森林総合研究所研究報告
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最新号
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論文
  • 中田 了五
    原稿種別: 論文
    2025 年24 巻2 号 p. 57-77
    発行日: 2025/06/26
    公開日: 2025/06/26
    研究報告書・技術報告書 フリー
    電子付録
    広く普及している誘電現象を利用した土壌水分計を針葉樹生立木の樹幹含水率モニタリングに適用した。高い時間解像度で長期連続測定した樹幹の体積含水率 (VWC) には顕著な季節変動や日内変動が観察された。詳細な解析の結果、次の4 種類の因子が観測したVWC に影響していることがわかった。(1) センサー設置直後の1 から2 か月程度にわたるセンサー周辺の樹幹の乾燥による漸次的な観測VWC の低下、(2) 冬季に樹幹中の水が凍結することによる観測VWC の急激な低下、(3) 測定中の降雨に伴って測定システムに生じる電気的エラーによる観測VWC の急上昇または急降下、(4) 水の比誘電率の温度依存性に起因する観測VWC の温度依存性。このうち、 (1) から (3) については野外観測では不可避でありかつ制御不可能であることから、該当する条件の時のVWC の値を削除し、解析対象からはずすことで対処することにした。(4) については、VWC と同時に測定した樹幹温度を用いて、温度と水の比誘電率の関係に基づいた理論的補正と樹幹温度と樹幹含水率の関係のデータ解析による経験的補正によって対処することとし、補正法を開発した。補正した樹幹のVWC は、これまでの破壊的サンプリングによる研究結果同様、通常は季節変動が小さいが、時々明らかに上昇または下降すること、樹種・個体・個体内部位によって変動パターンが異なっていることがわかった。
  • 細田 和男, 西園 朋広, 北原 文章, 笹川 裕史, 古田 朝子
    原稿種別: 論文
    2025 年24 巻2 号 p. 79-94
    発行日: 2025/06/26
    公開日: 2025/06/26
    研究報告書・技術報告書 フリー
    現行の民有林用スギ密度管理図は1978~1980年度に作成されたが、収量比数が1.0を超える高密度林分の存在や幹材積合計が過少推定になる傾向から見直しの必要性が示唆されてきた。そこで2003年以降に収集された新たなデータによって民有林用スギ密度管理図の改訂を行った。まず全国の民有林スギに共通の新たな最多密度曲線を作成した結果、その傾きは現行よりも緩やかで-3/2に近くなった。現行の密度管理図では幹材積合計と平均胸高直径が明らかに過小推定になるが、現行と同じ7地域別に作成した改訂版では偏りなく推定することができるようになった。ただしばらつきは大きく、幹材積合計が誤差20%未満で推定できた箇所は地域により5~7割にとどまった。これは間伐の時期や間伐率の違い、高齢級化によって、従来に比べ施業履歴や林分構造が多様化しているためと考えられる。推定精度を上げるためには、都道府県単位などよりきめ細かな地域区分での作成も検討の余地がある。現行の密度管理図とは異なり、改訂版で算出される収量比数は相対幹距との関係が地域別にほぼ単一の曲線で近似可能であり、収量比数と相対幹距との読み替えが容易になるという利点が認められた。改訂した密度管理図では上層樹高と本数密度から幹材積合計を従来よりも偏りなく推定することができるようになり、密度管理図を収穫予想表作成の基礎とすることの信頼性が高められた。
  • 阪田 匡司, 森 大喜, 橋本 昌司
    原稿種別: 論文
    2025 年24 巻2 号 p. 95-101
    発行日: 2025/06/26
    公開日: 2025/06/26
    研究報告書・技術報告書 フリー
    電子付録
    クローズドチャンバー法では、ガスサンプルを真空バイアルなどの密閉容器内に保存し、サンプル中のメタン(CH4)および二酸化炭素(CO2)濃度を測定することでガスフラックスを算出する。このガス分析は従来、主にガスクロマトグラフ(GC)によって行われてきたが、本研究では、ポータブルガス分析計(PGA)を用いたより迅速なシステムを構築し、その妥当性を検討した。キャリアガスとして窒素を用いた流路と、セプタム付きガスインジェクタに接続されたABB LGR-ICOSガス分析計を使用してガス分析システムを構築した。PGAベースのシステムを用いたガス測定の直線性は、既知濃度のCH4およびCO2ガスをシステムに注入し、ピーク高さを測定することで評価した。その結果、非常に高い直線性が確認され、R2値は0.999を超えた。また、ガス測定の再現性も高く、変動係数(CV)はすべて3%未満であった。さらに、PGAベースのシステムの妥当性を検証するために、ガスクロマトグラフィー(GC)による測定結果との比較を行った。その結果、システムの測定値はGC測定値と高い相関を示し、R²値は0.995を超え、PGAベースのシステムで測定されたCH4およびCO2濃度はGCで測定された値とほぼ一致した。これらのことから、今回の研究で構築したPGAベースのシステムは、密閉容器内に保存されたガスサンプルのCH4およびCO2濃度を測定するためのより迅速で信頼性の高い手法であると結論づけた。
研究資料
  • 酒井 敦, 野口 麻穂子, 直江 将司
    原稿種別: 研究資料
    2025 年24 巻2 号 p. 103-119
    発行日: 2025/06/26
    公開日: 2025/06/26
    研究報告書・技術報告書 フリー

