日本トキシコロジー学会学術年会
第33回日本トキシコロジー学会学術年会
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試験法:in vitro・代替法
  • 高橋 明子, 高橋 芳, 戸和 秀一, 鳥海 亙
    セッションID: P-185
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/06/23
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    【背景】リン脂質症(PL)はライソソームにおけるリン脂質の異常蓄積を特徴とし,陽イオン性両親媒性薬物でしばしば観察される毒性変化である.創薬においてはPLのリスクを回避することを目的として,化合物選抜の早期段階でin vitro PLアッセイが利用されてきている.今回,in vitro PLアッセイの予測性を検証する目的で,in vitroアッセイ結果とin vivo毒性試験におけるPL発現の関連性について検討した.【方法】自社62化合物について実施したin vitroアッセイ,およびin vivo毒性試験の成績を基に,in vitroアッセイのin vivo予測性を検討した.In vitroアッセイでは,NBD-PE*存在下でCHL/IU細胞を被験化合物で24時間処理し,細胞内リン脂質の蓄積を蛍光強度の上昇を指標に評価した.In vivoにおけるPL誘発能は,ラット経口投与毒性試験で採材した肝臓の樹脂包埋準超薄切片トルイジンブルー(TB)染色標本における肝細胞のTB濃染小体の出現を指標として評価した.【結果・考察】62化合物中52化合物において,in vitroとin vivoの陽性/陰性判定結果が一致した.結果が一致しなかった化合物のうち5化合物はin vitroで陽性,in vivoで陰性となり,不一致の原因としては血漿未変化体濃度が低かったことが考えられた.残る5化合物はin vitroで陰性,in vivoで陽性となったが,肝臓への蓄積性が高い,あるいはごく軽微なリン脂質の蓄積が胆管上皮に認められる化合物であった.以上の結果から,in vitro PLアッセイがin vivoにおけるPLの予測に有用であると考えられた.現在,化合物の物理化学的性質とPL誘発能の関連性についても検討中である.* NBD-PE: ホスファチジルエタノールアミンの蛍光アナログ
  • 井上 智彰, 菅野 優子, 杉本 哲朗
    セッションID: P-186
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/06/23
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    In the early stages of drug discovery, cell lines and primary cultured cells are used for in vitro toxicity screening. In most cases, specific cell types are isolated for used even with primary cultured cells. In test systems with isolated specific cells, direct actions on the specific cells can be evaluated, but effects on the other cells can not be evaluated. In this experiment, the validity of a culture system with whole cells from adult mouse heart was investigated. [Methods] Whole heart cells were prepared from adult BALB/c mice. After pre-culture period, the test compounds with doxorubicin (DOX) as a positive reference compound were added and the supernatants (Sup) and cell lysates (Lys) were collected after 1_-_4 days. Troponin I (TnI), a cardiomyocyte (CM) marker, von Willebrand Factor (vWF), an endothelial cell (EC) marker, and Lactate Dehydrogenase (LDH), a general cell marker were measured. [Results and Discussion] TnI and vWF in the control cultures showed high values in Sup and, therefore, evaluation in Lys was required. The vWF and LDH increased dependent on the culture period, but TnI slightly decreased. These results suggest that ECs proliferated during the culture but CMs did not. From exposure to DOX, decreases in the TnI and vWF in the Lys were more marked than the LDH, This suggests that CMs and ECs are more susceptible to DOX than the other cell types. In conclusion, these results are consistent with known toxicities of DOX, and thus, this in vitro toxicity screening system would be useful in the evaluation of cardiovalcular toxicities.
  • 大信田 系裕, 岩永 恵麻, 宮本 恵子, 宮本 庸平
    セッションID: P-187
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/06/23
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    【目的】既知遺伝毒性物質であるMethyl methanesulfonate (MMS)、4-Nitrosoquinoline-Oxide (4NQO)、Cyclophosphamide (CP)およびBenzo (a) pyrene (B(a)P)についてマウスIL-3依存性骨髄芽球性細胞株(FDC-P2)を用いたin vitroコメットアッセイを実施し、画像解析ソフトによりTail moment、%DNA in tailおよびTail lengthを算出し遺伝毒性評価における画像解析の有用性を検討する。
    【方法】FDC-P2細胞を各化合物で処理後、低融点アガロースゲルに浮遊させ、CometSlide(Trevigen®)または2-layer法により標本スライドを作製した。標本スライドはLysis solution(4℃、30分)、Alkali buffer(室温、20分)で処理後、4℃、1 V/cmの条件下でTBE bufferにて15分間電気泳動した。泳動後、SYBR Greenにて核を染色し、落射型蛍光顕微鏡下で泳動像を撮影し画像解析ソフトComet Analyzer v1.5(株式会社ユーワークス)により各パラメーターを算出した。
    【結果】(1)MMSおよび4NQO処理によりDNA損傷出現率は用量に依存して増加した。(2)Tail moment、%DNA in tailおよびTail lengthは、MMSの25 μg/mL群、4NQOの0.05 μg/mL以上の用量群で有意に上昇した。(3)CPおよびB(a)PはS9 mixを用いた代謝活性化法によりDNA損傷を引き起こし、殆どのパラメーターが有意に増加した。
    【結論】FDC-P2細胞を用いたin vitroコメットアッセイにおいて、画像解析ソフトComet Analyser v1.5により迅速かつ定量的な評価が可能であり、Tail moment、%DNA in tail、Tail lengthの各パラメーターは化合物によるDNA損傷を検出する指標として有用であった。また、S9を用いた代謝活性化法により代謝物が遺伝毒性を有する化合物についても、DNA損傷を検出できることが明らかとなった。
  • 吉川 理恵, 富澤 香織, 山田 弘, 浜田 悦昌, 堀井 郁夫
    セッションID: P-188
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/06/23
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    医薬品開発において問題となる毒性のひとつに神経毒性があり,in vivoの毒性を反映する実際的なin vitroスクリーニング系の確立は,創薬開発早期の毒性評価に特に重要であると考えられる。今回,末梢神経毒性のスクリーニング系の確立を目的として,初代培養ラット背根神経節(dorsal root ganglions; DRGs)に神経毒性を誘発化合物(スラミンまたはドキソルビシン)を暴露し,形態学的観察および軸索面積の画像解析結果をin vivoでの形態学的観察および軸索面積の画像解析結果と比較して,in vivoの毒性を反映するin vitroスクリーニング系としての有用性を検討した。
    in vivo神経毒性誘発試験により得られたDRGsおよび坐骨神経の形態学的観察および軸索面積の画像解析の結果,スラミン投与群では神経細胞の変性に比べ軸索の変性および軸索面積の減少など,軸索の障害が目立ち,ドキソルビシン投与群では特に神経細胞における細胞質の空胞変性,神経細胞の腫大が目立ったのに加え,軸索の変性および神経線維の減数を認め,各々の化合物に特徴的な神経毒性を検出した。また,in vitroにおいて,各々の化合物に暴露されたDRGsの形態学的観察および画像解析の結果,両化合物に共通して神経細胞の変性が認められたほか,スラミンに暴露されたDRGsでは神経線維の異常走行が,ドキソルビシンに暴露されたDRGsでは用量依存的な神経線維の伸長阻害が認められ,それぞれ異なる神経毒性所見を示した。
    以上の結果から,in vitro スクリーニング系はin vivoの神経毒性を反映し,医薬品早期の開発における末梢神経毒性のスクリーニング系に応用可能である可能性が示唆された。
  • 坂田 孝, 宮本 樹美代, 小田 康雅, 那須 礼史, 若原 恵子, 広瀬 泉, 田中 宏幸, 稲垣 直樹, 永井 博弌
    セッションID: P-189
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/06/23
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    気管支喘息などのアレルギー疾患の発症には様々な要因が考えられ、遺伝要因と環境要因とに大別される。周知のように、臨床サンプルを用いた検討では遺伝的背景あるいは病型間のバラツキなどの影響が問題となり、疾患の発症や治療標的を探索するには、より均一な条件下で検討可能な動物モデルの使用が有用である。当教室においても、種々の動物モデルを用いて抗原誘発による気道収縮反応、気管支肺胞洗浄(BALF)中の各種炎症細胞増加ならびにコリン作動性物質による気道収縮反応を指標に病態機序の解明や治療標的の探索を行ってきた。BALFを用いた各種検査は臨床研究においても重要であり、気管支喘息をはじめ種々の呼吸器疾患の病態解明・治療の効果判定のための良い指標となる。しかしながら、従来、BALF中の細胞を算定するには、サイトスピン法などで細胞を塗抹染色した後に顕微鏡で分類計数する必要があり、煩雑で時間のかかる検査法である。また、実際に成績を得るまでに実験担当者の十分なトレーニングが必要である。一方、臨床検査の分野ではフローサイトメリー法(FCM法)を用いた種々の自動末梢血液像分析装置が普及しており、これらの装置を使用することにより、短時間で信頼性の高い分類結果を得ることができる。そこで本研究では、FCM法を測定原理とする動物用多項目自動血球分析装置XT-2000iV(シスメックス社製)を用いて、アレルギー性気道炎症モデル動物のBALF中の細胞分類計数について迅速自動測定法を確立し、基本性能を検討した。その結果、好酸球比率における、対照法(サイトスピン法)とFCM法の相関はマウス(r=0.916)、ラット(r=0.959)、モルモット(r=0.965)と良好であった。再現性,直線性等の評価結果についても報告する。
  • 藤川 真章, 周 玉, 山田 弘, 堀井 郁夫
    セッションID: P-190
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/06/23
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    【緒言】In vitro 3T3 NRU光毒性試験法は光毒性化合物をスクリーニングする方法として一般的に用いられている。創薬段階においては多くの化合物を迅速に評価することが要求される。そこで本研究ではOECDガイドライン案で示されたin vitro 3T3 NRU光毒性試験のスループット向上を目的として作業量および作業時間の効率化について検討した。
    【方法】作業量の効率化:1回の細胞播種操作で試験開始日が異なる複数回分の試験用プレートを準備するための前培養条件(播種細胞数および薬物曝露までの前培養時間)を検討した。判断の基準として,試験開始時の細胞数および標準物質のMPE (Mean Photo Effect) 値を用いた。作業時間の効率化:小型8連式自動分注器を用いて試験操作の機械化について検討した。
    【結果】作業量の効率化:播種細胞数を0.285,0.5および1.1 x 104 cells / wellとし薬物曝露までの前培養時間をそれぞれ72,48および24時間とした条件において,薬物曝露開始時の細胞数はいずれも2.3-2.4 x 104cells / wellであった。さらに標準物質のMPE値はいずれも同程度を示し,前培養条件の違いによる光毒性評価への影響は認められなかった。したがってこれら3種類の前培養条件を用いることにより1回の細胞播種操作で3日連続の試験が可能となった。作業時間の効率化:試験操作の機械化について種々検討したところ,細胞の洗浄操作ならびに培地およびneutral red抽出液の添加操作においては手動操作と併用することにより作業時間が約半分に短縮された。
    以上の検討から,細胞播種数および前培養時間を調整し,細胞の洗浄操作ならびに培地およびneutral red抽出液の添加操作を機械化することによってin vitro 3T3 NRU光毒性試験のスループットの向上が可能であることを確認した。
  • 今井 教安, 大谷 しのぶ, 谷川 浩子, 岡本 裕子
    セッションID: P-191
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/06/23
