森林総合研究所研究報告
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20 巻, 2 号
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  • 清野 嘉之, 赤間 亮夫, 松浦 俊也, 岩谷 宗彦, 由田 幸雄, 志間 俊弘
    2021 年20 巻2 号 p. 69-82
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/11/09
    研究報告書・技術報告書 オープンアクセス
    2011年の東京電力福島第一原子力発電所事故で放出された放射性セシウムの環境から食用野生植物への移行の仕方は種によってさまざまである。ワラビ(Pteridium aquilinum subsp. japonicum)について、生育地の放射性セシウム量や斜面位置などの条件とワラビの放射性セシウムとの関係をいわき市(IO)、飯舘村(IM、IU)、葛尾村(KM)の4つのワラビ群落で2017年に調べた。以前放牧地であった土地のワラビ群落(IO、IM、IU)では、ワラビの幼葉と成葉、地下器官の137Cs濃度に部位間では有意な違いが認められず(P = 0.499)、試験地間では違いがあった(P = 0.049)。土壌の交換性カリウム(K)濃度は0.42 ~ 1.11cmolc kg-1で、交換性K濃度と、リター層と土壌からワラビの葉への137Csの面移行係数との間に特段の関係はなかった。幼葉137Cs濃度はリター層の137Cs量(R2 = 0.4669)より土壌の137Cs量(R2 = 0.7844)と関係が深かった。空間線量率(ADR)と幼葉137Cs濃度との間には土壌137Cs量を介した、間接的ながらも強い相関(r = 0.757)が成立した。放牧歴のないKMではADRから推定されるより幼葉137Cs濃度が低く、137Csの少ない、より深い土壌に多くの根があるなど他の条件の影響が示唆された。
  • 清野 嘉之, 赤間 亮夫, 岩谷 宗彦, 由田 幸雄, 志間 俊弘
    2021 年20 巻2 号 p. 83-100
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/11/09
    研究報告書・技術報告書 オープンアクセス
    ワラビ(Pteridium aquilinum subsp. japonicum)はシダ植物で幼葉を食用にする。ワラビの生育と2011年の東京電力福島第一原子力発電所事故で放出された放射性セシウムのワラビ中の時間的挙動を明らかにする目的で、放牧跡地のワラビ群落を2017年から調べた。また、ワラビの放射性セシウム濃度抑制のためのカリウム(K)施用効果の試験を行った。ワラビのバイオマスは葉が生きている春から秋は葉に約4割、地下器官(地下茎と根)に約6割が存在した。全草バイオマスには大きな季節差はなかった。ワラビのセシウム 137(137Cs)濃度は幼葉や成葉、地下器官など部位ごとに、その季節性を反映して変化傾向はさまざまであったが、全草濃度は漸減した(P = 0.023)。低下傾向は指数関数で近似でき、低下速度は年27%であった。2017年6月のK施用後、ワラビ全草のカリウム40濃度は8月頃から翌年3月まで対照区より高くなった。また、137Cs濃度は対照区の約7割に抑制された(P < 0.001)。
  • 吉永 秀一郎, 山田 毅, 稲垣 善之, 三浦 覚, 篠宮 佳樹
    2021 年20 巻2 号 p. 101-120
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/11/09
    研究報告書・技術報告書 オープンアクセス
    四万十川の平水時の清流環境に対する源流域の渓流水質の寄与を評価するために、広見川流域を除く源流域において夏季(92流域)と冬季(104流域)の渓流水の溶存成分濃度を測定した。溶存成分組成は地質の違いによる影響を受け、調査流域の大半を占める四万十帯流域ならびに秩父帯流域に対して、四万十帯石灰岩流域と秩父帯石灰岩流域は特異的にpH、ECが高く、Ca2+、HCO3- 濃度が高い傾向を示した。また、花崗岩が分布する流域はpH、ECが低く、溶存成分濃度が全体として低い傾向を示した。Na+、Cl- 濃度は太平洋岸からの距離が大きいほど低い傾向を示し、海塩起源であることが推察された。Si、K+ 濃度は夏季の方が高く、Na+、SO42-、NO3--N、全窒素(T-N)濃度は冬季の方が高い値を示した。夏季と冬季の溶存成分濃度の違いは、風化による岩石からの溶出と、降水の季節変動等に支配された各溶存成分の濃縮・希釈の影響によると考えられた。これらの源流域におけるT-N濃度は、高知県が制定した四万十川清流基準の基準値である0.3 mg L-1 以下の流域が多く、平均T-N濃度も夏季に0.17 mg L-1、冬季に0.26 mg L-1 であった。このことから平水時の四万十川の清流環境の維持に森林流域からの渓流水が寄与していることが示唆された。
