行動分析学研究
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36 巻, 2 号
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実践報告
  • 林 詩穂里, 真名瀬 陽平, 藤本 夏美, 松田 壮一郎, 野呂 文行
    2022 年 36 巻 2 号 p. 130-138
    発行日: 2022/03/18
    公開日: 2023/03/18
    ジャーナル フリー

    研究の目的 RIRD (response interruption and redirection)手続きの導入について、RIRD単独条件、RIRD手続きへスクリプト提示を付加した条件、スクリプト提示単独条件、の3条件について独語の減少と適切な音声言語の増加へ及ぼす効果を比較検討した(介入Ⅰ)。介入Ⅰで効果が認められたRIRD手続きへスクリプト提示を付加した手続きの介入者を対象生徒の母親とし、実験室環境での介入条件を導入後、家庭環境における介入条件の導入効果を検討した(介入Ⅱ)。研究計画 ABCDCデザイン(介入Ⅰ)、場面間多層ベースライン法(介入Ⅱ)を用いた。場面 大学内プレイルーム(介入Ⅰ、Ⅱ)及び研究参加児の自宅(介入Ⅱ)での遊び場面を対象にした。参加者 自閉スペクトラム症のある13歳の男子生徒1名だった。介入 (A) BL、(B) RIRD単独条件、(C) RIRD+スクリプト提示条件、(D)スクリプト提示単独条件を導入した(介入Ⅰ)。(A) BL、(B)スクリプト提示単独条件、(C) RIRD+スクリプト提示条件を導入した(介入Ⅱ)。行動の指標 独語、及び適切な音声言語の生起率を部分インターバル法により記録した。結果 介入Ⅰでは、RIRD+スクリプト提示条件で最も独語が少なく、適切な音声言語反応が多かった。介入Ⅱでも大学・家庭両方の場面で、同様の結果が示された。結論 RIRD手続きにスクリプト提示を付加した条件は、RIRD単独条件に比較して、ASD児における独語の減少及び適切な言語行動の増加に効果があった。

  • 松山 康成, 沖原 総太, 田中 善大
    2022 年 36 巻 2 号 p. 139-148
    発行日: 2022/03/18
    公開日: 2023/03/18
    ジャーナル フリー

    研究の目的 本研究では、授業開始時に授業準備行動を行う児童が少ない小学4年生の通常の学級に対して、授業開始時の授業準備行動(話の聞き方と準備物の用意)を対象として、集団随伴性を含む介入パッケージを実施し、その効果を検討した。研究計画 ABCDデザインを用いた。ベースライン期(A条件)に続いて、3つの介入(B条件、C条件、D条件)を実施した。場面 公立小学校通常の学級の授業開始時に介入を行った。対象者 公立小学校4年生1学級の31名(男児16名、女児15名)の児童であった。介入 B条件では話の聞き方の授業とステキな聞き方のルールの掲示を、C条件ではB条件に加えて準備物の授業と集団随伴性の手続き(「グーチャレンジ」),さらに担任の対応を、D条件ではC条件に加えてタイマーの表示を実施した。行動の指標 授業準備行動の指標として授業開始時の静かになるまでの時間を連続記録法によって、授業開始時の準備物の用意を産物記録法によって測定した。結果 静かになるまでの時間はB条件及びD条件の実施によって減少し、準備物の用意はC条件の実施によって増加した。結論 授業開始時の授業準備行動に対する集団随伴性を含む介入パッケージの効果が示された。

  • 太田 成美, 内田 佳那, 丹治 敬之
    2022 年 36 巻 2 号 p. 149-158
    発行日: 2022/03/18
    公開日: 2023/03/18
    ジャーナル フリー

    研究の目的 本研究は発達性読み書き障害児を対象に、オンライン漢字書字指導の長期学習効果を検討した。研究計画 刺激セット間多層プローブデザインを用いた。場面 大学の教育相談内のオンライン指導場面で実施した。参加児 特別支援学級に在籍する小学4年生の発達性読み書き障害児1名であった。介入 Web会議システムの画面共有機能を用いて、3種類の介入手続きを実施した。1)漢字の画要素の分解、2)漢字画要素の音声言語フレーズの暗唱、3)フレーズに応じた漢字画要素の書字指導であった。さらに、家庭で漢字画要素の音声言語フレーズの復習を実施した。行動の指標 漢字書き取りテストにおける正しく書けた漢字数(正反応数)を指標とした。結果 介入後、参加児の正反応数は増加した。また、介入期の正反応水準は2か月後まで概ね維持された。社会的妥当性では、本研究の指導効果の受容度、母親の負担度、参加児の学習態度の変化に対して概ね肯定的な評価が得られた。結論 Tau-Uによる効果量算出の結果から、介入効果は限定的であると判断されたが、オンライン指導により正反応数は増加し、長期的な漢字書字反応の維持が示された。本研究の知見から、発達性読み書き障害児の学習機会の保障、漢字書字指導法における新たな手法が示唆されたといえるだろう。

