行動分析学研究
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35 巻, 2 号
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編集者から
展望
  • 丹野 貴行
    2021 年 35 巻 2 号 p. 111-127
    発行日: 2021/03/25
    公開日: 2022/03/25
    ジャーナル フリー

    実験的行動分析と徹底的行動主義の関係性について概念分析を行った。構成は、1)Journal of the Experimental Analysis of Behavior誌の歴史的経緯に基づく実験的行動分析の4つの特徴の整理、2)徹底的行動主義の基本となる3つの軸の整理、3)両者の関係性についての論考、4)こうした概念分析の現代的意義の一例としての、行動分析学と心理学における再現性の危機との関わり、であった。徹底的行動主義とは、単に行動の科学的研究を指すのではなく、心理学の主題とその研究方法論をめぐる主張である。本稿では、実験的行動分析の「基盤」として徹底的行動主義が示され、またその不可分に結びついた関係性が、心理学における再現性の危機への健全性を支えていることが論じられた。

  • 山本 淳一
    2021 年 35 巻 2 号 p. 128-143
    発行日: 2021/03/25
    公開日: 2022/03/25
    ジャーナル フリー

    応用行動分析学は、行動の科学であり、徹底的行動主義は、応用行動分析学の哲学である。応用行動分析学は、社会的に重要な行動とその制御変数の関係に焦点を当て、徹底的行動主義に徹底している。徹底的行動主義は普遍性をもつ概念の体系であり、その特徴は包括性にある。応用行動分析学は、徹底的行動主義の包括性からの必然的な帰結として、関連領域の多様なヒューマンサービスの科学と実践の成果を、その体系に統合しながら、新たなヒューマンサービス領域を打ち立てている。同時に、応用行動分析学の研究者、実践者であるならば、徹底的行動主義の哲学を、日々のヒューマンサービスに関する行動に徹底的に活用しているはずである。本論文は、これまで個別的に討議されてきた応用行動分析学内での重要な論点、関連領域との接点を明示し、徹底的行動主義の観点から、それらを応用行動分析学の体系に統合し、さらなる包括的な体系を日常のヒューマンサービスの実践と研究に活用するための方法を提供することを目的とする。

  • 武藤 崇
    2021 年 35 巻 2 号 p. 144-157
    発行日: 2021/03/25
    公開日: 2022/03/25
    ジャーナル フリー

    本稿の目的は、機能的文脈主義が創出されるまでの経緯を記述することによって、その概念の成立に寄与したいくつかの文脈を明確化することであった。本論文の構成は、1)Pepper(1942)のルート・メタファーの概観、2)機能的文脈主義が創出されるまでの経緯(1980年頃から1993年頃まで)の記述、3)1993年以降の機能的文脈主義に関する論文動向の記述、4)機能的文脈主義とその関連諸概念との関係性に関する俯瞰図の提示であった。1)~4)の検討によって、機能的文脈主義の創出に寄与した文脈として、a) 1980年代の行動分析学がもっていた「普遍主義」と「要素主義」という問題、b)行際心理学との比較、c)実験的行動分析と応用行動分析との連携不足、d)コミュニティに関する応用を可能にする枠組みの弱さが示唆された。

討論
  • 澤 幸祐
    2021 年 35 巻 2 号 p. 158-164
    発行日: 2021/03/25
    公開日: 2022/03/25
    ジャーナル フリー

    徹底的行動主義に基づく行動分析学と、方法論的行動主義に基づく学習心理学は、多くの共通点を持つ関連領域でありながらも、なお無視できない相違がある。そこで本稿では、徹底的行動主義と方法論的行動主義を接続するために、行動分析学が重要視する「行動の予測と制御」と「環境と行動の関数関係の特定」という問題に注目する。制御理論や機械学習といった他領域での議論を援用して、行動の予測と制御という目的のためにどのような関数関係を検討するべきかを検討し、方法論的行動主義の研究が、そうした関数関係の研究にどのような示唆を与えうるかを議論する。