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    【目的】酵母光育成阻害試験法はin vitro光毒性試験法の一つとして知られており、同じくin vitro光毒性試験法としてOECDガイドラインに収載されている培養細胞を用いた3T3NRU-PT法に対し、適用可能な試料の幅が広い等の利点から、近年動物実験代替法学会等の主導でバリデーションが行われた実績もある。この試験法は、酵母を培養した寒天培地に試料を含ませた円形濾紙を置き、紫外線照射時および非照射時における酵母生育阻止円の差により光毒性の有無を判定する方法である。演者らは、本方法では形成される阻止円の大きさに試料の拡散性が影響している、即ち試料の拡散性が毒性評価に影響を与えると考え、これを確認したところいくつかの知見が得られたので報告する。
    【方法・結果】酵母光育成阻害試験法において、1cm2あたりの紫外線照射量を5Jから50Jまで変化させて照射した場合、照射量依存的に陽性対照物質(8-MOP)による生育阻止円の拡大が確認された。一方で照射量の変化に伴って照射時間も変化し、照射強度2mW/cm2では5Jで約42分、50Jでは約6時間57分必要となる。そこで試料適用後、紫外線照射前に室温にて培養し、各照射条件の総培養時間を50J照射と揃えて時間の差を解消する実験を行った。その結果、各照射量で照射前培養無しの条件に比べ、阻止円の拡大が認められた。しかしながら、依然として照射量依存的な阻止円の拡大も観察され、本方法の阻止円の形成には、紫外線照射量と総培養時間の両方が影響していることが示唆された。
    【考察】酵母光育成阻害試験法は試料の適用範囲が広がるなど利点はあるが、その実施においては、拡散に影響を与えると思われる時間や温度の管理、溶媒の選択などに留意して試験条件を設定する必要があると思われる。
  • 周 玉, 石橋 麻子, 崎村 雅憲, 藤川 真章, 山田 弘, 堀井 郁夫
    セッションID: P-192
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/06/23
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    ある種の化合物は光吸収により分子共役構造部位の電子が基底状態から励起状態に励起し、次いでエネルギーの放出によりフリラジカルを生成し、光毒性を引き起こす。この電子励起の起こりやすさ(HOMO-LUMO gap)はIn Silico化学計算により予測ができると考えられている。本研究ではHOMO-LUMO gap化学計算値による光毒性の予測法の3T3 Neutral Red Uptake Phototoxicity Test (3T3試験)を用いた In vitro試験およびモルモットを用いたIn vivo試験結果に対する予測性について検討した。
    「方法」134のin house化合物及び光毒性の有無が知られた30化合物を用いて検討を行った。HOMO-LUMO gapはSoftware-Jaguar 5.5を用いて計算した。 3T3試験はOECDガイドライン案に示された方法に準拠して実施した。 In vivo試験では、モルモットにCPFX、LFLXまたは8-MOPをそれぞれ単回経口投与し、UVA照射した後の皮膚反応を評価した。
    「結果」134化合物のHOMO-LUMO gap値をA(10.5未満)、B(10.5以上 11.7以下)およびC(11.7より大)の3領域に区分し、3T3試験の陽性結果との相関性を検討したところ、それぞれA=100%、B=44% 、C=17%の相関率を示した。光毒性の有無が知られた30化合物の3T3試験結果およびCPFX、LFLXまたは8-MOPのIn Vivo試験結果はいずれもHOMO-LUMO gap値(<10.5)による光毒性予測との相関性を示した。
毒性発現機序
  • 武藤 泰子, 伊吹 裕子, 寺尾 良保, 小島 周二, 五島 廉輔
    セッションID: P-193
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/06/23
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    【目的】ビスフェノールA(BPA)の塩素化体が古紙再生工場の排水から検出されている。環境中では、これらBPA塩素化体(ClBPAs)は紫外線照射により構造変化をし、その中には生体毒性の強い3_-_ハイドロキシビスフェノールA(3-OHBPA)を含むことがこれまでの研究で明らかとなった。本研究では、紫外線照射生成物の毒性のメカニズム解明のためClBPAsに紫外線を照射し、生成物によるアポトーシスの誘発について検討した。

    【方法】BPA、ClBPAs(3-ClBPA、3,3’-diClBPA、3,3’,5-triClBPA)および3-OHBPA各々の水溶液に紫外線(UVA、UVB、UVC)を照射した。Jurkat細胞に紫外線照射生成物を添加し、アポトーシスに特徴的なクロマチン凝集およびDNAラダー形成の観察、活性化カスパーゼ3、8、9の変化、チトクロームCの遊離を測定した。

    【結果と考察】UVB、UVC100J/cm照射した3,3’-diClBPAと3-OHBPA添加後の細胞において、クロマチン凝集およびDNAラダー形成が観察された。また、活性化カスパーゼ 3、 8、 9 の上昇、チトクローム-Cの遊離が認められ、紫外線照射生成物によるFasリガンドおよびミトコンドリアを介したアポトーシスの誘発が示唆された。
  • 山内 啓史, 上塚 浩司, 中山 裕之, 土井 邦雄
    セッションID: P-194
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/06/23
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    胎盤細胞のアポトーシスは、子宮内胎児発育遅滞など、妊娠異常の発生に関与すると考えられている。我々はこれまでの研究で、DNA傷害性化学物質である(Ara-C)を妊娠ラットに投与すると胎盤迷路部栄養膜細胞でアポトーシスが誘導されることを明らかにした。本研究では、DNA傷害時に活性化され、アポトーシスを誘導する癌抑制遺伝子p53に着目し、Ara-Cによる胎盤アポトーシスの機序を検討した。妊娠13日のラットにAra-C(250 mg/kg i.p.)を投与したところ、胎盤でp53およびリン酸化p53タンパク質の発現上昇が認められた(ウェスタンブロット法)。また、p53のリン酸化を誘導するリン酸化Chk1のタンパク質発現上昇も認められた。さらに、p53により転写誘導されるアポトーシス促進性の遺伝子、noxapumaのmRNA発現上昇も認められた(RT-PCR法)。加えて、p21cyclin G1などのp53転写標的遺伝子の発現上昇も認められた(cDNA microarray法)。次に、p53ノックアウトマウスにAra-C(100 mg/kg i.p.)を投与したところ胎盤のアポトーシス誘導は強く抑制された。これらの結果から、Ara-Cに暴露された胎盤において、Chk1およびp53のリン酸化による活性化、次いでその下流のアポトーシス促進遺伝子の発現誘導という一連のDNA傷害反応経路の関与が明らかになった。以上より、p53とその関連因子が、胎盤栄養膜細胞のアポトーシスを通じて、妊娠関連疾患の病態発生に関わっている可能性が示唆された。
  • 水木 朋宏, 野本 眞博, 永易 美穂, 大渕 雅人, 宮田 昌明, 山添 康
    セッションID: P-195
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/06/23
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    【目的】リトコール酸(LCA)は胆汁鬱滞を伴う肝障害を引き起こす。これまでにLCA誘発肝障害に対する防御機序について様々な研究が行われてきたが、実質細胞傷害および肝胆道系傷害のいずれの防御機序についても未だ明らかとなっていない。LCA投与動物にpregnenolone-16α-carbonitrile (PCN)を併用すると肝障害が改善される。我々の網羅的な遺伝子発現の解析結果より、LCA誘発肝障害と肝臓中脂質レベルの関連が示唆された。そこで、本研究ではPCN併用による脂質レベルの変動からLCA誘発肝障害に対する防御機序の解析を試みた。
    【方法】C57BL/6の雌性マウスに0.6%LCAを混餌で9日間摂取させ、5日目からはPCNを1日1回4日間100mg/kg腹腔内投与し、血液生化学検査、肝臓および胆汁中脂質濃度の測定を行った。
    【結果】LCA処置では血清中ALT、ALP活性の著しい上昇が認められた。また、未処置群に比べてLCA処置群では肝臓中遊離脂肪酸、トリグリセリドおよびリン脂質濃度の減少が認められた。さらに、LCA処置群では胆汁流量が減少し、胆汁中のリン脂質濃度は有意に減少した。PCN併用群では血清中のALTおよびALP活性の上昇が抑えられた。肝臓中の遊離脂肪酸、トリグリセリドおよびリン脂質濃度は未処置群に比べてPCN併用群では増加した。肝臓中の脂質濃度の増加はPCN単独投与群にも認められた。LCA誘発肝障害に対して高脂血症治療薬のプロブコールを併用した場合にも肝障害の抑制および肝臓、胆汁中のリン脂質濃度の増加が認められた。
    【結論】肝障害の認められたマウスでは肝臓および胆汁中のリン脂質の濃度が低下していた。これに対し、PCNまたはプロブコール併用により肝障害が軽減したマウスではリン脂質の濃度は増加した。以上のことから肝臓中のリン脂質レベルを上昇させることがLCA誘発肝障害を軽減させることが示唆された。
  • 宮田 昌明, 野本 眞博, 水木 朋宏, 横川 伸也, 二宮 真一, 山添 康
    セッションID: P-196
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/06/23
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    【目的】近年医薬品の安全性評価等の解析のためマイクロアレイを用いた網羅的遺伝子発現解析の手法が導入されている。この解析により多くの発現情報が得られるが、その中から有益な情報を抽出し、毒性の機序解明に結びつける手法の開発が必要とされている。本研究では胆汁鬱滞型肝障害を誘発するリトコール酸(LCA)肝障害モデルマウスを用い、その経時的変化や薬物併用の影響から多面的に解析し、網羅的遺伝子発現解析データより毒性誘発機序の解明を試みた。
    【方法】C57BL/6雌性マウスに0.6%LCAを3、5、9日間混餌投与した。また5日目よりpregnenolone-16α-carbonitrile (PCN)(100 mg/kg, i.p.) を4日間LCAと併用し血清、肝臓を採取した。肝臓の遺伝子発現レベルをマイクロアレイ(Affymetrix社製)を用いて解析した。
    【結果】LCA群でコントロール群に比べ3日目から経時的な血清ALT活性の上昇が認められた。ALP活性はLCA5日群では有意に増加せず、LCA9日群ではじめで有意な上昇が認められた。PCN併用によりこれらの活性は有意に減少した。LCA9日群の肝臓の網羅的遺伝子発現解析によりトリグリセリド、遊離脂肪酸の肝内利用のシフトやリン脂質の代謝中間体生成酵素、リン脂質の膜移動に関与する遺伝子の顕著な発現上昇が認められた。特に脂肪酸についてはエネルギー産生に関わるβ酸化、TCAサイクルに関与する遺伝子の発現低下が認められ、一方アシル転移および脱アシル化系の亢進が認められた。また肝/血漿間の脂質移行に関わる遺伝子の変動が認められた。LCA3日,5日群ではこれらの遺伝子発現に顕著な変動は認められなかった。
    【結論】網羅的遺伝子発現解析からLCA誘発肝障害のうち後期に起こる胆道側の障害は肝内のリン脂質、遊離脂肪酸やトリグリセリド等の脂質レベルの低下と密接に関連する可能性が示された。
  • 野本 眞博, 宮田 昌明, 芝崎 茂樹, 黒沢 亨, 神藤 康弘, 山添 康
    セッションID: P-197
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/06/23
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    【目的】胆汁酸(BA)は、肝におけるコレステロール(Cho)からの合成、代謝、胆汁への排泄ならびに腸管からの再吸収により厳密に生体内濃度が調節されている。また、これらのバランスが崩れると胆汁がうっ滞し、肝障害を生じることが知られている。我々は細胞障害性を示す二次胆汁酸であるリトコール酸(LCA)の混餌投与により作製した胆汁酸誘発肝障害モデルを用い、C型肝炎治療薬として開発中のME3738の有効性をBA及びChoの動態変化に着目し検討した。
    【方法】C57BL/6N雌性マウスを用い、通常餌、0.15% ME3738、0.75% LCA、0.75% LCA+0.05% ME3738または0.75% LCA+0.15% ME3738含有餌を6日間混餌投与した。
    【結果】LCA単独群では、血漿中AST、ALT及びALP活性の上昇と肝内BA及びCho濃度の増加が認められ、肝Bsep、Mdr2、Abcg5/8及びCyp7a1のmRNAレベルが低下した。ME3738併用群では、上記の肝機能パラメータはME3738の用量依存的に改善され、胆汁中BA及びCho排泄速度が上昇した。また、肝Bsep及びAbcg5/8のmRNAレベルの低下が抑制された。ME3738の単独投与では、肝Abcg5/8のmRNAレベルの増加及び胆汁中Cho排泄速度の上昇が認められたが、胆汁中BA排泄速度に大きな変動は認められなかった。
    【結論】ME3738はLCA誘発肝障害を軽減した。そのメカニズムとして、胆汁中へのCho排泄の亢進に伴って、胆汁中BA排泄が増加した可能性が示唆された。そして、肝内Cho及びBA濃度が低下することにより、肝障害が抑制すると考えられた。したがって、胆汁中へのChoの排泄促進は、胆汁酸誘発肝障害の軽減に有効である可能性が示された。
  • 柴原 憲仁, 増永 結子, 岩野 俊介, 鎌滝 哲也
    セッションID: P-198
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/06/23
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    【目的】CYP1A1 は多環芳香族炭化水素類 (PAHs) の代謝的活性化に関与する薬物代謝酵素である。CYP1A1 により代謝された PAHs は究極の発がん物質となり DNA に損傷を引き起こす。CYP1A1 の誘導機構は PAHs による芳香族炭化水素受容体 (AHR) を介した機構が知られている。これまでの知見より,高コレステロール食を摂取すると PAHs の発がんリスクが上昇することが報告されている。Liver X receptor α (LXRα) はコレステロールの代謝物であるオキシステロールにより活性化される核内受容体である。我々は,高コレステロール食摂取による PAHs の発がんリスクの増強に LXRα による CYP1A1 の誘導機構が関与していると考えた。そこで本研究では,LXRα による CYP1A1 遺伝子の新規誘導機構を解明し,本機構が PAHs の毒性に関与するか否か解明することを目的とした.
