行動分析学研究
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36 巻, 1 号
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研究報告
  • 髙野 愛子
    2021 年 36 巻 1 号 p. 2-11
    発行日: 2021/10/25
    公開日: 2022/10/25
    ジャーナル フリー

    研究の目的 本研究ではじゃんけんの手に対する勝敗判断課題を用いて、勝敗の判断基準に関する言語教示を与えることなく、伸ばされた指の本数がより多い手を勝ちとする勝敗判断を形成することを通じて、通常のじゃんけんに応じた勝敗判断を維持する強力な刺激性制御を減衰させる変数を探索した。研究計画 提示された2つ、または3つの手から勝ちまたは負けとなる手を選択する課題を用いた。訓練中の反応、および訓練前後に実施したテストにおける反応から訓練の効果を検討した。場面 個別実験として実施し、ノートパソコンを用いた。参加者 大学生8名が参加した。独立変数の操作 3つのじゃんけんの手のうち異なる2つが提示される二択条件と、これら3つ全てが提示される三択条件を導入した。行動の指標 1試行で提示された手のうち、伸ばされた指の本数がより(最も)多い手を勝ち、少ない手を負けとする反応を正反応と定義し、正反応率を測定した。結果 二択条件において、三択条件の導入前は正誤のフィードバックを提示しても正反応率の上昇が見られないか、一度上昇してもテストでは維持されず下降した。一方、三択条件の導入後は正反応率が上昇し、テストにおいても高水準で維持された。結論 じゃんけんに応じた勝敗判断を維持する刺激性制御は強固であるが、3つのじゃんけんの手から勝ちまたは負けの手を1つだけ選択する課題を提示することで、その制御が減衰することが示唆された。

  • 西田 裕明, 山本 真也, 井澤 信三
    2021 年 36 巻 1 号 p. 12-26
    発行日: 2021/10/25
    公開日: 2022/10/25
    ジャーナル フリー

    研究の目的 知的能力障害を伴うASDの児童生徒に対し、アニメーションセルフモデリング(以下、ASMとする)を用いて電話の応対スキルの指導を行い、どのようなASMの修正や提示方法などを行うことがスキルの獲得と般化に有効なのかを検討することを目的とした。研究計画 ベースラインと介入によるABデザインを用いた。場面 電話機が使用可能なX市発達支援センターの研修室とY大学の相談室で実施した。参加児 知的能力障害を伴うASDの児童生徒2名が参加した。介入 ASM教材視聴を基本とし、参加児の誤反応や無反応に対応したASM教材の修正や提示方法の変更を取り入れる介入パッケージを適用した。行動の指標 課題分析された各行動項目における標的行動の達成率を指標とした。結果 参加児2名は、電話の応対スキルを獲得できた。また、般化テストでも標的行動の達成率が100%であった。結論 参加児の誤反応に対応した修正やルール提示、提示方法を変更したASM教材は、ベースラインにおける手本モデルの提示より、コミュニケーションを含む電話の応対スキルの獲得と般化に効果的であった。

実践報告
  • 仁藤 二郎, 奥田 健次
    2021 年 36 巻 1 号 p. 27-36
    発行日: 2021/10/25
    公開日: 2022/10/25
    ジャーナル フリー

    研究の目的 本研究では、強迫性障害と診断され、過剰な洗浄行為や除菌行為などによって仕事や日常生活に支障が出ていた対象者に対して、その日常場面において、家族の協力を得て介入を実施し、その効果を日常生活における行動指標を用いて検討することを目的とした。研究計画 行動間マルチベースラインデザイン。場面 精神科クリニックの外来心理面接および、対象者の日常場面。対象者 強迫性障害を主訴として精神科クリニック外来を受診した男性とその妻であった。介入 過剰な手洗いや除菌行為および入浴中の洗浄行為の減少を目的として、ERPを中心とした介入を行った。行動の指標 除菌シートのパック消費数および入浴後に布団で寝ることができた頻度を測定した。結果 介入によって除菌シートを使用することがなくなり、毎日、入浴後に布団で寝ることができるようになった。結論 強迫行為の減少に家族を介したERPが有効であった。またその際、対象者の日常生活において、強迫行為に関連した行動指標を測定し、介入の有効性を検証することができた。

  • 髙津 梓, 田中 翔大, 仲野 みこ
    2021 年 36 巻 1 号 p. 37-45
    発行日: 2021/10/25
    公開日: 2022/10/25
    ジャーナル フリー

    研究の目的 本研究では、排尿・排便が未確立なASDと知的障害を有する児童に対し、参加児と保護者の状況のアセスメントから保護者が実行可能な支援計画を作成し、支援の実行と効果を検討した。参加者 知的障害特別支援学校小学部3年に在籍する、ASDと知的障害を有する男児1名とその保護者。家庭や登下校時に失禁があり、トイレでの排便は未経験であった。トイレで座ることに対し強い抵抗を示し、声を上げ嘔吐をすることがあった。場面 排尿については登下校時、排便については家庭で保護者が介入をした。介入 排尿については、尿失禁が起こっていないその他の場面と同じ布パンツに変更した。排便については、拒否行動を起こさずトイレでの排便経験をし、排便することで好子が得られる方法を2つ提案し、保護者の選定により、浣腸の実施による短時間の着座と確実な排便の誘導、排便後の好子の提示を実施した。行動の指標 週あたりの登下校時の尿失禁と、家庭での排便の成功と自発の生起率、排便時の浣腸の使用頻度を指標とした。結果 保護者による支援が実行され、トイレでの排尿・排便が定着し意思表示も増加した。結論 保護者の実行可能性に基づいた支援計画が支援の実行を促し、排尿・排便の確立に繋がった。

