日本地球化学会年会要旨集
2011年度日本地球化学会第58回年会講演要旨集
選択された号の論文の385件中201~250を表示しています
セッション5 海洋における微量元素・同位体
  • 西内 明, 中口 譲, 竹内 誠
    セッションID: 2P02
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/09/01
    会議録・要旨集 フリー
    海洋において溶存セレンは亜セレン酸、セレン酸、有機態セレンの3つの化学形態で存在している。様々な研究報告によって、海洋において亜セレン酸の濃度分布とケイ酸の濃度分布には有意な正の相関関係にあることが判明している。これは亜セレン酸が珪藻類に取り込まれ、死滅後に殻物質と共に溶出しているものと考えられる。今回の研究では、白鳳丸KH-10-2次航海にて採取した海水試料を用い、セレンの状態別分析を行った。また、同じ試料を用いて生物起源ケイ素の分析も行い、生物起源ケイ素がセレン分子種に及ぼす影響を調査した。
  • 坂本 敦史, 中口 譲, 竹内 誠, 宗林 由樹, Vu Thi Dieu Huong, 高野 祥太朗
    原稿種別: ポスター講演
    専門分野: 05.海洋における微量元素・同位体
    セッションID: 2P03
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/09/01
    会議録・要旨集 フリー
    GEOTRACES計画で海水中の元素の中でも特に重要な項目に挙げられるFe, Co, Ni, Cu, Zn, Cdなどの生体活性微量金属の分布・挙動については様々な海域において調査されてきたが、これら元素の生物地球化学的循環はまだ完全に解明されていない。日本海はロシア、韓国、日本列島によって囲まれた縁辺海であり、深層にはこの海特有の深層水が循環しているという特徴がある。しかし日本海での生体活性微量金属の報告は外洋に比べて少ない。そこで、本研究では、2010年に実施された白鳳丸のKH-10-02次研究航海での日本海における生体活性微量金属の鉛直分布を調査する。
  • 中村 祥平, 本多 照幸
    セッションID: 2P04
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/09/01
    会議録・要旨集 フリー
    本研究では、鉛210放射能やランタノイド等微量元素の定量を通じて、大和海嶺及び大和海盆海底堆積物の起源並びに堆積環境を解明するこを目的とした。その結果、大和海嶺堆積物は島弧起源物質を多く含んでおり、大和海盆堆積物よりも生物活動の影響を受けていると考えられ、一方、大和海盆堆積物は大陸起源物質の寄与が大きく、生物活動の影響を余り受けていないことが示唆された。
  • 関谷 朋子, 村松 康行, 安齋 博哉, 松本 良, 戸丸 仁, 相沢 省一
    セッションID: 2P05
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/09/01
    会議録・要旨集 フリー
    海底堆積物中には塵や火山灰、プランクトンの死骸などが堆積している。それらの化学組成を調べることで、過去の堆積環境についての情報が得られる。また、新しいエネルギー源として注目されているメタンハイドレート産出地域における間隙水中には、ヨウ素が非常に高濃度で含まれており、ヨウ素とメタンの間には何か関係性があると考えられる。本研究では、日本海のメタンハイドレート産出地域で採取された海底堆積物及び炭酸塩ノジュールに注目し、加熱分離法を用いて、Cl、Br、Iの分析を行った。また、得られた分析結果をもとに海底面からの深度分布をみるとともに、間隙水の濃度との関係を検討した。
  • 岡部 宣章, 蒲生 俊敬, 小畑 元, 川口 慎介, 武田 重信
    セッションID: 2P06
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/09/01
    会議録・要旨集 フリー
    ヨウ素は、その他のハロゲン元素とは異なり海水中よりも海底堆積物間隙水中に多く含まれていることが過去の研究から知られている。これは、海水中のヨウ素が生物による濃縮を経て海底に堆積したためであると考えられている。また、ヨウ素はヨウ化メチルやI2として海洋から大気中へ放出される。海洋中のヨウ素濃度のバランスは、このような放出と地殻を構成する火成岩などが風化することによる流入によって成り立っていると考えられてきた。しかし、近年の研究で火成岩や変成岩に含まれているヨウ素の量は、当初考えられていたよりも少ないことが分かってきた。そのため、ヨウ素の海洋への別の供給源として海底熱水系に注目した。海底熱水系の中には、ヨウ素を多く含む堆積物の中を循環するものがあり、海洋中のヨウ素に与える影響は大きいと考えられる。 本研究では、ボルタンメトリーによってI-、ポーラログラフィによって IO3―、及びICP-MSによってTotal Iodineの分析を行いつつある。
  • 大森 恵理子, 高橋 嘉夫, 柏原 照彦, 横山 由佳, 三好 陽子, 川口 慎介, 石橋 純一郎
    セッションID: 2P07
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/09/01
    会議録・要旨集 フリー
    モリブデン(Mo)およびタングステン(W)はともに6族の同族元素であり、類似の化学的挙動を示すと考えられているが、現在の海洋中の溶存濃度はMoに比べWが著しく小さい。これは、海水中の微量元素の溶存濃度が鉄-マンガン酸化物などへの吸着平衡により支配されるので、鉄-マンガン酸化物に対して吸着しやすいWは海水中から除去されるが、吸着しにくいMoは溶解しやすいためであると考えられる。一方、地球初期の還元的な海洋では硫化物への吸着が海洋の微量元素の濃度を支配していた可能性が高い。このような系では、硫化物に吸着しやすいMo は海水中から除去される一方、硫化物と吸着しにくいW は溶解し易いと予想される。しかし、還元的な海洋でのMoおよびWの溶解性については充分な研究が無く、不明な点が多い。そこで本研究では、還元的な海洋を想定した系での吸着実験を行い、還元的環境でのMoおよびWの分配挙動の解明を試みた。さらに、沖縄トラフ伊是名海穴の海底熱水噴出孔付近で採取したコアを分析することで、天然でのMoおよびWの固液分配とその吸着形態を調べ、室内実験との比較を試みた。