  • 佐藤 亮太朗
    2022 年 36 巻 2 号 p. 159-167
    発行日: 2022/03/18
    公開日: 2023/03/18
    ジャーナル フリー

    研究の目的 都道府県の名称及び漢字表記、形状・位置の刺激間関係の形成に対する刺激ペアリング手続きの効果と社会的妥当性を検討した。研究計画 ABCデザインとマルチベースラインデザインを併用した。場面 著者による週1回の家庭教師において実施した。実施場所は対象児の家庭(母親宅・祖父母宅)であり、週毎に実施場所が変わった。参加者 発達障害の診断のある小学4年男児(支援当時9歳11ヶ月)であった。独立変数の操作 著者が作成した都道府県カードを用いた、刺激ペアリング手続きに基づく学習指導であった。介入はBL、支援Ⅰ期、支援Ⅱ期、Fw-upの4期に分けられ、支援Ⅰ期では都道府県名の名称と形状・位置のペアリングを試み、支援Ⅱ期では漢字表記と形状・位置のペアリングを試みた。行動の指標 都道府県テストにおける地方毎の書字正解数とした。結果 BLにおける正解数は1から3都道府県であった。支援Ⅰ期の介入開始直後から、ひらがな表記による正解数が増加した。その後、支援Ⅱ期においては漢字表記による正解数が増加した。Fw-upでは40都道府県以上の正解数が維持した。考察 本実践において、都道府県の名称と漢字表記、形状・位置の間で刺激間関係が成立したと考えられた。したがって、都道府県の命名及び漢字表記による書字の獲得に対する刺激ペアリング手続きの有効性が示唆された。課題として、実施手続きの改善が挙げられた。

テクニカルノート
  • 吉岡 昌子, 藤 健一
    2022 年 36 巻 2 号 p. 168-174
    発行日: 2022/03/18
    公開日: 2023/03/18
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は、大学での講義中の板書行動を測定するための簡易な小型装置を開発することであった。板書において書字される文字の1画の筆記を1反応として拾うよう2つの方式を採用し、反応の記録は吉岡・藤(2019a)のシステムを共用した。第1の方式ではマーカーと白板との接触を検出した。てこの原理を用いて、マーカーの先端を力点、中間の適当な位置に支点を作り、後端を作用点とした。支点の位置に球面軸受を装着し、力点に加えられた圧に伴う作用点でのマーカー軸の変位をマイクロスイッチにより測定した。2つ目の方式では黒板にチョークが当たる振動を音センサにより検出した。マーカーの装置については、模擬講義用に作成したスライド8枚の内容を板書する試験を実施した。楷書の画数を用いた総筆記画数に対する検出された反応数の比は、0.99から1.03であった。チョークの装置については、模擬講義場面で実用試験を行った。楷書の画数を用いた板書の総筆記画数に対する検出された反応数の比は、0.80であった。これらの結果から、どちらの装置も板書行動の測定装置として実用性があることが明らかになった。今後の課題は、音センサを用いた反応検出の精度に影響する諸変数の検討や、黒板の振動をより効果的に拾えるよう、装置を改良することが挙げられる。

解説
  • 樋口 義治
    2022 年 36 巻 2 号 p. 175-193
    発行日: 2022/03/18
    公開日: 2023/03/18
    ジャーナル フリー

    認知行動とは、環境に潜む法則を理解してその後行動するという意味であり、著者の造語である。認知行動の対象は、人の日常生活にひとまとまりの存在として認識される、事象や現象、物である。そして、対象の構造や機能の法則を個体が意識的に認知し(心的事象)、その認知を基に生活における問題を行動として解決していくことを指す。考古学習心理学も造語であるが、文化・学習適応能力が、脳重の増加とともに変化して、認知行動に影響することを前提としている。認知行動と考古学習心理学の研究方法として、調査・観察手法では、過去の人工“物”の現代に至る道を、石器などを対象として行動形成と般化の概念で分析する。実験的手法として、“心的事象”を形化して外在化し、客観的に分析できる2つの手法を採る。過去の日常生活に存在したが、現在では工業化によって生活の中で目にしない物や事象、例えば糸繰り(糸作り)について、現代人に材料を与えた時、どのように糸を作り出すかを分析する(発見・発明実験法)。また、現代人が、過去の人々の生活や現在の災害時生活を想定した時、家や街、人を粘土などで創作していくミニチュア実験法がある。実際の実験として、糸繰りと物干しの製作について紹介した。結果はいずれも、経験則以上の法則を認知して行動する者は少なかった。すなわち学習における試行錯誤(随伴性強化行動形成)として、認知行動を形成していた。

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