    【方法】ルシフェラーゼアッセイにはヒト肝がん由来 HepG2 細胞を用いた.ゲルシフトアッセイには in vitro translation にて合成した LXRα および retinoid X receptor α (RXRα) を用いた.
    【結果および考察】CYP1A1 遺伝子の5’-上流領域を組み込んだレポータープラスミドを用いて,ルシフェラーゼアッセイを行ったところ LXRα の応答配列は CYP1A1 遺伝子のプロモーター領域に存在する direct repeat 4 (DR4) であることが分かった。次に,ゲルシフトアッセイにて DR4 に LXRα/RXRα ヘテロダイマーが結合することを確認した。また,PAHs および LXRα のリガンドを共処置することにより,単独で処置した場合と比較して CYP1A1 が相乗的に誘導されることを明らかにした。さらに,LXRαのリガンドは PAHs 依存的なアポトーシスを増強することを見出した。以上のことから,CYP1A1 遺伝子の発現制御に LXRαが関与することを解明し,本機構により PAHs の毒性が増強されることが示唆された。
  • 田中 智, 高島 佳代子, 筒井 将, 岸田 知行, 村上 真, 黒田 淳二, 吉田 武美
    セッションID: P-199
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/06/23
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    誘導型一酸化窒素合成酵素(iNOS)及びヘムオキシゲナーゼ-1(HO-1)は,ストレスや炎症に応答して誘導されるタンパク質であり,生体防御において重要な役割を担う。しかし,その防御系の過剰な反応により,自らを傷害する場合がある。β2-アドレナリン受容体刺激薬は,喘息の治療に広く使用されているが,その作用機序は平滑筋弛緩作用のみならず,抗炎症作用をも併せ持つことが報告されている。そこで我々は,ラットにリポポリサッカライド(LPS)を投与し,心臓,肺,肝臓及び脾臓において誘導されたiNOS mRNA及び HO-1 mRNAが,β2-アドレナリン受容体刺激薬であるサルブタモールの前投与により抑制されることを見出した。また,U937ヒトマクロファージ様培養細胞あるいはラット腹腔マクロファージを用いて,LPS処理により産生されたTNF-αが,サルブタモールにより顕著に抑制されることを確認した。さらに,サルブタモール処理によりTNF-αの産生を抑制することで,下流のiNOS mRNAの誘導が抑制されることが示唆された。一方,HO-1 mRNAは,一酸化窒素(NO)により顕著に誘導されたことから,サルブタモール処理によるHO-1 mRNAの抑制は,iNOSの誘導が抑制されたことによるNO合成の低下が寄与したものと推察された。
  • 岩野 俊介, 柴原 憲仁, 浅沼 文恵, 糠谷 学, 斎藤 鉄也, 鎌滝 哲也
    セッションID: P-200
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/06/23
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    【目的】多環芳香族炭化水素類 (PAHs) はタバコ煙に多く含まれ,生体内に取り込まれるとアテローム性動脈硬化,胎児奇形および発がんなどの重篤な毒性を誘発することが知られている.我々はこれまでに PAHs は芳香族炭化水素受容体 (AHR) を介してコレステロールのホメオスタシスに重要となる核内受容体 liver X receptor (LXR) に対して抑制的に働くことを見出している.これまでの研究で PAHs が誘発するアテローム性動脈硬化において CYP1A1 による PAHs 自身の代謝的な活性化が重要となることが報告されている.そこで本研究では PAHs が引き起こす LXR シグナル伝達経路の抑制に CYP1A1 が関与するか否か検討し,PAHs が誘発するアテローム性動脈硬化における CYP1A1 の役割を明らかにすることを目的とした.
    【方法】LXR を介した遺伝子の転写活性化に対する PAHs が与える影響はヒト肝がん由来 HepG2 細胞に LXR 応答配列を 2 コピー含むレポータープラスミドを導入し,ルシフェラーゼアッセイを行うことで検討した.PAHs が LXR 標的遺伝子の発現に与える影響は定量的 RT-PCR 法によって検討した.
    【結果・考察】MC による LXR を介した遺伝子の転写活性化に対する抑制効果は CYP1A1 の阻害剤との共処置および CYP1A1 に対する short interference (si) RNA を発現させることで完全に消失した.MC が LXR 標的遺伝子の発現を抑制する現象は CYP1A1 に対する siRNA を発現させることで完全に消失した.以上のことから PAHs が誘発するアテローム性動脈硬化において CYP1A1 が重要な役割を担っていることが示唆された.
  • 富田 正文, 奥山 敏子, 勝山 博信, 日高 和夫, 石川 隆紀
    セッションID: P-201
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/06/23
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    除草剤パラコート(PQ)によるヒトでの肺線維化はよく知られているが,実験動物では個体差が大きくその線維化モデルは未だ報告がない。そこで,マウス肺を直接PQに暴露し肺線維化モデルを作製,さらに2,3の遺伝子・蛋白質についてその発現変化を検討した。
    方法:雄性C57BL/6Jマウス(8-10 w)に麻酔下でPQを点鼻投与し,実験最終日に肺を摘出して切片の作製,RNAの抽出を行った。切片はH.E.,Masson's Trichrome, Elastica Van Gieson染色などで線維化を組織学的に評価し,さらに免疫染色を加えた。また,realtime RT-PCRによってRNAの発現変化を検討した。
    結果と考察:PQ投与3日で,肺は肉眼的にも炎症が強く,組織学的にもリンパ球浸潤を中心とした強い炎症反応が観察された。その後,体重が増加に転じる個体は生存を維持したが,増加に転じない個体の多くは死亡し,PQの用量ー反応性が認められた。死亡したマウスの肺は強い水腫様変性と出血が全体的に観察された。他方,生存した個体では肺重量/体重(比率)がPQの用量と相関して有意に増加した。肺の萎縮は観察されず,炎症性細胞やfibroblastが観察され,肺の線維化を認めた。高用量(0.04 mg/mouse)を投与され長期間(2?3週間)生存した個体では,肺の線維化が顕著で,肺胞の融合や間質の肥厚がみられ,肉眼的にhoneycomb状を示す個体も観察された。投与後24時間と5日目の組織を中心にRNAの発現変化を調べた結果,HO-1の遺伝子発現の増加,E-SODの遺伝子発現の低下などが認められた。また12?24時間で細気管支にクララ細胞であろうと思われる細胞片がに多数観察され,生体の反応がかなり早い時期に起こっていることが示唆された。
  • 南 圭一, マニラタナチョト ラウィワン, 戸塚 善三郎, 塩山 昇平, 白谷 博忠, 加藤 美紀, 中島 美紀, 横井 毅
    セッションID: P-202
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/06/23
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    トログリタゾン (TRO)はチアゾリジンジオン系の経口糖尿病薬として販売されたが、一部の患者に劇症肝炎を引き起こしたことから販売が中止された薬物である。本検討ではチアゾリジンジオン系薬物による細胞毒性について、蛋白質の発現変動を検討し、肝障害のバイオマーカーの特定を目的とした。最初に、ヒト肝癌由来HepG2細胞およびヒト初代培養肝細胞に対してTROおよび同効薬であるロシグリタゾン (RSG)を24時間曝露後、2D/HPLC/LTQ/MS/MSにて網羅的に蛋白質の発現変動を解析した。その結果、シャペロン蛋白質であるBiPおよびgp96において顕著な変動が認められた。BiPについては以前に当研究室で行った二次元プロテオミクスによる検討結果と一致しており、TROによる肝毒性との関与が示唆されている (Tox Sci, 83: 293, 2005)。類似のシャペロン蛋白であるgp96においてもTROによる肝毒性に関与している可能性が考えられた。そこで、ヒト肝癌由来HLE細胞等を用いて、mRNAおよび蛋白レベルにおけるgp96の検討を行ったところ、TZDs曝露により濃度依存的な発現の誘導が認められた。次に、gp96をRNAiを用いてノックダウンすることによる細胞毒性への影響を検討した。Gp96 siRNAを導入24時間後にTRO、RSGを24および48時間曝露し、細胞生存率を測定した。その結果、TZDs曝露後24時間において、gp96 siRNA導入によってTRO, RSGともに毒性が増加した。しかしながら、TZDs曝露後48時間において、TROではgp96 siRNAの導入はほとんど毒性に影響を与えず、RSGにおいてはRSG濃度非依存的に毒性が増加した。以上の結果から、シャペロン蛋白質gp96の細胞内における発現変動がTZDsによる毒性の発現に関わる可能性が示された。
  • ラウィワン マニラタナチョト, 加藤 美紀, 中島 美紀, 横井 毅
    セッションID: P-203
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/06/23
    会議録・要旨集 フリー
    Troglitazone (TRO) -induced cytotoxicity was investigated in HepG2 cells. The cell lysates which were exposed to TRO as well as rosiglitazone (RSG) at concentrations of 0, 25, 50 and 75 microM for 48 h were separated by 2-dimensional electrophoresis. A protein at a molecular weight of 34.4 kDa and isoelectric point (pI) of 5.7 appeared only with the treatment of 50 and 75 microM of TRO, but not with the low concentration (25 microM) of TRO or any concentrations of RSG. This protein spot was identified as ribosomal protein P0 (P0). Without a significant induction of its protein and mRNA, P0 showed a pI basic-shift by TRO treatment. When P0 underwent in vitro dephosphorylation by treatment of the cell lysates with alkaline phosphatase, its pI basic-shift was observed, which was consistent with the spot components generated by the TRO treatment. In addition, treatment of HepG2 cells with the cytotoxic concentration of TRO resulted in a reduction of serine-phosphorylated P0. We also showed that, although inhibition of the caspase activity by Z-VAD.fmk improved the cell viability and protected against cleavage of caspase-3 by TRO treatment, these effects could not prevent P0 dephosphorylation. These findings suggest that a posttranslational modification, dephosphorylation, of P0 is associated with TRO-induced cytotoxicity.
