森林総合研究所研究報告
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17 巻, 3 号
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  • 清野 嘉之, 小松 雅史, 赤間 亮夫, 松浦 俊也, 広井 勝, 岩谷 宗彦, 二元 隆
    2018 年17 巻3 号 p. 217-232
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/11/15
    研究報告書・技術報告書 オープンアクセス
    2011年3月の東京電力福島第一原子力発電所事故以降、高レベルの放射性セシウム(134+137Cs) が検出された10種以上の日本の野生山菜に出荷制限が課されている(2017年7月31日)。しかし、環境から野生山菜への放射性セシウムの移行やそれに影響を及ぼす要因を調べた研究がほとんどなく、出荷制限が維持されるべきかどうかの判断に利用できる情報は限られている。福島県郡山市の131地点で野生のゼンマイ(Osmunda japonica) の葉を2015年7月と8月に採取し、137Cs の野生山菜への移行に影響を及ぼす可能性のある環境要因を調べた。重回帰分析によると、ゼンマイの葉の137Cs 濃度は生育地のリター中の137Cs 量、空間線量率、上層木の被覆率、リターの被覆率と有意な関係があった。後3者をパラメータに用い、ゼンマイの葉の137Cs濃度を予測するモデルを100地点の検体を用いて構築し、残りの31地点の検体で検証した。予測の結果は系統誤差が小さく、モデルの正確さ(accuracy) は高かった。しかし、予測値は観測値の約 1/5 ~ 5倍の間に分布しており、モデルの精度(precision) は低かった。測定値と予測値の残差平方和が大きいため、生育環境に関する上記の3つの情報を利用しても、出荷制限を解除するために必要な検体数を現行の目安(60) から減らすことはできないと考えられた。植物季節の違いが、今回観察されたゼンマイの葉における137Cs 濃度の変動に関与している可能性がある。今後の研究では、このような大きな変動を引き起こすメカニズムを明らかにする必要がある。
  • 大塚 生美, 堀 靖人, 山田 茂樹, 岩永 青史, 天野 智将, 駒木 貴彰, 餅田 治之
    2018 年17 巻3 号 p. 233-248
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/11/15
    研究報告書・技術報告書 オープンアクセス
    今日のわが国林業は、丸太価格の低迷により森林所有者は経営意欲を喪失し、林地を売却したり、再造林や保育施業を放棄するといった動きがある。しかし同時に、木材加工業などの原木を必要とする事業体の一部には、事業規模を拡大するとともに、事業内容を高度化・多様化させ、林業経営までをも行うようになってきている。また、30年間、40年間といった経営委託ともいえる長期施業受委託ともみることができる事例も見られるようになっている。このように、今日、わが国林業を巡っては、林業経営の再編が進行しているようにみえる。振り返って、2008年、筆者らは森林信託の商品化を検討していた大手金融機関2行と、わが国での森林信託の可能性について、日本の林業の実態に基づき意見交換を実施する機会を得た。その結果、大手金融機関にとっての信託商品化として、次の点が主要な課題であることが明らかになった。①林業のキャッシュフロー確保が不透明であること、②協同する専門家・機関の不足感があること、③不動産の物的状況、権利態様が不安定であることの3つである。そこで、本論ではその3つの課題に対する林業経営再編の新たな動きを捉え、その要因を考察することを目的とした。研究方法は、上記の3つの課題に対して、主に2000年以降、新たな展開が確認できた事業体等への訪問調査により実態を把握した上で、それらの事業体から共通して得られた新たな展開の背景・要因について、追跡調査とともに公表データ等文献調査によった。結果、大手金融機関の信託商品化に応え得るような林業ビジネス化の条件が浮き彫りになった。
  • 清野 嘉之, 赤間 亮夫, 岩谷 宗彦, 由田 幸雄
    2018 年17 巻3 号 p. 249-257
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/11/15
    研究報告書・技術報告書 オープンアクセス
