労働安全衛生研究
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最新号
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巻頭言
原著論文
  • 玉手 聡, 堀 智仁, 菊田 亮一
    原稿種別: 原著論文
    2024 年 17 巻 1 号 p. 3-18
    発行日: 2024/02/29
    公開日: 2024/02/29
    [早期公開] 公開日: 2024/02/24
    ジャーナル フリー

    掘削工事中に溝が崩壊して作業者が被災する事故は後を絶たないが,その中に深さが浅いにもかかわらず土砂に埋没して重篤な被害を受けるケースがある.溝掘削工事では通常深さ1.5 m以上が土止め支保工を設置する目安とされるが,作業者はそれより浅い条件でも被災している.本研究では,このような浅く小規模な工事での労働災害の防止に焦点を当て,作業者を崩壊した土砂から遮断して被災を防ぐ土砂遮断システムを考案した.本システムは交差フレームの両側面に受圧シートを張った簡易で軽量な構造体であり,溝内に直方体状の作業空間を簡便に設けるものである.その内部で仕事をすれば作業者は崩土から遮断されるため埋没の危険が無くなる.従来の土止め支保工は崩壊そのものを発生させない堅固な構造物であったのに対し,土砂遮断システムは作業者の被災防止に機能を特化させた.本研究では荷重の載荷試験から支持強度を確認すると共に,実大規模の溝崩壊実験から崩土の作用機序や装置の遮断性能を調査した.崩土を受圧して生じたシート張力は交差フレームを開口させる方向の力に変換される.その力は梁を外側に張り出させ,溝肩と溝下端を水平支持するため崩壊は抑制される.ここで各部が負担する荷重はその最大強さに比べて十分に小さく,また本システムに設けられる内部空間は作業者の被災を防ぐ大きさであることがわかった.本論文では土砂遮断システムの性能的な知見を述べ労働災害の防止を議論する.

  • 桶川 雄生, 全 俊豪, 竹内 希, 鈴木 悠也, 秋元 哲也
    原稿種別: 原著論文
    2024 年 17 巻 1 号 p. 19-26
    発行日: 2024/02/29
    公開日: 2024/02/29
    [早期公開] 公開日: 2024/01/30
    ジャーナル フリー

    風力発電の導入量増加と風車の大型化に伴い,風車の雷撃被害が増加傾向にあり,特にブレードの破損は損失が大きい.現在,ブレードの先端に導体部を取り付けて雷を捕捉するレセプタの導入が主なブレードの雷保護手法であるが,捕捉されずレセプタ外に着雷し,破損を引き起こす例がある.よってレセプタ外着雷時に破損なくレセプタへ雷電流を導くことのできる手法の確立が急務となっており,本研究ではブレード表面に避雷塗膜を形成することによる保護を目指している.塗膜は表面の導電性で2種に分類され,それぞれで異なる保護システムを持つ.導電性塗膜は内部の導電性粒子が互いに接触する構造であり,電界集中を緩和し,また塗膜内部の放電経路形成を素早く完了させることにより保護を可能とする.一方,非導電性避雷塗膜は内部の導電性粒子が互いに空隙を保ち固定された構造であり,沿面放電路を形成する先駆現象である,沿面ストリーマの進展を促進することにより保護を可能とする.またそれぞれの塗膜について,環境負荷による保護能力の変化を調査した結果,導電性塗膜は保護能力を容易に失った一方,非導電性塗膜は保護能力の変化が見られなかった.そのため,風車ブレードへの適用に適するのは非導電性塗膜であると考えられる.

事例報告
  • 今井 鉄平, 佐々木 那津, 森本 英樹, 堤 明純
    原稿種別: 事例報告
    2024 年 17 巻 1 号 p. 27-33
    発行日: 2024/02/29
    公開日: 2024/02/29
    [早期公開] 公開日: 2024/01/24
    ジャーナル フリー