  • 廣瀬 健一郎, 高橋 勉, 永沼 章
    セッションID: P-204
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/06/23
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】 アドリアマイシン(ADM)は様々な悪性腫瘍の治療に用いられている制癌剤であるが、ADMの毒性発現機構には不明な点も多い。最近、我々は遺伝子欠損酵母ライブラリーを用いてADM感受性に影響を与える遺伝子群の網羅的検索を行い、欠損することによりADMの毒性を著しく増強させる因子としてprotein phosphatase 2C family の1つであるPtc1を同定した。Ptc1欠損によるADM毒性増強機構にはPtc1の基質として知られる酵母MAPキナーゼHog1が一部関与するが、それ以外の細胞内因子の関与を示唆するデータも得られている。そこで本研究ではPtc1欠損によるADM毒性発現機構における Hog1以外の細胞内因子の関与について検討した。【結果および考察】 Yeast two-hybrid assayにより、Ptc1と結合する蛋白質を検索したところ、Erg1, Kic1, Rpl12a, Rpl12b, Rsm28およびTaf9の6種の蛋白質を同定することに成功した。このうち、酵母の生存に必須でない蛋白質(Erg1, Taf9以外)の遺伝子をそれぞれ欠損させた酵母のADM感受性を調べたところ、Rpl12a, Rpl12bまたはRsm28を欠損した酵母が高いADM感受性を示し、この中では、ミトコンドリアリボソーム蛋白質の1つであるRsm28の欠損酵母のADM感受性が高かった。しかし、Ptc1欠損酵母のADM感受性はRsm28を同時欠損させても増強されなかった。したがって、Ptc1欠損によるADM毒性増強機構にRsm28が関与していると考えられる。現在、ADM毒性増強機構におけるPtc1とRsm28の関係について検討中である。
  • Rafiqul Islam, Jutabha Promsuk, 平田 拓, 安西 尚彦, 遠藤 仁, 金井 好克
    セッションID: P-205
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/06/23
    会議録・要旨集 フリー
    System B0 is a sodium dependent transporter that transports wide variety of neutral amino acids in the intestinal and renal proximal tubular epithelial cells. Methylmercury (MeHg) readily and non-enzymatically reacts with cysteine to form conjugate structurally similar to methionine. In this study, we investigated the molecular mechanisms of absorptive transport of MeHg in intestine using Xenopus oocytes expressing B0AT1. Uptake of [14C]L-leucine by B0AT1 was inhibited by MeHg-Cys conjugate, Leu, Cys, Met and Phe in concetration-dependent manner. The IC50 of MeHg-Cys conjugate was significantly lower than that of Leu, Cys, Met and Phe, indicating that B0AT1 is a high affinity MeHg transporter. To assess MeHg-Cys conjugate transport, we measured [14C]MeHg uptake in Xenopus oocytes expressing B0AT1 in the presence or absence of sodium. The [14C]MeHg was transported only in the presence of cysteine and the transport was significantly sodium dependent and inhibited by a system B0 inhibitor BCH. Our current findings indicate that B0AT1 absorb MeHg in the form of cysteine conjugate from the intestinal lumen across the brush-border membrane into the cells and is supposed to be plays a critical role in the pathogenesis of Minamata disease.
脳神経系
  • 小川 哲郎, 桑形 麻樹子, 塩田 清二
    セッションID: P-206
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/06/23
    会議録・要旨集 フリー
    鉛やメチル水銀などの重金属、PCB等の環境化学物質あるいは一部の医薬品の妊婦への暴露と子どものIQ低下、注意欠陥・多動性障害、自閉症などの脳発達障害発症との関連が懸念されている。このような障害を誘発する化学物質のスクリーニング法として、げっ歯類の発生初期から授乳期にわたる暴露後に行動学的評価を中心とした出生児の観察・評価が国際的に採用されてきた。しかし、このような評価には莫大な予算・時間・労力を要するにもかかわらず、その試験の信頼性(再現性に欠ける)、ヒトへの外挿性の問題(ヒトとねずみでは行動が違いすぎる)が最近議論されており、化学物質から子どもの脳を守るためには、新しい発生神経毒性試験法の開発が急務となっている。我々は、新たな試験法として、中枢神経系発生の各過程を神経幹細胞の分裂、神経系前駆細胞の分化・移動、シナプス形成と神経ネットワーク形成に分け、組織学的観察による評価法の開発を進めてきた。本演題では、胎生期バルプロ酸暴露によるラット自閉症モデルにおける胎児の観察において、橋部のセロトニン神経の発生と視床における神経の発生に異常を見出したこと、また、このような障害は全ての胎児でではなく、セロトニン神経では約1/4、視床においても半数以下の胎児でのみ誘発されたことを報告する。胎児脳で得られた所見は自閉症モデルの妥当性を支持するものであること、胎児脳の観察が脳発達障害の誘発を予測するのに十分な情報を与えること、また、現行ガイドラインが抱える観察例数、用量反応に関する問題点についても考察を行う。
  • 桑形 麻樹子, 小川 哲郎, 塩田 清二, 永田 伴子
    セッションID: P-207
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/06/23
    会議録・要旨集 フリー
    現行の発生神経毒性 (developmental neurotoxicity;DNT)試験のガイドラインでは投与時期は妊娠期から哺育期までの長期にわたっているため、神経毒性(行動異常)を発現する感受性の高い投与時期(臨界期)は明確にならないが、医薬品におけるDNT試験では臨界期を考慮することも重要である。今回、既に我々が報告している多動性障害モデル(遺伝子毒性物質である5-bromo-2-deoxyuridine(BrdU)をSDラットの妊娠9-_5日に腹腔内投与(50 mg/kg)することにより、出生児に顕著な自発運動の増加が発現する)を用いて、胎生期BrdU暴露による多動発現の臨界期を検討した。BrdUの投与時期を妊娠9-10日(B-I群)、妊娠11-13日(B-II群)、妊娠14-15日投与群(B-III群)に分割し、それぞれBrdU(50 mg/kg)を腹腔内投与し、生後5週にオープンフィールド試験を実施して自発運動量を調べた。陽性対照として妊娠9-15日投与群(B-all群)を設定し、対照群には0.5%メチルセルロースナトリウム溶液を投与した。その結果、B-all群の自発運動量は分割投与群(B-I、B-II、B-III)の自発運動量と比較すると有意な増加を示した。B-I群では自発運動量の増加は認められなかったが、B-II群、B-III群では対照群と比較して両群の自発運動量は有意に増加した。また、B-all群の自発運動量の増加の程度は、B-II群およびB-III群の自発運動量の増加を加算した値に近かった。以上の結果から、胎生期BrdU暴露により発現する多動性障害の臨界期は、神経管閉鎖後に存在するがその期間は比較的広く、行動への影響は総投与日数に依存すると考えられた。本発表では各投与群の胎児脳の神経病理学的所見と併せて考察する。
  • 折戸 謙介, 白井 明志, 赤堀 文昭
    セッションID: P-208
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/06/23
    会議録・要旨集 フリー
    コプラナーPCBのひとつであるPCB126の胎生期暴露が情動反応におよぼす影響を、行動薬理学的手法を用いて明らかにした。雌性Sprague-Dawley系ラットの妊娠15日目にPCB126 30 µg/kg(PCB群)またはコーンオイル(溶媒群)を経口投与し、産まれた子ラットが4‐5週齢の時点で実験に供した。運動量は、40 lux、50 dB下に設置したオープンフィールド(OF, 45 cm x 45 cm x 深さ50 cm)を用いて立ち上がり行動およびグルーミング時間と共に20分間測定した。血漿中コルチコステロン濃度(CORT)は、両群の非ストレス動物と、水(25℃)を入れた透明アクリル製円柱水槽(直径20 cm、高さ50 cm、水深30 cm)に20分間入れることによりストレスを負荷した動物を用意し、断頭採血で得られた血漿中の濃度をRIA法で測定した。運動量はPCB群と溶媒群に差は認められなかったが、OFの中心部分に移動する割合は、PCB群で有意に減少していた。PCB群の立ち上がり回数は溶媒群に比べ有意に減少し、毛づくろい行動は有意に増加していた。CORTは、非ストレス下ではPCB群と溶媒群で差は認められなかった。一方、ストレスを負荷した場合は、両群共上昇していたが、PCB群のほうが溶媒群に比べ有意に上昇していた。運動総量やrota-rod試験では両群間で差が認められなかった。以上のことより、PCB126の胎生期暴露によりストレスに対して脆弱となることが強く示唆された。
  • 田中 佐知子, 渋谷 俊臣, 大滝 博和, 塩田 清二, 沼澤 聡, 吉田 武美
    セッションID: P-209
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/06/23
    会議録・要旨集 フリー
    活性化されたミクログリアはinterleukin-1β(IL-1β), tumor necrosis factor-α (TNFα) といった炎症性サイトカインや nitric oxide (NO) などの放出と関係して、神経細胞の生存や機能に影響を与えることが示唆されている。しかし、in vivo におけるミクログリアの活性化が神経細胞に及ぼす影響についての知見は乏しい。本研究では大腸菌の内毒素であるLipopolysaccharide (LPS)を用いてミクログリアを特異的に活性化し、ミクログリア活性化が神経細胞の機能に及ぼす影響を明らかにすることを目的とした。Wistar系雄性ラット(体重280 g)の海馬CA1領域にLPS投与用のガイドカニューレを留置する手術を行った。術後8日より LPS 投与を行った。LPS単回(LPS 20 μg/2 μL) 投与によりIL-1βおよびTNFαの発現増加が認められた。また二重免疫染色の結果からIL-1βは活性化されたミクログリアから産生されていることがわかった。LPSを5日間連続投与後もミクログリアの持続的な活性化が生じていた。また、受動的回避実験の結果から、LPS投与により学習記憶能が低下している事が明らかとなった。しかしながら、HE染色による核染色では核の形態変化は認められず、またTUNEL染色でもアポトーシス様の神経細胞死は認められなかった。また本条件下では神経栄養因子のBDNFおよびその受容体TrkBのmRNAは減少し、また記憶と密接に関連しているグルタミン酸受容体のNMDA受容体が[3H]-MK801結合実験の結果から減少していることがわかった。LPS連続投与によるミクログリア活性化により記憶障害を呈する神経機能変性ラットを作成する事ができた。LPS投与による明らかな神経細胞死は認められないが、神経栄養因子や伝達物質受容体等の変化により機能障害が生じているものと考えられた。
  • 笛田 由紀子, 上野 晋, 吉田 安宏, 石田尾 徹, 保利 一
    セッションID: P-210
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/06/23
    会議録・要旨集 フリー