  • 天川 裕史
    セッションID: 2P08
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/09/01
    会議録・要旨集 フリー
    北西太平洋のパレスベラ海盆で採取したマンガンクラストのNd同位体比の時代変化を求め、鉛同位体比の時代変化との比較を行った。鉛同位体比は600万年前から200万年前にかけて系統的な変化を示すのに対し、Nd同位体比は同期間ほとんど変化を示さなかった。Nd同位体比の結果は、この海域の深層水の循環にはこの期間大きな変化はなかったことを意味する。従って、鉛同位体比の変化は深層水の循環の変化によるものではなく、陸域から供給される鉛の量の変化ないし供給源の地理的な変化によるものと考えられる。
セッション6 水―岩石相互作用:水質形成~CO2地中貯留
  • 小澤 晃子, 杉山 和稔, 佐藤 文孝, 畠山 善弘, 佐藤 久夫, 上田 晃
    セッションID: 2P09
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/09/01
    会議録・要旨集 フリー
    多量のCO2を含む地下水や温度の高い地熱水の採取に適したサンプラーを開発した。200ml体積の主要化学成分分析用流体セルと、CO2濃度分析専用の小型セル、結晶成長評価試験用セルよりなる。このサンプラーは、孔口からキャピラリーチューブを通してサンプラー内の圧力を調整しながら流体を採取する。本装置は、210℃、10MPaの深部流体を、フィードゾーン毎に気液分離を起こさないで採取することが可能である。
  • 佐藤 龍也, 上田 晃, 海江田 秀志, 三戸 彩絵子
    セッションID: 2P10
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/09/01
    会議録・要旨集 フリー
    本研究はCO2を地下の高温領域へ注入し,岩石とCO2を反応させ炭酸塩鉱物等として固定化するシステムの基盤技術の開発を目標としている。この中で,貯留層におけるCO2-水-岩石反応を考慮した熱水流動解析を行う事で,CO2の鉱物固定域の分布や規模,時間等を予測すると共に,地下のCO2固定システムの設計を行う事を目的にシミュレーション技術の開発を行った。 本研究において平成18~20年度にかけて雄勝高温岩体試験場で原位置試験が行われた。試験ではOGC-2井にトレーサーと共にCO2水(ドライアイス+水)を注入し,坑内において方解石が成長する様子が確認された。この試験結果をシミュレーションで再現すると共に、実用サイズ(注入量1万t-CO2/年)を想定したモデルスタディーを行った。
  • 戸高 法文, 阿島 秀司, 許 天福, 上田 晃, 小澤 晃子, 三戸 彩絵子
    セッションID: 2P11
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/09/01
    会議録・要旨集 フリー
    ジオリアクター研究(地下高温域でのCO2の流動と化学反応による鉱物固定に関する研究)は,地温勾配の高い我が国の特徴を活かし,CO2が岩石との化学反応により炭酸塩鉱物として固定される反応を加速させることによる新規のCO2貯留方法の開発を目的として,富山大学,京都大学,三菱マテリアルテクノ,地熱技術開発,電力中央研究所と共同で実施している。平成18年度から20年度にかけて, RITEの研究開発として,「ジオリアクターによる排ガス中CO2の地中直接固定化技術開発」が実施され,雄勝花崗閃緑岩とCO2溶解水を反応させる室内試験が行われた。これらの試験結果を基にTOUGHREACTを用いた地化学シミュレーションが実施され,様々な条件(温度,CO2濃度,岩石粒径等)で実験結果を再現する最適な地化学パラメータを取得した。高温地域における二酸化炭素地中貯留の対象候補としては,花崗岩類のほかに,玄武岩,安山岩等も考えられる。特に玄武岩はカルシウム含有率が高く,炭酸カルシウムの生成による二酸化炭素固定がより多く期待できる。ここでは,雄勝花崗閃緑岩との反応により取得された地化学パラメータを基に,玄武岩,安山岩とCO2溶解水を反応させる地化学シミュレーションを行い,雄勝花崗閃緑岩の場合との挙動の違いを比較検討し,貯留層岩石の違いによる炭酸カルシウム生成速度,沈殿量の違いについて検討した。解析結果は以下の通りまとめられる。‹BR›(1) 200℃,150℃,100℃のすべての温度条件において,同じ温度条件で比較すると,玄武岩,安山岩,花崗閃緑岩の順に方解石の沈殿量が多く,沈殿開始時期も早い結果となった。これはカンラン石,輝石類の含有の有無及びその量比が関係していると考えられる。‹BR›(2) 玄武岩,安山岩,花崗閃緑岩とも,同じ岩石条件で比較すると,温度が高いほど方解石の沈殿量が多く,沈殿開始時期も早い結果となった。100℃の計算(30日間)では,いずれの岩石においても方解石が沈殿しなかったが,200日間の計算では,玄武岩において約90日目から方解石が沈殿している。低温条件でも時間をかければ方解石の沈殿は進むと考えられる。
  • 上田 晃, 柴田 知之, Python Marie, 芳川 雅子, 佐藤 務
    セッションID: 2P12
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/09/01
    会議録・要旨集 フリー
    オマーン地域には、山岳地帯に高アルカリ泉(pH11.5 程度)が多数湧出している。2009年12月にオマーン北部地域の地下水や河川水を、30試料採取し、それらの主要化学成分とH・O・Sr同位体分析を行った。δD値は、-5~+17‰、δ18O値は、-3~+1‰と、これまで報告されている地表水として、世界でも高い値を示した。
セッション10 地球化学と生理学の融合:生体プロセスの研究から地球化学へ
  • 奥野 峻徳, 山田 桂大, Gilbert Alexis, 李 娜, 吉田 尚弘
    セッションID: 2P13
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/09/01
    会議録・要旨集 フリー
