2013 年7 月から2014 年9 月にニホンジカの生息する島根県出雲市の出雲北山山地内で,調査地①:松くい虫被害直後林分,調査地②:松くい虫被害から10 年以上経過した林分,調査地 ③:落葉広葉樹林,調査地④:伐採跡地で植生の極めて乏しい区域,調査地⑤:林床植生のみ生育する伐採跡地の5 地区で植生調査,土砂移動量および林床合計被覆率の調査を行った。土砂移動の量は④>>⑤>①>③>②であり,①はマツ枯死木の下層に生育するクロキの低い樹冠と80%前後の高い林床合計被覆率,②は全調査地のうち最も低い樹冠高分布と90%以上の高い林床合計被覆率,③はアベマキの落葉による90%以上の厚い林床合計被覆,⑤は伐採後に回復した林床植生による90%以上の高い林床合計被覆率がそれぞれ土砂移動を抑制していた。④は植生が極めて乏しく多量に土砂が移動した。②と③は最も土砂移動量が少なく,出雲北山山地での森林再生の目標となる林分であった。⑤は土砂移動を抑制していたが,今後ニホンジカの生息数が増加すれば採食によって林床植生が衰退し,④のように多量の土砂が移動する可能性がある。④や⑤のような伐採跡地では,樹冠形成や落葉を供給できる木本植物の再生が必要と考えられた。
樹木は樹齢が高くサイズが大きいほど枝葉までの通水経路が長くなる上,年々増加する枝の分岐や節数により水分通道度が低下する。樹木の道管直径が高さに伴い連続的に細くなる現象 (tapering)は,高木の樹高成長に伴う水分通道度の低下を補償すると考えられている。本研究では樹高約25 m,樹齢約100 年のクスノキ(Cinnamomum camphora)の木部の組織構造を異なる高さで比較し,木部構造の変化に対する高さの効果を調査した。道管直径(D)は樹幹下部より上部で小さく,道管密度は樹幹上部の方が高かった。各年輪内においてD は早材から晩材にかけて季節の変化に伴って小さくなったが,その減少のしかたは,高さによらず一定であった。また道管直径から算出した木部断面積当たりの水分通道度は樹幹上部で下部より著しく低く,これには樹幹上部に直径250 μm 以上の道管が殆ど存在しない事が寄与していた。本研究で観察された木部の組織構造の垂直的変化は,老大木の個体内における通水効率の維持や通水制限の緩和に寄与していると考えられる。