    代替フロン溶剤として電子部品の洗浄等に使用されている1-ブロモプロパン(1-BP)について、作業現場での曝露による神経毒性がアメリカ、中国、日本において最近報告されてきている。しかしながら1-BPの作業環境における許容濃度は決定されておらず、その生体影響、特に神経毒性評価が急務とされている。本研究では1-BPの中枢神経系における毒性発現とその機序を解明するために、培養細胞系や脳スライス標本を用いた1-BPの細胞機能に対する直接作用、ならびに曝露モデル動物の脳を用いた1-BP曝露による中枢神経機能の変化について検討した。まずアフリカツメガエル卵母細胞にクローン化遺伝子より発現させたGABAA受容体あるいはニコチン性アセチルコリン(nACh)受容体に対して、1-BPはリガンド誘発電流を直接増強(GABAA受容体)あるいは抑制(nACh受容体)し、海馬スライス標本からの細胞外電位記録からはGABA性フィードバック抑制の増強作用が認められた。また培養グリア細胞において1-BPは細胞内リン酸化酵素であるプロテインキナーゼA(PKA)の活性化を抑制することにより、神経保護作用を持つ脳由来神経栄養因子(BDNF)の発現量を減少させた。一方、亜慢性曝露(濃度200-700ppm、6時間/日、5日/週、12週間)のラット海馬ではGABA性フィードバック抑制の減弱、すなわち脱抑制による過興奮が認められ、この時GABAA受容体・nACh受容体サブユニットの発現量、ならびにBDNF発現量も変動していた。これらの結果から、1-BPは中枢神経系において細胞膜受容体ばかりでなく細胞内シグナル伝達系にも作用して様々な中枢神経毒性を発現し、また曝露様式の違いにより異なる毒性を発現する可能性が示唆された。
  • 首藤 康文, 配島 淳子, 小嶋 五百合, 佐々木 淳矢, 藤江 秀彰, 松本 力, 林 豊, 上田 英夫, 小坂 忠司, 原田 孝則
    セッションID: P-211
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/06/23
    会議録・要旨集 フリー
    農薬の複合毒性については評価上の困難性もあり未解決な点が多く、これを解明することは食の安全を担保する上にも極めて重要である。本研究では神経毒性が示唆されている農薬に複合曝露された場合の影響を明らかにしリスク評価に必要な基礎的毒性情報を得る事を目的として、神経系への影響を中心に幼若および成熟ラットに対する毒性を比較した。
    【方法】有機リン系(MPP 50 mg/kg)、有機塩素系(DDT 75 mg/kg)およびカーバメート系(MPMC 60および30 mg/kg)の3種類の殺虫剤を組み合わせ、3および8週齢のWistar系雌ラットに複合的に単回経口投与して、死亡率、神経症状の観察、自発運動量の測定およびコリンエステラーゼ活性(血漿、血球、脳)の測定を実施し複合毒性を評価した。
    【結果】幼若ラットにおける単剤投与では、MPPあるいはDDTの投与による神経症状は成熟動物よりやや強く発現し、MPMCの投与では成熟ラットと同じ用量で死亡が生じた。MPPとDDTの複合投与では、成熟および幼若ラット共に神経症状をやや増強する程度であり、協力作用はほとんど認められなかった。MPPとMPMCの複合投与では成熟ラットにおいて相加的効果が認められ、幼若ラットではさらに毒性が増強されて成熟ラットの半量のMPMCでも死亡が生じた。成熟ラットのChE活性はMPP、MPMCの単独投与および複合投与とも同程度に低下し回復状態にも差はなかったが、幼若ラットにおけるMPPとMPMCの複合投与では回復が早まった。
    以上の結果から、成熟ラットと幼若ラットには代謝能、感受性、蓄積性の違いがあり、複合曝露においては単剤曝露以上に毒性が異なって発現する可能性が示唆された。従って、化学物質のリスク評価では成熟動物と幼若動物の毒性成績を区別して評価する必要がある。(平成17年度 厚生労働省科学研究補助金事業)
  • 配島 淳子, 首藤 康文, 大塚 亮一, 山口 悟, 藤江 秀彰, 松本 力, 林 豊, 武田 眞記夫, 原田 孝則
    セッションID: P-212
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/06/23
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    農薬の複合毒性の評価は困難であり、特に神経系への影響についてはあまり明らかにされていない。本研究は中枢神経系における農薬の複合暴露の影響を明らかにすることを目的とした。供試農薬には神経毒性を示す有機塩素系(DDT)および有機リン系農薬(MPP)を用いた。5週齢のWistar系雄ラット(n=6/群)にDDTを60 mg/kg/dayで14日間反復経口投与した。4週間の休薬期間後、0、50、200 mg/kg用量のMPPを単回経口投与した。神経毒性評価として神経症状、自発運動量を測定した。分子生物学的検索として、MPP投与後72時間に採取した新鮮凍結大脳組織よりLaser・Captured Microdissectionで視床下部を採材・抽出したRNAをリニア増幅したaRNAサンプルとRat ADME Array(旭テクノグラス)を用い、脳における遺伝子発現を網羅的に解析した。その結果、DDT単独投与群では体重抑制または神経症状は認められなかった。一方、MPPのみを200 mg/kg投与した群では投与後1時間に神経症状を示したが、その後回復した。DDT+MPP投与群ではMPP用量依存的に体重抑制および重篤な神経症状を示し、高用量のMPPを投与した群では症状は継続し、死亡も確認された(4例/6例)。自発運動量には単独と複合暴露に差は認められなかった。分子生物学的検索では、DDT単独投与群では全ての遺伝子発現は低かった。DDT+MPP 200 mg/kg投与群で脳の障害を示す、糖質コルチコイド調節キナーゼとS-100関連蛋白遺伝子が高度に発現し、グルタミン酸レセプターや神経軸索輸送関連因子の発現は著しく減少した。このことから、DDTの脳内における残留性あるいは遺伝子発現による可塑性がMPPの神経毒性発現を増強させることが示唆された。(平成17年度 厚生労働省科学補助金研究事業)
  • 何 希君, 中山 裕之, 山内 啓史, 上塚 浩司, 土井 邦雄
    セッションID: P-213
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/06/23
    会議録・要旨集 フリー
    1-Methyl-4-Phenyl-1,2,3,6-tetrahydropyridine (MPTP) treatment has been well demonstrated to cause selective degeneration of dopaminergic neurons in the substantia nigra (SN) in the adult mouse brain in the manner similar to that seen in Parkinson’ disease. The subventricular zone (SVZ) harbors neural stem cells that retain the capacity to generate multiple cell types even in the adult. The SVZ is composed of migrating neuroblasts (A cells), astrocytes (neural stem cells, B cells), immature precursors (transit amplifying cells, C cells) and ependymal cells. Here, we demonstrated that MPTP induced apoptosis in SVZ and rostral migratory stream (RMS) in the adult C57BL/6 mouse brain.
    The number of TUNEL-positive cells peaked at 24 h after MPTP injection, and decreased thereafter, paralleling the change in the number of cleaved caspase-3-positive cells in the SVZ and RMS. Results of immunohistochemistry and ultrastructural analyses indicated that the majority of apoptotic cells were A cells, while a few were B cells. The decrease in A cell numbers was most marked on day 2 and lasted to day 8 after the administration. A rapid and transient phagocytosis of apoptotic cells by microglial cells paralleled the MPTP-induced apoptosis. The present results may raise a question: which are more vulnerable to MPTP toxicity, dopaminergic neurons in SN or migrating neuroblasts in SVZ and RMS? If the latter, decreased regeneration of dopaminergic neurons from SVZ neuroblasts may be crucial to the induction of MPTP Parkinsonism, in addition to the direct injury to the SN neurons.
  • 白井 紀充, 高橋 守, 田代 俊文, 古田 千香子, 二井 愛介, 堀井 郁夫
    セッションID: P-214
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/06/23
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    【目的】NMDA受容体は、中枢神経の主要興奮性伝達物質であるグルタミン酸に対する受容体のサブタイプの一つである。NMDA受容体拮抗薬の毒性は、MK-801によるラット大脳の神経細胞障害が知られているが、イヌでの報告は乏しい。我々は、あるNMDA受容体拮抗薬を投与したイヌで認められた大脳病変をMK-801によるラットでの変化と比較検討した。【材料と方法】ビーグル犬4例にNMDA受容体拮抗薬の一定用量を単回、静脈内投与し、投与48時間後における脳の病理組織学的検査を実施した。脳は灌流固定後、全体を一定間隔で切り出し、各組織片についてHE染色標本を作製して観察した。また、神経細胞の壊死を同定する目的でFluoro-Jade蛍光染色による観察も行った。ラット大脳病変については、MK-801の4.4 mg/kgを単回、皮下投与したSD系雌8例における投与4時間後(4例)および24時間後(4例)の脳を病理組織学的に観察した。【結果と考察】イヌ1例が、投与直後より間欠性のjaw snapping(顎をがくがくさせる)・流涎を呈し、投与2日後には自発運動の減少を示した。この動物では、海馬および大脳底部の嗅脳皮質における神経細胞壊死が認められた。他の3例は、投与直後より投与1日後にかけて間欠性のjaw snappingを呈したが、脳に形態学的変化はなかった。イヌ脳病変は1例にみられたのみであったが、NMDA受容体拮抗薬によりイヌの大脳神経細胞に障害が起こる可能性が示唆された。MK-801を投与したラットでは、大脳の膨大部後方皮質における神経細胞空胞化および神経細胞壊死が、それぞれ投与4時間後、投与24時間後に全例で認められ、既に報告されている結果と符合した。MK-801のラット大脳病変は膨大部後方皮質に限られ、イヌでの報告はない。しかし、NMDA受容体は大脳皮質や海馬に広く分布していることから、NMDA受容体拮抗薬による病変の発現部位は拮抗薬の種類あるいは動物種に依存して、多様であると推察された。
  • 石川 崇, 吾郷 淳, 松本 尚隆, 亀井 千晃
    セッションID: P-215
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/06/23
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    【目的】てんかん患者では種々の精神症状を発現する頻度が高いことが報告されており,特にうつ症状を発現する症例においては,症状改善のために抗うつ薬の投与による治療が必要とされている.しかし,うつ病の治療薬である三環系および四環系抗うつ薬はけいれん誘発作用を示すことが報告されている.そこで本研究では,正常ラットおよびキンドリング形成を行なうことによって,てんかん原性を獲得したラットに対する各種抗うつ薬のけいれん誘発作用の有無を比較検討した.
    【方法】ラットをペントバルビタールで麻酔した後,前頭葉皮質,海馬および扁桃核に慢性電極を植え込んだ.術後2週間経過した後,1日1回扁桃核に電気刺激を行なうことにより,扁桃核キンドリングを形成させた.抗うつ薬により誘発されるけいれん症状および脳波上のけいれん波の強度をスコア化し,薬物の腹腔内投与後30分間ラットの行動および脳波を観察し,けいれん誘発作用の強度を評価した.
