嚥下運動ハ之ヲ頬咽頭期及ビ食道期ニ分チ.共ニ古來ヨリ種々研究セラレタルモ.1895年「レ」線ノ發見以來之ヲ應用セル嚥下運動ノ檢索逐次盛トナレリ。初期ニ行ハレタル螢光板像ニヨル觀察ハ、(1) 細部ノ變化ヲ見得ザルコト.(2) 各部タ同時ニ觀察スル能ハザルコト.及ビ(3) 運動速度大ナルトキハ其過程ヲ分解シ得ザルコト等ノ理由ニヨリ.後ニハ專ヲ「レ」線撮影法ヲ以テ研究サレ.全過程ノ或ル瞬間ヲ反覆撮影シテ其變化状態ヲ知ラントセリ。然レドモ斯ノ如キ不完全ナル撮影方法ヲ以テシテハーツノ動作ヲ連續的ニ觀察シ得ズ。又一動作ヲ知ルニ頻回ノ反覆撮影ヲ要スルタメ.更ラニ「レ」線學ノ發達ト共ニ.一定數ノ陰板ヲ順次交換スルコトニヨリテ連續的ニ撮影ヲ行ヒ得ル装置ノ出現ヲ見タリ。當時之ヲ「レ」線活動寫眞撮影法ト命名セラレタルモ.是等ハ眞ノ意義ニ於ケル活動寫眞ニハ非ズシテ.寧ロ「レ」線連續撮影ト稱ブヲ妥當トスベク.所謂「陰板交換装置」ナリ。即チ1回ニ撮影シ得ル陰板數及ビ時間ニ制限アリ.且ツ装置ノ構造上.各陰板間相互ノ時間的間隔大トナリ.運動過程ハ斷裂ヲ免ガレズ。依リテ其後種々改良セラレ漸ク1929年以來Gottheiner, Jacobson, Janker等ニ依リテ.更ニ長時間.然カモ長尺ノ「フィルム」ヲ用ヒテスル撮影方法考案セラレタリ。之ハ一旦螢光板ニ投影セラレタル「レ」線像ヲ活動寫眞ニ撮影スル方法ニシテ從來ノ直接撮影法ニ對シテ彼等ハ之ヲ間接撮影法ト命名セリ。
本邦ニ於テハ名古屋醫科大學河石助教授並ニ同學「レ」線部主任細江技師等ニ依リテ「レ」線活動寫眞撮影法ノ研究進メラレ略々完成ヲ見タリ。嚥下運動ニ關シテハ現今生理學並ニ解剖學ノ教フル所ニ從ヘバ。口腔ニ攝取セラレタル流動體或ハ咀嚼セヲレタル食物ハ先ヅ舌脊ニ載リ舌尖.舌脊.舌根ハ順次口蓋ニ壓シツケラレ.口腔内容ハ咽頭ニ送ラル。食物ノ前口蓋弓ニ達スルヤ兩側ノ前口蓋弓ト高擧セル舌脊トハ互ヒニ引キ寄セラレ.食物ハ前口蓋弓及ビ舌根ノ後方咽頭腔ニ達シ.上.中.下各咽頭收縮筋ノ逐次的作用ニ依リテ更ニ下方ニ推進セラル。此際鼻咽腔閉鎖シテ食物ノ鼻腔内逆流ヲ阻ミ.喉頭入口部モ閉ヂテ誤嚥ヨリ免ガレシム。而シテ喉頭閉鎖ハ次ノ如クニ行ハル。即チ.
