労働安全衛生研究
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12 巻, 3 号
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巻頭言
特集「働き方の変化と労働安全衛生」
原著論文
  • 蘇 リナ, 松尾 知明, 高橋 正也
    原稿種別: 原著論文
    2019 年12 巻3 号 p. 127-133
    発行日: 2019/09/30
    公開日: 2019/09/30
    [早期公開] 公開日: 2019/08/27
    ジャーナル フリー

    本研究では,労働者の座位行動(sedentary behavior: SB)の評価を主な目的として開発された質問紙「労働者生活行動時間調査票(Worker’s Living Activity-time Questionnaire:WLAQ)」を用いて,勤務中のSB時間と健康関連指標(心肺持久力,健診数値,抑うつ状態)との関係を検討した.30~50歳の労働者119名(44.6 ±7.7歳)を対象に,身体計測,WLAQ,健診数値,抑うつ状態(CES-D)を調査し,最大酸素摂取量(VO2max)を測定した.勤務中のSBの多寡と調査測定値との関係を分析するため,勤務中SB時間の割合が80%以上を「Long群」,80%未満を「Short群」に分け,2群間で比較した.その結果,男性では,Long群はShort 群よりVO2max およびHDLコレステロールが有意に低かった.女性では,VO2max の有意な群間差は認められなかったが,HDLコレステロールは,男性同様,Long群はShort群より有意に低かった.CES-D得点は男女とも群間差は認められなかった.本研究により,WLAQで評価した勤務中のSBが労働者の健康状態(HDLコレス テロール)に影響する可能性があることが示された.

総説
  • 竹中 晃二
    原稿種別: 総説
    2019 年12 巻3 号 p. 135-144
    発行日: 2019/09/30
    公開日: 2019/09/30
    [早期公開] 公開日: 2019/08/24
    ジャーナル フリー

    メンタルヘルスの障害は,数種類の異なる症候群が存在するというよりも,むしろ深度の連続体とみなされている.診断基準に達しないメンタルヘルス不調は広く蔓延しており,これら「閾値下」と呼ばれる症状によって全人口レベルで相当な社会的・経済的な負担を招いている.これら閾値下の症状は,自助方略によって対処できることが証明されており,しかしどの自助方略が役立ち,また実践できる可能性が高いのかは十分に明らかにされていない.本稿では,メンタルヘルス問題の予防的介入について定義した後に,限られた数の研究 からメンタルヘルス問題における予防措置としての自助方略の役割を概説する.内容としては,1)予防が必要なターゲット,2)メンタルヘルス問題における予防措置としての自助方略の役割,3)自助方略の内容(役立ち度と実践可能性,予防と管理を目的とした自助方略),そして4)自助方略を用いたメンタルヘルス・プロモ ーション(理論的な背景,普及および意識高揚)である.最後に,メンタルヘルス不調の予防措置としての自助方略の役割について,そして効果的な自助方略がリストとして示された後に活用できる広範囲な利用方法について議論する.

調査報告
  • 廣川 空美, 大脇 多美代, 大平 哲也, 茂松 茂人
    原稿種別: 調査報告
    2019 年12 巻3 号 p. 145-151
    発行日: 2019/09/30
    公開日: 2019/09/30
    [早期公開] 公開日: 2019/08/21
    ジャーナル フリー

    大阪産業保健総合支援センターは,大阪府下の精神科専門医療機関における事業場のメンタルヘルス対策への取り組みと職場復帰支援のサービス提供について,「大阪版事業場のこころの健康専門家ガイド」(以下ガイド)を公開している.本研究の目的は,ガイドを活用するに至る事業場のメンタルヘルス対策の状況を明確に することである.大阪府下の1,249件の事業場を対象に,ガイドの利用経験の有無を調査し,回答を得た369件のうち,ガイドの利用経験がない事業場336件を選定した.336件に対し,ガイドの試用を勧め,試用後に郵送調査を実施した.その結果,214件(回収率63.9%)から回答を得た.ガイドの試用の有無について回答のあった208件を解析対象として,産業保健スタッフの有無,職場のメンタルヘルス体制,家族との連携,職場復帰 支援体制の状況と,ガイド試用の有無との関連についてロジスティック回帰分析を行った.ガイドの試用に至 ったのは113件,試用の無かったのは95件であった.保健師の存在,職場のメンタルヘルス相談窓口と管理監 督者の連携,教育研修の実施,家族への連絡,職場復帰の際の業務上の配慮が関連しており,特に保健師の存 在する事業場で試用が多く(OR = 2.34, 95% CI: 1.02-5.39),管理監督者の連携が取れていない事業場で試用が少なかった(OR = 0.22, 95% CI: 0.07-0.65).事業場と医療機関との連携を促進するためには,保健師に対する 情報提供が重要であることが示唆された.

