労働安全衛生研究
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13 巻, 1 号
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巻頭言
特集「働き方の変化と労働安全衛生」
原著論文
  • 松元 俊, 久保 智英, 井澤 修平, 池田 大樹, 高橋 正也, 甲田 茂樹
    原稿種別: 原著論文
    2020 年13 巻1 号 p. 3-10
    発行日: 2020/02/28
    公開日: 2020/02/29
    [早期公開] 公開日: 2019/12/06
    ジャーナル フリー

    本研究は,脳・心臓疾患による過労死の多発職種であるトラックドライバーにおいて,労災認定要件であ る過重負荷と過労の関連について質問紙調査を行った.1911人の男性トラックドライバーから,属性,健康状態, 過重負荷(労働条件:運行形態,時間外労働時間,夜間・早朝勤務回数,休息条件:睡眠取得状況,休日数),疲労感に関する回答を得た.運行形態別には,地場夜間・早朝運行で他運行に比して一か月間の時間外労働が 101時間を超す割合が多く,深夜・早朝勤務回数が多く,勤務日の睡眠時間が短く,1日の疲労を持ち越す割合 が多かった.長距離運行では地場昼間運行に比して夜勤・早朝勤務回数が多く,休日数が少なかったものの, 睡眠時間は勤務日も休日も長く,過労トラックドライバーの割合は変わらなかった.過労状態は,1日の疲労の持ち越しに対して勤務日と休日の5時間未満の睡眠との間に関連が見られた.週の疲労の持ち越しに対しては,一か月間の101時間以上の時間外労働,休日の7時間未満の睡眠,4日未満の休日の影響が見られた。運行形態間で労働・休息条件が異なること,また1日と週の過労に関連する労働・休息条件が異なること,過労に影響 を与えたのは主に睡眠時間と休日数の休息条件であったことから,トラックドライバーの過労対策には運行形態にあわせた休日配置と睡眠管理の重要性が示唆された.

  • ̶相談行動の阻害要因も含めた検討̶
    今北 哲平, 田治米 佳世, 池成 早苗
    原稿種別: 原著論文
    2020 年13 巻1 号 p. 11-22
    発行日: 2020/02/28
    公開日: 2020/02/29
    [早期公開] 公開日: 2020/02/21
    ジャーナル フリー

    医療現場では,患者や患者家族から職員に対するセクシュアルハラスメントが問題となっている.そこで本研究では,病院に勤務する職員478名を対象として,患者等から職員に対するセクシュアルハラスメントの実態調査を実施した.その結果,患者等からのセクシュアルハラスメントの被害経験率は42.7%であり,すべての職種,性別に被害経験があった.被害内容は「身体の一部への接触」,「容姿のことを言われる」,「性的行為を迫られる」,「性差別的発言や扱い」など多岐にわたっていた.ロジスティック回帰分析の結果からは,看護・介護職は「容姿」(aOR = 2.64 [1.12-6.20]),リハビリ職は「抱きつき」(aOR = 4.04 [1.41-11.60])や「性的話題」(aOR = 2.50 [1.06-5.87]),事務職は「性的質問」(aOR = 5.17 [1.39-19.20])というセクシュアルハラスメントを,他の職種よりも有意に受けやすい可能性が示された.一方,被害について一度も相談したことがないと回答した人は被害経験者のうちの46.5%であり,相談しなかった理由は「大したことではないと思った」,「相談しても意味がないと思った」,「我慢しなければならないと思った」,「患者の疾患特性によるものだと思った」など多岐にわたっていた.本研究の結果から,職種や性別を限定せず,かつセクシュアルハラスメントの定義や具体例を示すことで,適切な実態把握ができる可能性が示された.さらに,被害についての相談を促進するためには,相談行動の阻害要因ごとに取り組みを検討することが有効と考えられた.