  • 牧野 俊一, 後藤 秀章, 岡部 貴美子, 井上 大成, 大河内 勇
    2021 年20 巻2 号 p. 121-128
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/11/09
    研究報告書・技術報告書 オープンアクセス
    電子付録
    茨城県北部の、林齢が異なる天然広葉樹二次林10か所(林齢1~178年)と、スギ人工林8か所(3~76年)においてマレーズトラップを用いた有剣ハチ類の採集を4~11月に行った。広葉樹二次林系列では1年間で合計12科167種3605個体、スギ林系列では11科136種2645個体が得られた。種数が最も多かったのはギングチバチ科で、クモバチ科がそれに次いだが、個体数ではクモバチ科がどの林分でも最も多かった。有剣ハチ類全体の種数と個体数は、広葉樹二次林系列、スギ人工林系列ともに林齢3~4年の林分で最多で、いずれにおいても林齢とともに減少した。有剣ハチ類の多くは若齢林分を好んで出現したが、より林齢の高い林分に偏って出現する種も見られた。
  • 松本 和馬
    2021 年20 巻2 号 p. 129-134
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/11/09
    研究報告書・技術報告書 オープンアクセス
    東京都八王子市の森林総合研究所多摩森林科学園で採集された長翅目5種(シリアゲムシ科3種、ガガンボモドキ科2種)を記録した。これらの種の季節消長パターンを標本の採集日付と2017年に実施したトランセクト調査に基づき調べた。1化生種のうちキシタトゲシリアゲPanorpa fulvicaudaria Miyake とキアシシリアゲPanorpa wormaldi McLachlan は主に4–5月、クロヒメガガンボモドキBittacus takaoensis Miyake はほぼ5月前半のみに出現したが、ヤマトガガンボモドキBittacus nipponicus Navás はより遅くかつ長く6–7月に出現した。年2化生のヤマトシリアゲPanorpa japonica Thunberg は第1化が5–6月、第2化が8月下旬–10月に出現した。クロヒメガガンボモドキは1913年の記載以来、原記載地の高尾山とその周辺で記録がなかったが、出現期間が早く短いため発見されにくいことがその理由であると考えられた。トランセクト調査で記録された世代あたり個体数はヤマトシリアゲの第1化が最多、次いでクロヒメガガンボモドキが多く、キアシシリアゲが最少であった。多摩森林科学園は東京都の低標高地としては比較的長翅目相が豊富であり、これは安定した森林環境を反映していると考えられる。
  • 大橋 伸太, 赤間 亮夫, 池田 重人, 星野 大介
    2021 年20 巻2 号 p. 135-145
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/11/09
    研究報告書・技術報告書 オープンアクセス
    森林生態系内で採取した試料の放射性セシウム(137Cs)の放射能測定の効率化に資することを目的とし、粉砕した試料を同軸型Ge検出器とU-8容器の組み合わせで測定する通常の方法と比較して、試料を粉砕せずにマリネリ容器に疎な状態で充填して測定した場合、ならびに少量の試料をウェル型Ge検出器と#737容器の組み合わせで測定した場合に、どの程度の誤差が生じるのかを調べた。また、ウェル型Ge検出器での測定については、試料によるγ線の自己吸収の補正方法が確立されていないため、簡易に行える適当な自己吸収補正方法ついても検討した。上記のマリネリ容器および#737容器のどちらにおいても、U-8容器での測定と比較して、系統誤差は見られなかった。偶然誤差の増加は、前者で7%未満、後者で6%未満だと考えられた。ウェル型Ge検出器と#737容器の組み合わせの測定では、自己吸収補正を同軸型Ge検出器とU-8容器の組み合わせの測定と同様に行うと得られる値がやや小さくなる傾向があり、自己吸収補正の設定で密度を標準線源の値にするか、自己吸収補正を行わない方が妥当な値が得られた。試料の量よりも容量が小さい測定容器を用いて試料の一部を測定すると、粉砕した試料であっても誤差が大きくなる傾向が見られたため、試料の量に応じて測定容器を選択することが、測定の効率化と誤差の低減の双方にとって重要であることがわかった。
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