国外旅行者の数に比例して熱帯性疾患に罹患するものの増加の傾向が, 最近の研究によって指摘されている。この事実はまた, わが国を訪れ, 特に一定期間滞在する外国人が熱帯病病原体を移入し, 伝染源となり得る可能性を暗示するものである。我々はこの推定を検討するために1972年より1976年に至る5年間, 技術訓練のため熱帯諸国ならびに欧州, 北米より松下電器産業株式会社への来訪者について, 一定期間の罹病状況を診断または医学記録によって分析し, つぎの結果を得た。
1) 総計532名の来訪者のうち485名が熱帯諸国より, また47名がその他諸国よりの来訪者で, その到着時より1カ月間の罹病率はそれぞれ20.2%, 29.8%であった。
2) 今回の調査では幸いにも, マラリア, フィラリア, コレラ等の熱帯病は認められなかった。
3) 母国で感染し, 来日に際して発病したマレーシア人の無鉤条虫症, イラン人の続発性睾丸炎各1例が特記されるものであったほかは, 感冒, 胃腸炎, 蕁麻疹等一般的な疾患が多かった。
4) 熱帯圏よりの来訪者は, 欧州, 北米等よりのそれに比較して, 特に秋, 冬期に到着後2-3日以内にかなり高率に感冒に罹患する傾向が認められた。
5) 以上得られた成績は, 外国人による熱帯病移入の可能性の実態を明らかにするとともに, また, これら来訪者の健康管理上の資料として評価され得る。
6) 帰国邦人および外国人来訪者に対する, 理解ある検診ならびに実地医家の, 輸入熱帯病についての良き認識は, 今後ともこれら疾患の移入を防ぐ対策として不可欠である。
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