    労働者50人未満の小規模事業場では,メンタルヘルス対策が十分に浸透していないことが課題の1つとなっている.職場のメンタルヘルス対策として一定の科学的根拠が確認され, 推奨されている職場における組織的な介入をサポートする自己学習型のInformation and Communication Technology(ICT)メンタルヘルスツールを小規模企業に普及させることで,対策の具体的イメージを持つ小規模企業の経営者・担当者を増やしたい.そのために必要な実装戦略を,実装科学のフレームワークを用いて検討した.「実装研究のための統合フレームワーク(Consolidated Framework for Implementation Research: CFIR)」の枠組みに沿った検討からは,阻害要因としては「経営層の知識と関心の不足」が課題と考えられた.このような経営層に対して,日頃から身近な相談先となっている各種支援組織(例:商工会議所、社会保険労務士)からアプローチする方法が実装戦略として適していると考えられた.抽出された課題に対して,The Expert Recommendations for Implementing Change(ERIC)の実装戦略の体系からは,「ステークホルダーの訓練と教育に関する戦略」が推奨されることがわかった.支援組織の訓練と教育においては,組織の活動レベル(①情報拡散機能、②情報伝達機能、③コンサルティング機能)に合わせた配信内容を研究班側で準備していくことが重要であると考えられた.職域における社会課題を改善するための取り組みにおいて,実装を開始する前に課題に適合する戦略をよく検討することの意義は大きい.セッティングや課題を変えても,今回のような検討のプロセスは適応可能であると考えられる.

短報
  • 齋藤 剛, 畑 幸男
    原稿種別: 短報
    2024 年 17 巻 1 号 p. 35-41
    発行日: 2024/02/29
    公開日: 2024/02/29
    [早期公開] 公開日: 2023/09/15
    ジャーナル フリー

    筆者らは,機械の設計段階で実施するリスクアセスメントにおいて最も重要なステップとされる「危険源同定」について,機械安全の知識が限られた設計者でも最低限同定すべき危険源を認識できるように支援する方法を提案した1).そして,支援された危険源同定を実行する手段の例として,デスクトップPC上で動作するアプリケーションツールを試作した1).本報では,試作したツールを用いて,提案した支援方法の有効性を評価した結果について述べる.中小規模の機械製造業者で設計業務に関わる技術者12名を対象に,危険源同定を模擬的に行った上で主観的な意見を収集した.限られた回答数での結果ではあるが,本支援方法が危険源同定の難しさを軽減し,リスクアセスメントに着手する出発点を提供し得る有効な方策であるとの評価を受けた.

調査報告
  • 嶋田 彩, 川村 晃右, 森岡 郁晴
    原稿種別: 調査報告
    2024 年 17 巻 1 号 p. 43-51
    発行日: 2024/02/29
    公開日: 2024/02/29
    [早期公開] 公開日: 2024/02/20
    ジャーナル フリー

    本研究では,運輸関連企業の事務職員が要望する職場改善をメンタルヘルス改善意識調査票(MIRROR)で捉え,ストレス対処能力の高低に基づき,要望するMIRRORの項目とワーク・エンゲイジメントとの関連を明らかにすることを目的とした. 事務職員86名に無記名自記式質問紙調査を実施した.内容は,属性,MIRROR,日本語版ユトレヒト・ワーク・エンゲイジメント尺度(UWES),首尾一貫感覚(SOC)とした.SOCが中央値より高い群(高SOC群)と低い群(低SOC群)に分類し,MIRRORの項目毎の要望の有無でUWESの得点を比較した. 質問紙は52名から回収された(回収率60.5%).対象者の平均年齢は36.5歳であった.高SOC群の改善要望ありの群では,「その日の業務量を,自らの裁量で調整できる」で活力が有意に低く,「上司が忙しすぎないので,部下からの相談を受ける余裕がある」と「上司が多忙な職場では,代理を務める者が設定されている」では総得点などが有意に高かった.低SOC群の改善要望ありの群では,「他のグループとの連携・協力はうまくいっている」と「本来の業務を圧迫するほどの余分な仕事はない」で総得点などが有意に高く,「職場では,各人の能力や工夫を生かすことができる」では総得点などが有意に低かった. 高SOC群では,業務量の裁量調整に関する要望がある場合に,裁量の範囲を調整できるよう労働者の要望に耳を傾けることが,低SOC群では,自分の能力や工夫を生かしたいという要望がある場合に,それを尊重する職場改善が重要となることが示唆された.

  • 有木 高明, 玉手 聡
    原稿種別: 調査報告
    2024 年 17 巻 1 号 p. 53-62
    発行日: 2024/02/29
    公開日: 2024/02/29
    [早期公開] 公開日: 2023/10/02
    ジャーナル フリー

    移動式クレーン等の転倒災害は設置地盤の破壊に起因するものが多い.その安定を検討するために必要な強度定数等に関して,不飽和状態にある関東ロームの情報は少ないのが現状である.著者らは,関東ロームを用いて作製した模型地盤における支持力実験結果を考察するために,同一条件で作製された供試体を用いて一軸圧縮試験および不飽和三軸圧縮試験を実施した.その結果,一軸圧縮強さを用いて求めた極限支持力の解析値は実験値の半分程度と過小に評価された.一方,不飽和三軸圧縮試験による強度定数を用いて求めた極限支持力の解析値は,基礎幅の影響が考慮され,実験値との差は2割程度まで減少することがわかった.また,支持力実験と不飽和三軸圧縮試験による変形係数が同程度な範囲において極限支持力の解析値と実験値はほぼ等しくなり,基礎幅の増加による影響範囲は地盤の深度方向へ広がることが推測された.加えて,機械の安定性を左右する沈下量の予測にはポアソン比の選択による影響が大きいことを報告した.

