カウンセリング研究
Online ISSN : 2186-4594
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45 巻, 1 号
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原著
  • 日潟 淳子
    2012 年 45 巻 1 号 p. 1-10
    発行日: 2012年
    公開日: 2016/03/16
    ジャーナル フリー
    本研究では中年期を対象に,時間的展望を投影的に測定するサークル・テストを実施し,中年期の時間感覚と時間的連続性に注目して時間的展望の特徴をとらえた。研究1では,中年181名を対象に量的調査を試みた。その結果,中年期は現在の円を最も大きく描く割合が高まり,円の関連は過去と現在,現在と未来の円の一部をそれぞれ重ねて描く交わり型の割合が一番高かった。また,現在や未来を最も大きく描く者は過去を最も大きく描く者よりも現在や未来に対してポジティブな態度を示し,現在を最も大きく描いた者の精神的健康度が高かった。さらに,交わり型が現在に充実感を抱き,未来へもポジティブな態度を示した。その後,それらの質的な側面をとらえるために研究2として,研究1の対象者のうち22名にインタビュー調査を実施した。その結果,現在や未来の円を大きく描く者は円の中に精神的な成長の意識が生じ,また,円を重ねて描く者には時間の中に自己の形成意識が生じていることが示され,それにより時間的連続性が保たれていることが推測された。
  • 草野 智洋
    2012 年 45 巻 1 号 p. 11-19
    発行日: 2012年
    公開日: 2016/03/16
    ジャーナル フリー
    本研究では,大学生373名に対する質問紙調査の結果から,大学生のひきこもり傾向と人生の意味・目的意識との関連について検討した。ひきこもり傾向の下位尺度である他者からの評価への過敏さ,孤立傾向,自己否定・不全感のうち,孤立傾向については男性のほうが女性よりも,他者からの評価への過敏さについては女性のほうが男性よりも,有意に得点が高かった。男女ともに,自己否定・不全感と人生の意味・目的意識との関連が最も大きかった。ひきこもり傾向の高い群と低い群とで人生の意味・目的意識の内容を比較したところ,主体性,実存的充足,自殺観において,男女ともにひきこもり傾向の低い群のほうが高い群よりも有意に高い得点を示した。一方で,未来受容,死生観,病気・苦悩観については,男女とも両群に差はみられなかった。大学生のひきこもり傾向と人生の意味・目的意識との間に関連があることが示され,大学生が自らの人生に主体的に関わり,人生に意味や目的を見いだしていくことが,ひきこもりの予防にもつながる可能性が示唆された。
資料
  • 小久保 正昭
    2012 年 45 巻 1 号 p. 20-28
    発行日: 2012年
    公開日: 2016/03/16
    ジャーナル フリー
    本研究では,精神的な危機的状況に陥った際に機能するがん患者の心理機制の分析に基づき,がん患者の精神的崩壊を回避する心理機制に関する特徴を明らかにすることを目的とした。分析対象は,がん患者20人(男性13人,女性7人,平均年齢60.6歳)であった。また,分析方法としてはStrauss & Corbin(1990)のGrounded Theory Approachを準用した。その結果,がん患者の精神的崩壊を回避する心理機制に関する特徴として,循環的繰り返し,心的緊張の高まり,揺れ動き,生きる姿勢の影響,生きる姿勢の変化,家族との相互作用,喪失葛藤という7つのカテゴリーが生成された。また,がん患者への心理的支援に携わる人の心構えとして,感情表出の促進,受容的見守りと積極的介入,がん患者と家族への一体的支援という3つの提言が得られた。
  • 田村 修一, 水野 治久, 石隈 利紀
    2012 年 45 巻 1 号 p. 29-39
    発行日: 2012年
    公開日: 2016/03/16
