認知心理学研究
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7 巻, 2 号
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原著
  • 村上 嵩至
    2010 年 7 巻 2 号 p. 79-88
    発行日: 2010/02/28
    公開日: 2010/11/25
    ジャーナル フリー
    視角の異なるNavon刺激を用いて,観察者の注意の焦点が,否定的気分によって,これらの刺激に含まれる小さな局所的特徴に合わせられ,肯定的気分によって,大きな大域的特徴に合わせられるという仮説を検証した.気分操作には,音楽あるいは絵本を用い,72名の実験参加者には,気分を操作する前と操作した後とで,各刺激に対して局所と大域のどちらの特徴がはっきりと印象深く見えたかを尋ねた.刺激が大きいほど局所への反応は増すことから,局所への反応数をもとに,大域への反応が局所への反応に取って代わる,すなわち閾値となる刺激の大きさを決定した.結果として,否定的気分時にはその閾値の低下がみられたが,肯定的気分時には閾値に変化はみられなかった.これらの結果に基づき,肯定的気分の効果は,安定して生じるものでなく,大域的特徴が肯定的な感情価に関係するとき,あるいは大域的特徴がひときわ利用しやすいときに生じるものであり,これに対して否定的気分の効果は,そうした関係性に依存しないと考察した.
  • 上市 秀雄, 楠見 孝
    2010 年 7 巻 2 号 p. 89-101
    発行日: 2010/02/28
    公開日: 2010/11/25
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は,裁判員制度に対する参加意向や要望に,認知・感情要因がどのように影響しているかを明らかにすることである.分析対象者は,20から70歳の成人321名である.その結果,裁判員への参加意向は低く,裁判員に対する不安感やストレスそして裁判員になることのリスクが大きいと認識していることが示された.定職がない人のほうが,定職がある人より,裁判員になることに対して不安感やストレスが大きく,裁判員制度に対して強い要望をもっていることが明らかとなった.また定職のある人は,裁判員制度に関する知識があるが,仕事や職場に迷惑がかかると思っている傾向が高いことが分かった.さらに,定職あり群と定職なし群における要因間の関連性に関しては,1) 不安感→ストレス→後悔予期という感情的プロセスと,2) 裁判員リスク認知→裁判員ベネフィット認知→裁判員コスト認知という認知的プロセスがあることが分かった.さらにこれらプロセスは情報接触量・知識量の影響を受けていた.よって参加意向を高めるためには,裁判員制度に関する知識が重要であることが分かった.
  • 上田 彩子, 廼島 和彦, 村門 千恵
    2010 年 7 巻 2 号 p. 103-112
    発行日: 2010/02/28
    公開日: 2010/11/25
    ジャーナル フリー
    主に顔の形態特徴の情報処理を基に行われる顔認知過程において,表情情報が影響を及ぼすことは,多くの研究で示されている.また,表情認知に性差があることも示唆されている.表情認知における性差が,顔認知過程で表情が及ぼす影響に関与する可能性がある.そこで,本研究では,顔の印象決定において表情が及ぼす影響に性差が認められるかどうか実験的に検討した.刺激の顔の形態変化にはメイク手法を用いた.被験者は,刺激の相貌印象と表情表出強度について評価を行った.その結果,表情認知能力に性差は認められなかったが,相貌印象判断に表情が与える影響は女性のほうが大きいことが示された.