原著論文
  • 柴田 延幸
    原稿種別: 原著論文
    2019 年12 巻3 号 p. 153-160
    発行日: 2019/09/30
    公開日: 2019/09/30
    [早期公開] 公開日: 2019/09/13
    ジャーナル フリー

    これまで立位姿勢における全身振動ばく露の人体影響を議論した研究は極めて少なく,多くは腰痛に代表される職業性筋骨格系疾病や作業姿勢などの関連性から,座位姿勢に対する全身振動ばく露とその人体影響に関する疫学調査や実験的研究であった.したがって立位姿勢における全身振動ばく露の人体影響に関しては,基礎的なデータの蓄積も少なく不明な点が多い.本研究では,心理物理学的手法を用いて全身振動ばく露に対する不快度を指標とした主観応答の周波数依存性とその方向依存性の検討を行った.12人の立位男性被験者に対して,前後・左右・鉛直方向のいずれかから全身振動をばく露させた時に感じる不快の程度を5段階系列範疇にしたがって口答してもらい,その結果からカテゴリー判別法を用いて不快度と振動刺激の関係を結びつける主観尺度を得た.その結果,前後および左右方向では,比較的大きな振動加速度に対して,低周波数あるいは高周波数の振動スペクトルを強調した振動刺激に対して知覚した不快度の主観応答の方がスペクトル一定の振動刺激に対して知覚した不快度の主観応答よりも低くなることが示された.また,周波数特性に関係なく鉛直方向からの全身振動ばく露に対して最も振動感受性が強く,鋭敏に不快を知覚することが示された.

総説
  • 熊﨑 美枝子, 岡田 賢, 清水 芳忠, 庄司 卓郎, 牧野 良次
    原稿種別: 総説
    2019 年12 巻3 号 p. 161-172
    発行日: 2019/09/30
    公開日: 2019/09/30
    [早期公開] 公開日: 2019/09/20
    ジャーナル フリー

    事業所の安全衛生管理には,労働者の積極的な参加が必須である.そのためには,労働者の認識,彼らの価値観や取り組む動機,取組みに対する反応などを,形式化して個別の事業所・産業に留めることなく共有できるようにすることが有効であると考えられる.本研究では,労働安全衛生に関する研究のうち,労働者の認識に関する先行研究を収集し,安全に関する労働者の認識に影響を与える因子について分析した.

    分析の結果,認識に影響を与える因子には大きく分けて「労働者の周りの人々・組織」「システム・安全プログラム・規則」「仕事環境」「労働者個人の資質・状況」に分けることが出来た.これらが実際に労働者の安全行動に寄与するかどうか,またその程度は,研究対象である組織,産業,研究手法によって変わるが,労働者の安全意識に働きかけるうえで,これらの視点を活用したアプローチは有効であると考えられる.

調査報告
  • 加藤 善士, 太田 充彦, 八谷 寛
    原稿種別: 調査報告
    2019 年12 巻3 号 p. 173-179
    発行日: 2019/09/30
    公開日: 2019/09/30
    [早期公開] 公開日: 2019/08/31
    ジャーナル フリー

    労働基準監督署では,労働災害の重篤度を休業見込期間により判断し,労働災害防止施策を展開している.しかし,労働災害の休業が当初の休業見込期間を超えて長期に及ぶことがある.的確な労働災害防止施策を展開するためには,休業期間を早期に正確に把握することが重要となる.そこで某労働基準監督署管内の過去3 年間に発生した労働災害1,672件(男性1,204名,女性468名)について,事業場から報告される労働者死傷病報告と労働者災害補償内容を対比し,休業見込期間と実際の実休業日数の乖離状況を調べ,業種,事業場規模,性別,年齢,業務経験期間,平均賃金との関連を検討した.

