行動分析学研究
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37 巻, 1 号
特集:精神科臨床領域における応用行動分析学の展開
選択された号の論文の13件中1~13を表示しています
編集者から
一般論文
  • 仁藤 二郎, 奥田 健次
    2022 年 37 巻 1 号 p. 9-19
    発行日: 2022/12/07
    公開日: 2023/12/07
    ジャーナル フリー

    研究の目的 本研究では、統合失調症と診断され、自宅にひきこもっていた対象者に対して、その日常場面において、GPSを利用した外出記録およびSNSを利用したリアルタイムモニタリングを通して介入を実施し、その効果を検討することを目的とした。研究計画 フォローアップ付きのABB’デザイン 場面 カウンセリングルームおよび、クライエントの日常生活場面。対象者 他者からの幻聴の訴えおよび、外出の困難を主訴として来談した女性とその家族であった。介入 地域のスーパーやショッピングモールにてエクスポージャーを実施した。また日常生活においても外出訓練を行った。行動の指標 一人で外出できた時間、外出頻度、外出レパートリーを測定した。結果 介入によって外出の時間や頻度、外出レパートリーが増加し、アルバイトができるようになった。結論 幻聴を訴えてひきこもっていた女性に対して、本人および家族への心理教育を含めたエクスポージャーが効果的であった。またその際、クライエントの日常生活において、スマートフォンのGPS機能を利用した外出時間の測定およびSNSを通したリアルタイムモニタリングによって有効性を検証することができた。

  • 奥田 健次
    2022 年 37 巻 1 号 p. 20-29
    発行日: 2022/12/07
    公開日: 2023/12/07
    ジャーナル フリー

    研究の目的 本研究では、幼児期に自閉スペクトラム障害(ASD)と診断され、児童期に二次障害として強迫性障害(OCD)の追加診断がなされた児童において、就寝後に頻繁にトイレに行くことが増え、起床時に尿漏れをしている日が増えたことから、反応妨害を用いた介入を行いその効果を検討することを目的とした。研究計画 フォローアップ付きのABデザイン 場面 自宅での生活場面とした。対象者 頻繁にトイレに行くことと尿漏れを繰り返したASDとOCDが共存する児童であった。介入 反応妨害を行うため、就寝後にはトイレに物理的に行けないように扉にロックを掛ける環境調整を行った。行動の指標 就寝後に起きてこようとする行動と尿漏れの有無を測定した。結果 介入によって就寝後にトイレに行こうとする行動はすべて反応妨害が成功し、副次的に尿漏れについても生じなくなった。扉のロックを外すことで物理的環境を元に戻した後も、標的行動も尿漏れもまったく生起しなかった。結論 ASDとOCDが共存する児童に対して、反応妨害の効果は即時的かつ明らかであった。

実践報告
  • 岡本 直人
    2022 年 37 巻 1 号 p. 30-38
    発行日: 2022/12/07
    公開日: 2023/12/07
    ジャーナル フリー

    研究の目的 確認行為を繰り返してしまう強迫性障害の患者に対して、行動指標を用いたエクスポージャーと儀式妨害(exposure and ritual prevention: ERP)を行い、その効果について検討することを目的とした。研究計画 ABデザインを用いた。場面 精神科クリニックの面接室および近隣のコンビニや駅などであった。対象者 強迫性障害と診断された20代後半の成人女性であった。介入 バッグから用紙を取り出して捨てることにより、落とし物への不安を惹起させ、その前後に生じる確認行為を妨害するというERPを行った。行動の指標 用紙を捨てた回数を測定した。結果 介入によって用紙を捨てた回数が増加し、徐々に日常生活に良好な変化が見られるようになった。結論 確認行為のある強迫性障害の患者に対して、行動指標を用いたERPが有効であった。

  • 谷川 智宏
    2022 年 37 巻 1 号 p. 39-47
    発行日: 2022/12/07
    公開日: 2023/12/07
    ジャーナル フリー

    研究の目的 本研究では、予期不安からパニック発作を繰り返し、家族から片時も離れられない生活が続いている高齢の女性に対して脱感作法と心拍バイオフィードバック法による介入を行った。その際、ウェアラブル端末を用いて心拍数を繰り返し測定することで介入の効果検証を行った。場面 対象者の自宅において介入を実施した。対象者 90代前半の女性で、パニック障害と診断されていた。介入 A条件では家族が外出して1人になった場面を思い浮かべるイメージ脱感作をした。B条件では、家族が実際に外出し段階的に離れている時間を延ばすことで脱感作を行った。イメージ脱感作と現実脱感作中の心拍数の変動をフィードバックした。行動の指標 リラクセーション法の指標として心拍数を測定した。結果 介入によって約半年間、家族から片時も離れられない生活から30分は家族が離れて生活できるようになった。2か月後のフォローアップ時には平日は1人暮らしができるようになった。結論 予期不安によるパニック発作を起こす高齢者に対して、心拍バイオフィードバック法を取り入れた脱感作法が有効であった。

  • 川上 英輔
    2022 年 37 巻 1 号 p. 48-59
    発行日: 2022/12/07
    公開日: 2023/12/07
    ジャーナル フリー