    【結果および考察】各種三環系および四環系抗うつ薬の投与により,正常ラットおよびキンドリングラットにおいて用量依存的なけいれん誘発作用が観察された.また,正常ラットに比べてキンドリングラットでは,より強力なけいれん症状が発現し,そのけいれん症状の強度に有意差が認められた.したがって,てんかん原性の獲得により,三環系および四環系抗うつ薬によるけいれん誘発の危険性がより高まることが明らかになった.また,今回使用した薬物の中でセロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)であるパロキセチンは,けいれん誘発作用が弱く,比較的安全に使用できる薬物である可能性が示唆された.
  • 宮川 宗之, 小林 健一
    セッションID: P-216
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/06/23
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    マウスのスケジュール制御オペラント行動(SCOB)を指標に、認知機能(学習・記憶)への影響を評価する方法を紹介する。タイムアウト付交替型混合FR DRO(alternating mixed FR10 DRO10s with TO)スケジュール下でのSCOBを用いる。この行動試験は一種の遅延交替反応であり、タイムアウト時間をセッション内で変化させてFRとDROに対応した反応パターン切替えの正確さを測定することで、短期記憶の保持曲線に相当するデータを得ることが可能である。このSCOBの学習過程および適切な反応パターン習得後のパフォーマンスを指標に、学習・短期記憶の保持・行動の適切な制御といった認知機能に対する影響の測定が可能と考えている。これまで、ラットを被験動物として、ビスフェノールAやPCB等の次世代影響の評価に使用してきた。今回は、マウスを使用するための諸条件を検討し、基本的にラットと同様のオペラント反応を形成させることができた。反応の習得後に、短期記憶の保持曲線をベースとしてスコポラミンやメタンフェタミン等の負荷試験を実施した。また発達神経毒性評価における陽性対照物質の候補として抗甲状腺薬メチマゾールを投与し、その影響を検討した。これらの結果を、過去のラットのデータと比較しつつ報告する。
  • 金 海栄, 北島 俊一, 光岡 ちほみ, 鈴木 詠子, 廣内 康彦, 榎本 眞, 久木野 憲司
    セッションID: P-217
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/06/23
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    カニクイザルの脳中満腹中枢の破壊による肥満モデルを作製し、代謝症候群の発症メカニズムを検討した。4歳の未経産メスカニクイザル2例と1例の自然発症肥満ザルを本実験に用いた。 前者の1例の脳VMHに電極を挿入して破壊し、モデル動物を作製した(Hamiltonらの方法)。 その後48週まで、普通飼育飼料で飼育し、体重、BMIおよび腹部CT検査による内臓脂肪蓄積の検討に加え、経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)、レプチン、アディポネクチン、TNF-α濃度の測定を行なった。 VMH破壊例では48週後、自然発症肥満とほぼ同様のBMI値に達し、内臓脂肪の蓄積、空腹時血中グルコースおよびインスリン濃度の上昇傾向を認めた。 また、両例共OGTT測定で高血糖状態を示し、血中レプチン濃度は顕著な増加、血中アディポネクチン濃度は減少傾向を共に示したことにより、霊長類の病態モデル動物としての今後の有用性が期待された。
  • 廣内 康彦, 鈴木 詠子, 光岡 ちほみ, 金 海栄, 北島 俊一, 榎本 眞, 久木野 憲司
    セッションID: P-218
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/06/23
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    虚血による梗塞とは部位的に異なった遠隔非虚血部の黒質および視床に遅発性の障害が起こることをサルで確認できたので報告する。 5歳齢カニクイザル雄の5頭を用いて、麻酔下で内頸動脈分岐近位部のMCA本幹を縫合糸により永久閉塞し、6時間、1、2、4および8週後にMRI検索を実施、安楽死後に10%緩衝ホルマリン液で灌流固定した脳を摘出した。さらに定法に従い脳パラフィン標本を作製し、病理組織学的検索を行った。 その結果、MRI-T2強調画像上の高信号抽出像にそれぞれ一致し、梗塞側黒質と視床域にMCA閉塞1週後には浮腫を、また4週から8週後には、神経細胞の減少、軸索変性による硝子体の出現、反応性アストロサイトの増生および肥大の増強を観察した。梗巣を反映するMRI像は、その部位や浮腫および上記病変の程度と一致することから、遠隔非虚血部の障害の早期発見と病像の経時的変化を臨床的に追及できる可能性が示唆された。
  • Moran Alexandra
    セッションID: P-219
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/06/23
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    Vascular hamartomas are defined as disorganized and excessive proliferations of vascular tissue which, due to their limited growth, are considered developmental malformations and not true neoplasms.Vascular hamartoma of the choroid plexus, not associated with clinical signs, was diagnosed in a one year old female beagle. The mass was present within the third ventricle and was approximately 1x1 mm in diameter. Microscopically, it was composed of an expansile unencapsulated proliferation of variably sized vascular channels surrounding mildly compressed centrally scattered adipocytes. The vascular lumens were generally obscured and lined by flattened endothelial cells. Endothelial cells were positive for Factor 8 and actin. Although there was no associated compression, a mild gliosis was present in the adjacent neuropil.
  • 宮川 和也, 成田 年, 赤間 久彦, 鈴木 勉
    セッションID: P-220
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/06/23
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    近年、血液脳関門等の防御機構が不十分である胎児期および授乳期において環境化学物質を曝露されることにより、中枢神経系の発達異常および成長後の行動異常が惹起されるといった概念が一般化されつつある。また、甲状腺ホルモンは中枢神経系の発達に重要な役割を担っていることから、甲状腺ホルモンかく乱作用を有する環境化学物質の中枢神経発達障害が懸念されている。そこで本研究では、臭素系難燃剤として広く使用されているものの、甲状腺ホルモンかく乱作用が懸念されている decabromodiphenyl ether (DBDE) の胎児期および授乳期慢性曝露の中枢神経発達に及ぼす影響を行動薬理学的に検討した。まず、methamphetamine (METH) 誘発報酬効果に及ぼす DBDE 慢性曝露の影響を検討した結果、DBDE の曝露量に依存した METH 誘発報酬効果の有意な抑制が認められた。一般に、脳内報酬系には中脳辺縁 dopamine 神経系が重要な役割を担っていることが知られている。そこで、中脳辺縁 dopamine 神経の投射先である側坐核における dopamine の遊離量を in vivo microdialysis 法に従い検討した。その結果、DBDE を慢性曝露された動物において、側坐核における細胞外 dopamine 濃度の著明な減少が認められた。なお、これらの現象は、陽性対照として用いた甲状腺ホルモン阻害薬である propylthiouracil の胎児期および授乳期慢性曝露においても認められた。以上の結果から、DBDE の胎児期および授乳期慢性曝露により、dopamine 神経の発達障害が惹起されることが明らかとなり、これは、DBDE が有する甲状腺ホルモンかく乱作用に起因する可能性が示唆された。
内分泌系
  • 小林 健一, 宮川 宗之, 王 瑞生, 須田 恵, 本間 健資
    セッションID: P-221
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/06/23
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    【目的】我々は第30回の本年会において比較的高用量の非コプラナー型PCBである2, 2’ , 4, 4’, 5, 5’ - hexachlorobiphenyl (PCB 153) の妊娠期曝露における産仔の血中甲状腺ホルモン濃度の低下について報告した。本年会ではより低濃度のPCB 153曝露における次世代の発達および甲状腺への影響について検討した。【方法】雌ラットの妊娠期10日から16日にかけて、PCB 153 (0, 1, 4 mg/kg/日)を強制胃内投与した。産仔は体重、体長、尾長、臓器重量、血中サイロキシン(T4)濃度および甲状腺刺激ホルモン (TSH) 濃度を測定した。さらにTSH負荷試験を行った。【結果】母親の妊娠期間、出産数、妊娠期および授乳期の体重は、曝露群と対照群との間に差は認められなかった。産仔の体重、体長、尾長、および肝臓、腎臓、精巣、前立腺、精のう、卵巣重量において、曝露群では対照群と比べて差が認められなかった。T4濃度およびTSH濃度において、曝露群では対照群と比べて差が認められなかった。TSH投与によるT 4濃度は、曝露群では対照群と同様な上昇応答が認められた。【考察】今回の実験で用いた用量におけるPCB 153の出生前曝露では、次世代産仔に対し明確な発達毒性や甲状腺への影響は検出されなかった。現在、更なる解析を行なっている。【謝辞】村瀬正氏の協力に謝意を表する。
  • 加藤 善久, 玉置 尺尋, 久保田 万紀子, 生城 真一, 原口 浩一, 山田 静雄
    セッションID: P-222
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/06/23
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    【目的】 4-OH-2,2',3,4',5,5',6-heptachlorobiphenyl (4-OH-CB187)の血中甲状腺ホルモン濃度におよぼす影響を3,3',4,4',5-pentachlorobiphenyl (CB126)と比較した。【方法】 TCDD高感受性C57BL/6系マウスおよびTCDD低感受性DBA/2系マウスに4-OH-CB187 (1 mg/kg)、CB126 (2.5 mg/kg)を投与し、それぞれ4、7日後に、血清中総サイロキシン(T4)、遊離T4および甲状腺刺激ホルモン(TSH)濃度、肝ミクロソームのグルクロン酸抱合酵素(UDP-GT)の発現量および活性を測定した。また、その時に[125I]T4を静脈内投与し、胆汁中[125I]T4のグルクロン酸抱合体の排泄量を測定した。【結果・考察】 血清中総T4および遊離T4濃度は、両マウスに4-OH-CB187を、またC57BL/6系マウスにCB126を投与したとき、有意に低下した。一方、血清中TSH濃度は、DBA/2系マウスにCB126を投与した場合にわずかに低下したが、他の場合には変化しなかった。肝臓のUGT1aの発現量、T4-UDP-GT活性および胆汁中[125I]T4のグルクロン酸抱合体の排泄量は、C57BL/6系マウスにCB126を投与した場合には有意に増加したが、両マウスに4-OH-CB187を投与した場合には変化しなかった。以上、4-OH-CB187は、低用量投与により血清中T4濃度を低下させる作用のあること、その作用はCB126よりも強力であることが明らかになった。また、CB126による血清中T4濃度の低下には、AhRを介したT4-UDP-GT活性の増加が関与しているが、4-OH-CB187による血清中T4濃度の低下には、T4-UDP-GT活性の関与はほとんどないことが示唆された。
  • 長尾 英則, 荒木 誠一, 磯部 充威, 湊 宏一, 久田 茂
    セッションID: P-223
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/06/23