    植物中の代謝化合物の炭素安定同位体比と代謝反応に伴う同位体分別は、植物中の代謝経路の解明に有用であると考えられている。アミノ酸の分子内炭素安定同位体比の測定法を開発すれば、タンパク質を構成するアミノ酸へ応用し、アミノ酸のペプチド合成に伴う同位体分別を求めることも可能と考えられる。本研究では、植物試料への応用を見据え、アラニンCH3CH(NH2)COOHの各炭素について分子内炭素安定同位体比の測定法を開発する。
  • 李 娜, 山田 桂大, 服部 良太, 柴田 裕樹, gilbert alexis, 吉田 尚弘
    セッションID: 2P14
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/09/01
    会議録・要旨集 フリー
    Intramolecular isotopic signatures within molecules record a wide range of phenomena in the chemical, biological, environmental, and earth sciences. Acetaldehyde is an important metabolic intermediate in biological systems. Here, we report an on-line method for intramolecular carbon isotopic distribution analysis (HS-SPME-GC-Py-GC-C-IRMS) of acetaldehyde, which is suitable for studying subtle changes in intramolecular isotopic distribution analysis due to natural process.First, certified values were determined for several reagents by sealed-tube pyrolysis and chemical oxidation methods for development of HS-SPME-GC-Py-GC-C-IRMS. Next, this method was applied to samples collected from chamber in which plants were grow in. The results shown that the intrmolecular 13C of acetaldehyde emitted from plants was influenced by environmental factors, such as temperature, sunlight or humidity. These results suggest that environmental factors influence the fluxes related to acetaldehyde metabolism in plants, which gives us new insights into plant metabolic pathways and potentially plant-atmosphere interactions.
  • ニッマンウヂポン タリン, 山田 桂大, 吉田 尚弘, 角川 修
    セッションID: 2P15
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/09/01
    会議録・要旨集 フリー
    The measurement of stable isotope ratios of organic compounds in foods and drinks has been useful not only for the assurance of authenticity, the detection of adulteration and the inference of geological origin but also for clarification of relationship between metabolism of organism which produce metabolites and environments in which the organism grow. Tea is the most important beverage product in Japan, China, and some other Asian nations, because of the good taste and feeling relax when people drink. This is the effect of many amino acids in tea leaves and the special one of these is “theanine”. Theanine is an amino acid which can originally be found in tea leaves. Except from this original source, it hardly found in any plants or just a small amount in only mushrooms. Therefore, isotope ratio of Theanine in tea leaves will potentially become unique indicator for environmental factors and/or metabolism in tea leaves. Here we developed the method for determination of isotope ratio of theanine in tea leaves. First we determined certified delta values of Theanine reagents purchased from several companies. Next we examined separation method of theanine by using HPLC.
