダイヤモンド・プリンセス号から1名の新型コロナウイルス感染症患者が川崎市立多摩病院に搬送された。人員,物資,場所のいずれも十分な準備が整わない,まさに災害と捉えても過言ではない状況下での闘いの始まりであった。大きな波を繰り返しながらとどまることを知らず蔓延し続ける新型コロナウイルス感染症に対して,川崎市立多摩病院は法人各施設ならびに行政と密接な連携をとり,専用病床の確保や外来診療用コンテナの設置などの対策を講じつつ,全職員が一丸となり全力を注いで診療にあたってきた。本邦の新型コロナウイルスに対する感染対策の大幅な緩和という節目を迎えた今,川崎市立多摩病院におけるCOVID-19診療の軌跡を辿ってみたい。

雑報
総説
  • 長田 尚彦, 竹村 美歩
    2024 年 51 巻 Suppl 号 p. S273-S278
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/03/29
    ジャーナル フリー

    COVID-19は2019年に中国武漢市で発見され,全世界に感染拡大した。この感染症は2020年から国内に拡大し続け,全ての医療機関がその対応に苦慮することになっていった。神奈川県では2020年3月から神奈川モデルを構築し,我々の施設もその傘下で対応してきた。当院は当初PCR検査機器を有していなかったため,発熱患者の受け入れ態勢を構築するにはかなりの時間を要したが,その後LAMP検査が導入され,院内で検査ができるようになり,徐々に対応を拡大することができた。2020年8月から入院前スクリーニング検査を開始し,その後同年11月から発熱検査外来を開設し感染者を外来で対応していった。2021年1月からは下り搬送の入院病棟での受け入れ,同年2月からは新型コロナワクチン接種,さらに,COVID-19院内発生の患者の管理など少しずつではあったが対応を拡大することができた。これまでの当院のCOVID-19対応の過程を簡単に報告する。

解説
  • 高尾 あずさ, 森本 順子, 石田 倫子, 近藤 昭子
    2024 年 51 巻 Suppl 号 p. S279-S288
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/03/29
    ジャーナル フリー

    2020年世界的流行となったCOVID-19は,従来の医療体制を継続することを困難とした。この危機状況に法人内で役割分担により,当院が果たした一般患者および2次救急患者への対応した時期,次に「神奈川モデル」重点医療機関協力病院として陰性化した患者受入れ,疑似症,下り搬送の対応を感染管理専門医不在の中小規模病院として対応した3年間の入院対応の準備と実践経過について報告する。その結果,5階病棟を専用病棟として運用し,2021年4月21日~2023年5月7日までのCOVID-19陽性入院患者総数は,118名。平均年齢68歳。男女比では,男性67名(57%)女性51名(43%)と男性が多かった。重症度割合では,軽症割合が58%,中等度I30%となり,2022年夏ごろより中等度IIの患者を受け入れるようになり12%を占めるに至った。転帰は,自宅退院が最も多く,COVID-19が直接死因となった患者は1名に留まった。また,危機状況におけるチーム医療推進では,情報共有の重要性が挙げられる。同時に,職員の基礎疾患調査や就業に対する意思確認の実施により,COVID-19に関するメンタル不調を理由に離職した者はいなかった。面会制限が続く中では,早期より電話相談の導入,日常・リハビリの様子を動画視聴できる環境を整備し,患者・家族の危機回避支援を実施するに至った。以上,当院として役割を果たすことができたのは,この法人全体の組織力により,根幹にある"愛ある医療"を見失わなかったからである。

feedback
Top