行動分析学研究
Online ISSN : 2424-2500
Print ISSN : 0913-8013
ISSN-L : 0913-8013
34 巻, 2 号
選択された号の論文の10件中1~10を表示しています
編集者から
展望
  • 大久保 賢一, 辻本 友紀子, 庭山 和貴
    2020 年 34 巻 2 号 p. 166-177
    発行日: 2020/03/20
    公開日: 2021/03/20
    ジャーナル フリー

    ポジティブ行動支援(PBS)は、知的障害や発達障害のある者が示す行動問題に対するアプローチとして注目を集め、米国においては、その実施が法的要求事項に位置づけられ、社会において一定の影響力を持つに至った。近年では米国を中心として海外における学校規模ポジティブ行動支援(SWPBS)の普及が進んでいることもあり、日本の行動分析家もPBSに関連する実践や研究を無視できない状況にある。しかし、PBSが何であるのかということについて、ABAと関連づけて説明することは容易ではない。そこで本研究においては、「PBSとは何か?」を明らかにするために、PBSの起源、発展の経緯、定義・特徴、そしてABAとの関係性について文献的検討を行った。その結果、PBSは障害者に対するノーマライゼーションや権利擁護が重視されるようになった社会的潮流の中で誕生したこと、そしてPBSには様々な定義と変遷があったことが明らかとなった。また、特に米国におけるPBSのコミュニティは、ABAのコミュニティから分かれて成立し、組織的に独立していった経緯があった。概念的には、PBSを「ABAのサービス提供モデルの1つ」と捉える立場と、「ABAから進化した新しい応用科学」と捉える立場があり、PBSの独自性を巡る論争があることが明らかとなった。日本において行動分析家としてどのようにPBSと向き合うべきであるのか、今後の課題も含め検討を行った。

  • 庭山 和貴
    2020 年 34 巻 2 号 p. 178-197
    発行日: 2020/03/20
    公開日: 2021/03/20
    ジャーナル フリー

    学校規模ポジティブ行動支援(SWPBS)は、教育システムに対して行動分析学的アプローチを適用したものである。SWPBSには、大きく分けて「実践」、「システム」、「データ」、「成果」という4つの構成要素があるが、これまでこれら4つの構成要素を三項随伴性の枠組みで整理することはほとんどなされていない。これを整理することは、今後、日本におけるSWPBSがどうあるべきかを考える上で必要だと考えられる。さらに、SWPBSは学校内だけで成立するものではなく、その導入・実行・持続を支える法・州・学区からのサポートが米国では存在する。そこで本稿では、SWPBSの構成要素を三項随伴性の枠組みで整理した上で、米国における26,000校以上のSWPBSの実践を支えるシステムについて検討した。これらの検討を踏まえた上で、日本における今後のSWPBSの研究・普及の課題として、「データに基づく意思決定システム」の開発が必要であること、また教職員のSWPBSの実行をサポートするために、これまでの通常業務の代替行動としてSWPBS関連行動を捉えていくことの重要性を指摘した。

  • 野田 航
    2020 年 34 巻 2 号 p. 198-210
    発行日: 2020/03/20
    公開日: 2021/03/20
    ジャーナル フリー

    現在、米国の学校場面では、学校規模ポジティブ行動支援(school-wide positive behavior support: SWPBS)と介入に対する反応性モデル(response to intervention: RTI)のような、システムアプローチが幅広く実践され、研究されている。学業支援を中心とするRTIは、日本の特別支援教育においても少しずつ紹介されるようになり、RTIを参考とした実践研究も行われてきているがその数は少ない。RTIはSWPBSとの共通点も多く、行動分析学との関連も深いが、そのことは日本においてはほとんど紹介されていない。本稿では、RTIの主要な要素(多層予防システム、スクリーニング、プログレス・モニタリング、データに基づく意思決定)について解説し、RTIの構成要素(データに基づく意思決定、チームアプローチ)について、教員の指導行動に対する刺激性制御の観点から整理する。そして、近年のRTIとSWPBSを統合した多層支援システム(multi-tiered system of support: MTSS)について紹介する。最後に、日本におけるシステムレベルでの学校改革に向けた課題について、学校内および学校外の随伴性の整備の観点から整理する。

  • 田中 善大
    2020 年 34 巻 2 号 p. 211-228
    発行日: 2020/03/20
    公開日: 2021/03/20
    ジャーナル フリー

    管理職への規律指導に関する照会(Office Discipline Referral: ODR)は、学校規模ポジティブ行動支援(SWPBS)を支えるデータシステムとして、米国の多くの学校で活用されている。ODRは、問題行動を管理、監督するための方法として、米国の学校で一般的に実施されている手続きであるが、日本ではほとんど馴染みがない。本論文では、SWPBSの実践を支えるデータシステムとしてのODRの特徴とODRのデータを活用したデータに基づく意思決定について解説する。解説に続いて、SWPBSに関連するODRの研究をレビューする。ここでは、ODRデータに基づく意思決定、SWPBSの効果指標としての活用、ODRデータの妥当性及び信頼性に関する研究をレビューする。ODRデータの研究をレビューした後、SWPBSにおけるODRデータの刺激機能について分析する。最後に、日本におけるSWPBSを支えるデータシステムについて考察する。