  • 中村 英人, 沢田 健, 加納 千紗都, 白岩 善博, 鈴木 石根
    セッションID: 2P16
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/09/01
    会議録・要旨集 フリー
    Emiliania Huxleyi をはじめハプト藻綱イソクリシス目に属する4種の微細藻類は炭素数37-40からなる長鎖不飽和アルキルケトン(アルケノン)を合成し,その不飽和比が生育温度に規定されるためアルケノン不飽和指数(UK37 , UK’ 37)が設定され,古海洋・古気候研究において古水温指標として応用されている。アルケノン組成や水素安定同位体比を用いた塩分指標も提案されている。地球化学的指標としての応用が進む一方で,アルケノンの合成経路や生理学的機能についてはかなりの部分が未解明であり,現在,生合成経路の解明にむけた植物生理・分子生物学的研究が始まろうとしている。本講演では,アルケノンの生理学的研究のこれまでと,生合成の解明に期待される地球化学的視点について述べ,予察的成果を報告する。
セッション14 同位体効果研究の地球化学への応用
  • 服部 祥平, ジョンソン マシュー, シュミット ヨハン, フォレキャスト ロズリン, ダニエラチェ セバスチアン, 吉田 尚弘
    セッションID: 2P17
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/09/01
    会議録・要旨集 フリー
    コペンハーゲン大学が有する大気光化学リアクターを用いた、OCS 同位体分子種とO(3P)ラジカルの反応実験に関して報告する。この反応はOCS の大気消失反応として3番目に重要とされており、成層圏では約20%の寄与を持つ。
  • 荒岡 大輔, 西尾 嘉朗, 真中 卓也, 牛江 裕行, ザキール ホサイン, 鈴木 淳, 川幡 穂高
    セッションID: 2P18
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/09/01
    会議録・要旨集 フリー
    リチウム(Li)は、比較的流体相に分配されやすい元素である。加えて、Liは2つの安定同位体(6Liと 7Li)をもち、その相対質量差の大きさゆえに、Liの安定同位体比である7Li/6Li比は、変質や風化等の水を媒介してLiが動く際に大きな同位体分別が起きる。そのため、Li同位体比は水・岩石反応の指標として注目を集めている。中でも、河川水のLi同位体比は風化反応の指標としての可能性が期待されている(Kisakurek et al., 2005など)。例えば、ケイ酸塩中でMgイオンを置換することで Liは6配位であるのに対して、水溶液中では4配位である。そのため、岩石中のLiは水より高配位である故に、一般的には岩石に比べて共存する水の7Li/6Liは高い。上記から、Li濃度や同位体比は、温度や流量による風化量の変遷や、河川が流れる地質の違いを反映しているのではないかと考えられている。このように、新しい大陸風化の研究ツールとして期待されるLi同位体指標であるが、河川水中のLiは数ppb から数百pptレベルと低Li濃度であるために研究は遅れていた。近年の分析機器の進歩により、数nmolと極微量のLiの高精度同位体比測定が可能になったため(西尾嘉朗, 2010)、河川水等の極めてLi濃度の低い水試料のLi同位体比の報告が2005年頃から急激に増加してきている。 そこで、本研究では、河川水中のLi濃度および同位体比の規定要因を明らかにするために、世界的な大河川であり、かつ河川毎に異なる成因・地質的背景をもつガンジス・ブラマプトラ水系を例に研究を行った。2011年1月の乾季にガンジス・ブラマプトラ・メグナ川のバングラデシュ国内における上・中・下流域において採水を行った。これらの水試料の各種元素濃度、Li及びSrの同位体比を測定し、考察を行った。LiとSrの同位体測定は、高知コアセンターの分析システムを利用した。特にLi同位体測定に関しては、4ng以上のLiを± 0.3‰ (2SD)の誤差と、世界でも最高レベルの微量Liの高精度同位体比分析が可能となっている。今後は、流量や温度が異なる雨季においても同様の採水、測定を行い、河川水中のLi同位体比指標の確立を目指す。
セッション13 宇宙惑星化学1:初期太陽系円盤の宇宙化学
  • 伊藤 正一, サイモン スティーブン, グロスマン ローレンス, 圦本 尚義
    セッションID: 2P19
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/09/01
    会議録・要旨集 フリー
    本講演では,部分溶融を経験している二つのTypeB CAI(Golfball, TS34)の酸素同位体組成及びAl-Mg同位体組成を組み合わせ,部分溶融による鉱物アイソクロンへの影響を議論する.これまで,分析精度の制約により,低いAl-Mg比をもつ鉱物のアイソクロンは不明瞭であったため,本研究では,二次イオン質量分析計による高精度局所同位体分析により,結晶化時期が異なると考えられている低いAl/Mg比をもつ各鉱物のアイソクロンを含めた鉱物アイソクロンを議論し,CAIの部分溶融と年代の関係を議論する.