調査報告
  • —記述的ケーススタディ—
    豊島 礼子, 森山 美知子
    原稿種別: 調査報告
    2020 年13 巻1 号 p. 23-33
    発行日: 2020/02/28
    公開日: 2020/02/29
    [早期公開] 公開日: 2020/02/14
    ジャーナル フリー

    中小企業における健康経営の効果については,産業衛生上大きな関心がもたれている.本研究では中小企業における健康経営実践が従業員と経営者に与える影響を評価することを目的とした.初めて健康経営に取り組む3社(従業員数10名以下,11~49名,50~100名)の計149名の従業員と3名の経営者を対象とした.従業員に対し自記式質問紙を用いて労働生産性や医療費等を測定し,経営者に対してインタビュー調査を実施した.すべての量的指標において統計学的有意差は認められなかった.50人未満の2社ではプレゼンティーイズムの平均値が低下傾向を示し(p=0.13),健康指標と労働生産性指標に改善傾向がみられた.50人以上の1社ではすべての量的指標に改善傾向はみられなかった.これは50人未満の企業で健康経営が1年間で効果的に機能したことを示している.質的データからは,3人の経営者は,開始時は「従業員の健康管理は各自の自己責任である」と認識し,健康経営の必要性を感じていなかったが,最終的には「コストではなく投資」など,前向きな認識に変化した.経営者とのインタビューによって収集された情報は,企業規模に関わらず従業員の健康にこれまで以上に価値を置くようになり,健康経営に対する認識が前向きに変化したことを示している.これは経営者の健康経営に対する意識が,小規模であるほど従業員の量的指標に早期に反応することを示唆している.

  • ̶視認性と内容理解につながる要因の検討̶
    庄司 卓郎, 高木 元也, 呂 健
    原稿種別: 調査報告
    2020 年13 巻1 号 p. 35-47
    発行日: 2020/02/28
    公開日: 2020/02/29
    [早期公開] 公開日: 2020/02/21
    ジャーナル フリー

    近年,「外国人技能実習制度」を利用して多くの外国人が来日し現場で作業に従事している.外国人技能実習生は,日本語が十分に理解できず現場のリスクに関する知識も豊富ではないため,労働災害に被災する率も高い.技能実習生の安全意識を高め注意喚起をするために,文字を含まないマンガを用いた安全看板を提案した.本研究では外国人技能実習生の安全意識高揚と注意喚起に効果的なマンガ看板の構成に関して,理解容易性(伝えたい内容が伝わること)と誘目性(目を引くこと)の2つの視点から検討した.外国人技能実習生41人(インドネシア人21人,フィリピン人20人,ベトナム人9人)が実験に参加した.実験参加者には,まず2種類の画像を同時に提示し,その中から作業の危険が伝わりやすく作業現場に掲示するのにふさわしいと思う方を選択して回答してもらった.その結果,事故の瞬間を示す画像よりも作業が事故につながっていく流れや事故を起こした作業の全景を示す画像の方が選択される傾向があった.次に4種類の画像を同時に提示しその中のどれが最も目にとまったかを回答してもらったところ,単色であれば彩度の高い色,縞模様であれば黄色を使った斜縞が選択される傾向があった.一方で出身国による違いも観察され,現場に掲示する安全看板の作成にあたってはそこで働く技能実習生のもつ文化や安全に対する認識も考慮する必要があると考えられる.

原著論文
  • 堀 智仁, 玉手 聡
    原稿種別: 原著論文
    2020 年13 巻1 号 p. 49-56
    発行日: 2020/02/28
    公開日: 2020/02/29
    [早期公開] 公開日: 2019/11/08
    ジャーナル フリー

    ドラグ・ショベルは,建設機械の中でも使用頻度の高い建設機械である.近年では,クレーン機能を備えたものが広く普及しているが,そのクレーン作業による労働災害も発生している.そこで本研究では,平成22年から平成26年の5年間に発生したドラグ・ショベルによる死亡災害(179人)の分析をするとともに,そのクレーン作業中の災害を詳細分析した.その結果,つり荷走行中に転倒する特有な災害が明らかとなった.さらに本研究では,つり荷走行時の「荷振れ」が機械を転倒させようとする力の増加に与える影響について調べた.その結果,移動に伴う荷振れによって作業半径は増加することが確認された.また,その増加量は平坦かつ堅土に養生された地盤で3.95%,起伏を有する地盤では14.82%と,地表面の起伏の程度に応じて増加することがわかった.