(1) 舌骨ノ前上方擧上並ニ甲状舌骨筋ノ作用ニ依リテ喉頭部ハ前上方ニ引カル。
(2) 舌ノ稍々後方ニ引カル、コトニ依リテ會厭軟骨ヲ喉頭入口部ノ上ニ壓シ下ゲ.コレニ依リテ食物ハ同軟骨ヲ越ェテ滑下ス。
(3) 會厭軟骨ハ尚ホ披裂會厭筋.甲状會厭筋ニ依リテ喉頭入口ノ上ニ引キ下ゲラル。
(4) 聲門閉鎖シテ食物ノ喉頭腔内ニ入ルヲ妨ゲラル。
咽頭腔及ビ喉頭入口部ヲ過ギタル食物ガ.中並ニ下咽頭收縮筋ノ附近ニ達スルトキハ該筋ノ收縮ニ依リテ食道内ニ推進セラル。
嚥下運動ノ研究ニ際シテ屡々論議ノ中心トナルハ會厭軟骨ノ機能及ビ食道開口機轉ノ2點ナリ。
會厭軟骨ノ機能ニ關シテハ.現在ニ於テハCzermak, Passavant, Kupferle等ノ言ヘル如ク.其喉頭面ヲ以テ喉頭閉鎖ヲ助ケ.咽頭面ハ食物ヲ其兩側ニ分レシムル役割ヲ演ズルモノトセラルヽモ.食道開口機轉ニ就キテハ諸説紛々トシテ或ハ反射作用ナリト言ヒ.或ハ機械的作用ナリト主張シ未ダ定説タ見ズ。嚥下運動ニ關シテハ陰板交換装置ニ依レル報告2•3アレドモ.各器官ノ運動時間ヲ計測セルモノナク.又間接撮影法ニヨル嚥下運動ノ詳細ナル研究報告ハ未ダ之ヲ見ズ。
此處ニ於テ余ハ間接撮影法ニ依リテ頬咽頭嚥下運動ノ「レ」線活動寫眞ヲ攝影シ.且ツ主要各器官ノ運動時間計測ヲ行ハントシ先ヅHenke分類ニ從ヒテ會厭軟骨ノ形状ヲ異ニセル代表的ノ4例ヲ選ビ.1茶匙ノ硫酸「バリウム」粥ヲ合圖ト共ニ嚥下セシメ115-125KV,40-50m.A.ヲ以テLiossal (Heyden),Giba(東京).或ハPatterson (Siemens)ノ螢光板上ニ投影セル「レ」線像ヲ.Askania (Berlin)工場製ノ活動寫眞機ニC. Zeiss (Jena)製R-Biotar1:08,F=5,5cmノ「レンズ」ヲ装備シ.1秒間8-12齣ノ廻轉速度ヲ以テPankine H(Agfa)ニ撮影シテ.次ノ如キ結果ニ到達セリ。
1. 頬咽頭嚥下機轉ニ關スル余ノ觀察ハ大體ニ於テ現今生理學並ニ解剖學ノ教フル所ニ一致セリ。
2. 頬咽頭嚥下期ハ「バリウム」粥ニ於テハ0.75-1.5秒(平均1.2秒)ヲ要ス。
3. 主要器官ノ運動時間トシテ.舌骨擧上ハ1.2秒.軟口蓋ノ肥厚短縮並ニ披裂軟骨ノ擧上ハ共ニ1秒.咽頭後壁ノ收縮ハ1.1秒.會厭軟骨ノ後傾ハ0.9秒.而シテ食道口ノ開大ハ0.5秒持續ス。
4. 會厭軟骨ハ筋肉ノ收縮.舌根ノ沈下及ビ嚥下物質ノ重量ニ依リテ後傾並ニ後倒シ.Kupferle其他ノ諸家ノ言ヘル如ク.其喉頭面基部ヲ以テ喉頭腔ヲ閉鎖シ.游離端ハ咽頭後壁ニ接シ.且ツ舌面ヲ以テ嚥下物質ヲ其兩側ニ分チテ之ヲ食道口ニ送ル作用アリ。
5. 會厭軟骨ハ其形状ニ種々アレドモ.機能ハ略略同様ニシテ.彎曲強キトキハ其兩脚部ハ互ヒニ密着シテ披裂部ニ接シ.咽頭面ノ左右傾斜角度大トナリテ食物ヲ容易ニ滑下セシムルナリ。

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