  • 明星 邦弘, 横山 哲也, 佐野 有司, 高畑 直人, 杉浦 直治
    セッションID: 2P20
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/09/01
    会議録・要旨集 フリー
    太陽系進化のモデルを構築する上で、物質科学的に最も劇的な変化があったとされる初期太陽系の年代学を研究するということは重要である。その中でも太陽系で最初に凝固したといわれるCAIは太陽系で最も古い年代を示す物質として注目されている。本研究では、2つの短寿命核種系、10Be-10B系と26Al-26Mg系を利用し、COコンドライト中のCAIメリライトの年代測定を行った。また、COコンドライトの構成要素は極めて微細なため、NanoSIMSを用いることで分析を実現した。
    本研究の結果からBe-B年代法は新たな年代学的トレーサーとなりうる可能性が示された。しかし、Be-B年代法にはAl-Mg年代法に比べ実験上での問題を有しており、それに対する課題、解決案を考察する予定である。
  • 森 智比古, 横山 哲也
    セッションID: 2P21
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/09/01
    会議録・要旨集 フリー
    Pb-Pb年代測定法は、Pb同位体比のみを測定することで年代を求めることができ、高精度の絶対年代を得る方法としてよく利用されている。Pb同位体比を測定する際の問題点として、装置内での質量分別が挙げられる。質量分別を補正する方法として、ダブルスパイク法やゼロ時補正法が用いられる。ただし、これらの補正法はPbが「理想的な質量分別」に従って同位体分別を起こしていることが前提となっている。しかし実際には、Pb同位体比測定において分析装置内で理想的な質量分別法則に従わない「異常な質量分別」が生じることがある。本研究ではPb標準試料であるNIST981を、TIMSを使用して様々な条件で複数回測定したところ、理想的な質量分別線とは異なる傾きで分別する「異常な質量分別」が確認された。NIST981の測定結果から、TIMS中でPbが理想的な質量分別を起こす条件を議論するとともに、ゼロ時補正法を使用して天然試料のPb-Pb年代を求める予定である。
  • 渡辺 龍哉, 横山 哲也
    セッションID: 2P22
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/09/01
    会議録・要旨集 フリー
    年代測定法のひとつであるPb-Pb法ではconsensus value:238U/235U = 137.88が適用されているが、近年の分析技術の向上により238U/235Uに若干の変動が確認されるようになった。本研究では表面電離型質量分析計(TIMS)を用いて産業技術総合研究所の岩石標準試料の238U/235Uを測定した。質量分別の補正はTotal Evapolation法に依った。
    測定により火成岩各種においてconsensus valueからの変動が確認され、さらに堆積岩においては火成岩からの変動が確認された。238U/235Uの変動が確認されたことにより、これまでPb-Pb法により求められた各CAI年代の絶対値が修正される可能性が示唆された。
  • 深海 雄介, 横山 哲也
    セッションID: 2P23
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/09/01
    会議録・要旨集 フリー
    隕石中に存在する元素合成起源の同位体異常を研究する際に、最も有用な元素の一つがテルル(Te)である。本研究では、プレソーラー粒子やCAI中の微小量Te同位体分析を行うことを目的として、負イオン表面電離型質量分析法(N-TIMS)を用いたTe同位体分析法の開発を行った。試薬によるテストの結果、200pgのTeに対しイオンカウンティングを使用した同位体比測定の繰り返し再現性(2 SD)はそれぞれ、120Te/128Teが約12‰、122, 123Te/128Teが約5‰、126, 128, 130Te/128Teが約2‰程度が得られた。本発表ではこれまでに得られた岩石標準試料及び始源的隕石のバルク測定結果について議論する。
  • 奥井 航, 横山 哲也
    セッションID: 2P24
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/09/01
    会議録・要旨集 フリー
    太陽系を考える上で初期太陽系が同位体的に均質であったか、または不均質であったかという問題は非常に重要な意味を持っている。しかし初期太陽系が同位体的に均質であることを支持する論文がある一方で、初期太陽系が同位体的に不均質であることを支持する論文も発表されている。Srは親石性の難揮発性元素である。本研究で、8種類の隕石試料の全岩Sr同位体比を求めたところAllende隕石がSr同位体異常を示した。
  • 高橋 宏和, 横山 哲也
    セッションID: 2P25
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/09/01
    会議録・要旨集 フリー
    本研究では始原的な隕石に含まれるNdの同位体比を表面電離型質量分析計(TIMS)を用いて超高精度(分析誤差5ppm)で測定することを目標とし、分析法の開発を行った。まず陽イオン交換樹脂を用いて主要成分元素、特にFeを除去し、軽~中希土類元素を回収した。次に抽出クロマトグラフィー樹脂(Ln.sepc)を用いてNdをCeおよびSmから分離することを試みた。実際に岩石試料(JB-3)を用いて分離を行ったところ、Ceが0.98%共存することが分かった。そのためLn.specによるカラム分離を2回行いTIMSを用いてNd同位体比を測定したが、Ceの分離が不十分であり、測定誤差が40ppmを超えた。現在、陽イオン交換樹脂とHIBA(α-hydoroxy isobuteric acid)を用いた分離を組み合わせることで、上記問題の解決を図っている。講演では実際に本手法を用いて行った隕石試料の高精度Nd同位体分析についても議論する。
セッション15 宇宙惑星化学2:微惑星形成期から46億年の太陽系史
総会