  • 大対 香奈子
    2020 年 34 巻 2 号 p. 229-243
    発行日: 2020/03/20
    公開日: 2021/03/20
    ジャーナル フリー

    望ましい行動のレパートリーを拡大することにより個人の生活の質(Quality of Life)を向上し、その結果として問題行動を最小化する教育的・予防的支援の枠組みであるポジティブ行動支援(Positive Behavior Support;以下PBSとする)を学校規模で適用したものが学校規模ポジティブ行動支援(School-wide PBS;以下SWPBSとする)である。アメリカでは既に25,000校以上に導入され、問題行動の減少や学力の向上、学校風土の改善などの効果が示されており、また実行度の高い実践を行っている学校ほどよい成果が見られ、実践の継続性も高いことがわかっている。最近では日本においてもSWPBSの実践が少しずつ報告されているが、今後さらに広く普及していく過程において一定水準以上の実行度を保持することは、SWPBSを効果的で継続性のある実践としていくためにも非常に重要である。本稿では、実行度がなぜ重要なのかを概説し、日本でのSWPBSの導入にあたって実行度を測定するための指標となるTiered Fidelity Inventory(TFI)の日本語版を紹介する。また、実行度を高めるために必要な要素について検討し、そこから今後の課題についても議論する。

実践報告
  • 大久保 賢一, 月本 彈, 大対 香奈子, 田中 善大, 野田 航, 庭山 和貴
    2020 年 34 巻 2 号 p. 244-257
    発行日: 2020/03/20
    公開日: 2021/03/20
    ジャーナル フリー

    研究の目的 本研究では、SWPBSの第1層支援を実施し、その効果と社会的妥当性を検討することを目的とした。研究計画 ABデザインを用いた。評価尺度については3つの時期に測定し、それぞれの時期の全校児童のスコアの平均を比較した。場面 公立小学校1校において実施した。参加者 対象校の全ての児童と教職員が本研究に参加した。介入 ポジティブ行動マトリクスを作成し、各目標行動の行動支援計画を立案し実行した。行動の指標 目標行動に従事している人数をカウントして得られたデータ、あるいはインターバル・レコーディング法を用いて得られたデータを指標とした。他に質問紙法によって評価尺度のデータや社会的妥当性に関するデータも収集した。結果 介入後に目標行動が増加し、評価尺度のスコアに改善がみられた。また一定の社会的妥当性が示された。結論 本研究において実施したSWPBS第1層支援の効果と社会的妥当性が確認できた。しかし、チームマネジメント、データに基づく第2層支援や第3層支援への移行、データの信頼性など、いくつかの課題が示された。

  • 松山 康成, 三田地 真実
    2020 年 34 巻 2 号 p. 258-273
    発行日: 2020/03/20
    公開日: 2021/03/20
    ジャーナル フリー

    研究の目的 本研究の目的は、高等学校における学校規模ポジティブ行動支援(School-Wide Positive Behavior Support)の特に第1層支援の効果について検討することである。研究計画 ABCBCDEデザインが用いられた。場面 公立の高等学校において実施された。参加者 高等学校の在校生734名、教員54名であった。介入 学校における目標行動を生徒と教員にリマインドするためのポジティブ行動マトリクスを作成し校内に掲示した。それに加えて目標行動を実行した生徒へのフィードバックを与えるために、GBT (Good Behavior Ticket)およびPPR (Positive Peer Reporting)の両手続きを導入した。前者は、教員によって提示され、後者は生徒によって提示された。行動の指標 問題行動を示した生徒への懲戒件数および目標行動が生起した数を得るためにGBTカードとPPRカードの数を用いた。結果 SWPBS第1層支援(ポジティブ行動マトリクスの掲示、GBTおよびPPR手続きの導入)により、懲戒件数は減少することが示された。結論 SWPBSにおける第1層支援の介入として、ポジティブ行動マトリクスの掲示とGBTおよびPPRの手続きの適用が有効であることが示された。しかし、今回の第1層支援の方略だけでは、問題行動を示す生徒が残されていたため、第2層支援、第3層支援に位置づけられるようなより高密度で個別的な介入が必要であると考えられた。

コメント
  • 平澤 紀子
    2020 年 34 巻 2 号 p. 274-280
    発行日: 2020/03/20
    公開日: 2021/03/20
    ジャーナル フリー

    対象者の行動問題の低減から生活の質の向上への転換を示したポジティブ行動支援は、学校教育に適用される中で、対象者に支援を行う支援者への支援の枠組みとして進化している。本特集号は、このような学校規模ポジティブ行動支援の機能を確立する方向で、わが国のコンテンツと研究に必要な要素を明らかにし、検証している。こうした検討は学校教育にどのように貢献するだろうか。PBSの焦点に照らすと、既存の学校システムを機能化し、学校教育を向上させるといえる。それも、学校規模の指標の検討により、成果拡大への循環をもたらす。一方、コンテンツの方向性や実効性にかかわる課題も指摘した。

feedback
Top