福岡市在住の男子船員 (当時57歳) から, 1969年12月に自然排出された, 裂頭条虫と思われる虫体が同定のたあ送られてきた。虫体は頭節を有する完全な標本であったが, 小柄 (約600mm) で, 肉厚の, ずんぐりした黄褐色の外観を呈し, 一見してこれまで人体寄生種として知られている裂頭条虫とは異なるもののように思われた。著者らはこれを, 人体寄生裂頭条虫のさらに新しい海洋種として, 特徴の概要をとりあえず学会に報告しておいたが (加茂ら, 1978), このたび
Diphyllobothriumcameroni Rausch, 1969として同定を確定し, 和名としてカメロン裂頭条虫を提唱した。本種はミッドウェー諸島近海で捕獲されたタイヘイヨウモンクアザラシ (
Monachus schauinslandi) から得られた標本に基づいて、Rausch (1969) が命名記載した種類である。人体から得られた標本は, 形態的特徴が極めてよくRausch (1969) の記述に一致し, とくに子宮孔が生殖孔の後壁に開口する点が他種に見られない特徴である。貯精嚢や虫卵などの計測値が人体排出標本で全般的に大きいのは, アザラシの腸管にくらべて広大な人の腸管内で, 大きく成長できたことによる差異であろうと思われる。走査電顕による卵穀表面像は, 深い点刻が密に分布し, 点刻間の面がきあ粗い性状を示し, Hilliard (1972) のいう海洋性の特徴を認あた。これはカメロン裂頭条虫の人体から見出された最初の例であるが, 恐らく偶発的なものであろう。感染源は人間とタイヘイヨウモンクアザラシとの共通の食物となっている海産の魚類であろうと思われるが, まったく不明である。
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