  • 崔 光石, 遠藤 雄大, 長田 裕生, 鈴木 輝夫
    原稿種別: 原著論文
    2020 年13 巻1 号 p. 57-63
    発行日: 2020/02/28
    公開日: 2020/02/29
    [早期公開] 公開日: 2019/11/16
    ジャーナル フリー

    絶縁性フレキシブルコンテナ(FIBC)の粉体取り扱いによる,静電気災害(火災・爆発)の危険性を定量的に把握するために,粉体充填・排出時のFIBCの表面電位,FIBCから発生する静電気放電の測定を行った.粉体試料として,ポリプロピレン(PP)ペレットを用いた.結果によると,表面電位は,粉体充填・排出時ともに絶対値100 kVを超える高電位となり,帯電極性は充填時が負で,排出時が正であった.また,表面電位は実験環境の相対湿度に大きく影響を受け,相対湿度が大きくなるほど小さくなったが,湿度75%の高湿度環境においても40 kVを超えたことから,高湿度化で必ずしも静電気災害の危険性が排除されない可能性が示された.FIBCから直接発生する静電気(ブラシ)放電は,放電電荷量が200 nC以上であり,可燃性溶剤・粉体などを取り扱う際,安全なレベルではない.さらに,帯電したFIBCからの静電誘導により,FIBC近傍に設置された静電容量が10 pF程度の比較的小さな接地不良金属から,放電エネルギーが3 mJ程度の着火性が高い火花放電が発生することも確認された.

  • 渡辺 裕晃, 伊藤 昭好, 原 邦夫, 佐々木 毅
    原稿種別: 原著論文
    2020 年13 巻1 号 p. 65-78
    発行日: 2020/02/28
    公開日: 2020/02/29
    [早期公開] 公開日: 2020/01/31
    ジャーナル フリー

    自治体職場を対象に参加型アプローチを用いてOSHMS を導入・運用し,その状況について17 年間観察を行い,リスクアセスメントの確実な実施などによるOSHMS の導入・定着が労働災害発生率へ及ぼす影響を評価した.今回対象とした自治体職場で,OSHMS の導入段階を「導入前(2002~2006 年)」,「導入期(2007~2011 年)」,安全衛生活動評価表の評価軸のすべての達成度合いが90%を超えた「定着期(2012~2018 年)」に分けて,労働災害の年千人率の推移を比較した.その結果,現業職場と比較して非現業職場ではOSHMS の導入・定着による労働災害の減少は認めなかった.一方,現業職場の労働災害の年千人率は,OSHMS の導入前に比べ,「定着期(2012~2018 年)」が有意(p<0.01)に低かった.また同時期の現業職場の年千人率は,全国の自治体のそれを有意(p<0.01)に下回っていたことも確認された.これらの結果から,OSHMS の導入・定着による現業職場における労働災害の抑制効果が示唆された.

資料
  • 吉川 直孝, 大幢 勝利, 平岡 伸隆, 濱島 京子, 清水 尚憲, 豊澤 康男
    原稿種別: 資料
    2020 年13 巻1 号 p. 79-84
    発行日: 2020/02/28
    公開日: 2020/02/29
    [早期公開] 公開日: 2020/01/31
    ジャーナル フリー

    近年,トンネル建設工事における肌落ち(落盤)災害,道路陥没事故,シールドトンネル建設工事における崩壊水没災害等,ひとたび発生すると,重大な被害を及ぼす災害が頻発している.これらの災害事例を機械分野で構築されつつある安全学的な見地から分析すると,建設工事を担当する施工者だけでなく,設計者及び発注者も含めた労働安全衛生への配慮が必要である.本資料では,機械分野の安全学を建設業にも適用し,トンネル建設工事における設計段階からの安全衛生対策を検討する.

研究紹介
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