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    近年,創薬段階における薬効及び毒性の評価においてバイオマーカーの重要性が高まり,その検索法としてメタボノミクスが注目されている。しかし現時点では,網羅的解析で得られた莫大な情報から特定のバイオマーカーを検出することは困難である。そこで我々は,薬効や毒性の作用機序に関連のある内因性代謝物に対象を絞った解析を検討している。
    今回,高中性脂肪食を2週間摂餌させることで高脂血症を誘発させたラットにおいて,トリグリセリド(TG)の代謝産物であるステロイド,特にコルチコイド及びその代謝物の血中及び尿中での変動を検討した。また,PPARγ作動薬及びHMG-CoA還元酵素阻害剤を高脂血症ラットに2週間反復投与したときの変動についても検討した。その結果,高脂血症を誘発させたラットでは,血中TG濃度は有意に上昇し,また血中コルチコステロン濃度が増加したことから,高脂血症時にはコルチコイド産生が亢進している可能性が示唆された。しかし,PPARγ作動薬を投与することで血中TG濃度は投与前と比べて顕著に減少し,コレステロール濃度も軽度に減少した。また,血中コルチコステロン濃度は正常レベル以下,尿中へのコルチコイド排泄量は正常レベルであったことから,PPARγ作動薬は血中TGを低下させることにより高脂血症で誘発されたコルチコイド産生増加を軽減すると推測された。一方,HMG-CoA還元酵素阻害剤を投与しても血中コレステロール及びTG濃度は投与前と比較して変化しなかった。しかし血中コルチコステロン濃度及び尿中コルチコイド排泄量は正常レベルであった。これらのことから,HMG-CoA還元酵素阻害剤は血中脂質濃度に依存しない機序によりコルチコイド産生亢進を抑制する可能性が推測された。
  • 吉田    緑, 前川   昭彦, 大町    康, 島田   義也
    セッションID: P-224
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/06/23
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    胎生期・新生児期のエストロゲン類曝露による雌への影響には、影響が生後短期間に検出可能なandrogenizationの他に、性成熟期までは異常が検出できず性成熟後に卵巣機能の早期低下による無排卵や持続発情が発現する遅発型の影響(delayed anovulated syndrome, DAS)が存在する。さらにラットではDASによる持続発情開始の早期化が子宮癌の発生を促進することからDASはandrogenizationと同様、重要な新生児期影響の一つであると考えられる。DASは視床下部・下垂体・性腺系への異常が引き金になっていると考えられるが、発現機序には不明な点が多い。我々はラット新生児期に合成エストロゲンであるdiethylstilbestrol(DES)を曝露し、投与量とDASの発現時期との関連性について検討した。生後24時間以内のDonryu雌ラットに0.15、1.5、15、150および1500ug/kg体重のDESを単回皮下投与し、経時的な形態学的変化と性周期観察を行い溶媒対照群と比較した。その結果、1500ug群全例と150ug群の一部では膣開口前から明らかなandrogenizationが確認された。150ug群の大部分と1.5と15ug群の全例に形態学的異常は認められなかったものの、性周期観察において持続発情発現の早期化を示す個体がそれぞれ5、15および17週齢以降有意に増加した。0.15ug群では形態学的異常は認められず性周期も対照群と同様に推移した。卵巣摘出成熟ラットにこれらのDESの各用量を単回投与したところ、1.5ug群以上ではエストロゲン様作用が認められた。これらの結果からDASの発現時期と新生児期に曝露したDESの用量には相関性が認められ、性周期観察はDASの検出に簡便で且つ有用な指標であることが示唆された。
  • 福原 理広, 片山 誠一, 芦沢 幸二, 廣安 誠, 永井 賢司, 山下 保志
    セッションID: P-226
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/06/23
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    【目的】Wntシグナル伝達系は,発生および分化において重要な働きを有することが知られている.我々は,エストロゲン活性物質が子宮のWntおよびその下流に位置するbeta-catenin/TCF標的遺伝子の発現に及ぼす影響を捉えるため,代表的なエストロゲンレセプター(ER)アゴニストであるエチニルエストラジオール(EE)を幼若雌性ラットに単回経口投与し,それらの遺伝子の経時的変動パターンを評価した.【方法】19日齢の雌性ラットに溶媒(1%エタノール含有コーン油)またはEE 3μg/kgを単回経口投与した.投与後1,3,6,12,24および48時間に炭酸ガス麻酔下で安楽死させた後,子宮を摘出し,重量測定後にRNAlater中で保存した(n = 5).子宮はTwist Crusher HMX-2000(TOYOBO)でホモジナイズし,MagExtractor System MFX-2000(TOYOBO)でtotal RNAを抽出した後,DNase I処理を行った.子宮の遺伝子発現量はABI PRISM 7700 Sequence Detection System(Applied Biosystems)を用いたreal-time RT-PCR法によって評価した.【結果】子宮重量は,EE投与後6から48時間で有意に増加した.雌性生殖器で重要な役割を担っているWnt4,Wnt5aおよびWnt7aのmRNA発現量の経時的変動パターンはEE投与後12時間までは異なっていたが,24および48時間ではいずれも減少した.Beta-catenin/TCF標的遺伝子において,anti-Mullerian hormone type 2 receptorおよびbone morphogenetic protein 4のmRNA発現量はEE投与後に減少し,その変化はWnt7a mRNA発現量の経時的変動パターンに類似していた.また,EE投与後初期にみられたcyclin D1およびfollistatin mRNA発現量の増加は,Wnt4の影響を受けていることが示唆された.これらの結果は,ERアゴニストが子宮のWnt遺伝子(Wnt4, Wnt5a, Wnt7a) およびbeta-catenin/TCF標的遺伝子の発現を制御することを示し,これらの分子はエストロゲン活性物質の標的として重要であると考えられる.
  • 片山 誠一, 芦沢 幸二, 福原 理広, 廣安 誠, 永井 賢司, 山下 保志
    セッションID: P-227
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/06/23
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    【目的】ヘッジホッグシグナル伝達系は,ヒトを含む多くの動物種において,様々な器官の発生・分化に密接に関係している.我々は,エストロゲン活性物質が子宮のヘッジホッグおよびヘッジホッグ標的遺伝子の発現に及ぼす影響を捉えるため,エストロゲンレセプター(ER)選択的アゴニストおよびERアンタゴニストを幼若雌性ラットに投与し,各遺伝子の発現がER alphaおよびER betaのどちらに依存しているかを評価した.【方法】19日齢の雌性ラットに溶媒,ERアゴニストであるエチニルエストラジオール(EE),ER alpha選択的アゴニストであるpropyl pyrazole triole(PPT),ER beta選択的アゴニストであるdiarylpropionitrile(DPN),またはERアンタゴニストであるICI 182,780を単回投与した.実験1では,溶媒,EE(0.3,1,3 μg/kg),またはEE(3 μg/kg)+ ICI 182,780(1 mg/kg)を経口投与した.実験2では,溶媒,PPT(10 mg/kg),またはDPN(10 mg/kg)を皮下投与した.投与後約24時間に子宮を摘出し,RNAlater中で保存した.子宮のヘッジホッグ遺伝子(Ihh,Dhh)およびヘッジホッグ標的遺伝子(Ptc1,Gli1,COUP-TFII)の発現量は,real-time RT-PCR法によって評価した.【結果】Ihh,DhhおよびPtc1のmRNA発現量は,EE投与によって用量依存的に減少した.これらのmRNAの発現変化は,ICI 182,780の投与により抑制されたことからERを介した反応と考えられた.PPTは,Ihh,Dhh,Ptc1,Gli1およびCOUP-TFIIのmRNA発現量を減少させた.DPNは,IhhおよびDhhのmRNA発現量を軽度に減少させたが,その程度はPPTが誘導した反応よりもかなり弱く,またPtc1,Gli1およびCOUP-TFIIのmRNA発現には影響を与えなかった.これらの結果は,幼若ラットの子宮において,ヘッジホッグ遺伝子(Ihh,Dhh)およびヘッジホッグ標的遺伝子(Ptc1,Gli1,COUP-TFII) の発現がER alpha依存性の経路に制御されていることを示唆している.
トキシコキネティス/薬物代謝
  • 榎園 淳一, 楠原 洋之, Schinkel Alfred H, 杉山 雄一
    セッションID: P-228
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/06/23
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    生体異物の中枢移行は、血液脳関門(BBB)によって制限されている。BBBにはP-glycoprotein (P-gp)などの排出トランスポーターが高発現しており、BBBの関門としての機能の一端を担っている。Breast cancer resistance protein (BCRP/ABCG2)は近年BBBにおける発現が認められた排出トランスポーターであり、BBBの管腔側に局在していることから生体異物の中枢移行を制限する関門機構の1つと考えられている。BCRPには蛋白発現量に影響を与えるSNP(Q141K)が日本人において高頻度(約30%)で認められ、BCRP基質の中枢における薬効/毒性は大きな個人間変動を示すことが予想される。これまで生体異物の中枢移行におけるBCRPの関与については報告例が乏しく、imatinibの一例のみである。そこで、本研究では、さまざまな医薬品、食品性発癌性物質および植物性エストロゲンについて脳内移行におけるBCRPの影響を検討した。化合物をマウスへ定速持続注入し、定常状態における脳と血漿中の濃度比(Kp)を野性型マウスとBCRPノックアウトマウスで比較した。医薬品についてはdapsone、dantrolene、prazosinおよびtriamterene、食品性発癌性物質についてはMeIQx、PhIPおよびその発癌性原因代謝物であるN-hydroxyl PhIP、植物性エストロゲンについてはcoumestrol、daidzeinおよびgenisteinのKp値がBCRPノックアウトマウスにおいて有意に上昇した。これらの化合物の中でBCRPノックアウトマウスにおけるKp値の上昇率が最も大きかったのはgenisteinであり、野性型マウスの約9倍の上昇が認められた。一方、topotecanやomeprazoleのようにBCRPとP-gpの両方の基質である化合物については、BCRPノックアウトマウスにおけるKp値の上昇が認められなかった。以上の結果より、BCRPは医薬品、食品性発癌性物質および植物性エストロゲンの脳内移行性を制限する上で重要な働きをしていることが明らかとなった。
  • 蟹江 尚平, 田中 英樹, 近藤 泰史, 吉末 訓弘, 近本 順子, 林 泰司, 永山 績夫
    セッションID: P-229
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/06/23
    会議録・要旨集 フリー
    [目的] ラットにおける慢性肝障害モデルは一般的に四塩化炭素やN-Nitrosodimethylamine (NDMA)を用いて作成されているが,腎機能の低下も報告されており,肝代謝及び腎排泄が関与する薬剤の薬物動態学的な評価系として十分ではない.そこで,腎機能に影響のない慢性肝障害モデルを確立するために,NDMAの至適投与レジメンについて検討し,S-1 (FT+CDHP+Oxo)を投与した際の慢性肝障害モデルにおける薬物動態変化を検討した.
    [方法] (1) 7及び9週齢の雄性Crl:CD(SD)ラットにNDMA 10 µg/kgを週に3回 (3日間連続,1日間隔)腹腔内投与し,投与28日目に剖検,肝及び腎機能に関する血液化学的検査と病理組織学的検査を行った.(2) S-1を単回経口投与し,動態変化を検討した.
    [結果及び考察] (1) NDMA投与群においてAST, ALT, T-Bilの増加,Albの減少,小葉中心性の肝細胞壊死,肝の線維化及び炎症細胞浸潤が確認されたが,腎機能への影響を示唆する変化はみられなかった.NDMAを1日間隔の投与をすることで,3日間連続投与に比べて体重の減少を抑制した.(2) S-1に配合されているFTは主に肝での代謝により消失し,CDHPは主に尿中排泄により消失するため,これらの消失半減期(t1/2)はそれぞれ肝機能及び腎機能に依存すると考えられる.今回作成した慢性肝障害モデルラットにおいて,FTのt1/2はControl群と比較して有意に延長したが,CDHPのt1/2には変化がみられなかった.このことから,本モデルラットは正常な腎機能を保持しつつも肝障害を生じていることが示唆された.以上より,本モデルラットは薬物動態学的評価系として適していると考えられる.
