森林総合研究所研究報告
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23 巻, 2 号
選択された号の論文の4件中1~4を表示しています
研究資料
  • 大谷 達也, 米田 令仁, 岡 輝樹
    原稿種別: 研究資料
    2024 年23 巻2 号 p. 55-62
    発行日: 2024/06/26
    公開日: 2024/06/26
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    新植地に適用できるニホンジカ忌避剤の開発を目指し、マウスに本能的な恐怖心を与えるとされるチアゾリン化合物の有効性評価をおこなった。捕食者に由来するチアゾリン化合物はマウスに恐怖行動を喚起し、この物質に対する忌避反応が遺伝的に規定されていることが実証されている。チアゾリン化合物の一つである2メチルチオ2チアゾリン (2-(Methylthio)-2-thiazoline, C4H7NS2, 以下2MT2T) を使って、シカに対する忌避剤開発が可能か、飼育個体を使った実験をおこなった。自作の揮発装置から100 mg/h前後の速度で2MT2Tが揮発し、臭気が周辺へ広がっていくことを臭気計によって確認した。野生のイタドリの葉を2基の揮発装置とともに飼育下のシカに与え2MT2Tの臭気が採食行動を抑制するか自動撮影カメラによって記録したところ、計1,590回の採食行動に対し忌避反応とみなされた行動はわずかに4回であった。イタドリの葉は供試後15時間以内に食べ尽くされ、2MT2Tによる採食の抑制効果は認められなかった。野外の開放空間において揮発した2MT2Tによってシカの忌避行動を喚起するほど、さらには採食行動を抑制するほどの効果を期待することは難しいと考えられた。

  • 伊東 宏樹, 津山 幾太郎, 石橋 聰
    原稿種別: 研究資料
    2024 年23 巻2 号 p. 63-70
    発行日: 2024/06/26
    公開日: 2024/06/26
    研究報告書・技術報告書 フリー

    北海道恵庭国有林のトドマツ人工林伐採跡で地がき施業を実施した試験区において施業実施から7年後までのカンバ類の天然更新状況を検討した。トドマツ人工林の伐採および伐採後の地がき処理は2016年に実施された。試験区の一部には防鹿柵が設定されており、防鹿柵の有無と地がき処理の有無との組み合わせで4通りの試験設定となった。2018年、2019年、2021年、2023年にカンバ類を含む高木性樹種の更新状況を調査した。また競合植生となるクマイザサの被度および平均群落高も測定した。調査の結果、クマイザサの被度は2023年には防鹿柵内地がき区以外では100%に近い値となり、平均群落高も柵外地がき区以外では80~110 cm程度に回復していた。カンバ類の稚樹密度および樹高は防鹿柵の内外ではっきりした差が見られ、さらに柵内では地がき区の方が無処理区よりも稚樹密度が高い傾向にあった。施業から7年後の2023年には、樹高150 cm以上の稚樹密度は柵内地がき区ではヘクタールあたり1.8万本となっていた。一方、柵外では樹高150 cm以上にまで成長した稚樹はなかった。これらの結果から、適切なシカ対策をとれば、地がきは、トドマツ人工林伐採後のカンバ類の天然更新のために有効であると考えられた。

  • 小島 瑛里奈, 山岸 松平, 加藤 英雄, 安部 久, 渡辺 靖崇, 山本 健, 園田 誠嗣, 鈴木 律, 古川洋
    原稿種別: 研究資料
    2024 年23 巻2 号 p. 71-82
    発行日: 2024/06/26
    公開日: 2024/06/26
    研究報告書・技術報告書 フリー
    電子付録

    日本の歴史的木造建築物において、その部材である木材は、当時の文化的・歴史的背景を知る上で重要な情報を有している。歴史的木造建築物の一つである広島県尾道市の常称寺本堂 (国の重要文化財) は、およそ500年前に建立され、その部材は建立当時のまま使われ続けてきた。本稿では、これらの部材のうち、今般の根本修理の際に構造部材としてこれ以上の利用に耐えないと判断された解体撤去材127本について調査した。樹種や密度、平均年輪幅などを調査するとともに、その材の断面写真および木口面、柾目面、板目面の3つの切片における光学顕微鏡写真をまとめた。調査した127本中、118本が地垂木、5本が通肘木、4本が飛檐垂木であり、すべての材にはシバンムシ科の甲虫によると思われる虫食い穴が多く認められた。光学顕微鏡による樹種識別の結果、127本中、119本がアカマツ (Pinus densiflora Sieb. et Zucc.)、8 本がヒノキ (Chamaecyparis obtusa (Sieb. et Zucc.) Endl.) であると判断された。また、虫食い穴などの断面欠損を無視し、供試材の最大寸法より算出したみかけの密度から、アカマツ材は現在の一般的な流通材と同程度であり、ヒノキ材はそれ以上であると考えられた。アカマツ材の木取りは、半数以上が心去り材で、ヒノキはほとんどが心持ち材であった。アカマツ材の平均年輪幅は一般的な材と比較してやや広く、ヒノキ材は同等であった。最後に、解体撤去材が用いられていた方角を調べたところ、西側および北側に多い傾向があった。

  • 大谷 達也, 米田 令仁, 福本 桂子, 山川 博美
    原稿種別: 研究資料
    2024 年23 巻2 号 p. 83-88
    発行日: 2024/06/26
    公開日: 2024/06/26
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    九州産のスギ品種を四国中央部で植栽したところ、4成長期末において枯れ症状が多く発生した。標高900mの北向き斜面に植栽した特定母樹苗「高岡署1号」112本のうち66本に個体の枯死や主軸・枝葉の枯れといった枯れ症状が認められ、その本数割合は在来品種「タノアカ」(109本のうち5本) よりも多かった。2023年の春先や初冬に急激な冷え込みがあったこと、幹基部に凍傷痕がなく枯れ症状が真冬に進行しなかったことから、高岡署1号の枯れ症状は晩霜害・早霜害がおもな原因と考えられた。高岡署1号はタノアカよりも低温への感受性が高いと考えられるため、特定母樹苗である高岡署1号の優れた特性を活かすには植栽場所を慎重に選ぶ必要があろう。

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