受賞講演
口頭発表(第三日目)
セッション17 水圏環境地球化学
<佐竹洋先生記念シンポジウム>(3A01~3A08)
  • 溝口 俊明, 張 勁, 中邑 巌, 松本 卓大
    セッションID: 3A01
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/09/01
    会議録・要旨集 フリー
    富山県の豊富で清浄な地下水は、生活用水や工業用水として県民の生活基盤を支えている貴重な財産である。しかし、冬期間における消雪装置の利用の増加により短時間に地下水位が低下するなどの新たな問題が出現している。そのため本研究では、地下水観測井から得られたデータ(水質変化・水位変化)をもとに、冬期間における地下水環境の変化を把握することで、地下水利用による障害発生の未然防止につなげることを目的とした。
  • 丹下 佑芙子, 木下 真孝, 成田 尚史, 張 勁
    セッションID: 3A02
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/09/01
    会議録・要旨集 フリー
    富士山は, 静岡県と山梨県の県境に位置する標高 3776 mの活火山である. 富士山の総降水量は年間22億トンであり(山本, 1971),富士山は, それらを起源とした豊かな地下水資源を有しており,山麓には, 北部の富士五湖や忍野八海,東部の平山水源湧水,南部の柿田川湧水群や西部の白糸の滝やなど数多くの湧水群が点在している. しかし, 三島市では, 高度成長期以降地下水位の低下や湧水を集め流れる河川水の水質悪化等が報告され, 湧水を取り巻く状況も大きく変化しつつある. そこで本研究では, 富士山麓の湧水の水質測定を通して, 人類活動の影響に着目して考察を行なった.
  • 嶋田 純
    セッションID: 3A03
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/09/01
    会議録・要旨集 フリー
    我が国のように地形起伏が大きく,温帯湿潤気候条件下に属するため水循環のフラックスが大きい地域では,相対的に低い透水性の山体基盤岩中においても,渇水比流量程度の涵養量をもつ地下水の存在が予想される.本研究ではわが国に広く分布する火山岩地帯(特に火砕流、溶岩等から構成される地域)岩盤地下水を対象に,分水嶺から沿岸部までの1つの流域規模での地下水の3次元的流動状況の把握を行い,その実態を解明した.
  • 中川 書子, 鈴木 敦之, 大山 拓也, 小松 大祐, 角皆 潤, 梅田 信, 柴田 英昭, 小畑 元, 田副 博文
    セッションID: 3A04
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/09/01
    会議録・要旨集 フリー
    硝酸態窒素の起源推定や動態解析に有用なトレーサーである溶存硝酸の窒素および三酸素同位体組成を定量し,調査流域における窒素の起源や窒素循環を解析する方法を発表する。その方法とは、水環境中の硝酸の△17O値を定量することで水塊内の全硝酸に占める大気沈着硝酸の混合比を定量化し、さらに全硝酸のd15N,d18O値から大気沈着分のd15N,d18O値を差し引くことにより再生硝酸のd15N,d18O値を求める方法である。
  • 栗林 貴範, 赤池 章一, 門谷 茂, 南川 雅男
    セッションID: 3A05
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/09/01
    会議録・要旨集 フリー
    北海道上ノ国町において硫安添加を実施し、生息する海藻類のTNおよびδ15Nから添加の影響を把握することを目的に調査を行った。DIN濃度は、添加後に添加区周辺でNH4-N濃度が増加した。ウニ類の除去による海藻類繁茂試験では、添加区を中心に海藻類が繁茂したが、コンブは繁茂しなかった。コンブ幼体の生長試験では、添加区のコンブは添加区以外のそれよりも顕著に大型化した。これらの海藻類のTNおよびδ15Nを添加前後で比較すると、添加区の海藻類のTN は添加後に増加し、添加区以外に分布する海藻類より高い値を示した。δ15Nは、添加後に添加区の海藻類で大きく変化し、添加硫安に近いかそれよりも低い値を示した。以上から、硫安添加により添加区のDINの主体がNH4-Nに変化し、添加区の海藻類が同位体分別を起こしながら高濃度のNH4-N を取り込み生長していることが示唆された。
  • 中屋 眞司
    セッションID: 3A06
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/09/01
    会議録・要旨集 フリー
    地下水中の環境同位体のうち、涵養・流動のトレーサーとなる酸素と水素の安定同位体比、および地下水年代トレーサーとなるクロロフルオロカーボン類(CFCs)を用いた広域な地下水流動経路の可視化の方法について述べる。トレーサーを組み込んだモデルを松本盆地南半の地下水系に適用した結果、浅層地下水系および深層地下水系について、各々、9経路が分離された。CFCから測定された浅層地下水系の滞留時間は20~30年で、各経路の水の移動時間を推定すると100~300m/年のオーダーとみられた。
  • 森川 徳敏, 風早 康平, 戸崎 裕貴
    セッションID: 3A07
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/09/01
    会議録・要旨集 フリー
    地下水の年代測定手法については,いまだ開発段階,モデル依存性が高いのが現状である.深層地下水においは,‹SUP›14‹/SUP›C(半減期5730年)も検出されないほどの非常に古い(数万から数十万年以上)地下水に適用出来る手法が求められており, ‹SUP›4‹/SUP›Heおよび‹SUP›36‹/SUP›Clが有望視されている.本発表では,ヘリウム及び放射性塩素を使った事例として,大阪平野深層の高塩濃度地下水について,地下水中のヘリウム同位体比(‹SUP›3‹/SUP›He/‹SUP›4‹/SUP›He)および,‹SUP›36‹/SUP›Cl/Clの空間分布から示唆される地下水年代分布の傾向と地下水流動状態について紹介する.