  • 木戸 亮子, 大嶽 信弘, 久保田 訓世, 土屋 直子, 森田 敏美, 加瀬 義夫, 竹田 秀一
    セッションID: P-230
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/06/23
    会議録・要旨集 フリー
    【緒言】グリチルリチン(GL)は慢性肝炎及びアレルギー治療薬として汎用されているが、副作用として偽性アルドステロン症を発症させることが周知である。GLの活性本体はグリチルレチン酸(GA)であるが、同時に偽アルドステロン症の原因物質とされている。一方、偽アルドステロン症患者の血漿中にはグリチルレチン酸3-O-モノグルクロナイド(3MGA)が検出されると言う報告があるものの、詳細な検討はされていない。そこで我々は3MGAに着目し、GL反復投与や利尿剤との併用による低カリウム血症におけるGL代謝物の血漿中濃度について検討した。【方法】Hartley系雄性モルモット(8週齢)に、GL(100 mg/kg)あるいはフロセミド(Fu、20 mg/kg)を単独、または併用投与した。投与後24時間までの血漿中カリウム濃度(K値)、およびGL、GAおよび3MGAの血漿中濃度の経時的変化を、単回または5日間反復投与後に測定した。【結果】(1)GL単独投与とFu併用との比較において、単回投与ではGL単独投与群、Fu併用群いずれも大幅なK値低下は認められなかったが、反復投与後にはFu併用群でのK値低下が顕著となった。GL及び代謝物の血漿中濃度推移には、Fu併用の影響は観察されなかった。(2)GL単回投与と反復投与での比較において、GLおよびGAには差が認められなかったが、反復投与後の3MGAのCmax及びAUC0-24は単回投与の場合の約1.4倍であった。【考察】低カリウム血症は、GLとFuを併用して連用した場合に誘発されやすくなることが明らかになった。反復投与時に血漿中濃度が上昇するGL代謝物は3MGAであり、3MGAレベルがある一定以上に達しているときに別のカリウム排泄促進刺激が加わると、低カリウム血症が誘発される可能性が示唆された。現在、3MGAの偽アルドステロン症誘発作用について検討中である。
  • 今岡 知己, 楠原 洋之, ADACHI MASASHI, D SCHUETZ JOHN, 杉山 雄一
    セッションID: P-231
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/06/23
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    AdefovirはともにB型肝炎ウイルス感染の治療薬であり投与量依存的な腎毒性を生じることが知られている。その主排泄経路は尿排泄であり、尿細管分泌を受ける。Adefovirの尿細管分泌において、有機アニオントランスポーター(OAT1)が血液側からの取り込み過程に関与していることが示唆されているが、管腔側への排泄メカニズムは明らかとはなっていない。近年、multidrug resistance-associated protein 4 (MRP4/ABCC4)がadefovirを基質とすることが報告されている。MRP4は腎臓刷子縁膜上に発現していることから、本研究ではadefovirの尿細管管腔中への排泄におけるMRP4の関与についてMrp4ノックアウトマウス(Mrp4KO)を用いて検討した。ヒトMRP4発現膜ベシクルを用いた輸送実験の結果、MRP4を介したATP依存的なadefovirの取り込みが観察された。ATP依存的なAdefovirの輸送は1mMまで飽和せず、そのKm値は大きい(>1mM)ことが示唆された。野生型マウス、Mrp4KOに静脈内定速投与を行い、定常状態において、Adefovirの血漿中濃度、尿中排泄速度、腎臓中濃度を測定した。全身クリアランスの大部分は腎クリアランスにより説明され、糸球体ろ過速度よりも大きいことから、尿細管分泌の関与が示唆された。腎クリアランスはMrp4KOにおいて野生型マウスに比べ有意に低下した(それぞれ16.7 ± 0.2、23.7±1.6 ml/min/kg)。腎組織_-_血中濃度比は、Mrp4KOでは野生型に比べ高く(それぞれ19.5 ± 1.3、13.1 ± 0.8)、腎臓内濃度基準の腎排泄クリアランスはMRP4KOにおいて32%程度に低下した。本実験より、MRP4がadefovirの管腔中への分泌に関与することが示唆された。組織中濃度はこれら化合物の毒性と相関することから、MRP4による排出輸送能がadefovirによる腎毒性発症の要因の一つとなることが予想される。
  • 小林  大祐, 吉村 昭毅, 井上 佳恵, 和田 啓爾
    セッションID: P-232
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/06/23
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    【目的】我々は4’-O-Methylpyridoxine (MPN)が銀杏中毒の原因物質であり、ヒトにおいて銀杏中毒時に高濃度のMPNが血漿中に存在することを明らかにしている。また、ラット肝を用いたIn vitro実験により、MPNはPyridoxal (PL)へ変換されること、水酸化、グルクロン酸抱合および硫酸抱合を受けることを明らかにしているが、In vivoにおけるMPNの体内動態に関する報告はない。そこで本研究では種差も含めた銀杏中毒のメカニズム解明を目指し、MPNを投与後のMPNの血漿中濃度推移および内因性ビタミンB6(VB6)の血漿中濃度への影響を検討した。【方法】Wistar/ST系雄性ラットにMPN (5 mg/kg)を静脈内投与した後に、経時的に採血し、血漿中に存在するMPNおよび各種VB6誘導体の濃度を測定した。MPN, MPN-5’-phosphateおよび各種VB6 誘導体[PL, Pyridoxine, Pyridoxic acid (PNA), Pyridoxal-5’-phosphate (PLP)]の濃度は、semicarbazideによる誘導体化法を組み合わせた蛍光検出HPLC法により測定した。【結果および考察】MPNは投与後速やかに消失した。また、投与後にPL濃度の増加が観察され、その後さらにPNA濃度の増加も観察された。この結果について、以下の2つの可能性が考えられた。(1)In vitroでの検討と同様にMPNからPLが生成され、PLはさらにPNAに変換された。(2)MPNは、PLからPLPを生成するpyridoxal kinase活性を阻害するため、PLが増加し続いてPNAが生成した。一方で、PLP濃度の減少が観察された。また、MPNの代謝物と考えられるピークが確認されたため、現在代謝物の同定およびそれらの血漿中濃度推移を解析中である。
  • 芦野 隆, 有馬 由子, 塩田 清二, 岩倉 洋一郎, 沼澤 聡, 吉田 武美
    セッションID: P-233
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/06/23
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    【目的】薬物代謝酵素シトクロムP450(P450)や金属結合タンパク質メタロチオネイン(MT)の変動は薬毒物の毒性発現に関与し、サイトカインによる発現調節を受けていることが明らかとなっている。本研究では、代表的な慢性炎症性疾患である関節リウマチのモデルマウスを用い、関節炎発症における血清中炎症性サイトカイン濃度とP450およびMTの変動、さらにインターロイキン-6(IL-6)中和抗体による効果について検討した。【実験方法】BALB/c系雌性5ヶ月齢のwild-typeマウスおよび関節炎未発症HTLV-I Tgマウス、関節炎発症HTLV-I Tgマウスを用い、血清中炎症性サイトカイン[IL-1β、IL-6、tumor necrosis factor α (TNFα)]、肝P450(mRNA、タンパク質、酵素活性)発現、肝MT mRNA発現を測定した。また、関節炎発症HTLV-I TgマウスにIL-6中和抗体10 μgを静脈内投与し、同様にP450及びMTの発現変動を検討した。【結果および考察】血清中IL-6は関節炎発症により約130 pg/mLと高い濃度を示し、肝P450含量も関節炎未発症マウスと比較し約70%に低下していた。そこで個々のP450分子種の遺伝子発現を検討したところ、CYP3A11 mRNA発現が関節発症マウスで未発症マウスの55%と有意に低下していた。さらにCYP3Aタンパク質及びCYP3A活性を反映するテストステロン6β位水酸化活性も相関し低下していた。逆にMT mRNA発現は血清IL-6濃度に比例し発現増加が見られた。関節炎発症によるCYP3A低下及びMT誘導は、IL-6中和抗体の投与により回復した。以上の結果より、関節炎発症マウスのCYP3A低下及びMT誘導は、関節炎発症による血中IL-6濃度の上昇により引き起こされることが示唆された。
  • 矢島 加奈子, 中村 稚加, 松野 喜代美, 若林 摩代, 松下 聡紀, 小原 栄, 佐藤 洋子, 鵜藤 雅裕, 福? 好一郎, 永田 良一
    セッションID: P-234
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/06/23
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    【目的】近年,実験動物とヒト間における薬物代謝の種差が多く報告されており,ヒト組織を用いて薬物代謝酵素の誘導を評価することは,臨床における薬物動態を予測・考察する上で,有用である.本演題では,凍結ヒト肝細胞を用いて,薬物のCYP3A4及び1A2の誘導を評価する試験系を確立することを目的として,複数ロットの凍結肝細胞を用いて,mRNA発現レベル及び酵素活性レベルで予備培養時間及び誘導剤の曝露時間による誘導率の経時的変化を比較検討した.
    【方法】肝細胞(T-Cubed社及びXenotech社)は,各社の推奨プロトコールに従って融解及び播種し,96wellコラーゲンプレートを用いて培養した.予備培養及び誘導剤の曝露時間は,それぞれ24,48又は72時間で検討した.誘導剤として,リファンピシン及びオメプラゾール(終濃度:10μM及び50μM)を用いた.mRNAの発現に関しては,各wellの細胞からQIAamp RNA Blood Mini Kitを用いてtotal RNAを抽出し,Real-Time PCR Systemを用いてCYP1A2及び3A4のmRNAの発現量を定量した.酵素活性に関しては,ミダゾラム1位水酸化活性(CYP3A4)又は7-エトキシレゾルフィンO-脱エチル化活性(CYP1A2)について,LC/MS/MSを用いて各代謝物を定量した.
    【結果・考察】肝細胞のロットによって,酵素活性に大きな差が認められ,予備培養又は曝露時間による誘導率の経時的変化も異なった.well間及びplate間の変動は,いずれの条件でもCV値25%以内(n=3から5)であった.この方法によって,mRNAの発現及び酵素活性レベルで被験薬のCYP3A4及び1A2誘導能を評価することが可能であることがわかった.しかし,入手するロットごとに陽性対照物質を用いて最適条件を確認し,その条件下で被験薬の評価を行う必要があると考えられる.
  • Quazi Sohel Hossain, Aniya Masataka, Lee   Yasuhiro, Aniya Yoko
    セッションID: P-235
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/06/23
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    Membrane-bound glutathione S-transferase (MGST1) is abundantly distributed in microsomes and mitochondria (MT) of rat liver. In our laboratory it has been demonstrated that microsomal MGST1 is activated by reactive oxygen species (ROS) and heating. Since mitochondria are important role for ROS generation in oxidative stress, we examined whether MT-MGST1 is activated by ROS generated within mitochondria. MT was prepared after perfusion of the liver with 1.15% KCl containing benzamidine from non-treated S.D. rats. When MT was incubated with substrates for the respiration chain, ROS (hydroxyl radical) was detected by ESR spectrometer and MT-MGST1 activity was increased 2-fold. MT-ROS generation was increased with incubation temperature whereas MGST1 activity was decreased at 55 oC in spite of large amount of ROS generation. These results suggest that MT-MGST1 is regulated by ROS generated in MT.
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