論考
  • 森元 良太
    2021 年 35 巻 2 号 p. 165-176
    発行日: 2021/03/25
    公開日: 2022/03/25
    ジャーナル フリー

    心理学は心的概念を量産し続けている。その一方で、行動分析学は心を行動の原因として想定しない方略を採っている。心を想定する研究プログラムと心を想定しない研究プログラムはどちらがよいだろうか。哲学や科学では古くから、「オッカムのかみそり」と呼ばれる原理を用いて知的活動に邁進してきた。オッカムのかみそりは、対象を不必要に増やすべきではないという注意喚起であり、哲学や科学で使用され、多くの発見をもたらしてきた。人間の知的活動はその正当性にまでおよび、対象を不必要に増やすべきでない根拠を解き明かそうともしてきた。そして、20世紀の近代統計学の台頭により、その正当化の役割は統計学が担うことになる。本稿ではとくに統計的な検定理論に注目し、科学哲学の観点からその論理を分析し、心を想定しない研究プログラムは心を想定する研究プログラムよりもよいことを示す。そして、科学的方法論として、行動分析学がましであることを主張する。

実践報告
  • 宮木 秀雄, 山本 拓実, 加賀山 真由
    2021 年 35 巻 2 号 p. 177-186
    発行日: 2021/03/25
    公開日: 2022/03/25
    ジャーナル フリー

    研究の目的 小学校通常学級における給食準備行動への支援として、非依存型集団随伴性を適用し、その効果を検討することを目的とした。研究計画 ベースライン期、介入I期、介入II期から構成された。場面 公立小学校通常学級第1学年における給食準備場面であった。参加児 公立小学校第1学年の児童38名であった。介入 学級全体に対して非依存型集団随伴性による介入を行った。介入では、視覚的なタイマーを4分に設定して提示し、タイマーが終了するまでに廊下に並ぶことができた児童には、その場でシールと言語賞賛を与えた。行動の指標 4時間目終了のあいさつ終了後から給食当番が廊下に並び、教師を先頭に給食室に向けて歩き始めるまでの時間を測定した。また、給食室に向けての歩き始めに間に合わなかった児童の人数も記録した。結果 介入により、給食準備に要する時間の短縮や歩き始めに間に合わない児童の人数の減少が見られた。結論 視覚的なタイマーの使用と非依存型集団随伴性による介入を組み合わせたパッケージとしての支援により、多くの児童が安定して素早く給食準備を行うことができるようになった。また、児童と学級担任に対する質問紙調査の結果、介入の社会的妥当性も示された。

展望
  • 仁藤 二郎, 奥田 健次, 川上 英輔, 岡本 直人, 山本 淳一
    2021 年 35 巻 2 号 p. 187-205
    発行日: 2021/03/25
    公開日: 2022/03/25
    ジャーナル フリー

    応用行動分析学はその黎明期において、精神科臨床の領域においても盛んに研究が行われていた。ところが、その流れは1980年代には行動療法の一部としてみなされるようになり、現在では広義には第3世代とされている認知行動療法(CBT)の中で、行動分析学の原理を取り入れた臨床行動分析として発展を続けている。しかし、CBTあるいは臨床行動分析の効果検証は、実証的に支持された治療(EST)の影響を受けて、主に無作為対照化試験(RCT)などのグループ比較デザインにとどまっており、行動分析学の方法論に基づいた実践研究はほとんど行われていない。本論文では、最初に、①精神科臨床における応用行動分析学の歴史を振り返る。次に、②現在の精神科臨床において薬物療法以外で標準治療とされているCBTについて、その歴史と行動分析学との関係について整理する。そして、③CBTが掲げるエビデンスの特徴と問題点を指摘する。最後に、④精神科臨床において、グループ比較デザインの知見とシングルケースデザインの方法論に基づく実践効果検証それぞれの利点を活かして統合し、応用行動分析学に基づく完成度の高い実践(well-established practices)を目指すことが重要であることを論じる。今後、精神科臨床の領域においても行動分析学の方法論を用いた実践を増加させる仕組みづくりが必要である。

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