  • 石塚 祐香, 山本 淳一
    2021 年 36 巻 1 号 p. 46-57
    発行日: 2021/10/25
    公開日: 2022/10/25
    ジャーナル フリー

    研究の目的 本研究では遊び場面における発声・発話の機会設定(大人機会設定条件)と随伴模倣を用いた介入によって、有意味語発話の生起頻度が年齢に比して低いASD児の発声・発話と音声模倣が増加するか、発声・発話の機会設定を行わない条件(子ども始発条件)にも効果が波及するか、保護者が介入した場合も維持するか、有意味語が獲得されるかを検討することを目的とした。研究計画 参加者間多層ベースラインデザインを用いた。参加児 自閉スペクトラム症の男児2名(A児、B児)とその保護者が参加した。場面 A児は家庭の一室、B児は大学のプレイルームで実施した。介入 支援者は参加児の注意を引き、モデルとなる発話を提示した。参加児の発声・発話や音声模倣が生起されたら、支援者はその発声・発話や音声模倣の直後に随伴模倣を提示した。同様の手続きでおもちゃを変更したセッションと、保護者が介入を実施するセッションを設けた。行動の指標 発声・発話の生起率、音声模倣の生起率、有意味語の発話数を測定した。結果 大人機会設定条件において両参加児の発声・発話、音声模倣、有意味語の発話が増加した。また保護者セッションにおいても介入効果が維持された。一方、参加児が自発した発声・発話に随伴模倣を行う子ども始発条件においてはA児の発声・発話を除き、大きな変化は見られなかった。結論 有意味語発話の生起頻度が年齢に比して低いASD児の音声模倣を促すには、支援者が発声・発話の機会設定を行った上で、表出された発声・発話や音声模倣に随伴模倣を提示する手続きが有効であることが示唆された。

  • 杉本 任士
    2021 年 36 巻 1 号 p. 58-66
    発行日: 2021/10/25
    公開日: 2022/10/25
    ジャーナル フリー

    研究の目的 小学校2年生の給食準備・片付け場面において相互依存型集団随伴性による学級規模での介入を行うことによって、学級全体の給食準備・片付けに要する時間が短縮するか検証することを目的とした。研究計画 場面間マルチプルベースラインデザインと基準変更デザインの組み合わせを用いた。場面 公立小学校の通常学級2年生1クラスの給食準備ならびに給食片付け場面であった。参加者 公立小学校2年生の通常学級に在籍する児童25名(男子16名、女子9名)であった。独立変数の操作 強化基準を段階的にあげながら相互依存型集団随伴性による介入とバックアップ強化子の提示を行った。行動の指標 給食準備ならびに給食片付けに要する時間であった。結果 介入期ではベースライン期と比較して、給食準備ならびに給食片付けに要する時間の合計が、約18分から約13分へ約28%短縮された。結論 学級規模での相互依存型集団随伴性による介入とバックアップ強化子を提示することによって、学級全体の給食準備ならびに給食片付けに要する時間の短縮に効果があることが示唆された。手続きなどの社会的妥当性が示された。

展望
  • 山口 穂菜美, 吉本 茜, 原口 英之
    2021 年 36 巻 1 号 p. 67-94
    発行日: 2021/10/25
    公開日: 2022/10/25
    ジャーナル フリー

    本研究では、我が国の発達障害のある子どもの親に対するペアレントトレーニング(parent training: PT)に関するエビデンスをアップデートすることを目的に、国内のPTの実践研究を系統的にレビューした。2012年から2018年に発刊された研究論文50本(研究数51)を抽出し、サンプルサイズ、子どもの特徴、PTプログラムの特徴、効果評価の特徴、効果を分析した。サンプルサイズの平均は親が11、子どもが10であった。研究の69%が学童期、59%が幼児期の子どもを、そして80%が確定診断のある子どもを対象としていた。35%が国内の代表的なPTプログラムの研究であった。親への効果は、77%が標準化された検査・尺度、18%が観察データを用い、80%が事前事後テストデザイン、16%が単一事例実験デザインにより評価していた。子どもへの効果は、55%が標準化された検査・尺度、29%が観察データを用い、57%が事前事後テストデザイン、28%が単一事例実験デザインにより評価していた。介入群と対照群の比較研究は6件あった。多くの研究によりPTを受けた親子の多様なアウトカムの改善が示され、PTの効果に関する一定の知見が得られた。しかし、我が国のPT研究は、サンプルサイズが小さく、群間比較研究が少なかった。また、対象やプログラムに関する詳細な情報や、実行度、参加率、プログラムの評価の報告が不足していた。今後、より厳密な研究デザインを用いた研究の蓄積と、PTの対象、プログラム、評価に関する詳細な報告が求められる。

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