レトロウイルスやC型肝炎ウイルスでは持続感染が成立する.その結果発病にいたるが, ハイパーサーミアによってこの持続感染を絶つことが出来る可能性がある.
ハイパーサーミアはウイルスによってはその感染価を低下もしくは消失させることが出来る. レトロウィルスのHTLV-1は成人丁細胞白血病 (ATL) や中枢神経のミエロパシー (HAM) を来たす病因ウイルスであるが,
in vitroでは37度c以上で感染能を著しく低下させることが知られている. C型肝炎ウイルス : HCV) ではE1, E2の熱感受性, インターフェロンに対するNS5Aの熱変化などを確かめる必要がある.
ハイパーサーミアのさらに重要な視点は宿主の免疫系の活性化にある. とくにtoll-like receptor (TLR) を中心とする自然免疫 (innateimmunity) の活性化が著しい. インターフェロン, サイトカイン, リンフォカインなどがTLR, ILIRからのシグナル伝達により, おもに転写因子のNFkBを介して誘導され, マクロファージ, 樹状細胞 (肝臓ではクッパー細胞), NK細胞, NKT細胞,頼粒球,補体などが活性化されて末梢血中に至るまで増加する. さらに自然免疫に橋渡しされて獲得免疫 (acquired immunity) の再上昇 (booster) を促すことになる. こうしてハイパーサーミアによって誘導された免疫能の亢進がウイルスの感染細胞のアポートシス (apoptosis) をもたらす. その結果, ウイルスが増殖できなくなり, うまく行けば持続感染が完全に絶たれることになる.
ハイパーサーミアによる宿主内のウイルス量の低下は少なくともキャリアから発病の遅延が期待出来る. さらに持続感染が絶たれれば, ウイルス感染症の発症が阻止されることになる.
HTLV-1のキャリアは現在日本で100万人存在している. ハイパーサーミアによって致死的疾患で有効な治療法がないATLやHAMの発症を予防する新しい視点が求められている. 同じ事はHCVのキャリアにも言えることである.
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