    研究の目的 入院を繰り返していた統合失調症をもつ50代女性に対し、早期警告サイン(early warning signs;以下、EWS)として取り挙げた睡眠の変化および妄想、幻聴について、セルフモニタリングによる支援を実施し、再入院予防の効果について検討することを目的とした。研究計画 ABB’+フォローアップデザインを用いた。場面 精神科病院のデイケアセンターにおいて実施した。対象者 統合失調症をもつ50代女性であった。介入 介入1の睡眠のセルフモニタリングでは、睡眠記録の確認を行い、定時起床就寝できたときに賞賛した。介入2の感情・幻聴のセルフモニタリングでは、介入1の手続きに加え、感情記録および幻聴記録の確認を行い、対処行動を記入できたときに賞賛した。フォローアップでは、睡眠記録の確認を継続した。行動の指標 社会参加の割合、妄想関連行動の割合、定時起床就寝および不眠の割合、幻聴記録の割合を指標とした。結果 介入1では、社会参加の割合が増加し、妄想関連行動の割合が減少した。介入2では、妄想関連行動の割合と幻聴記録の割合が減少した。フォローアップにおいて、対象者は1か月間入院したが、その後10年以上、再入院せず地域生活を送れた。結論 対象者による継続的なEWSのセルフモニタリング、および支援者とのデータ共有を可能にする介入が、再入院の予防と社会参加の促進に有効であった。

コメント
  • 山本 淳一
    2022 年 37 巻 1 号 p. 60-67
    発行日: 2022/12/07
    公開日: 2023/12/07
    ジャーナル フリー

    本論文の目的は、精神科臨床領域での事例を、一般論文や実践報告論文として「行動分析学研究」に掲載する意義と方略を明示し、その成果物としての論文の機能を討議することである。まず、臨床現場で経験する事例を論文にする意義について、融合領域の創出、系統的追実践・追研究という点から論述した。次に、論文の機能について、読み手行動への強化、書き手行動への強化、著者と読者との相互作用をどのように増やすかを検討した。その後、論文の構造について、以下のように論述の枠組みをテンプレートにすることで、執筆、通読、査読の効率化を図ることを提案した。疾患・症状・行動、生活歴と環境、行動の機能アセスメント、環境の生態学的アセスメント、支援方法、倫理、従属変数、研究計画、結果、考察。最後に、特集号で掲載される、5件の論文へのコメントを加えた。論文執筆こそが、様々なところで行われている事例検討によって得た経験を読者と共有し、行動ウェルネスを実現する道筋であることを主張した。

一般論文
  • 山ノ上 ゆき子, 眞邉 一近
    2022 年 37 巻 1 号 p. 68-87
    発行日: 2022/12/07
    公開日: 2023/12/07
    ジャーナル フリー

    研究の目的 動物介在活動(AAA)において、イヌを適切に管理するスキルをオーナーハンドラーが習得すること目的とし、訓練方法の有効性を検討した。場面 練習場にAAAの行動リハーサル場面を用意した。参加者 飼いイヌとAAAへの参加を希望する女性ボランティア9名(40~50代)を対象とした。参加者とイヌのペアは、評価結果に基づいて2つのグループに分けた。グループ1はイヌの適正行動が不十分なペア(n=4)、グループ2はイヌの適正行動がある程度形成されているペア(n=5)である。研究計画 グループ1は行動間多層ベースライン法、グループ2は被験者間多層ベースライン法を用いた。独立変数の操作 行動リハーサルを実施し、標的行動に対するビデオモニタリングとフィードバックの介入を行った。行動の指標 グループ1はリードの扱い、イヌへの指示、「ほめ音声」など、グループ2は「ほめ音声」の適切な提示を測定した。「ほめ音声」の適切な提示は、信号検出理論のA’を指標とし、それ以外は生起率(生起インターバル数/該当する全インターバル数)を指標とした。結果 グループ1ではイヌへの指示・プロンプトなど、測定した5行動中、少なくとも4行動で有意な向上があった。グループ2では5ペア中4ペアのA’が有意に向上し、hit率は全員が向上した。結論 本研究で用いた訓練法は、AAAに参加するための個人スキルを向上させる訓練法として有効である可能性が示された。

研究報告
  • 吉田 真希, 松本 啓子, 眞邉 一近
    2022 年 37 巻 1 号 p. 88-100
    発行日: 2022/12/07
    公開日: 2023/12/07
    ジャーナル フリー

