エクアドル国のアンデス斜面低地から高地 (海抜300m-1,500m) にかけて居住する住民について, リーシュマニア症の罹患状況を調べた。この流行地には約15年前にハイウェイ (道幅約10m) が建設され, 住民の居住環境ならびに生活様式に大きな変化が認められた。
一般住民446名について検査したところ, 64名 (14.3%) は本症によると考えられる治癒病変, または皮膚潰瘍を保有していた。
居住地の高度差による住民のリーシュマニア症罹患状況を知るため, 被検者のうち5-15歳の学童224名を対象に, 4地点 (A, 海抜500m;B, 1,000m;C, 1,300m;D, 1,500m) において, 居住地区別の罹患を比較した。その結果, 学童のリーシュマニア症罹患率は, 海抜500m地点で17真4%, 1,000mで18.8%, 1,300mで5.6%, 1,500mで8真8%となり, 500m-1,000mの地域と1,300m-1,500mの地域との間には, 統計学的に有意の差を認めた (0.01<p<0.05, χ2=5.314)。このことは, アンデス斜面のリーシュマニア症流行地の比較的低い地域 (1,000m以下) では, 本症の罹患率が高くなるが, より高い地域では罹患率は低くなることを示唆している。
一方, ハイウェイ沿いと山間部との間で, 本症罹患率の差異を検討するため, 上記224名の学童を, その居住地の状況によって次の2群に分類した。1) 山間部に定住または過去に一時期居住した者, 2) ハイウェイ沿いで出生または非流行地から移住した者。上記2群間での学童の罹患率を見る上で, 高度差による影響を除去するため, 各地区ごとの山間部住民とハイウェイ住民との比較を行った。その結果, 4地点のいずれにおいても両群問に有意な差を認めなかった。したがって, 本調査地においては, ハイウェイが建設され, 環境変化や住民の移動がみられたものの, 道路沿いの原生林や人家, および農耕地周辺に原生林の一部が残存し, これがサシチョウバエや保虫宿主の供給源の役割を果たしているものと判断された。
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