    休業見込期間を超えて実際に休業した者の割合は男性で71.2%,女性で63.9%であった.休業見込期間(中央値:男性30日,女性28日)と実休業日数(中央値:男性50日,女性39日)は男性の方が長かった.休業見込期間を超えて休業する者の割合は,男性において事業場業種,事業場規模,年齢で有意な差が認められた.また,実休業日数/休業見込期間比の中央値は男性1.38,女性1.20と男女間で有意な差があった.

    労働災害の重篤度を休業見込期間で判断することは,重篤度を過小評価する可能性が高く,実休業日数が休業見込期間を超える割合には,男女で差があった.

資料
  • 崔 光石, 遠藤 雄大, 鈴木 輝夫
    原稿種別: 資料
    2019 年12 巻3 号 p. 181-187
    発行日: 2019/09/30
    公開日: 2019/09/30
    [早期公開] 公開日: 2019/01/29
    ジャーナル フリー

    本研究では,ポリプロピレン粉体(以下,PP粉体と呼ぶ,粒径:2~3 mm)充填時のサイロ(円柱と円錐を組み合わせた形状)内で発生する静電気帯電・放電を実験的に調査した.PP粉体は約0.68 kg/sのペースでサイロに約800 kgまで連続投入した.サイロ充填時のPP粉体の帯電量は,サイロ内に大型ファラデーケージを 設置して測定した.また,サイロ内で発生する静電気放電の観測には,サイロ天井部の点検窓に設置されたイ メージインテンシファイア付きCCDカメラを用いた.測定の結果, PP粉体の質量比電荷は,約-12 μC/kgであり,充填開始時間によらず一定であった.また,充填開始の約7秒後から,サイロ側壁に沿って,リング状の発光を伴う静電気放電が観察された.その発光の直径は,PP粉体堆積面の直径とほぼ一致しており,充填時間 の経過に伴い変化した.これは,粉体が堆積していく過程でサイロ下部の円錐部分において粉体堆積面の直径 が時々刻々と変化するためであり,サイロ側壁とPP粉体堆積面との間で放電が発生することを示している.本 研究において,粉体充填時のサイロ内で観測された静電気放電の種類は,大まかに分けて,ブラシ放電,線状 バルク表面放電,面状バルク表面放電の種類であった.

技術解説
  • 冨田 一
    原稿種別: 技術解説
    2019 年12 巻3 号 p. 189-193
    発行日: 2019/09/30
    公開日: 2019/09/30
    [早期公開] 公開日: 2019/08/09
    ジャーナル フリー

    クレーン等の建設機械を用いた作業では,クレーン等の近傍に送配電線が架設されている場合には,誤ってクレーンのブームやつりワイヤが送配電線に接触しての感電災害が発生することがある.このような感電災害の防止にはクレーン等と送配電線との適切な離隔距離の設定が必要であるため,日本を始めとして諸外国(イギリス,アメリカ,オーストラリア)で離隔距離が規定されている。これらの規程において、同一の電圧に対して離隔距離に差異はあるものの,大きな差は無く,電圧が高くなると離隔距離も長くなる傾向である.また,クレーン等と送配電線との接触防止のための対策技術として,接近警報装置,作業範囲制限装置,レーザース キャンによる測定システム,監視カメラ,3Dクレーンブーム監視システムがある.

  • 小林 健一, 柳場 由絵
    原稿種別: 技術解説
    2019 年12 巻3 号 p. 195-198
    発行日: 2019/09/30
    公開日: 2019/09/30
    [早期公開] 公開日: 2019/09/13
    ジャーナル フリー

    職業性ばく露として,経気道,経皮,経口等が主要な経路として考えられるが,単一のばく露経路によって行われた動物実験での知見が,現場の労働者のばく露状況を反映した毒性影響を判断する際に重要な情報になると考えられる.近年,産業化学物質の経皮吸収による膀胱がんの発生等,深刻な労災事例が報告されてきており,産業現場において作業工程中に起きてしまった疾病に対して,毒性機序の解明やその予防に向けた対策が喫緊の重要課題となっている.皮膚吸収実験はOECDテストガイドラインに記載されているが,実用性をふまえ,精度が高く簡便かつ汎用性のあるプロトコールが必要であると考えられる.本研究では,毒性実験に向けたマウス経皮ばく露の条件および方法の検討を行なったので報告する.

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