    2011年3月の東京電力福島第一原子力発電所事故以降、高レベルの放射性セシウム(134+137Cs) が検出された10種以上の日本の野生山菜に出荷制限が課されている(2017年7月31日)。しかし、環境から野生山菜への放射性セシウムの移行やそれに影響を及ぼす要因を調べた研究はほとんどない。2016年6月に福島県4町村の100地点で多年生草本のフキ(Petasites japonicus) の野生個体から葉柄を採取した。リター中の137Cs量や深さ 5cm までの土壌137Cs量はともにフキ葉柄 137Cs濃度(P < 0.001) や空間線量率( ADR, P < 0.01) と有意な関係があった。ADR とフキの葉柄 137Cs 濃度の関係を回帰分析し、ADR 値が広範囲に亙る28地点で2016年4月に採取した葉柄データで検証した。6月と4月の間で回帰式の傾きに有意差はなかった(P = 0.494)が、Y 切片は有意に異なった(P = 0.0002)。同じ ADRのときの6月の137C濃度は4月の約5倍で、4月と6月の間に137Cs 濃度が上昇したことを示唆した。葉柄の含水量と134Cs/137Cs 濃度比にもとづいて、2016年6月の葉柄生重当たりの134+137Cs 濃度の95% 予測区間を求めたところ、予測区間は予測値の約1/8 ~ 8倍の間にあった。137Cs 濃度の季節変化の幅が大きいことから、フキの137Cs 濃度の時間的変化についてさらなる研究が必要と考えられる。
  • 金子 真司, 後藤 義明, 田淵 隆一, 赤間 亮夫, 池田 重人, 篠宮 佳樹, 今村 直広
    2018 年17 巻3 号 p. 259-264
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/11/15
    研究報告書・技術報告書 オープンアクセス
    福島県十万山(浪江町・双葉町)の森林火災(2017年4月29日~ 5月10日)の延焼地において、火災直後に山頂部のアカマツ林と谷部のスギ林で樹木と土壌の試料を採取して放射性セシウム(RCs: 134Cs+137Cs)濃度を測定して火災の影響を調べた。樹木については、同一木の幹の燃焼側と非燃焼側から樹皮を採取した。土壌は燃焼地と隣接する非燃焼地から堆積有機物層と表層土壌を採取した。アカマツでは燃焼樹皮が非燃焼樹皮に比べて現存量とRCs 濃度とRCs 蓄積量が小さかった個体が存在した。また、アカマツ林、スギ林で調査したすべての堆積有機物層のRCs 濃度が燃焼箇所に比べて非燃焼箇所で高かった。
  • 伊東 宏樹, 中西 敦史, 津山 幾太郎, 関 剛, 飯田 滋生, 河原 孝行
    2018 年17 巻3 号 p. 265-272
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/11/15
    研究報告書・技術報告書 オープンアクセス
    電子付録
    石狩川源流地域では、1954年台風15号( 洞爺丸台風) により大規模な風倒が発生した。森林総合研究所北海道支所では、この風倒からの森林の再生過程をモニタリングするため、風倒前には極相に近い針葉樹林であった林分内の6か所の調査地において、植生調査と毎木調査を継続している。植生調査は、1957 ~1968年の各年と、1972、1976、1980、1984、1988、1998、2002、2009、2017 の各年に実施した。2 m × 30 ~ 50 m の大きさの帯状調査区を設定し、2 m × 2 m の方形区ごとに、階層( 高木、亜高木、低木、草本、ツル植物、蘚苔類)別に、各出現種について植生被度階級を6段階(0 ~ 1%: +、1 ~ 10%: 1、10 ~ 25%: 2、25 ~ 50%: 3、50 ~ 75%: 4、75 ~ 100%: 5)で記録した。毎木調査は、1993年、1998年、2002年、2009年、2017年に実施した。帯状調査区の幅を10 m に拡大し、樹高1.3 m 以上の幹について樹高と胸高直径を測定した。これらのデータを、機械可読な形式にまとめ、Creative Commons Attribution 4.0 International ライ センスのもとに公開した。
  • 篠宮 佳樹, 山田 毅, 平井 敬三, 小野 賢二, 野口 正二, 久保田 多余子, 阿部 俊夫
    2018 年17 巻3 号 p. 273-303
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/11/15
    研究報告書・技術報告書 オープンアクセス
    我が国でも有数の積雪地である東北地方山形県の釜淵森林理水試験地1号沢における 2000 ~ 2014年の降水と渓流水の主要な溶存成分濃度の年平均値と降水による年流入負荷量を算出し、それらの経年変化について報告する。試験流域の面積は3.06 ha、植生は針広混交林である。降水中のNO3 やSO42− の濃度に明瞭な変動傾向はみられなかった。降水による溶存態無機窒素の年平均流入負荷量は 12.4 kg ha−1 yr−1で、そのうちの概ね 6割が NO3-N であった。SO42− の年平均流入負荷量は 63.0 kg ha−1 yr−1 で、そのうちの約2/3 が非海塩由来であった。NO3 やSO42− の年流入負荷量と年降水量との間に正の相関が認められた。NO3 やSO42− の降水による年流入負荷量は、濃度より降水量に依存することが示唆された。渓流水のNO3の年平均濃度に変動はあったが、明瞭な経年変化は認められなかった。 渓流水のSO42− の年平均濃度に変化はみられなかった。
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