  • Fumio KANBE
    2010 年 7 巻 2 号 p. 113-117
    発行日: 2010/02/28
    公開日: 2010/11/25
    ジャーナル フリー
    本研究の目的はランダム図形中において端点と閉合性のいずれがより検出されやすいかを検討することにあった.そのために新たに検出課題が考案され,実験参加者は単独提示されたランダム図形中に端点/閉合性のいずれか目標として指定された特徴が存在するか不在であるかを判断することが求められた.両特徴を保有する刺激図形の選択が厳格な統制の下に行われた.得られた結果は若干混乱しているように思われた.即ち,閉合性の存在と端点の不在は同一の刺激状態を指すが,目標とする特徴によって異なった検出容易性を示し(検出の非対称性),閉合性検出の構えの方が端点検出の構えよりも有効であり,また特徴を走査することによって検出に至るという仮定は成り立たないように思われた.こうした結果を包括的に説明するために,目標が閉合性の検出であれば閉合性の存在を,目標が端点であれば端点の不在をディフォルトの判断状態とし,そのディフォルト状態に対する破綻が生じるとき急速な反応が出現するという仮説が提唱された.
  • 石幡 愛
    2010 年 7 巻 2 号 p. 119-125
    発行日: 2010/02/28
    公開日: 2010/11/25
    ジャーナル フリー
    SOAオンラインの文処理中に,言及された行為の動作表象が活性化することが示唆されている.それを支持する現象が,文中の動作方向と反応方向が一致する時,反応が促進されるという行為・文適合性効果である.一方で,オンラインの文処理中に後続単語を予測しているとの知見がある.文脈を手がかりとした後続動詞の予測時の適合性効果に関する研究では,目的語直後に方向性のある腕の動作を求める課題を行なったが,予測される動詞方向との適合性効果は生じなかった.本研究は,目的語と反応のGoシグナルとのSOAを操作し,後続動詞を予測した後に反応を求められる場合には,予測される動詞方向との適合性効果が生じるか検討した.その結果,SOAが短い条件では適合性効果は生じず,長い条件では生じる可能性が示唆された.また,SOAが長い条件においては,処理速度が中程度の参加者がACEパターンを示す傾向にあることが示唆された.
資料
  • 山本 晃輔, 野村 幸正
    2010 年 7 巻 2 号 p. 127-135
    発行日: 2010/02/28
    公開日: 2010/11/25
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は,におい手がかりの命名,感情喚起度,および快-不快度が自伝的記憶の想起にどのように影響を及ぼすのかを検証することであった.実験では,118名の参加者に30種類のにおい刺激について,熟知度,感情喚起度,快-不快度の評定と命名を求め,さらに,それらを手がかりとして自伝的記憶の想起が可能であるかどうかを報告させた.記憶が想起された場合には,それについて鮮明度,感情喚起度,快-不快度を評定させた.実験の結果,正しく命名されたにおいは,そうではないにおいよりも熟知度が高く,かつ情動的であった.加えて,感情一致効果がみられた.また,正しく命名されたにおい手がかりによって想起された自伝的記憶は,命名されなかったにおい手がかりによって想起されたそれよりも鮮明でありかつ情動的であった.これらの結果はにおい手がかりによる自伝的記憶の想起において,命名と感情が重要な役割を果たしていることを示唆している.
特別寄稿
  • 市川 伸一, 下條 信輔
    2010 年 7 巻 2 号 p. 137-145
    発行日: 2010/02/28
    公開日: 2010/11/25
    ジャーナル フリー
    ベイズ的な事後確率推定問題の中でも,「3囚人問題」は,とりわけ数学的な解が直観的に理解しにくいことで知られている。我々は,オリジナルの3囚人問題の事前確率を変化させた変形版を提案した.これは,解答者の思考過程や納得のしかたが答えに反映されやすくなるとともに,その規範的なベイズ解は,いっそう反直観的に思えるものである.数理的分析と心理実験を通じて,3囚人問題,とりわけ変形版の難しさがどこにあるのかが検討され,問題構造に関する中間レベルの表象が重要であることを指摘した.また,こうした反直観的な事後確率推定問題を理解するための一つの方法として,数学的に同型な視覚的モデルである「ルーレット表現」を提案した.事後確率を主観的に推定するときの素朴なスキーマやヒューリスティックスの性質と,ベイズ的な推定方法を促すことの可能性について議論された.さらに,これらの研究がどのような意義をもつものかを,近年の関連研究とともに議論していく.
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