温熱療法は悪性腫瘍に対する放射線および化学療法の有効な併用療法として近年注目を浴びている. 今回我々は術前療法として温熱併用放射線, 化学療法を行い, 著効を示した下顎扁平上皮癌の1例を経験したので報告した.
患者は27歳男性. 現病歴 : 1989年8月左下顎智歯部疼痛のため近歯科受診. 智歯周囲炎の診断のもとに抜歯を受けたが, その後開口障害が出現し, 紹介され某大学口腔外科を受診. 慢性下顎骨骨髄炎と診断され, 抗生剤の投与を受けたが症状に変化を認めず, 抜歯窩の生検を受け, 扁平上皮癌と診断された. 1990年7月18日紹介され当科を受診した. 処置および経過 : 腫瘍は左下顎大臼歯部骨体から下顎枝に及び, さらに側頭下窩に深く浸潤していた. 7月30日入院し, 8月2日より放射線照射 (計30Gy), 化学療法 (PEP計60mg, CDDP計20mg), およびマイクロ波加温による温熱療法 (計8回, 各60分) を併用した. 9月20日左全顎部郭清術, 下顎骨半側切除, 下顎から側頭下窩腫瘍切除術, 大胸筋皮弁およびチタンプレートによる再建術を行った.
初診時のCTと術前療法終了時のCTを比較すると下顎枝周囲の腫瘍が著明に縮小し, retromaxillary fat spaceの回復が認められた. また咀嚼筋群の境界明瞭化, 腫瘍内の血管の消失がみられ画像診断上, ほぼ腫瘍が制御されたものと思われた. 摘出物の病理組織学的所見では, 腫瘍のほとんどが線維性組織に置換されており温熱療法併用放射線化学療法の有用性が示唆された.
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