  • 鈴木 啓助, 高橋 広樹
    セッションID: 3A08
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/09/01
    会議録・要旨集 フリー
    降雪粒子は、雪を降らせる気象条件や雲中および雲底下でのエアロゾルの存在によって、多様な化学的性質を示す。それらの降雪時の化学的性質は、積雪となってからも、ザラメ化の過程を経なければ、そのまま保存される。つまり、冬型の気圧配置時に降ることが多い海塩起源物質濃度の高い降雪や、南岸低気圧時に降ることが多い人為起源の酸性物質濃度の高い降雪などが、そのままの濃度・組成で積雪層を形成維持する。そのために、積雪中における化学物質濃度の鉛直分布は、化学物質ごとに異なる様相を呈する。しかしながら、積雪粒子がザラメ化すると、その時には積雪粒子で化学物質の析出が進む。ザラメ化した層に積雪表面から融雪水が流下すると、融雪水が積雪粒子表面に析出した化学物質を選択的に溶かし込むために、融雪水中の化学物質濃度は高くなる。特に、融雪初期の融雪水は極めて高濃度となり、さらにはpHの低い酸性の融雪水となる。一方、融雪の進行とともに、積雪層中の化学物質濃度は次第に減少していくこととなる。ここでは、北アルプス乗鞍岳の東側に位置する乗鞍高原のふたつの標高地点において、積雪全層を数日間隔で採取分析することにより、大気から積雪への沈着量や融雪過程に及ぼす標高の影響を検討した。
  • 的場 澄人, 佐々木 央岳, 白岩 孝行
    セッションID: 3A09
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/09/01
    会議録・要旨集 フリー
    近年行われた海洋への鉄散布実験の結果、北部北太平洋域の東西両海域において、鉄は一次生産の制限要因として重要であることが明らかになった。鉄の供給源については、下層からの鉛直的な供給と春先の黄砂の飛来によって大気を通してもたらさせる鉄フラックスの寄与が大きいと考えられているが、その寄与率について定量的な議論が十分なされていない。本研究では、アラスカの山岳氷河アイスコアから大気由来鉄の沈着量の経年変化を推定し、雪氷試料を用いた実験から黄砂から降水中に溶解する鉄量を求め、大気中の黄砂が海洋に湿性沈着したときに短期間で海洋環境に与えるインパクトを評価した。その結果、アイスコアから推定した鉄の年間沈着量は1993から2003年の平均で9.3 mg/m2 yrだった。アイスコアおよび札幌の積雪中に含まれる鉄の溶解度はそれぞれ10%,1.2%だった。
  • 堀 真子, 游 鎮烽, 鍾 全雄
    セッションID: 3A10
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/09/01
    会議録・要旨集 フリー
    本研究では、ヒ素のトレーサー元素として、河川水のリチウムに着目し、河川で発達する炭酸塩堆積物トゥファの元素分析を行った。河川水中のリチウムは、陸域の化学風化速度の指標になるとして注目されており、河川水中のヒ素がリチウムと同様の化学風化過程を経て炭酸塩堆積物に記録されるならば、リチウムの分別過程からヒ素の輸送過程を見積もることができると期待できる。本研究では、実験的に求められているリチウムの水と鉱物間の分配係数を用い、トゥファ堆積場でのリチウムの輸送過程の季節変化を論じる。これから、ヒ素の供給源と輸送過程について考察する。
  • 渡辺 勇輔, 東郷 洋子, 高橋 嘉夫
    セッションID: 3A11
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/09/01
    会議録・要旨集 フリー
    タリウム(Tl)は殺鼠剤や農薬に使用されていた重金属元素であり、非常に高い毒性を持つが、その天然環境中での存在形態や挙動は未解明である。本研究では固相、液相それぞれでのTlの化学形態をXAFS及びHPLC-ICP-MSを用いて決定することで環境中での分配挙動の解明を目的としている。本研究では土壌にTlを添加した室内実験と、実際にTlの汚染が報告されている天然試料の測定を組み合わせることで詳細な分配挙動の解明を試みた。測定の結果、高濃度に汚染された環境では大部分が1価(Tl(I))として存在していたが、低濃度の環境では3価(Tl(III))の割合が高いことが分かった。これは天然環境中にTl(III)と安定な錯体を生成する有機物が存在していることを示唆する。