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は,教育実習における教職志望者の「被援助志向性」を規定する要因について検討することであった。個人の要因として,「会話スキル」「自尊感情」を取り上げた。環境・状況要因として「指導教員の指導力」「協働的風土」「教育実習中の悩み」を取り上げた。日本の教職志望者268名から質問紙を回収した。その結果,(1)男女ともに「自己表現スキル」が高いと認知している教職志望者ほど,「被援助志向性」が高かった。(2)男女ともに「先生との人間関係」に悩んでいる教職志望者ほど,「被援助志向性」が低かった。(3)男性の場合,「学級経営」に悩んでいる教職志望者ほど,「被援助志向性」が高かった。しかし,「児童生徒との人間関係」に悩んでいる教職志望者の「被援助志向性」は低かった。(4)女性の場合,「指導教員の指導力」が高いと認知している教職志望者ほど,「被援助志向性」が高かった。これらの結果に基づいて,教職志望者の「チーム援助」の志向性と遂行能力を向上させるための方策について議論した。
ケース研究
  • 首藤 祐介
    2012 年 45 巻 1 号 p. 40-50
    発行日: 2012年
    公開日: 2016/03/16
    ジャーナル 認証あり
    近年,第三世代の行動療法の重要な領域である臨床行動分析の分野が発展している。中でも,抑うつに対する介入として行動活性化法が実証的な支持を受けている。そこで,本論文では抑うつ的なクライアントに対する行動活性化法のプロセスを報告し,その効果を検証する。クライアントは抑うつ気分,気力減退,ネガティブな反すうを示す成人男性であった。介入の初期段階では,機能分析と価値のアセスメントを導入し,活動スケジュールの実施と,クライアント自身による抑うつ的行動への機能分析の実施を援助した。その結果,抑うつ気分が改善し,支障なく日常生活に必要な活動を行うことが可能となり,職場復帰を果たすことができた。この事例から,抑うつ的行動と気分の変化には,十分な機能分析と価値のアセスメント,段階的な活動スケジュールの実施,回避行動への気付きの促しが重要であることが示唆された。
  • 松岡 靖子
    2012 年 45 巻 1 号 p. 51-61
    発行日: 2012年
    公開日: 2016/03/16
    ジャーナル 認証あり
    公立中学校に勤務する非常勤型スクールカウンセラーと比べ,私立高校やフリースクール等に勤務する常勤型スクールカウンセラーは数が少なく,その活動もまだあまり検討されていない。そのため本研究では,サポート校の常勤型スクールカウンセラーが自傷行為のある高校生へ対応した2事例を紹介し,常勤型スクールカウンセラーの課題と有効性について検討した。その結果,緊急性の高い自傷行為への常勤型スクールカウンセラーの対応には,「即時性」という特徴が影響していると考察された。この「即時性」には,タイミングのよい介入を行えるというメリットがある一方で,限界設定が難しいという課題がある。そのため,常勤型スクールカウンセラーが学校のなかでこの「即時性」を有効に生かしていくためには,教職員との連携体制を,生徒を受け止める枠組みとして考え,整えていくことが必要であった。このような連携体制の構築によって,常勤型スクールカウンセラーは「即時性」を生かし,生徒により効果的な対応を行うことができると考えられた。
展望
  • 安保 恵理子, 須賀 千奈, 根建 金男
    2012 年 45 巻 1 号 p. 62-69
    発行日: 2012年
    公開日: 2016/03/16
    ジャーナル フリー
    本論文では,健常者の身体不満足感の理解と認知行動的介入の可能性について提言することを目的とした。現状では,身体不満足感の定義について,いまだ一致した見解は得られていない。また,身体不満足感のメカニズムに関する研究の知見を十分に踏まえた介入研究は,ほとんど行われていない。さらに,これまでの介入研究では,健常者の健康の維持・増進ならびに精神的不調・疾患の予防には,十分に焦点が当てられてこなかった。そこで,本論文では,国内外の身体不満足感に関する研究を概観し,身体不満足感の定義,発生・維持メカニズム,介入について論じ,その上で健常者の身体不満足感の理解と今後の認知行動的介入の可能性について提言した。その結果,今後の介入では,外見的魅力を過度に重視する信念に焦点を当て,外見に関する否定的な評価は変わらなかったとしても,外見に関する否定的な感情は減少させることが望ましいことが示唆された。また,外見に不満を抱く者が,自己の身体の不完全さを感じながらも,身体や人生の多様な側面について多くの気づきを得ることを促すような介入の発展が必要であることが考察された。
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