行動経済学における価格と所得研究の現状が、動物の食物消費行動の実証的研究を通じて分析された。主要な価格研究として、(a)コスト要因と便益要因の比率による単位価格の研究と(b)労力と時間による2つのコスト要因の比較研究をとりあげた。等式のあてはめによる需要曲線分析の結果、単位価格におけるコスト要因と便益要因の間の交換可能性と、行動価格における労力コストと時間コストの間の機能的等価性が、いずれも低から中程度の価格範囲でのみ成立することが、価格弾力性の比較により明らかになった。これらの成果をヒトの消費行動における通貨の使用と比較すると、上述の(a)が交換手段の、(b)が価値尺度の機能に対応し、強化スケジュールによって操作される価格が共通尺度として機能する範囲とその限界を示したものと考えられる。一方、実験セッション内の全強化量の制約として操作された所得変数が動物の消費行動に与える効果は、通貨を使用するヒトの消費行動と同様に見出されたが、それらの実験的操作間の機能的等価性を調べた所得研究は、現在まで行われていない。この研究を進めるために、所得・消費曲線の形状を特定する体系的な研究が必要である。さらに、所得の制約の効果は、行動配分を示す事実として、食物の効率的な取得や選好の変化を分析することによって、今後明らかにされるであろう。
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