    森林総合研究所東北支所 (岩手県盛岡市、北緯39°46′04"、東経141°07′56"、標高191 m) に自生する維管束植物の植物相を調べた。その結果、112科320属492種 (シダ植物29種、裸子植物10種、被子植物453種)の維管束植物が記載された。約40年前に作成された支所の植物目録と比較したところ、189種が新しく記載された。一方で、過去に記載された植物のうち91種は再発見できなかった。新しく記載された種は林床性のものが多く含まれ、再発見できなかった種は草原に生育するものが含まれていた。これは、空き地に木を植えて森林化が進んだ東北支所の40年余りの環境変化をよく反映している。

  • 磯野 昌弘
    原稿種別: 研究資料
    2025 年24 巻2 号 p. 121-132
    発行日: 2025/06/26
    公開日: 2025/06/26
    研究報告書・技術報告書 フリー

    蔵王連峰においてオオシラビソの集団枯損をひきおこした食葉性のトウヒツヅリヒメハマキ (チョウ目:ハマキガ科) の形態情報を包括的に整理した。本種の成虫は、前翅の斑紋、雄交尾器のテグメン、ウンクス、ソキウス、ヘニオンと把握器、そして雌交尾器のステリグマとシグヌムの形態により識別された。幼虫は、刺毛基板、鉤爪、尾叉、および側腹刺毛の形態形質の組み合わせにより特徴づけられた。この地域の幼虫は、既往の記載とは異なり、尾叉をもち、腹脚の鉤爪は同長状であった。追加的な枯死被害をもたらした樹皮下穿孔性のトドマツノキクイムシ (コウチュウ目: ゾウムシ科) についても識別形質を写真で示した。本研究は、分類を専門としない研究者が、モミやトウヒで発生した害虫が両種であるかどうかを判断するのに役立つだろう。

  • 大貫 靖浩, 小林 政広, 稲垣 昌宏, 釣田 竜也, 清水 晃, 壁谷 直記, 清水 貴範
    原稿種別: 研究資料
    2025 年24 巻2 号 p. 133-142
    発行日: 2025/06/26
    公開日: 2025/06/26
    研究報告書・技術報告書 フリー

    暖温帯に位置する熊本県北部の小流域 (鹿北流域試験地3号沢) において、土層厚分布や土壌の物理特性についての詳細な調査・分析を、微地形単位に着目して実施した。表層土層厚、風化層厚ともに、遷急線の上側で厚く、遷急線下側に対して有意差が認められた。特に斜面中腹の傾斜の緩い谷頭凹地で際立って厚く、風化層厚は斜面上部の頂部斜面、上部谷壁斜面でも厚かった。土壌の一般物理性に関しては、特にB層で容積重が大きく、全孔隙率が低く、液相率が高かったが、飽和透水係数は良好な値を示した。土壌の保水機能に寄与する有効孔隙率は、上部谷壁斜面を除き全体的に低く、特に保水に寄与する小孔隙率が低めであることが明らかになった。

  • 牧野 俊一, 後藤 忠男, 後藤 秀章, 岡部 貴美子, 井上 大成, 大河内 勇
    原稿種別: 研究資料
    2025 年24 巻2 号 p. 143-150
    発行日: 2025/06/26
    公開日: 2025/06/26
    研究報告書・技術報告書 フリー
    電子付録

    茨城県北部の広葉樹天然林二次林10プロット(林齢1~178年)およびスギ植林地8プロット(同3~76年)において、植食性昆虫であるハムシ類をマレーズ・トラップによって4月から11月まで隔週で採集し、プロットごとの採集数を採集日別に示した。広葉樹林10プロットでは2002年に合計129種(22,172個体)、スギ林8プロットでは2003年に同102種(10,324個体)が採集された。広葉樹および針葉樹プロットの両方で、若齢のプロットの方がより高齢のプロットよりも種数が多かった。全種合わせた個体数は春に最も多く、一方で種数は7月にピークが見られた。

  • 上田 明良, 後藤 秀章, 佐山 勝彦, 金谷 整一, 安田 雅俊
    原稿種別: 研究資料
    2025 年24 巻2 号 p. 151-170
    発行日: 2025/06/26
    公開日: 2025/06/26
    研究報告書・技術報告書 フリー

    外来哺乳類のクリハラリス(以下リス)が昆虫相に与える影響解明の予備調査として、リス根絶前の大分市高島と対岸のリスの生息しない佐賀関半島の森林内で、誘引剤を用いた3種のトラップ(衝突板、ピットフォールとスズメバチ用トラップ)による昆虫捕獲調査を行った。昆虫グループ別にみると、カミキリムシ科とスズメバチ属の種数と捕獲数が佐賀関半島で有意に多く、高島ではリスの捕食による負の影響を受けていると考えられた。一方、腐肉食性のシデムシ科と糞虫類の捕獲数は高島で有意に多く、リスの死骸供給による正の影響の存在が示唆された。オサムシ科の種数と捕獲数は両地点間に有意差がなく、リスの影響を受けているとはいえなかった。

  • 大谷 達也, 米田 令仁
    原稿種別: 研究資料
    2025 年24 巻2 号 p. 171-175
    発行日: 2025/06/26
    公開日: 2025/06/26
    研究報告書・技術報告書 フリー

    四国ではこれまで限定された場所から報告があったニホンヤマビル (Haemadipsa japonica、以下ヤマビル) について、アンケート調査と現地調査によって生息状況を把握した。国有林職員へのアンケート調査を2024年10月に、徳島県那賀町周辺の24か所での現地調査を同月初旬に実施した。アンケート調査では、ヤマビルによる吸血被害が那賀町と海陽町から報告された。現地調査では、徳島県那賀町西部と海陽町北端にかかる東西19 km・南北14 kmの範囲内の10か所でヤマビルを確認した。四国東部ではニホンジカ増加にともなうヤマビルの分布拡大が危惧されたが、いまだ那賀町西部を中心とした限定的な分布と示された。

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