    研究の目的 集団社会的スキル訓練(以下集団SST)に、SNSを用いた個別指導を加えたエステティシャン用接客技術訓練の有効性を検証することを目的とした。研究計画 2つのグループ間で介入時期をずらしたグループ間多層ベースラインデザインで行われた。場面 集団SSTは、対象としたエステティックサロンの研修室で実施した。個別指導は、SNSを利用して行われた。参加者 エステティック会社に勤務するエステティシャン12名(平均年齢22.75歳,SD=1.42)であった。介入 集団SSTは2週間に1回、計5回行われた。個別指導では、研修プログラム参加者はSNSを用いて出勤日に自己記録票を記入し報告した。研修プログラム指導者は、自己記録票の目標行動の自己採点が高い場合には言語的に強化し、低い場合には状況を聞いて改善点を指導した。ターゲットスキル 「かかわり行動」、「リスニングスキル」の社会的スキルを対象とし、同一のカウンセリングシートを使用したロールプレイを行い、介入前、介入期、フォローアップ期に撮影した。撮影した映像によって目標行動の評定点数化を行った。結果 すべての実験参加者の社会的スキルが向上したことが確認された。また自己記録票記入率とリスニングスキル得点変化率の間に有意な相関が見られた。結論 集団SSTにSNSを使用した遠隔コミュニケーションツールによる個別指導を加えた訓練は、短期間での接客技術の獲得に有効である。

  • 中田 篤志, 大野 裕史
    2022 年 37 巻 1 号 p. 101-110
    発行日: 2022/12/07
    公開日: 2023/12/07
    ジャーナル フリー

    研究の目的 学習場面における選択機会提供が重度知的能力障害児の逸脱行動低減に及ぼす効果について検討した。①選択それ自体の効果によって逸脱行動が低減する、②選択機会を一つではなく複数提供した場合の方が逸脱行動は低減する、という2つの仮説を設定した。研究計画 0選択(0C)・1選択(1C)・2選択(2C)の3条件による操作交代デザインを実施し、0C条件は2C条件のヨークト条件とした。場面 参加児4名のうち3名は参加児宅の一室、1名は小学校の教室であった。参加児 重度知的能力障害と自閉スペクトラム症を併存する6歳から14歳の子ども4名であった。独立変数の操作 提供される選択機会の数(0~2回)を独立変数とした。行動の指標 5秒間部分インターバル記録法を実施して測定された逸脱率を従属変数とした。結果 4名中3名においてヨークト条件である0C条件よりも2C条件の逸脱率が低かった。結論 選択それ自体の効果により逸脱率が低減する可能性がある。選択機会数の効果ははっきりとは現れなかったが、選択機会提供の効果は選択行動を制御する変数の影響を受けることが示唆された。

実践報告
  • 吉田 望, 竹内 康二
    2022 年 37 巻 1 号 p. 111-117
    発行日: 2022/12/07
    公開日: 2023/12/07
    ジャーナル フリー

    研究の目的 カードゲームを用いた個別の発達支援場面においてルール違反行動を示す注意欠如・多動性障害児1名を対象とし、代理的自己モニタリングがルール違反行動に与える影響の検討を目的とした。研究デザイン ABプローブデザイン。場面 放課後等デイサービス事業所の相談室にて実施した。参加児 カードゲームを用いた個別の発達支援場面においてルール違反行動を示す16歳の注意欠如・多動性障害1名を対象とした。行動の指標 参加児のルール違反行動の生起率を20秒間の部分インターバル法により算出した。介入 参加児の行動を模した他者と職員がカードゲームをしている動画を作成した。参加児に作成した動画を提示し、参加児は視聴した動画に映る他者がどの程度のルール違反をしているのかを評価した。結果 代理的自己モニタリングを導入すると即座に参加児のルール違反行動は低減し、代理的自己モニタリングを撤去した後も参加児のルール違反行動はベースラインよりも低い生起率を示した。結論 代理的自己モニタリングは注意欠如・多動性障害のある本研究の参加児が示すルール違反行動の低減に有効であることが示された。

  • 宮木 秀雄, 勝田 志織
    2022 年 37 巻 1 号 p. 118-132
    発行日: 2022/12/07
    公開日: 2023/12/07
    ジャーナル フリー

    研究の目的 公立小学校における学級規模ポジティブ行動支援の実践に向けた遠隔コンサルテーションの効果について検討することを目的とした。研究計画 ABCデザインおよびABCDデザインを用いた。参加者 公立小学校5年生の児童25名と担任教師1名であった。介入 担任教師に対してテレビ会議システムを用いた遠隔コンサルテーションを5回実施した。学級における実践では、ポジティブ行動マトリクスの作成と掲示、帰りの会でのpositive peer reporting、担任教師による行動を特定した称賛を実施した。行動の指標 授業準備行動(3時間目開始前に授業準備ができている児童の割合)、着席行動(3時間目の授業開始前までに全員の児童が着席することができたか否か)、給食準備行動(4時間目終了後から給食当番が給食室に向けて歩き始めるまでの時間)を担任教師が記録した。結果 遠隔コンサルテーションにより計画された学級における実践を行った結果、授業準備ができている児童の割合および授業開始前までに全員の児童が着席できた日が増加した。また、給食当番が給食室に向けて歩き始めるまでの時間も短縮された。結論 遠隔コンサルテーションにより学級規模ポジティブ行動支援が一定の介入整合性をもって実践され、マトリクスの掲示、positive peer reporting、担任教師による行動を特定した称賛を組み合わせた支援により、児童の目標行動も増加した。また、児童と担任教師に対する質問紙調査の結果、遠隔コンサルテーションおよび学級における実践の社会的妥当性も示された。

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