  • -6×24ワイヤロープの場合-
    山口 篤志, 本田 尚, 緒方 公俊
    原稿種別: 調査報告
    2024 年 17 巻 1 号 p. 63-69
    発行日: 2024/02/29
    公開日: 2024/02/29
    [早期公開] 公開日: 2024/01/26
    ジャーナル フリー

    玉掛け用ワイヤロープは,荷の移動を目的に製造業や建設業で広く利用されている一方で,鉄鋼製のため重量があることから,引き摺られて移動されるなど,損傷を受けやすい環境にある.そのため,玉掛け用ワイヤロープは損傷の程度に応じて廃棄,交換する必要がある.ワイヤロープの廃棄基準はJIS B 8836に規定されており,素線断線,キンク,うねり,つぶれ等の各損傷項目において廃棄の要否が判定できるようになっている.本稿では,製造業で長期間使用された玉掛け用ワイヤロープの損傷状態を調査し,確認された損傷に対してJIS B 8836の廃棄基準から,廃棄の要否を判定している.また,損傷を有するワイヤロープの残存強度として,破断力(または,引張強さ)を実験的に得て,新品ロープの破断力と比較している.得られた結果から,玉掛け用ワイヤロープの破断力の低下に最も寄与する損傷を推定するとともに,損傷を有する玉掛け用ワイヤロープの早期交換の必要性を紹介する.

技術解説
  • 西脇 洋佑, 山下 真央, 大塚 輝人, 佐藤 嘉彦, 熊崎 美枝子
    原稿種別: 技術解説
    2024 年 17 巻 1 号 p. 71-76
    発行日: 2024/02/29
    公開日: 2024/02/29
    [早期公開] 公開日: 2023/10/04
    ジャーナル フリー

    化学反応の熱危険性の評価に有用な熱量計では,伝熱遅れという現象によって実際よりも低い発熱速度が計測されてしまう問題がある.そのため,熱量計においては目的とする反応の測定の解析前に校正を実施し,時定数を用いた伝熱遅れの補正を行う必要がある.適切な校正が行えていない場合,より低い発熱速度が算出されてしまう問題があり,危険性の過小評価に繋がる恐れもある.本稿では伝導型の双子型反応熱量計での実際の測定・解析結果を例に,熱量計の校正に関する技術を解説する.

研究紹介
  • 庄山 瑞季, 三浦 崇, 遠藤 雄大, 崔 光石
    原稿種別: 研究紹介
    2024 年 17 巻 1 号 p. 77-80
    発行日: 2024/02/29
    公開日: 2024/02/29
    [早期公開] 公開日: 2024/02/01
    ジャーナル フリー

    静電気力を利用して塗膜を形成する静電塗装は,家具,家電製品,自動車部品,金属部品など多くの分野で活用されている.粉体静電塗装機の主流はコロナ荷電方式の静電ハンドスプレイガンであり,高電圧を使用することに加え,塗料の主成分が可燃性樹脂であることから,塗料が大気中に適度な濃度で分散している状態で着火源が存在すると火災・爆発に至る危険性があるが,粉体静電ハンドスプレイガンの着火に関する安全性を定量的に評価する手段について国内では具体化されていないのが現状である.このような状況を踏まえ,当所では「可燃性粉体塗料用静電ハンドスプレイ装置の安全要求事項および試験方法に関する指針作成委員会」を設置し,国際的な情勢および防爆に関する安全規格を調査したほか,それらを基に粉体静電ハンドスプレイガンの安全要求事項および試験方法についての検討を行った.また,産官学の専門家,メーカー,およびユーザーで構成される委員会による原案審議を経て,当所の技術指針(JNIOSH-TR-50:2022)として2023年3月に公表した.本稿では,本指針が対象とするコロナ荷電方式の静電ハンドスプレイガンの構成としくみ,および評価試験を含めた本指針の内容について説明する.

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