  • 秦 海波, 朱 建明, 梁 良, 高橋 嘉夫, 鄭 黎榮
    セッションID: 3A12
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/09/01
    会議録・要旨集 フリー
    セレン(Se)は生態必須元素であり、生物にとって重要な微量元素である。Seの溶解性、易動性、生物利用性や毒性はその化学形態に強く依存する。本研究では中国、Enshi地域のSe汚染土壌中のSeの化学形態を、段階抽出実験(F1: water soluble (MQ water), F2: ligand exchangeable (P-buffer), F3: organic matter (NaOH), F4: elemental (NaSO3), F5: acid soluble (CH3COOH), F6: sulfide (CrCl2), F7: residue (HNO3+HF+H2O2)とXAFSを用いて測定し、より詳細な生物利用性や他の地球化学的挙動の解明を行った。測定の結果、Seは有機物中に多く存在し、その多くが4価として存在することが明らかになった。
セッション17 水圏環境地球化学
  • 岡林 克樹, 益田 晴恵, 篠田 圭司, 三田村 宗樹, 前田 俊介, 岡崎 香生里, 下中 智美, 高橋 嘉夫
    セッションID: 3A13
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/09/01
    会議録・要旨集 フリー
    堆積物に固定されているヒ素の地下水中への溶出過程を追跡するためにヒ素を含む鉱物の特定とヒ素の形態別分析手法の検討を行なった.試料としてヒ素汚染地下水の出現地域であるパキスタン・パンジャブ地方から得られた黄鉄鉱を含まない堆積物を用いた. 堆積物試料をHClとNaOHでpHを段階的に調整した溶液とともに,テフロン遠沈管に入れ,振とうしてヒ素を溶出させた.ろ過した上澄み液をHNO3で酸性に調整した後に,ICP-MSを用いて総ヒ素溶出量を標準添加法で測定した.Hを変えると特定の鉱物に含まれるヒ素を選択的に取り出せると判断した.
  • 前田 俊介, 益田 晴恵, 三田村 宗樹, 岡林 克樹, Ashraf Ali Seddique
    セッションID: 3A14
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/09/01
    会議録・要旨集 フリー
    ヒ素汚染地下水が拡大を続けているアジア諸国の中でも,ガンジスデルタ流域は深刻な健康被害が多発し続けている.この地域の地下水ヒ素汚染の発生メカニズムは,微生物活動による地下水の還元に伴う鉄酸化鉱物の分解とそれに吸着したヒ素の溶出だと信じられている.しかし,バングラデシュ,ダッカ東部にあるショナルガオで,私たちは活発な地下水涵養域における好気的地下水環境で高濃度のヒ素汚染地下水が形成されることに気付いた.この涵養域でのヒ素汚染地下水は,ヒ素汚染発生の最初期の観察ができるので貴重である.本研究では2010年9月と12月に採水した涵養域の井戸水と,最もヒ素濃度の高い地点で5m,10m,15mの3深度でボーリング掘削をして採水した井戸水を分析して得られた結果に基づいて,ヒ素の地質体から地下水中への溶出過程ついて述べる.
  • 益田 晴恵, 前田 俊介, 岡林 克樹, 三田村 宗樹, 中屋 眞司, 森川 徳敏
    セッションID: 3A15
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/09/01
    会議録・要旨集 フリー
    バングラデシュ・ショナルガオのヒ素汚染地下水出現地域の活発な地下水涵養域の地下水の年代測定をヘリウム同位体とCFC類を用いて行った。その結果,もっとも高濃度(1.2mg/L)のヒ素を含む地下水の年代がもっとも若く1980年代前半であった。1970年代より以前に涵養された地下水のヒ素濃度は低い傾向がある。また,高濃度のヒ素汚染地域の地下には,不透水層である粘土層が欠如しており,ヒ素汚染された完新世の帯水層と下位の更新世の帯水層が直接接している。これらの結果から,この地域のヒ素汚染地下水は,更新世の帯水層からの揚水が増加した1980年代以降にほぼ鉛直に浸透した地下水の流動に伴って好気的な環境で発生したものと考えられる。ただし,ヒ素濃度の高い地下水が集中する地区の地下水は,古くてもヒ素濃度が高いことから,ヒ素の溶出には地域的な規制も受けていると判断された。
feedback
Top