本稿では八幡市(現・北九州市)における八幡市立図書館と八幡製鉄所図書館による移動図書館の成立を実証的に分析し,工業都市としての特質を踏まえ,その性格を考察した。その結果,両館の移動図書館は急増する住民や従業員に対する過渡的な条件整備を経て成立したことが明らかになった。職域を中心とする共同体に入り込んだが,利用には一定の条件が内在していたことから,同市居住のステータスを醸成する性格を有していた。その一方で両館の移動図書館には,八幡市の戦後復興を背景に,住民や従業員の人間形成に寄与する意図も内包されていた。
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